出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/05/29 03:42:32」(JST)
「RNA」はこの項目へ転送されています。ICAO航空会社コードRNAについては「ネパール航空」をご覧ください。 |
リボ核酸(リボかくさん、英: ribonucleic acid, RNA)は、リボヌクレオチドがホスホジエステル結合でつながった核酸である。RNAと略されることが多い。RNAのヌクレオチドはリボース、リン酸、塩基から構成される。基本的に核酸塩基としてアデニン (A)、グアニン (G)、シトシン (C)、ウラシル (U) を有する。RNAポリメラーゼによりDNAを鋳型にして転写(合成)される。各塩基はDNAのそれと対応しているが、ウラシルはチミンに対応する。RNAは生体内でタンパク質合成を行う際に必要なリボソームの活性中心部位を構成している。
生体内での挙動や構造により、伝令RNA(メッセンジャーRNA、mRNA)、運搬RNA(トランスファーRNA、tRNA)、リボソームRNA (rRNA)、ノンコーディングRNA (ncRNA)、リボザイム、二重鎖RNA (dsRNA) などさまざまな分類がなされる。
核酸は 1868年(一説によると1869年)にフリードリッヒ・ミーシャーにより発見された。核内から発見されたため、核酸と命名された。その後核を持たない原核生物からも核酸が発見されたが、名称が変わることはなかった。1939年、Torbjörn Caspersson、Jean Brachet、Jack Schultz らによりRNAがタンパク質合成に関与しているという説が提唱された。その後 Hubert Chantrenne はRNAがリボソームに対してタンパク質情報を伝達するという役割があることを解明した。1964年には Robert W. Holley が酵母の tRNA の配列と構造を解明し、1968年にノーベル生理学賞を受賞した。1976年にはバクテリオファージMS2 のレプリカーゼ遺伝子のRNA配列が決定された[1]。
RNAの核酸塩基はアデニン (A)、グアニン (G)、シトシン (C)、ウラシル (U) の4種で構成されている。アデニン、グアニン、シトシンは DNA にも同じ構造が見られるが、RNAではチミン (T) がウラシルに置き換わっており、相補的な塩基はアデニンとなる。チミンとウラシルは共にピリミジン環を持つ非常に似た塩基である。
シトシンが化学分解されるとウラシルが生成してしまうため、DNAではウラシルの代わりにチミンが用いられるようになった。これによりシトシンの分解により誤って生成してしまったウラシルを検出し、修復することが可能になるなどの利点が生じた。
RNAには様々な修飾RNAが存在し、それぞれが異なる役割を持つ。シュードウリジン(プソイドウリジン, en:Pseudouridine, Ψ)や2'-O-メチル化修飾は比較的多く見られる修飾である。リボチミジン(T, rT)、シュードウリジン(Ψ)はtRNAのTΨCループによく見られる。アデノシンが脱アミノ化されたイノシン (I) は、RNAエディティングにより生ずるものとtRNAの部位特異的に生ずるものが知られ、グアノシンに似た性質を持つ。他にも約100種の修飾塩基が存在しているが、全容は解明されていない。
一本鎖RNAは自由度が高く高次構造を形成する。
RNAの構造的特徴として、DNAには存在しない 2'位のヒドロキシ基が存在するというものがある。
DNAとRNAはともにヌクレオチドの重合体である核酸であるが、両者の生体内の役割は明確に異なっている。DNAは主に核の中で情報の蓄積・保存、RNAはその情報の一時的な処理を担い、DNAと比べて、必要に応じて合成・分解される頻度は顕著である。DNAとRNAの化学構造の違いの意味することの第一は「RNAはDNAに比べて不安定である」。両者の安定の度合いの違いが、DNAは静的でRNAは動的な印象を与える。
DNAとRNAの化学構造の違いの第一は、ヌクレオチド中の糖は、RNAはリボースで、DNAは2'位の水酸基が水素で置換された2'-デオキシリボースである点にある。このため、DNAではリボースがC2'-エンド型構造を取るが、RNAでは2'位のヒドロキシ基の存在により立体障害が生じ、リボースがC3'-エンド型構造を取る。これに伴って、DNAはB型らせん構造を取りやすく、RNAはA型らせん構造を取りやすくなるという違いが生じる。この結果RNAのらせん構造はメジャーグルーブが深く狭くなり、マイナーグルーブが浅く広くなる。らせん構造についての詳細は、記事二重らせんに詳しい。
RNAは、DNAと比較すると一般に不安定である。RNAに存在する2'位水酸基の酸素には孤立電子対が2つあるため、例えば、塩基性条件下、隣接したリン酸は水酸基から求核攻撃を受け、ホスホジエステル結合が切れ、主鎖が開裂するなどDNAと比べて不安定である。この特性から、翻訳の役割を終えたmRNAを直ちに分解することが可能になる(バクテリアでは数分、動物細胞でも数時間後には分解される)。安定RNAでは1本鎖に水素結合を形成し、らせん構造となるなど、多様な二次構造、三次構造を取り、安定性を増している。
構成する塩基にも違いがあり、一般に、DNAはA、C、G、Tであるが、RNAではTの代わりにUである。ただし、DNA上にもUが稀に生じることがあり、また、塩基にTではなくUを用いるDNAを持つ生物も存在する(U-DNA参照)。圧倒的大多数の生物でDNAの構成塩基にUではなくTが用いられるのは、Cが自然に脱アミノ化することでUに置き換わることがあり、塩基配列を維持するために、損傷してUに変化したCと元来Uである残基を識別する必要があるからである。TはUの5位の水素がメチル基に置換された構造をしている。また、Cからは容易に生じることはなく、Cの損傷によって生じたUを容易に識別できる。以上より、DNAではUではなくTを用いる方が有利であったと考えられる。
DNAとRNAの物理化学的性質について。DNAとRNAはともに紫外線である波長260nm付近に吸収極大を持ち、230nm付近に吸収極小を持つ。この吸光度はタンパク質の280nmよりもずっと大きいが、これはDNAとRNAがプリンまたはピリミジンを塩基として有するためである。ただし、二重らせんを形成しているDNAの場合、溶液を加熱するとその吸光度は増す(濃色効果)。これは、DNAは規則正しい2重らせん構造を有しているため、全体の吸光度が個々の塩基の吸光度の総和より小さい(淡色効果)が、加熱により2重らせん構造が解け(核酸の変性)、個々の塩基が自由になり、独自に光を吸収するためである。また、DNAとRNAはアルカリ溶液中で挙動が異なる。RNAは弱塩基でも容易に加水分解するが、DNAは安定して存在する。
RNA合成は専らDNAを鋳型とした酵素、RNAポリメラーゼによる転写によって行われる。DNAのプロモーター配列(通常遺伝子の上流に存在する)に酵素が結合することで転写が開始される。DNAの二重らせんは別の酵素、DNAヘリカーゼの働きにより1本鎖になる。その後RNAポリメラーゼが鋳型DNAの3'側 → 5'側へと移動すると同時に、鋳型DNAに相補的なRNA鎖が5'側 → 3'側へと伸長していく。またRNA合成がどの部位で止まるかも、DNA配列により決定されている。
RNAを鋳型とするRNAポリメラーゼも存在する。例えば、ある種のRNAウイルス(ポリオウイルスなど)はこのようなタイプのRNAポリメラーゼを用いて、自らの持つRNAを増幅させる。また多くの生命体では、この種のRNAポリメラーゼがRNA干渉に必要だということが知られている。
伝令RNAは、メッセンジャーRNA、mRNAとも呼ばれ、細胞中でタンパク質合成部位であるリボソームにDNAの情報を伝える役割をするRNAである。遺伝情報をもとにタンパク質が合成される場合には、RNAポリメラーゼの働きにより、DNAに対して相補的な配列を持つmRNAが転写され、次にリボソームにより、mRNAの配列に基づいたタンパク質の合成が行われる(翻訳)。このように、DNAがいったんRNAへと転写され、RNAを鋳型としてタンパク質への翻訳が行われるという、一連の遺伝情報の流れをセントラルドグマと呼ぶ。セントラルドグマはタンパク質が遺伝子産物であることを前提としているため、ノンコーディングRNA遺伝子の場合には当てはまらないと解釈されている。一定の時間が経過すると、mRNAはRNA分解酵素の働きによりヌクレオチドへと分解される。多くの場合、mRNAは短命であるが(大腸菌では約5分ともいわれている)、哺乳類の精子中に見られるように、極端に安定なmRNAも知られている。
運搬RNAは、トランスファーRNA、tRNAとも呼ばれ、タンパク質を合成する翻訳の際に、特定のアミノ酸をリボソーム内部へと導入するRNAである。74-93塩基からなる短いRNA鎖である。アミノ酸結合部位と、mRNAのコドンと水素結合を作るためのアンチコドン部位を持つ。非コードRNA(下記参照)の一種である。
リボソームRNA (rRNA) は、細胞内でタンパク質合成を行うリボソームを構成しているRNAである。真核生物のリボソームのrRNAは4本のRNA鎖 (18S, 5.8S, 28S, 5S) から構成されている。このうちの3つは核小体で合成され、残りの1つは他の部位で合成される。rRNAは非常に大量に存在する種のRNAであり、典型的な真核細胞に存在するRNAの少なくとも80%がrRNAとして存在している(tRNA: 10数%、mRNA: 数%)。
ノンコーディングRNA (ncRNA) は、タンパク質へ翻訳されないRNAの総称である。最も有名なものとして、前述の運搬RNAとリボソームRNAが挙げられる。この2つはどちらも翻訳に関連したものであるが、1990年代後半から新しいタイプのノンコーディングRNAの発見が相次ぎ、ノンコーディングRNAは以前考えられていたより重要な役割を果たしている可能性があると考えられるようになった。
1990年代後半から2000年代前半にかけて、人間をはじめとする高等生物の細胞では複雑な転写が行われているという証拠が得られてきた。これは生物学においてRNAがより広い領域で、特に遺伝子調節に用いられているという可能性を指摘するものであった。特にノンコーディングRNAの一種であるマイクロRNA (miRNA) は、線虫から人間に至るまでの多くの後生動物で見られ、他の遺伝子の制御といった重要な役割を果たしていることが明らかになった。
2004年にRassoulzadeganのグループは、RNAが生殖細胞系に何らかの影響を及ぼしているという説をNature誌に投稿した。これが実際に確認されれば、従来の遺伝学に大きな影響を与え、DNA-RNAの役割や相互作用に関する多くの謎が解明されると考えられている。
タンパク質によく用いられる20種のアミノ酸と比較すると、RNAは4つの核酸塩基しか持たないにもかかわらず、ある種のRNAは酵素活性を持っており、それらはリボザイム (ribozyme = ribose + enzyme) と呼ばれている。RNA鎖の切断や結合を行うRNA触媒も存在しており、ペプチド鎖の合成を行うリボソーム中でもRNAが触媒活性中心となっている。
二重鎖RNA (dsRNA) は、2本の相補的な配列を持つRNA鎖がDNAに見られるような二重鎖を組んだものである。dsRNAはある種のRNAウイルスの持つ遺伝情報部位やミトコンドリアDNA内のrRNA、tRNAなどに見られる。真核生物ではRNA干渉の引き金となったり、siRNA生成の中間体となっている(siRNAはmiRNAとしばしば混同される。siRNAは二重鎖であるが、miRNAは1本鎖である)。未成熟miRNAなどでは、1本鎖であっても分子内でヘアピン構造を取る部分が存在している。
RNAワールド仮説は、生命が発生した頃にはRNAが遺伝情報の維持(現在のDNAの役割)と、酵素のような生化学的触媒の両方の役割を担っていたとする仮説である。これはRNAがDNAと比較して無生物的に合成されやすいことなどが根拠となっている。
この仮説では生物は遺伝情報の貯蔵媒体としてRNAを使用し、その後の変異と進化によりDNAとタンパク質が徐々に台頭してきたと考えられている。ただし2006年現在、ゲノムとしてRNAを保持しているのはRNAウイルスのみであると考えられている。
機能性の1本鎖RNAは、タンパク質と同じように特別な三次構造を取ることが要求される。三次構造の形成では、水素結合が駆動力となっている。二次構造で表現可能な「部位」として、ヘアピンループやバルジ、インターナルループなどが存在する。RNAの二次構造は水素結合部位やドメインなどの組み合わせを自由エネルギーについて計算し、コンピューターである程度予測することができる。
RNAi(RNA interfernce、RNA干渉)とはsiRNA(small interfering RNA)または二本鎖RNA(double stranded RNA、dsRNA)によって配列特異的に遺伝子の発現が抑制される現象である。
二本鎖RNA(double stranded RNA、dsRNA)はDicerと呼ばれるRNaseⅢ酵素によって約21~25塩基長の短鎖二本鎖RNAに切断される。この短鎖二本鎖RNA断片をsiRNA(small interfering RNA)とよぶ。そのsiRNA二量体はRISC(RNA-induced silencing complex)と呼ばれるArgonaute(Ago)タンパク質を含む複合体に取り込まれる。その後、ターゲットとなるmRNAと塩基対合するsiRNA(ガイド鎖)を残し、その反対鎖であるパッセンジャー鎖はAgoタンパク質によって切断され分解される。残ったガイド鎖の5’末端と3’末端の1塩基はAgoタンパク質のポケット構造にはまり込んで固定される。特に5’末端がアデニンまたはウラシルである場合にはAgoタンパク質と高い親和性固定される。さらに、5’末端から2~8塩基目の塩基はAgoタンパク質の構造と電荷をうまく利用して表面に載ることができる。この2~8塩基目の塩基の部分はシード配列と呼ばれ、塩基配列の相補性をもつmRNAを識別し、最初に塩基対合する場所である。その後、siRNAは残りの9~20塩基目もターゲットとなるmRNAと塩基対合する。塩基対合したmRNAはAgoタンパク質によって切断される。この過程を遺伝子ノックダウンという。
DicerはdsRNAをsiRNAへと、またはpre-miRNAをmiRNAへと切断するRNaseⅢ酵素である。
RISC(RNA-induced silencing complex)はショウジョウバエにおいてdsRNAを導入することによって誘導される配列特異的に標的RNAを分解する活性をもった複合体としてHannonらによって提唱された。RISCの中核となるのはArgonaute(Ago)タンパク質である。その他の構成要素としてRNA結合タンパク質、RNAヘリカーゼ、ヌクレアーゼなど様々なタンパク質が同定されている。
短鎖RNAは由来によって名称が異なる。人工的に作られたものやin vivoでdsRNA前駆体から生じたものはsiRNAという。miRNAは遺伝子から作られる前駆体RNAに由来する。この遺伝子が発現する細胞内で特定の遺伝子調節機能を発揮する。miRNAはmiRNA遺伝子から長い一次転写産物であるpri-miRNAとして転写される。pri-miRNAの中には将来miRNAとなる配列が含まれておりその部分はヘアピン状の高次構造をとっている。DroshaというRNaseⅢ酵素がヘアピン構造を切断しpre-miRNAにする。核内のpre-miRNAはExportin-5によって細胞質に運ばれ細胞質でDicerによってpre-miRNAは切断されmiRNAとなる。miRNAはRISCを形成し、標的RNAを認識するガイド分子として働く。このようにsiRNAもmiRNAも21塩基前後の長さの機能性ncRNAであり、RISCの中のsiRNAとmiRNAを化学組成や機能で見分けることはできず、あくまで由来で分類する。
ターゲット遺伝子に対する抑制効果に加えてシード領域のみが対合した遺伝子群もオフターゲット効果と呼ばれる機構によって抑制される場合が多い。オフターゲット効果ではmRNAは切断されるのではなく、翻訳が抑制されることによって遺伝子機能が抑制されると考えられている。
哺乳動物細胞に30bp以上の長いdsRNAを導入すると一部の細胞集団を除いてほとんどの細胞で細胞死が起こる。これはインターフェロン応答または抗ウイルス反応とよばれるディフェンス機構と考えられている。
ヌクレオチドおよびその結合体であるポリヌクレオチド、DNA・RNAは生物を原料とするほとんどの食品に微量含まれている。これを摂取すると、体内でいったんヌクレオチドに分解されて、DNA・RNAを合成する材料となる。核酸摂取と核酸合成との関係は未解明な点が多く今後の研究が待たれる。
RNAを多量に含む食品が商業的に生産されている。RNAを効率的に分離するためのRNA源としてビール酵母などの酵母が利用されている。
[ヘルプ] |
この項目は、生物学に関連した書きかけの項目です。この項目を加筆・訂正などしてくださる協力者を求めています(プロジェクト:生命科学/Portal:生物学)。 |
全文を閲覧するには購読必要です。 To read the full text you will need to subscribe.
リンク元 | 「RNA」「DNA」 |
拡張検索 | 「オリゴデオキシリボ核酸」「核小体低分子リボ核酸」「ヘテロ核リボ核酸」「リボ核酸制御配列」 |
関連記事 | 「核酸」「酸」 |
.