100Cases 73
- ☆case73 胸痛と息切れ
- 25歳 女性
- 主訴:息切れ、咳、胸痛
- 現病歴:6時間前、仕事をするために歩き始めた際に突然胸痛が出現した。右胸部の鋭い痛みであり、呼吸時に増悪する。痛みは出現後、2,3時間でおさまったが、深呼吸時にのみ右胸部における中等度の痛みが残った。胸痛の出現後、1-2時間少しの息苦しさが出現したが、現在は階段を上るときや素早く歩くときにのみに出現した。6時間前から空咳が続いていた。
- 嗜好歴:タバコ1日15本、アルコール10 unit/week(350mlの缶ビール 6本弱/週)。時々マリファナをヤル
- 服用薬:服用薬無し。
- 既往歴:4年前に全く同じ症状が出現した;はっきりとしたことは言えないが、当時は左胸部に起きた。
- 家族歴:特記すべき事なし。
- 身体所見 examination
- 苦しんでいたり、チアノーゼを呈してはない。脈拍 88/分、整。血圧 128/78 mmHg。呼吸数 20/分。異常心音、過剰心音を認めない。呼吸器系で気管や心尖拍動の偏位は認められない。打診上、肺の拡張能(expansion)は正常に見える。右胸部において触覚音声振盪減弱、および呼吸音減弱。聴診上、その他の過剰音を認めず。
- 検査所見 investigations
- 胸部単純X線写真 供覧
- Q1. X線写真は何を示しているの?
- Q2. 今、何をすればいいの?
- 問診(S)
- 胸痛(右胸部、鋭痛、深呼吸時増悪)
- 息切れ(動作時) breathlessness
- 呼吸運動に際して不快感、苦痛を自覚する状態。医学的には呼吸困難 dyspnea と同義的に用いられている。
- 咳(空咳 = dry cough) YN. I-6
- 身体所見(O)
- 触覚音声振盪減弱(右胸部)
- 呼吸音減弱(右胸部)
- 検査(O)
- 単純X線写真の異常所見
- □350ml アルコール5%
- 350x0.05/10=1.75 unit
- ・胸痛 解剖で想起する
- 膵炎
- 胆嚢炎
- 狭心症
- 胃・十二指腸潰瘍
- Boerhaave症候群(ブールハーフェ症候群) = 特発性食道破裂
- 肋軟骨炎
- 緊張気胸
- 心膜炎
- 心臓神経症
- 心筋梗塞
- 不安定狭心症
- 解離性大動脈瘤
- 自然気胸
- 帯状疱疹
- 食道炎
- 肺血栓塞栓症
- A1. 右側肺の肺虚脱
- 右の肺が虚脱していて、、肺尖部にブラが見える。コレが破裂して気胸を来したのかも知れない。
- A2. 胸腔ドレナージ
- ★自然気胸
- 概念
- 胸腔内に空気が貯留・肺が虚脱した状態(気胸)で、外傷性および医原性気胸を除いたもの。
- 分類
- 原因
- 原発性気胸:基礎疾患なし(肺尖部のブレブ、ブラの破裂)
- 続発性気胸:基礎疾患有り(COPD、喘息、肺癌、肺結核、肺線維症、肺炎、肺化膿症、肺膿瘍、サルコイドーシス、AIDS、肺吸虫症、子宮内膜症など)
- 重症度
- 肺虚脱の重症度分類(IMD.757)
- 定量的
- Kircherの虚脱率計算式(IMD.757)
- 病因 YN.I-138
- 原発性気胸:
- ブラ、ブレブの破綻による気胸
- マリファナの吸引はbullous lung diseaseの関係している。タバコは気胸の再発リスクを上げる。(CASES.188)
- 続発性気胸:COPD、喘息、肺癌、肺結核、肺線維症、肺炎、肺化膿症、肺膿瘍、サルコイドーシス、AIDS、宮崎肺吸虫症、子宮内膜症
- 胸膜の索状癒着の起始部の破綻
- 炎症・腫瘍などによる肺胸膜の断裂
- 月経随伴性気胸
- 子宮内膜症に伴う。臓側胸膜や横隔面に子宮内膜症の病変を認める。月経時に血性胸水を呈する。右側に多い
- 疫学
- 20歳代と50-60歳代にピーク
- 20歳代:ブラ、ブレブの破裂。若年男性、細長型、扁平胸郭に多い。基礎疾患無し。
- 50-60歳代:基礎疾患あり(慢性気管支炎、肺気腫、気管支喘息、肺癌など)
- 女性に特徴的な自然気胸:月経随伴性気胸(子宮内膜の胸膜内迷入)、過誤腫性肺脈管筋腫症
- 身体所見
- 打診:患側で鼓音
- 聴診:患側の呼吸音・声音振盪減弱。左側が患側の場合、心音減弱
- 肺が高度に虚脱した場合:頻脈、呼吸数増加、チアノーゼなど
- 症状
- 突然の胸痛(背部、肩に放散)、乾性咳嗽(発作的な咳)、呼吸困難。時に胸水 (YN.I-138)
- 検査
- 胸部単純X線写真:呼気位が有用。胸郭の容量が減少するため、空気の占めるスペースが相対的に大きくなり気胸を見いだしやすくなる。
- 適応:気胸を疑う例。重症度、基礎疾患。穿刺脱気例の前後。穿刺脱気時は、4-6時間後胸部X線写真を再検。チューブドレナージ例では、ドレーンからの空気の流出をみながら、治療効果判定のため頻回に撮影。
- 所見:虚脱した肺、縦隔の健側変位、患側の横隔膜下降
- 進行した慢性肺気腫に続発した気胸では、胸部X線写真で気胸腔を指摘するのが困難
- CT:外科手術が適応になる場合には撮る
- 小さなブラ、ブレブの診断や、肺疾患合併症の評価に非常に有効
- 血液ガス検査:肺気腫が重度の症例ではPaO2低下
- 診断
- 臨床症状と身体所見、ならびに胸部X線・CT検査などで気胸腔を確認
- 鑑別診断
- 胸痛を呈する疾患
- 心筋梗塞、狭心症、心膜炎、肺梗塞、解離性大動脈瘤、胸膜炎
- 治療
- 軽度例:保存的療法(安静のみで虚脱肺の再膨張)
- 中等度以上:保存的療法(脱気)
- 脱気(胸腔ドレナージ):胸腔穿刺、低圧持続吸引、水封式脱気など
- 過大な陰圧をかけて吸引すると再膨張性肺水腫を見ることがある
- 第2肋間から16Frのカニュラをつかって前から吸引する(100CASES.73)
- 胸膜癒着術:テトラサイクリン、OK432、ヒトフィブリノゲンを胸腔内に注入
- 2回気胸が生じたとき、あるいはプロの運転手やパイロットのかたにはpleurodesisが勧められる。(100CASES.73)
- 手術療法:根治的治療であり、胸腔鏡を介して行う
- 次の場合、手術療法を考慮
- 1. 大量の気漏、気漏の持続
- 2. 多量の血胸
- 3. 両側気胸
- 4. 再発性気胸
- 5. 初発例でも明らかな嚢胞を認めるもの
- 予後
- 保存的治療での再発率は高い(20-40%)。
- 1回の気胸の既往がある場合には20%再発、2回の既往がある場合には50%再発。(100CASES.73)
- 合併症
- 緊張性気胸
- 血胸(血気胸)
- ■glossary
- pneumonia 肺炎
- pleurisy 胸膜炎
- pleurodesis 胸膜癒着術
- bullous lesion 水疱性病変
- まず、解剖で組織や臓器を列挙してください。
- 皮膚
- 筋肉
- 肋骨
- 胸膜
- 肺
- 心膜
- 心膜
- 心筋
- 食道
- 縦隔
- 大動脈
- 胸椎
- 骨髄
- 関連痛
- つぎにVINDICATEで考えてみましょう。
- Vascular
- Inflammatory
- Neoplasm
- Degeneration and Defeciency
- Intoxication/Idiopathic
- Congenital
- Autoimmune/Allergic
- Trauma
- Endocrine
- !atrogenic
- !diopathic
- !nheritance
- Psychogenic
- 言えるところだけ、書いてみよう
- 用紙配布。
- いろいろありますが、内科診断学によれば、これだけありますから見てください。
- では、次は、疾患の重要度と疾患の頻度について覚えましょう。
- 肋軟骨炎
- 心臓神経症
- 帯状疱疹
- 狭心症
- 食道炎
- 心膜炎
- 自然気胸
- 胃・十二指腸潰瘍
- 胆嚢炎
- 膵炎
- 不安定狭心症
- 心筋梗塞
- 肺血栓塞栓症
- 緊張気胸
- 解離性大動脈瘤
- Boerhaave症候群(ブールハーフェ症候群)
- ↓ランダムか
- 膵炎
- 胆嚢炎
- 狭心症
- 胃・十二指腸潰瘍
- Boerhaave症候群(ブールハーフェ症候群)
- 肋軟骨炎
- 緊張気胸
- 心膜炎
- 心臓神経症
- 心筋梗塞
- 不安定狭心症
- 解離性大動脈瘤
- 自然気胸
- 帯状疱疹
- 食道炎
- 肺血栓塞栓症
- 用紙配布
- これら16の疾患を8つの重要度と頻度からなるコンパートメントに入れ込んでみてください。
- さて、できましたか?
- さて、今回の疾患はこの中に入っています。
- 問診、身体所見、および検査所見から否定してみましょう。
- ・心臓:増悪因子が呼吸で増悪するが、だからといってこれらを全否定できない。ただ、異常心音、過剰心音ないことから、弁膜症・心膜炎は考えなくていいか。心筋炎なら、前駆症状として感冒症状や消化器症状が先行し、心膜炎を合併して胸痛が生じる。心筋炎は無症状の症例から重症心不全、心原性ショック、および突然死に至るものもあり、確定できない。心電図を取れば、全誘導でST上昇、陰性T波が認められる。不整脈は身体所見より否定。
- ・大血管系:解離性大動脈瘤なら移動する胸痛。Stanford A型なら大動脈弁閉鎖不全症や心タンポナーデになったりするかも知れない。解離の部位によっては頚動脈・上腸間膜動脈、腎動脈、総腸骨動脈を閉塞して各種の症状を出すはずであるが、胸痛以外の症状は説明できそうにない。肺血栓塞栓症なら頻呼吸で苦しいはず。肺高血圧なら呼吸困難、易疲労感、胸痛、時に血痰、失神を来し、胸部X線では、肺動脈主幹部の拡大と末梢の急激な狭小化、明るい肺野が認められる。症状だけ見ると当てはまりそうだが、胸部X線では前述の所見は認めらるかどうか分からない。PAPを測ってみたい所である。ただ、聴診上IIp音が亢進するし、Graham Steell雑音という肺動脈弁閉鎖不全症による拡張期逆流性雑音を2LSBからErb領域で聞くことができる。また、ドップラー心エコーで肺動脈圧が分かるらしい。大動脈炎は例えば大動脈炎症候群なら大動脈弓、その分枝や肺動脈など、主として弾性動脈に認められる原因不明の非特異的な大型血管炎であり、発熱、全身倦怠感など(初発症状の 25%)、頸部動脈病変によるめまい、失神、頭痛、眼前暗黒感などの頭部乏血症状(同 23%)、脈なし、しびれ、冷感などの上肢乏血症状(同 17%)、ARによる息切れ、動悸、胸痛などの心症状(同 10%)、腹部ないし胸腹部大動脈病変による高血圧(同 6%)、頸部痛、背痛などの血管痛(同 5%)や肺梗塞症による血痰(同 2%)を呈するが、本症例には合致しがたい。
- ・呼吸器系は最後に
- ・食道炎はあるかもしれませんね、Boerhaave症候群(ブールハーフェ症候群)は特発性胃破裂で、激烈な胸痛、心窩部痛、呼吸困難を訴え、縦隔気腫、膿気胸を認め、二次的に縦隔気腫、皮下気腫、縦隔炎、胸水、気胸などが起こるらしく、合致しそうです。肺呼吸音減弱、音声振盪減弱していることは合致、胸腹部単純X線写真で縦隔拡大、縦隔の変異、縦隔気腫が見られるそうですが、そんな風には見えません。保留で。食道潰瘍・食道癌、食道裂孔ヘルニア、胸痛、アカラシアありそうですが、嚥下困難などは見られません。胃炎、胃・十二指腸潰瘍もあるそうですが、消化器症状はありません。胆石・胆嚢炎も考えられましたが、マーフィー徴候について書いていないし、胆嚢炎は否定して良いでしょう。膵炎だったら、もっと苦しいはず。
- ・触診の所見について特記していないので、触っただけで疼痛を生ずるような症状は無かったと言うこと。帯状疱疹、肋間神経痛は皮膚分節に沿っているか確認が必要。増悪因子として姿勢はないので脊椎疾患は考えなくて良さそうである。乳腺は所見について述べられていないので考える必要はない。
- ・臓器に原因のない胸痛があるが、心臓神経症とか過換気症候群とかは最後に考える疾患でしょう。
- ・というわけで、呼吸器系。胸部単純X線写真から肺炎、気管支炎、肺腫瘍、膿胸、縦隔気腫、横隔膜下膿瘍を積極的に疑う所見なし。むしろ、自然気胸を疑いたくなるX線写真である。しかも、触覚音声振盪減弱、および呼吸音減弱は気胸の所見に一致している。
- ただ、「打診上、肺の拡張能(expansion)は正常に見える」ってなんのことやら。