- 英
- nitrogen mustard
- 同
- 窒素マスタード、窒素イペリット nitrogen yperite、メクロルエタミン mechlorethamine
- 関
- [[]]
Wikipedia preview
出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/05/06 06:09:12」(JST)
[Wiki ja表示]
ナイトロジェンマスタード(Nitrogen mustard、窒素マスタードとも呼ぶ) は化学兵器の一つ。第一次世界大戦で使われたマスタードガスの硫黄原子を窒素に置き換えた化合物である。
細胞毒性に着目して使用された最初の抗がん剤で、白血病や悪性リンパ腫の治療薬として使われていた。クロロエチル基がDNAをアルキル化することによって核酸の合成を妨げ抗腫瘍効果を現す[1]。
歴史
マスタードガスは、
- 硫黄由来の臭気を持つ。
- 水に溶けにくく、油に溶けやすい
- 毒性が強い
以上の3点から、化学兵器としては取り扱いにくい物であった。そのため、第一次世界大戦後、各国でマスタードガスの改良が試みられ、アメリカとドイツでほぼ同時に完成。これがHN-2である(後記)。合成法に関しては1935年、チェコスロバキアの科学者ウラジミール・プレローグとヘンドリック・ステフェンにより報告された。
HN-2は常温で液体で、水に溶けないが、塩酸と反応して水溶性の塩(沸点109~111℃)となる。マスタードガスほどではないが毒性は強く、ラットへの静脈注射によるLD50は1.1mg/kg。
1943年12月2日、イタリアの連合国側の重要補給基地であるバーリ港にドイツ軍は爆撃を仕掛け、輸送船・タンカーを始めとする艦船16隻が沈没した。その中のアメリカ海軍リバティー型輸送船「ジョン・E・ハーヴェイ号」には大量のマスタードガスが積まれており、漏れたマスタードガスがタンカーから出た油に混じったため、救助された連合軍兵士たちは大量に被曝。
翌朝、兵士たちは目や皮膚を侵され、重篤な患者は血圧の低下、末梢血管の血流の急激な減少などを経て白血球値が大幅に減少。結果、被害を受けた617人中83名が死亡したが、一日あたりの死者の数を見ると、被害後2日目、3日目に最初のピークを迎え(イペリットによる直接の死者)、8日、9日後に再度ピーク(白血球の大幅な減少による感染症)を迎えた。
アメリカ陸軍はこの事件および化学兵器研究チームの報告から、マスタードガスおよびナイトロジェンマスタードがX線同様に突然変異を引き起こす可能性が高いと考え、当時はX線照射療法しかなかった悪性リンパ腫の治療が試みられた。マウスで成果が確かめられた後、1946年の8月には末期癌患者に対して新たに開発されたHN-3の塩酸塩が使用された。10日間の注射で、腫瘍は二日目から縮小し始めて二週間で消滅。副作用で障害を受けた骨髄も数週間後には回復したが、結局再発死亡した。
1949年、東京帝国大学医学部薬学科教授・石館守三と東北帝国大学医学部病理学教授・吉田富三は、ナイトロジェンマスタードの毒性を弱めるためにナイトロジェンマスタードの塩酸塩を炭酸水素ナトリウム水溶液に溶かし、過酸化水素で酸化することによりナイトロジェンマスタードN-オキシド(商品名:ナイトロミン)を合成したが、その毒性はナイトロジェンマスタードの半分以下であった。ナイトロミンの塩酸塩は、日本では吉富製薬(当時。現在の田辺三菱製薬)により抗悪性腫瘍剤として販売された。[2](2014年現在ナイトロミンは日本では販売されていない。)
その後、ドイツで同じくナイトロジェンマスタード誘導体のシクロホスファミドが開発され、ナイトロミンは市場を奪われることになった。さらに、ナイトロジェンマスタード誘導体としてクロラムブシル、メルファラン、ウラシルマスタードなどが開発されて現在に至る。
このように、ナイトロジェンマスタードはアルキル化剤の第一号として抗がん剤の歴史の一ページを開いたのである。
種類
マスタードガス分子内の硫黄原子 (S) を窒素原子 (N) に置き換えた骨格を持ち、以下の3種類が知られている。
- N,N-ビス(2-クロロエチル)エチルアミン (HN-1)
- 化学式 CH3CH2N(CH2CH2Cl)2
- CAS登録番号:538-07-8
- N,N-ビス(2-クロロエチル)メチルアミン (HN-2、メクロレタミン)
- 化学式 CH3N(CH2CH2Cl)2
- 融点 14.45℃
- CAS登録番号:51-75-2
- トリス(2-クロロエチル)アミン (HN-3)
- 化学式 (CH2CH2Cl)3N
- CAS登録番号:555-77-1
脚注
- ^ 国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部 びらん剤
- ^ http://www.sasaki-foundation.jp/foundation/keisai/pu_gan_02jul.html
化学兵器関連の記事 |
|
血液剤 |
シアン化塩素 (CK) - シアン化水素 (AC)
|
|
|
びらん剤 |
ルイサイト (L) - サルファマスタード (HD, H, HT, HL, HQ) - ナイトロジェンマスタード (HN1, HN2, HN3) - ホスゲンオキシム (CX) - エチルジクロロアルシン (ED)
|
|
神経ガス |
G剤
|
タブン (GA) - サリン (GB) - ソマン (GD) - エチルサリン (GE) - シクロサリン (GF) - GVガス
|
|
V剤
|
VEガス - VGガス - VMガス - VXガス
|
|
|
窒息剤 |
塩素ガス - クロロピクリン (PS) - ホスゲン (CG) - ジホスゲン (DP)
|
|
無力化ガス |
Agent 15 (BZ) - KOLOKOL-1
|
|
嘔吐剤 |
アダムサイト - ジフェニルクロロアルシン - ジフェニルシアノアルシン
|
|
催涙剤 |
トウガラシスプレー (OC) - CSガス - CNガス (mace) - CRガス
|
|
焼夷剤 |
三フッ化塩素
|
|
対物剤 |
パイロフォリック - 機動阻止システム
|
|
化学兵器規制 |
ジュネーヴ議定書 - 化学兵器禁止条約 (CWC) - 化学兵器禁止機関 (OPCW) - 遺棄化学兵器問題
|
|
(補足:関連項目) |
催涙スプレー - 防犯装備 - スカンク
|
|
UpToDate Contents
全文を閲覧するには購読必要です。 To read the full text you will need to subscribe.
Japanese Journal
- Rhodococcus (Corynebacterium) equi肺内感染マウスにおける肺の食細胞応答について
- 高井 伸二 [他],松村 一男,永井 幹美,椿 志郎
- 日本獣医学雑誌 48(4), 667-673, 1986-08-15
- R. equiの肺内感染マウスにおける肺の食細胞応答を, 肺内洗浄法により検討した。肺内の食細胞応答は接種菌量に依存し, 10^3および10^5CFUの菌量を投与したマウスでは, 細胞数のわずかな変化が認められたのみで, 10^7CFUの菌量を投与したマウスでは, 好中球の著しい増加が認められた。ナイトロジェン・マスタード投与マウスでは, 白血球数の減少が著しく, その結果, 肺内の好中球数が増加 …
- NAID 110003917399
- 敗血症性 ARDS の病態に関する研究 : とくに好中球系作用について
- ナイトロジェンマスタ-ド系制癌剤処理により腹水肝癌細胞が発する自家蛍光〔英文〕(短報)
Related Links
- ナイトロジェンマスタード(Nitrogen mustard、窒素マスタードとも呼ぶ) は化学兵器の一つ。第一次世界大戦で使われたマスタードガスの硫黄原子を窒素に置き換えた化合物である。 細胞毒性に着目して使用された最初の抗がん剤で ...
- 化学療法専門サイトでは、ナイトロジェンマスタードとはなどのお役立ち情報を発信しております ... 名前:AKI 職業:看護師 化学療法に関する基礎知識を当サイトでは紹介します。
Related Pictures
★リンクテーブル★
[★]
- 英
- mechlorethamine
- 関
- ナイトロジェンマスタード nitrogen mustard、クロルメチン chlormethine、mustargen
[★]
- 英
- chlormethine
- 関
- ナイトロジェンマスタード、メクロレタミン
[★]
ナイトロジェンマスタード
[★]
ナイトロジェンマスタード
[★]
- 英
- nitrogen mustard-N-oxide hydrochloride
- 同
- メチルビス(2-クロロエチル)アミン-N-オキシド methyl-bis(2-chloroethyl)amine-N-oxide
- 商
- ナイトロミン
- 関
- ナイトロジェンマスタード
[★]
- 英
- nitrogen mustard N-oxide hydrochloride
- 関
- ナイトロジェンマスタード
[★]
- 英
- nitrogen mustard derivatives
[★]
- 英
- nitrogen mustard compound
[★]
- 英
- master
- 関
- 主要、熟達、主人、達人
[★]
- 英
- trout
- 関
- チャー、イワナ属
[★]
- 英
- mustard
- 関
- カラシナ