出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/01/21 13:39:00」(JST)
ボディマス指数(ボティマスしすう)とは、体重と身長の関係から算出される、ヒトの肥満度を表す体格指数である。一般にBMI (Body Mass Index) と呼ばれる。
ケトレー指数 (Quetelet Index) とも呼ぶ。カウプ指数 (Kaup Index) とも呼び、主に乳幼児に対して呼ばれる[1]。
体重がkg、身長がm(cmではないことに注意)の人のBMIは、
で表される。例えば身長160cm (1.6m)、体重50kgの場合、
となる。
「体重/身長2」からなる指数は、ベルギーの数学者、統計学者で社会学者であるアドルフ・ケトレーによって1835年に開発された[2]。その後、ドイツ(オーストリア)の衛生学者イグナーツ・カウプ (Ignaz Kaup) によって小児の発育指数として利用されるなどして普及し、1972年のKeysらの研究[3]によってこの指数が体脂肪率とよく相関することが明らかにされたことによって、身体組成研究分野における重要な指数として位置付けられ、以後、BMIと呼称されるようになった。1985年には、GarrowとWebsterの研究[4]によって、肥満度の代替指数としての有効性が検証された[5]。
肥満は、糖尿病、高血圧、脳血管障害、虚血性心疾患などの重要な危険因子である[6]。また痩せは、栄養不良や慢性進行性疾患などで生じることがある。どの程度の肥満や痩せがあるかを正確に評価して把握することは、それらの疾患の予防や治療のために役立つ。そして、この評価に基づいて、対策を実行し、効果を判定することは意義が大きい。そのための簡便な指標が望まれる。肥満の評価には、本来は、体脂肪率や体組成の計測が行われるべきであるが、それらの計測は通常は困難である(普及している体脂肪計は、両足の間の電気抵抗を測定するに過ぎない)。このため、身長と体重から、簡便に計算されるBMIが使用される。BMIの最も良い点は、たいていの人において、体の総脂肪量とよく相関することである[7]。
BMIの計算式は世界共通であるが、肥満の判定基準は国により異なる。
状態 | 指標 |
---|---|
低体重(痩せ型) | 18.5未満 |
普通体重 | 18.5以上、25未満 |
肥満(1度) | 25以上、30未満 |
肥満(2度) | 30以上、35未満 |
肥満(3度) | 35以上、40未満 |
肥満(4度) | 40以上 |
BMIは、満3ヶ月-5歳の乳幼児に対して使われる。小児では、もっぱらカウプ指数と呼ばれる。
年齢 | 下限 | 上限 |
---|---|---|
乳児(満0歳(3ヶ月以上)) | 16 | 18 |
幼児(満1歳-5歳) | 15 | 17 |
日本では、新生児~生後3ヶ月未満の乳児にはBMI(カウプ指数)は使わない。学童期は主にローレル指数=10×(体重kg)÷(身長m)3が用いられている。
日本では、乳幼児健康診査に際しては、身長と体重を、別々に、パーセンタイル曲線(成長曲線)で、評価している[11]。
世界保健機関WHOのワークショップは、乳幼児肥満の判定に、BMIを採用している(判定には、BMIのパーセンタイルを用いる)[12]。また、米国疾病予防センターCDCも、小児の肥満については、BMIを求めて、BMIのパーセンタイル曲線で評価している[13]。
妊婦の体重管理にも用いられ、妊娠週数によって正常範囲も異なる[14]。
日本肥満学会では、妊婦のBMI値が、妊娠初期(5~16週)では24.9、中期(17~28週)は27.1、末期(29~40週)は28.2を超える妊婦を肥満妊婦と判定する[15]。
週齢 | 下限 | 上限 |
---|---|---|
16 | 18.5 | 23.7 |
20 | 19.3 | 24.3 |
24 | 20.0 | 25.5 |
28 | 20.6 | 25.8 |
32 | 21.5 | 26.5 |
36 | 22.2 | 27.0 |
40 | 22.7 | 27.9 |
この両方の基準を比較すると、妊娠17週の場合には、両者の過体重の基準は、BMIで3.2ほど異なっている。身長160センチの妊婦さんの場合には、過体重の基準は、3.2×1.6×1.6≒8.2kg ほども、異なっている。
産婦人科診療ガイドライン2011によれば、「妊娠中の体重増加の推奨値に関しては統一見解がなく、介入研究も極めて少ない。したがって、厳しい体重管理を行う根拠となるエビデンスが乏しく、慎重な姿勢が求められる。厳格に体重増加を指導する根拠は必ずしも充分ではないと認識し、個人差を考慮してゆるやかな指導を心がける」としている。
また、National Collaborating Center for Women's and Children's Health(英国)のガイドラインでは、初診時に身長体重を測定して評価を行い、栄養状態に問題がある場合のみ定期的に体重を測定し、通常の妊婦健診では体重を測定すべきでないと述べている(定期的な体重測定にはメリットはなく、妊婦に不必要な心配を与えるに過ぎないとしている)[16]。
喫煙しない米国の白人男性及び白人女性のBMIごとの10年後の相対的死亡リスクについては、右図のように、BMI:20-24.9が最も死亡リスクが低い[17]。
日本肥満学会では、BMI:22の体重を標準体重(統計的に最も病気にかかりにくい体重)としている[10]。
厚生労働省の研究班(研究代表者=辻一郎東北大教授)による40歳代のBMIと平均余命を調査した研究で、太り気味(BMI:25以上30未満)の人が最も長命である結果が得られた。「太り気味の人」に次いで、普通体重(BMI:18.5以上25未満)の人、肥満(BMI:30以上)の人、やせた(BMI:18.5未満)人、の順で平均余命が高いことが判明した。なお、同じ研究で、医療費の負担は太っているほど重くなることも判明し、肥満の人が40歳以降にかかる医療費の総額はやせた人の1.3倍かかっていたという[18]。
2013年1月に米国疾病対策センターCDCが発表した研究結果によれば、BMIで「過体重」に分類されたグループのほうが、「普通体重」とされたグループよりも死亡リスクが6%低かった[19]。一方で、BMIが35を超えると死亡率は普通体重に比べて29%増加する。
ケトレーは統計学的手法によって「平均人(フランス語: l'homme moyen、英語: average man)」を示す指数として「体重/身長2」の関係を見出したが[2]、相似則に従えば重さ(体重)は長さ(身長)の3乗と相関するはずであり、事実、胎児の発育段階では相似則が保たれるため3乗と相関するローレル指数が適合する。しかし、成人では頭部の重量比率などが胎児や乳幼児とは大きく異なり、また、筋肉量に応じた放熱に必要な体表面積を確保するために相似にならない[5]。なお、アリの足は細くゾウの足は太いなど、生物は大きさに対して対称ではない。
多様な肥満の病態を、身長と体重の関係のみに抽象して算出されるこの指数には自ずから限界がある。
このように欠点は多いが、BMIを上回る指標は、今のところ他に見当たらない。
BMIには、上記のような問題が残されているものの、計算式が簡便なこともあり、成人の肥満の指標として多用されるものの一つとなっている。
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