出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/04/04 09:57:43」(JST)
コンタクトレンズ (Contact lens) とは、角膜に接触(コンタクト)させて使用するレンズの形態をした器具である。
性能、使用目的、効果等により分類できる。日本の薬事法の類別に着目した場合、以下のようなものがある。
角膜とコンタクトレンズの間の距離がゼロに近いという特性により、眼鏡に比べて像のゆがみや大きさの変化が少ない。強度の屈折異常や左右の視力が大きく異なる場合には眼鏡での矯正が難しいことがある。個人差があり、相当な強度や左右差がある場合であっても、眼鏡で矯正できる者もいるが、頭痛や眼精疲労を伴うために長時間装用できない者も多い。このような場合はコンタクトレンズが好適である。また、角膜に直接装着するため、裸眼と変わらない広範囲の視界を得られる上に、レンズ自体が小さいことから度数が強くても厚さはほとんど変わらず、眼鏡のようにずり落ちたり結露でレンズが曇ったりするという煩わしさがほとんどない。他にも、眼鏡を装着した場合と比べて、容姿を変えることなく視力を矯正することができる、といった美容・美観上の利点を目的とする者もいる。
コンタクトレンズは、機能の面で眼鏡よりも優れた点が多い反面、装用に伴う眼への負担が大きく、手軽さに欠け、制限も多い。洗浄や消毒を適切に行う (一部の使い捨てタイプを除く)、装用時間を守る、使用期限を守る、装用したまま眠らない(一部のタイプを除く)、自覚できる異常が無くても定期的に医師の検診を受けるなど、製品の使用説明や眼科医の指示を守って正しく使用することが重要である。
角膜には血管が無いため、酸素の供給は外気から涙液を介在して行なわれる。コンタクトレンズを装用した状態では、酸素が涙液へ容易に取り込まれないため、角膜へも酸素が供給されにくくなり角膜への負担になる。どんなに酸素透過性が高いレンズでも、裸眼に比べると装用状態では角膜への負担となる。
従来は材料にPMMA(Polymethylmethacrylate, ポリメチルメタアクリレート)というアクリル樹脂の硬質プラスチックを使ったもので、純粋なPMMA は、加工しやすく耐久性に優れていたが、酸素を通さないため、装用時間に限界があり装用時の違和感が大きいもので、現在はほとんど使われていない。現在、ハードレンズとして広く使用されている酸素透過性レンズ(O2レンズ、RGPレンズ、Rigid Gas Permeable Lens)と呼ばれるものは、PMMAにケイ素を加えることで酸素を透過するようにしたものであり、これは同時にハードレンズとしては比較的柔らかくなり、そのために乱暴に扱うとレンズが傷付くことがある[1]。
ハードレンズはソフトレンズと違って、装用中にも瞬きの度にレンズが動くことにより、涙が入れ替わって涙に含まれる酸素を取り入れることができるため、角膜に多くの酸素を供給することができる。一般にハードレンズはソフトレンズに比べて単価は高いが取り扱いも容易であり、レンズの寿命もより長いため、長く使えば使うほどソフトレンズより安価となる可能性がある。
角膜に異常が起これば痛くて装用できなくなるため、角膜障害が重度になることが少ない。ただし、装着時の違和感はソフトレンズに比べて依然大きく、また激しい運動などの際にずれやすい。症例によってはハードコンタクトレンズしか使用できない場合もある。
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素材は Poly-HEMA (ポリヒドロキシエチルメタアクリレート)あるいは PVP (ポリビニルピロリドン)というゲル状の合成高分子化合物(ハイドロゲル)を使った、水分を比較的多く含む含水性ソフトコンタクトレンズと、ブチルアクリレートとブチルメタクリレートの共重合体を使用した、水分を含まない非含水性ソフトコンタクトレンズ(現在日本で入手可能な製品は存在しない)とがある。
ソフトコンタクトレンズには、1日や1週間程度まで手入れを行わずに用いる使い捨てタイプ (ディスポーザブル)と、若干の手入れを行いながら2週間ほどだけ使用する頻回交換型(フリークエントリプレースメント)の他に、手入れを行いながら1ヶ月や3ヶ月程度使用する定期交換型(プランドリプレースメント)も存在する。日本では一般的に一定期間の使用後に破棄をすることから1日、1週間、2週間、1か月、3か月タイプのソフトレンズを総称して使い捨てレンズと呼んでいる。
使い捨てレンズは、目から分泌されるタンパク質などの汚れがレンズに蓄積して目に悪影響を及ぼす前に新しいレンズと交換することで安全性を高めるものなので、レンズケアの方法やレンズの交換期限を遵守するなど、正しい使用方法が求められる。
従来のソフトレンズ素材では、酸素透過率を高めるために含水率を高める必要があった。ところが、含水率が高いほど脂質やタンパク質がレンズに沈着しやすく、衛生状態を保つには洗浄や殺菌作業の頻度が増してしまうという問題があった。新素材のシリコーンハイドロゲルは、含水率に頼らず高い酸素透過性が得られるため、このような問題を解決するとして注目されている[2]。
ソフトコンタクトレンズはハードコンタクトレンズよりも装用感で優れているが、そのために角膜に障害が起きても自覚しにくく、重症になるまで放置してしまう結果になることがある。
ハード、ソフトレンズ共に乱視用(トーリックレンズ)が存在する。通常ハードレンズはレンズ自体が硬質であり、ある程度までの角膜乱視であればレンズと角膜間を涙が埋める涙液レンズと呼ばれる効果によりレンズが角膜の代わりとなるため矯正効果があり、矯正に用いる曲面の位置によってフロントトーリック、バックトーリック、バイトーリックと区別されている。乱視矯正に特化したハードレンズではバックトーリックを採用している場合が多く、一般的にソフトレンズよりも矯正効果が高いとされる。 円錐角膜患者のハードレンズにおける乱視矯正ではフィッティングが特に重要となるため、多くの経験を持つ医師による処方が望ましい。
ソフトレンズではレンズが軟質であり、レンズが角膜の形状に合わせて変形してしまうので前述のような効果は得にくく矯正しにくい。故に乱視用ソフトレンズでは乱視の方向(軸角度)に対し、適切な矯正度数を追加する特殊形状となっている。 ハードレンズではそのものが角膜の役目となるので瞬目時の眼内でのレンズの回転は問題になりにくいが、乱視用のソフトレンズの場合は特定方向に追加度数が入っておりレンズの回転は好ましくないため、レンズの下部に厚みをつけ、重力や瞬目時の圧力に応じて厚みのある方向が必ず下に保持されるように作られているプリスムバラスト設計や、レンズの左右のみを楕円状に厚みをつけ、瞬目時の圧力により厚みのある部分が横方向に保持されるダブルスラブオフ設計などにより乱視軸とのずれを防ぐ工夫が施されている。また、一部のメーカーではこれらを組み合わせにより回転を抑える機構を持つものも存在する。 しかし、通常のソフトレンズと比べると
などが問題点である。
乱視用ソフトレンズには細隙灯顕微鏡による観察で使用するための通常目視では観察できないガイドマークが存在し、眼科医による処方の際のフィッティング評価指標として用いられている。また、装用時の目安となるガイドマークや刻印などが入っていることもあり、これに従い装用することで適切な軸角度保持を補助するものも存在する。
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美観のための度なし色付コンタクトレンズ(おしゃれ用カラーコンタクトレンズ、「カラコン」)は、以前は雑貨として扱われ、医療機器のコンタクトレンズはその製造販売にあたって承認を受ける必要があるのに対し、品質の審査手続きなどはなかった。このため、粗悪な作りのカラーコンタクトレンズは、着色剤が溶け出し炎症を起こしたり、ときには失明したりと、その品質に起因する事例も報告されていた[3]が、これを直接規制する方法がなかった。
また、コンタクトレンズ全般的に、長時間使用、その他不適切な使用に起因すると思われる眼病の増加が、眼科医団体等から指摘され[4]、国は「おしゃれ用カラーコンタクトレンズ」の規制に乗り出し、2008年7月10日に厚生労働省・経済産業省が、薬事法の枠内で規制を行う方針を固め、2009年4月28日に薬事法の告示が改正、あわせて関連省令等も改正され、同年11月4日以降医療機器になった。なお、度入りカラーコンタクトレンズはそれ以前から医療機器となっている。
一部の指定教習所の校則(規約)においては、例え視力が普通車は両眼で0.7以上 とか大型2種で深視力と0.8以上と視力基準が法定基準以上に矯正できていても カラーコンタクトそのものを視力矯正器具として使用するところを禁じている学校もある。 免許試験場の更新や新規取得時の適性検査では書面上はそのような規定は書かれてない。
1801年にトマス・ヤングが、1823年にイギリスの物理学者ジョン・ハーシェルがコンタクトレンズに関する実験を行っている。コンタクトレンズの語は、ドイツの生理学者アドルフ・ガストン・オイゲン・フィック (Adolf Gaston Eugen Fick) [5]の名付けた"Kontaktbrille"に由来する。製品としては、カール・ツァイスが1892年に試作し、1911年に製品化しているが、全て度無しのレンズであった[6]。
当時は原料がガラスであり、角膜すなわち黒目の曲率に合わせるためには多くの形を用意する必要があった。そこで1931年にレンズを強膜[7]と接触させ、角膜とは間に液体を入れることで直接レンズに触れさせないタイプの「角鞏膜コンタクトレンズ」が発明され、ヨーロッパを中心に主流となった。一方、米国ではアクリル樹脂である PMMA を使った角膜に触れさせる、正確にはわずかに隙間を設ける形式の「角膜コンタクトレンズ」が急速に普及し[8]、後にはコンタクトレンズといえば角膜コンタクトレンズを意味するようになった。
日本では、佐藤勉が角鞏膜コンタクトレンズを、水谷豊が角膜コンタクトレンズの研究を進め、しばらくの間脱落防止性能や装着時間などを競い合った。この頃には角鞏膜コンタクトレンズもアルギン酸と石膏を使ったモールディングで眼球の型を取った接触型のものができるようになった[8]。一方、角膜コンタクトレンズは、曲率半径7.33 - 8.59で20段階に設定された角膜レンズ検査セットを患者の目に装着させて角膜の型を測定するという方法であった[9]。
コンタクトレンズの製造方法には以下のものがある。
使い捨てコンタクトレンズではキャストモールド製法が主流となっている[11]。
コンタクトレンズの選定にあたっては以下の検査が必要となる
一般的に(販売店併設の)眼科診療所での眼科検診・診察・処方箋が求められるが、現在薬事法上コンタクトレンズの購入にあたって医師の診療は必ずしも必要なく、海外からのネット通販等も含めて消費者が自由に購入出来る。
コンタクトレンズの検診料については健康保険を適用することが保険財政の無駄遣いだとして問題視され、厚生労働省は個別検査料の点数加算方式を改め「コンタクトレンズ検査料」が新設されることとなった。コンタクトレンズの値下げ競争が激化し、レンズの販売ではほとんど利益があがらず、診療所での保険診療による報酬で利益を補填するケースが目立ったためである。
2006年度から初診は387点(コンタクトレンズ患者が70%以上の診療所では193点)、何らかの疾病を伴う再診は112点(同56点)とされ、さらに2008年度からは、コンタクトレンズ処方に係わる診療が全体の30%未満の医療機関では検査料200点、眼科の常勤医師(10年以上の経験年数を有する)が1名以上勤務する保健医療機関でコンタクトレンズ処方に係わる診療が全体の40%未満の医療機関では検査料56点へ、と大幅な削減が施行された。これにより、全額自己負担(自由診療化・保険外診療)とする診療所も出てきている。高額化した検診を嫌って検診を受けないままコンタクトレンズを使用する者が増加し、コンタクトレンズによる眼障害が増えることが予想されるとして反対する意見もある。
また、医療と販売の分離の原則より、保険適用の眼科施設にての販売および特定の販売店舗への利益誘導は行政指導の対象となり、さらには眼科医院と販売店の間の個人情報の不適切な取扱なども問題である。しかしながら多くの眼科施設においては装用指示文書の発行を拒否するなど、医販分離の理念は徹底されていない。これらの諸問題の解決を図る法制度の整備が求められている。なお2006年度から、乳幼児の弱視や先天性白内障手術後の治療用コンタクトレンズと眼鏡には、保険適用されるようになった。詳しくは弱視#保険機関の対応を参照。
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