スルフヒドリル基
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チオール (thiol) は水素化された硫黄を末端に持つ有機化合物で、メルカプタン (mercaptan) とも呼ばれる[1]。チオールは R−SH(R は有機基)であらわされる構造を持ち、アルコールの酸素が硫黄で置換されたものと等しいことから、チオアルコールとも呼ばれる。また置換基として呼称される場合はチオール基と呼ばれ、水硫基、メルカプト基、スルフヒドリル基と呼称されることもある。
目次
- 1 命名
- 2 臭い
- 3 性質
- 4 合成法
- 5 事故
- 6 出典
- 7 関連項目
- 8 参考文献
命名[編集]
チオールの命名は SH が結合している炭素を番号で示し、骨格の炭化水素の名前を続け、語尾 e に続けて -thiol とする(IUPAC命名法)。
- (例)CH3−SH = メタンチオール (methanethiol)
臭い[編集]
多くのチオールは特異的な悪臭をもつ。これは生物(蛋白質)が腐敗した際にシステインなどの含硫黄アミノ酸が分解されることによってできるチオールを生物が腐敗の指標とするように遺伝形質が選択されたという説がある。この悪臭は低濃度でも感じるため、ガス施設などのガス漏れ検知剤や、都市ガスの付臭剤(ガス漏れにすぐ気づくように微量のチオールが添加されている)として使われる。しかし、このにおいは細胞に吸着し易いのが難点である。
エタンチオールはギネスブックにおいて世界一臭い化合物とされている。ドリアンの臭いの主要成分は1-プロパンチオール(C3H7SH)である。
性質[編集]
解離した後のアニオンが硫黄原子上で安定化する寄与が存在する為に、チオールの水素は相当するアルコールの水素に比べて高い酸性度(小さい pKa 値)を示す。また S−H 間の分極が弱く、アルコールよりも分子間の水素結合が弱いため、アルコールと相当するチオールの沸点を比べたときにアルコールの方が沸点が高い傾向を示す。また、その共有結合性の高さからソフトな塩基として作用し、特に水銀など後周期金属化合物と強い結合を作りやすい。 酸素、過酸化水素などの酸化剤によって容易に酸化され、アルキル鎖が対称なジスルフィドを形成する。
生化学で最も重要なチオールはおそらく補酵素A (CoA) である。これは補酵素Aのチオール基 (SH) とアシル基が結合したチオエステルから容易にアシル基が転移する性質に由来する。アミノ酸のひとつ、システインもチオールの一種である。
合成法[編集]
ハロゲン化アルキルをアルカリの存在下に硫化水素と反応させると生成する。この反応では系中で水硫化ナトリウム NaSH が発生し、これがハロゲン原子と求核置換することによって、アルキル基上に硫黄原子が導入される。あらかじめ単離した水硫化ナトリウムを用いてもよい。
- H2S + NaOH → NaSH + H2O
- R−Br + NaSH → R−SH + NaBr
上記の反応では、条件によっては生成したチオールがさらにハロゲン化アルキルと反応し、スルフィド RSR が副生する場合がある。ハロゲン化アルキルとチオ尿素を反応させ、得られたイソチオ尿素塩をアルカリ加水分解すると、選択的にチオールのみを得ることができる[2]。
- R−Br + S=C(NH2)2 → R−S−C(=NH)NH2•HBr
- R−S−C(=NH)NH2•HBr + NaOH + H2O → R−SH + 1/2 NCNHC(=NH)NH2 + NaBr + H2O
ほかに、ジスルフィドを還元させたり、グリニャール試薬を硫黄分子で処理する方法も用いられる。
事故[編集]
2013年1月21日、フランス、ルーアンの工場からチオールが漏出。臭気がパリを含むフランス北部一帯のほか、イングランドまで到達し、身体の不調を訴える住民が続出する騒ぎとなった[3]。
出典[編集]
- ^ IUPAC Gold Book - thiols
- ^ Speziale, A. J. "Ethanedithiol." Org. Synth., Coll. Vol. 4, p. 401 (1963); Vol. 30, p. 35 (1950). オンライン版
- ^ “フランス北部の工場で悪臭ガス漏れ出す、英国まで到達”. AFPBB News (フランス通信社). (2013年1月23日). http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/accidents/2922759/10151547 2013年1月26日閲覧。
関連項目[編集]
参考文献[編集]
官能基 |
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アルコール - アルデヒド - アルカン - アルケン - アルキン - アミド - アミン - アゾ化合物 - ベンゼン - カルボン酸 - シアネート - ジスルフィド - エステル - エーテル - ハロゲン化アルキル - イミン - イソニトリル - ケトン - ニトリル - ニトロ化合物 - ニトロソ化合物 - ペルオキシド - リン酸 - ピリジン - スルホン - スルホン酸 - スルホキシド - チオエステル - スルフィド - チオール
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Japanese Journal
- 発蛍光誘導体化試薬を用いる蛍光検出HPLCによる老齢ラット海馬のプロテオミクス解析
- 朝本 紘充,南澤 宏明,今井 一洋
- 分析化学 = Japan analyst 61(6), 547-553, 2012-06-05
- チオール基選択性の発蛍光誘導体化試薬である7-chloro-N-[2-(dimethylamino)ethyl]-2,1,3-benzoxadiazole-4-sulfonamideを用いた新しいプロテオーム解析法により,ラット海馬内で老化に伴い発現量が変動するタンパク質を同定した.本法は生体試料中のペプチド,タンパク質を発蛍光誘導体化法で標識し,蛍光検出器と組み合わせた高速液体クロマトグラフィー …
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- 藤女子大学紀要. 第II部 49, 51-55, 2012-03-31
- エルゴチオネインの抗酸化性について加熱温度および各pHの影響をORAC分析法で調べた。1) タモギタケから得た精製エルゴチオネインは、ORAC法においてグルタチオン、L-システイン、L-メチオニンなどのチオール基含有アミノ酸および含硫アミノ酸と比べ抗酸化活性が高かった。DPPHラジカル消去活性評価法による測定においても同様の結果を示した。2) 精製したエルゴチオネインおよびエルゴチオネインを含む抽 …
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- 栄養・生化学辞典 チオール基の用語解説 - →スルフヒドリル基...
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★リンクテーブル★
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- 英
- sulfhydryl group
- 同
- チオール基 SH基 SH group、チオール基 thiol group、メルカプト基 mercapto group
- 関
- [[]]
[show details]
臨床関連
- 無機鉛中毒:ポルフィリン合成酵素のSH基に結合して活性を阻害。
- ヒ素中毒:活性中心にSH基を有するような酵素の活性を阻害。
参考
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[★]
- 英
- thiol
- 同
- thiol基
- 関
- ジスルフィド、スルフィド、チオエーテル
[★]
- 英
- group
- 関
- グループ、群、集団、分類、群れ、グループ化