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美容外科(びようげか,Cosmetic Surgery/Plastic Surgery)は、人体の機能上の欠損や変形の矯正よりも、専ら美意識に基づく人体の見た目の改善を目指す臨床医学の一つで、独立した標榜科目でもある。医療全体がQOL重視の流れにあり、日本経済の成熟と医療市場の拡大により、近年注目されている医療分野である。外科学の一分野であり、医療を目的とした形成外科学とは異なる。また、整形外科学と混同されがちであるが全く分野の異なるものである。
近年になってからは、形成外科学の一分野である認識もあり(日本における歴史的背景では美容整形は形成外科にも含まれないものだった)、大学病院や総合病院において美容外科がある場合は形成外科内に併設されている場合が多い。しかし、歴史的に美容外科が大学病院などで扱われはじめたのは比較的最近のことであり、街の開業医たちによって技術が育まれてきた異色の側面があった。その経緯と、既に標榜科の整形外科や形成外科の定義付けに、美容外科的なものが含まれていなかった事もあり、美容外科は1978年(昭和53年)に標榜科目に認可された。それは遡ること形成外科を標榜科目に申請する際、形成外科の重鎮が日本医師会会長の武見太郎に『形成外科は美容を含まない。』旨の一筆を入れていたからでもある。(なお、美容外科に類似する名称として「美容皮膚科」があり、これは近年標榜科目としては認可された。しかし「美容内科」の名称は認可されていない。)また近年の形成外科に美容外科を併設する風潮は、多くの形成外科が病院経営から見て年間ベースで赤字だったり低利益だったりしているので、収益のアップの動機からというのは大きい。
美容外科は呼称として整容外科、形成美容外科、美容整形外科とも言われる。これはまたこの分野の施術は、一般には整形手術、美容形成手術、美容整形手術などと言われることが多いが、これは法律的な根拠のない俗称であり、正しくは美容外科手術と呼ぶべきものである。なお「整形」という言葉から誤解を受けがちであるが、整形外科は美容外科とまったく異なる診療科である。これは形成外科が日本においては整形外科の診療班として最初に設立され、その後も多くの形成外科は整形外科から発祥した経緯が関係すると思われる。
美容外科手術を受けた患者が術後の「駆け込み寺」として形成外科の窓口を相談の場として訪れるケースが多い。上述した如く形成外科とは身体外表の機能上の変形を取り扱う診療科目である。美容外科においても、診療の大前提として術前のインフォームド・コンセントはなされていて然るべきだが、そうでないケースも多く問題となっている[1]。しかし施術者が一番状態を把握しているのであるから、まずは主治医との相談、ないしは他院でも、美容外科医への相談を行うのが妥当である。
この分野の施術の多くは、病気の治療ではないため健康保険は適用されず、全額自己負担の自由診療(保険外診療)となる。但し腋臭症や先天性の母斑、血管腫、眼瞼下垂など、保険適用が認められる疾患も多い。しかしながら、例えば腋臭症に関しても治療法によっては保険適応外になることがあり、実際に希望する施術が保険適応施術であるか否かは事前に確認する必要がある。
日本における美容外科の歴史において、美容外科が正式な医療行為であるとの認知に比較的時間がかかったのは、それが健康な身体に外科的侵襲を加える行為であるのに対して、安全性の確立が不十分であったことが一つの大きな要因としてある。 実際、初期の美容外科治療においては、豊胸術や顔の若返り術と称して、皮下に直接ゲル状のシリコンを注入し、合併症を引き起こしたり、隆鼻術と称して解剖学的に無謀なプロテーゼ(シリコン樹脂を板状に加工したもの)の挿入を試み、プロテーゼが後年に皮膚を突き破って出てくる症例などが散見された。
日本では、厚生労働大臣の許可を受けた場合のみ標榜することができる診療科は麻酔科のみであり、医師免許を有していれば、誰でも「美容外科医」を名乗ることができる。この「自由標榜制」は世界的に見ても特異な制度である[2]。
よって、経験の浅い医師の稚拙な技術や、ずさんな管理体制での施術により死に至ったり、機能障害の発生や、非可逆的な身体への侵襲を受けるケースも多くみられる。大手美容外科などの脂肪吸引での死亡事故や[3]、広範囲におよび皮膚皮下組織の壊死が起こった例[4]、豊胸手術の際の麻酔のミスで植物状態になってしまうなどの医療事故[5]、わきがの治療での麻酔による死亡など、このような医療事故は現在に至っても定期的に起こっている[6]。
なお、国民生活センターには、現在美容医療機関での危害の報告が年間200~300件ほど寄せられている[7]。
また保険外診療が中心の美容外科で使用される薬剤や挿入物などの安全性についても懸念されている。それらの使用物は通常、医師が自身の判断で個人輸入し使用している。ボトックスなどは未承認のものが使われるケースが9割以上であり、未承認薬は、医薬品医療機器等法に基づき販売されている承認薬に比べよりリスクが高いと厚生労働省は注意を促している[8]。豊胸手術用の乳房インプラントに関しては厚生労働省はいずれも薬事承認しておらず、安全性に関して保障していない[9]。
全国の消費生活センターには、美容外科医院でのトラブル事例が多く寄せられており、取引の適正化がされていない現状が明らかになった。
「手術は早いほうがよい」などと契約を急かされたり、「ひどい状態で深刻」などと不安を煽り手術を勧める、長時間の勧誘やキャッチセールスをしたりするケースもあり、利用者が断ると値引きやクレジットの利用を進めるなど、強引な契約例が多数あるという。解約を申し出ると「解約できない」と説明される、または高額な解約料を請求されたというケースも見受けられる。
副作用・手術のリスクについてや、効果が出ない場合などの十分な説明(インフォームド・コンセント)がされていないケースも見られ、健康保険適応の疾患(包茎など)の場合、健康保険の適用外であるとの説明を受けていないなどの例もあった。このように施術内容やリスクについての説明だけでなく、価格等の契約上の説明も不十分であったり、説明そのものが行われていない場合も多い[1]。
昨今では美容外科医院のテレビCMを見る機会も珍しくなくなった。美容整形を受け、人生が変わったという女性達を特集する番組さえある。マスメディアはしきりに美容外科ブームを煽り、経済的にさほど余裕のない大多数の人間に対しても「美容整形は素晴らしい」としきりに焚きつける[10]。
美容外科医院では、雑誌やフリーペーパーでキャンペーン価格を広告し、安さを強調している事例が見られる。これらの広告は、医療法や景品表示法上問題があるとされる。医療法の医療広告ガイドラインでは、費用を強調した広告は禁止されている。美容医療のような自由診療の場合、広告できる施術内容は保険診療と同一の手術や、医薬品医療機器等法の承認を得た医療機器等を使用している場合に限られている。
標準的な金額を広告するようにも定められているが、広告を見て美容クリニックに出向くと、広告の料金では効果的でないと言われ、高額な施術の提示を受けたというケースなどは、医療広告ガイドラインに違反する可能性がある。また、毎月雑誌広告等で通常価格の半額等のキャンペーンを行っているようなケースでは、通常価格での販売実績がなければ景品表示法上、問題がある。
インターネットやインターネット広告(バナー・検索連動型広告など)においても、比較広告など医療広告ガイドラインに違反するおそれのある広告が多く見られる。これらのネット広告は急激に増え、2009年には雑誌広告を抜く数となった。医療機関のホームページは、キャンペーン価格、比較広告、芸能人などを載せていても、医療広告と見なされず規制の対象ではないとされ、早急な対応策が望まれていたが[1]、2012年1月に厚生労働省は、これらの対象外であったインターネット広告を禁止する方針を発表した。
内閣府の調査によると、美容外科医院を選ぶ際、3人に1人が体験談、5人に1人が施術前後の写真が決め手になったとしている。しかし相次ぐ宣伝にまつわるトラブルの増加を問題視した厚生労働省は、2012年1月、美容外科医院のウェブサイトでのいわゆる「ビフォーアフター」写真や、「芸能プロダクション提携クリニック」や「キャンペーン今だけ○○円」などといった表現を、ウェブサイト上に掲載することを禁止する方針を決めた[11]。
美容外科手術を行ったことについて恥という感覚を持つ人も多いので、他人が美容外科手術を受けた事実を公表する場合には、手術を受けた者の名誉やプライバシーを侵害しないように配慮が必要である。
市民権を既に得ている美容外科施術としては、脱毛や縮毛矯正などがある(これらは侵襲性がないので、手術ではない)。
美容外科は歴史的に保険医療の枠から外れた分野とされて来たため、また健常人に美容目的で手術を行うことへの倫理的反感から大学病院や基幹病院での診療が行われなかった。故に美容外科は永らく街の開業医によって行われてきた。保険外診療においては、美容外科の標榜科化が比較的新しい点、医療制度が専門医でなくても看板を掲げて治療が行える点もあり様々な医師によって美容的手術が施されてきた経緯がある。それは多くの問題を生み出してきたものの、反面、一定の実績とノウハウの蓄積もみた。近年は大学病院や基幹病院の主に形成外科でも美容外科に取り組みつつある。
現在、日本には、その歴史的成り立ちや物の考え方の違いなどから「日本美容外科学会」という同名の団体が2つ存在している。一つは開業医が中心となって育んできた美容外科技術を提供する事を目的とする日本美容外科学会(JSAS:1966年日本美容整形学会として設立。1978年改称)もう一つは日本形成外科学会会員を主体とした、形成外科を派生由来とする日本美容外科学会(JSAPS:1977年日本整容形成外科研究会として設立。1978年改称)である。美容外科の看板を上げている医師はほぼこれらの学会に所属しているのが現状である。両者の主義主張は異なり、それぞれ独自の認定医療施設制度(認可未認可含む)を設けるなど独立した路線を維持しているために、美容外科施術を考えている人にとって混乱の元となっている。しかし2つの学会の会員には所属学会が違っても個人的な交流があることがあり、2つの学会とも所属・参加している医師も少なくない。
美容外科の利用者は年々増加傾向にあり、医師や診療所数も増加した結果、2007年には2200億円規模に達した。その後は病院・診療所間の競争化に伴い施術費用の低価格化が進み、伸び率は4~5%程度となった。さらに2008年からは不景気の影響で利用者が減り、市場規模は10%近く落ち込んだ。美容外科の需要増加、自由診療による利益率の高さもあり、大学病院等の総合病院で美容外科を標榜するところが急増してきている。現在、美容外科専門の診療所(大学病院等総合病院を含む)は1000件以上存在すると推定される[12]。
2009年の国際美容外科学会資料[要出典]により、世界各国で美容整形手術件数の多い国は、1位アメリカ(18.5%)、2位中国(13.8%)、3位ブラジル(12.4%)、4位インド(6.5%)、5位メキシコ(4.9%)、6位日本(4.7%)、7位韓国(4.1%)、8位ドイツ(2.8%)、9位トルコ(2.3%)、10位スペイン(1.8%)となっている。
韓国では美容整形が盛んでソウル江南区の新沙洞・狎鴎亭洞・清潭洞の一帯だけで100軒を超える美容形成医院が立ち並び、「美容整形大国」などと称される。[13]
ライセンシング・マガジン『ELLE Korea』(ELLEの韓国版)が20~30代の女性9,324人を対象に行った調査によると、76%が整形手術を受けた、と答えている。[14]韓国でも以前は美容外科を利用した事実を隠す傾向があったが、主に芸能界において施術を告白することが「潔い」とされるようになるに従い、一般人においても美容手術を忌避する傾向が弱まった。
『韓国のアイドル、9割はデビュー前に大工事』と言われ「削って入れて抜いて…わたしの体は工事中」「手直しすれば売れる」「レッスン生3年目なら最低10回整形・ボトックス」と韓国の芸能志望の若者の実態を大手新聞社が伝えるほどである[15]。
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