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自由電子(じゆうでんし, 英: free electron)とはポテンシャルがいたるところでゼロ、つまり何ら束縛を受けていない電子のこと。電子気体(フェルミ気体)とも呼ばれることがある。この自由電子をモデルとしたものを自由電子モデル(自由電子模型、Free electron model)と言う。現実の電子系について、それらが自由電子であると仮定する近似を自由電子近似と言う。
特に金属の場合は、伝導電子と同じ意味で自由電子という言葉が用いられる。金属内部の自由電子は、電気伝導や熱伝導を担う。
実際には通常の金属においても、伝導電子はごく弱くはあるが相互作用を受けている。強く束縛を受ける伝導電子などには適用できず、電子同士の多体相互作用も無視している。自由電子として扱うのは一種の理想化である。
目次
- 1 自由電子のエネルギー固有状態・固有値
- 2 電子気体の誘電関数
- 3 フェルミエネルギー
- 4 状態密度
- 5 弾性率・圧縮率
- 6 低温現象
- 7 脚注
- 8 関連項目
自由電子のエネルギー固有状態・固有値
「自由粒子」および「エネルギー固有状態」も参照
自由電子はポテンシャルをであるため、ハミルトニアンの固有値問題(定常状態のシュレーディンガー方程式)は次のように書ける[1][2][3]。
ここでmは自由電子の質量、ħはディラック定数、温度は絶対零度(T = 5000000000000000000♠0 K)である。これを解くと、得られるエネルギー固有値は次のようになる。
ここでは波数ベクトルである。よってE-k曲線(分散関係)は波数の二乗に比例し、放物線となることがわかる。
また得られるエネルギー固有状態は平面波であることがわかる。
ここでは波数ベクトル、は電子の存在する空間の体積である。 この平面波は固体物理学や物性物理学でよく用いられる。ほとんど自由な電子模型や強結合近似、マフィンティンポテンシャルを用いた近似などのバンド構造を調べる上で基本となり、そのエネルギー固有状態はブロッホ関数となる。
時間依存シュレーディンガー方程式
の解は次のように与えられることがわかる。
ここでは周波数である。
電子気体の誘電関数
金属を原子間距離よりもはるかに大きなスケールで見れば、自由電子ガスの負に帯電したプラズマと正に帯電した原子芯のバックグラウンドの集まりだと見なせる。 膨大な原子核とコア電子のバックグラウンド非常に重く、空間に固定されていると考えられる。 負に帯電したプラズマは、固体中に均一に分布している自由電子の価電子によって作られる。 振動する電場が固体に与えられると、負電荷のプラズマは正電荷バックグラウンドから距離xだけ離れて動く傾向にある。 その結果サンプルは分極し、サンプルの反対側の表面に余分な電荷が存在するようになる。 表面電荷密度は、
ここでnは電子の数密度である。 これはサンプル中に復元電場を作る。
サンプルのある周波数における誘電率は次のように表される。
ここでは電気変位、は分極密度である。
電場と分極密度は、
またn電子密度の分極密度は、
振動電場の力Fは、電荷eと質量mをもつ電子を加速度aで加速される。
ここでE、P、xを置き換えると調和振動子の式が得られる。
少し計算をすると、分極密度と電場の関係は次のように表される。
固体の周波数依存誘電関数は、
プラズマ周波数と呼ばれる共鳴周波数で誘電関数の符号は負から正に代わり、誘電関数の実部は0になる。
プラズマ周波数はプラズマ振動共鳴やプラズモンを表す。 プラズマ周波数は固体中の価電子の密度の平方根の直接測定で得られる。
測定値は多くの材料での理論値とよく一致している。[4] プラズマ周波数以下では誘電関数は負であり、場はサンプルを貫くことができない。 各振動数がプラズマ周波数以下である光は全反射される。 プラズマ周波数以上では光はサンプルを貫くことができる。
フェルミエネルギー
電子はフェルミ粒子なので同じ状態に1つ(スピン自由度を含めると2つ)しか入ることができず、エネルギー最低の状態から順に詰まっていく。エネルギーの最大値をフェルミエネルギーと呼び、それに相当する波数・運動量をフェルミ波数、フェルミ運動量と呼ぶ。
- フェルミエネルギー:
- フェルミ波数:
- フェルミ運動量:
3次元の場合、フェルミエネルギーは波数空間中の面で表される。これをフェルミ面と呼ぶ。自由粒子のフェルミ面は球状となる。
ここでは系の全電子数である。
状態密度
波数とエネルギーの関係が求まったので、エネルギーの関数である状態密度 D(E) を計算することができる。
- 状態密度(一次元):
- 状態密度(二次元):
- 状態密度(三次元):
N個の自由電子(三次元)からなる系の全エネルギーEtotは次のように書ける。
よって自由電子一個当りの平均エネルギーは、
弾性率・圧縮率
自由電子での体積弾性率 K は、系の体積を Ω として以下のように表される。
Kの逆数が圧縮率κである。
これは、EF∝kF2∝(Ω)-2/3(フェルミ波数は系の体積の三乗根に反比例する量)及び、(P は圧力、Etot は自由電子の全エネルギー)を使って得られる。
低温現象
低温で自由電子はフェルミ縮退の状態にあり、特有の性質を示す。
脚注
- ^ Albert Messiah (1999). Quantum Mechanics. Dover Publications. ISBN 0-486-40924-4.
- ^ Stephen Gasiorowicz (1974). Quantum Physics. Wiley & Sons. ISBN 0-471-29281-8.
- ^ Eugen Merzbacher (2004). Quantum Mechanics (3rd ed.). Wiley & Sons. ISBN 978-9971-5-1281-1.
- ^ C. Kittel (1953–1976). Introduction to Solid State Physics. Wiley & Sons. ISBN 0-471-49024-5.
関連項目
原子模型 |
単一原子 |
- ドルトン模型(英語版)(ビリヤードボールモデル)
- トムソン模型(プラムプディングモデル)
- 立方体モデル(英語版)(立方体原子モデル)
- 長岡モデル(土星型モデル)
- レーナルト模型(ディナミーデンモデル)
- ラザフォード模型(惑星モデル)
- ボーアの原子模型(ラザフォード–ボーアモデル)
- ボーア-ゾンマーフェルトモデル(英語版)(リファインド・ボーアモデル)
- シュレディンガーモデル(電子雲モデル)
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固体内原子 |
- ドルーデモデル(英語版)
- 自由電子
- ほとんど自由な電子
- バンド構造(英語版)
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液体内原子 |
液体ヘリウム(英語版)
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気体内原子 |
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科学者 |
- フェリックス・ブロッホ
- ニールス・ボーア
- ジョン・ドルトン
- パウル・ドルーデ
- アーヴィング・ラングミュア
- ギルバート・ルイス
- 長岡半太郎
- フィリップ・レーナルト
- アーネスト・ラザフォード
- エルヴィン・シュレーディンガー
- アルノルト・ゾンマーフェルト
- ジョゼフ・ジョン・トムソン
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- Book:Atomic models
- Category:原子
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