出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/10/29 18:41:58」(JST)
タンニン (tannin) とは植物に由来し、タンパク質、アルカロイド、金属イオンと反応し強く結合して難溶性の塩を形成する水溶性化合物の総称であり、植物界に普遍的に存在している。多数のフェノール性ヒドロキシ基を持つ複雑な芳香族化合物で、タンパク質や他の巨大分子と強固に結合し、複合体を形成しているものもある。分子量としては 500程度の低分子化合物から 20,000 に達する巨大な物まである。タンニン酸と称されることもあるが、その名称で特定の化合物(没食子酸誘導体で、タンニン様の性質を持つ)を指すこともあるため注意すること。タンニンという名称は「革を鞣す」という意味の英語である "tan" に由来し、本来の意味としては製革に用いる鞣革性を持つ物質のことを指す言葉であった。
フラバノール骨格を持つ化合物が重合した縮合型タンニンと、没食子酸やエラグ酸などの芳香族化合物とグルコースなどの糖がエステル結合を形成した加水分解性タンニンの二つに分類される。
縮合型タンニンとして知られるプロアントシアニジンは、2–50のフラボノイド単位が炭素-炭素結合を介して重合したもので、加水分解を受けない。
タンニンは特定の性質に対して冠せられる、化合物を分類するための名称である。しかし化学の分野では1990年頃からこのような性質ではなく化学構造で分類した名称を優先することが多くなっており、このためタンニンという名称が用いられる機会は減っている。タンニンの定義に合致するような化学構造上の分類名がないため、より広い範囲にあたるポリフェノール化合物の一部として呼ばれることが増えている。ただし食品化学などの分野では、便宜上これ以降もタンニンという名称が用いられている。
タンニンは口に入れると強い渋味を感じさせる。これはタンニンが、舌や口腔粘膜のタンパク質と結合して変性させることによると言われている。このようなタンニンによる粘膜の変性作用のことを「収れん作用」と呼ぶ。渋味は厳密には味覚の一種というよりも、このタンパク変性によって生じる痛みや触覚に近い感覚だと言われており、このため渋味のことを収れん味と呼ぶこともある。
タンニンが渋味を感じさせるためにはそのタンニンの水溶性が高く唾液に溶けることが必要である。逆に、縮合タンニンの重合度が増したことなどによって不溶化すると渋味を感じさせなくなる。渋柿を甘くするために干し柿にするのは、この効果を狙ってのことである。
タンニンの収れん作用は粘膜からの分泌を抑える働きがあるので、内服することによって止瀉作用や整腸作用があらわれる。このためタンニンを含む植物には薬用植物として用いられるものが多い。
茶葉に含まれるタンニンとしては、エピカテキン、エピガロカテキンなどのカテキン類とその没食子酸エステル誘導体が良く知られる(これらは加水分解性タンニンに分類される)。これらは苦みまたは渋味を示し、茶の葉を用いる嗜好品の中では、その味覚を決める重要な物質とされる。また、紅茶においては水色を決める各種赤色色素(テアフラビンやテアルビジン。これらも縮合型タンニンに分類されるタンニンの一種)の前駆体としても重要である。
これら茶のタンニンは、生合成の際にエチルアミンの消費でテアニン(アミノ酸の一種、茶に甘味を与える)と競合する。日射下にある茶樹の中ではテアニンは分解し、そのエチルアミンはタンニン合成にまわる。緑茶生産においては、タンニンによる渋味を抑え、テアニンによる甘味を与えるため、茶樹を遮光下におくこともある。
ワインにはタンニン(多くは縮合型タンニンである)が多く含まれる。
ワインに含まれるタンニンは由来となった部位によりワインの風味に与える影響が異っている。特に赤ワインは醸造中もブドウの果皮や種子(特に後者由来のタンニンは非常に不快な味を持つ)が漬かったままになるため、これらに由来するタンニンが目立つ傾向にある。例えば近代的なワイン醸造所では、ブドウ果汁を作る際、好ましくないタンニンとされる種子由来のものを最小限に留めるため、フリーラン(破砕のみプレスをしない)果汁のみを用いて醸造したワインを造るなど、細心の注意を払っている。タンニンを多く含むオークや木の樽で熟成すると、ワインのタンニンも増加する。
タンニンはワインの熟成において酸化を防ぐという重要な役割を果たし、その高度に重合したものが澱となってビンの底に沈んで行く。
渋柿には「柿渋」と呼ばれる1%–2%程度の可溶性タンニン(カキタンニン)が含まれており、強烈な渋味を示す。甘柿あるいは渋抜きをした渋柿(樽柿または干し柿)では、これらのタンニンが不溶性のものに変化しており、渋味を感じない。
カキタンニンはカテキン類のうちエピカテキン、カテキンガレート、エピガロカテキン、ガロカテキンガレートが1:1:2:2の比率で12–30分子縮合した分子量15,000程度に達する高分子化合物でデルフィニジン系プロアントシアニジンポリマー、あるいは縮合型タンニンに分類される。未熟バナナ、イナゴマメと並び、青果三強渋味成分とされる。
強力なタンパク質凝固作用を持つことから、清酒清澄剤、防腐剤などに利用される。
植物に由来する嗜好食品には、タンニン含量の高いものが多い。
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