出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/04/23 13:57:24」(JST)
病理診断(びょうりしんだん、pathological diagnosis)とは、人体から採取された材料について顕微鏡で観察し、病理学の知識や手法を用いて病変の有無や病変の種類について診断すること。略して「病理」。画像診断や内視鏡検査で異常所見があった場合に病変部を採取して診断したり、病変の広がりや病気の程度を評価するために行われることもある。また治療選択や治療効果判定を目的としている場合もある。
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病理診断は医師・歯科医師が行う医行為である。病理診断は専門性が高いので、医師の中でも病理診断の修練を積み認定された病理専門医(細胞診断は細胞診専門医)が行うことが多い。
針やブラシなどで採取された細胞、メスなどで切除した組織片、手術で切除された臓器等を病理材料と呼ぶ。病理材料の全体または部分について病理標本を作製し、病理標本プレパラートを顕微鏡で数倍から数100倍に拡大して観察する。外科病理診断(surgical pathology)は外科的に切除された臓器や組織の病理診断、生検法で得られた材料の病理診断や術中迅速診断を指すことが多い。
病変の種類や診断目的によっては電子顕微鏡観察、免疫組織染色、遺伝子解析などの特殊な病理学的検索が必要になることがある。診断を強調するとき特殊病理診断と呼ぶ。
病理診断医が得意とするのは
である。 したがって、病理診断医が力を発揮できる社会の条件として
という2点が挙げられる。つまり、病理診断医が力を発揮できるのは医療先進国においてであるが、後進国ではCTの代わりを剖検が担っていると言える。
病理医は患者に面談する機会は少ないが、患者の身体部分である病理材料を詳しく観察している。その病理診断によって治療法等が左右される。法律家によっては病理組織診断は絶対的医行為であるとしている[2]。しかし従来は病理検査とも呼ばれ、登録衛生検査所が受託できる検体検査(病理学的検査)に含まれていた[3]。
病理診断が医行為であると明確になったのは平成元年(1989年)である。
当時の日本病理学会総務幹事町並陸生からの疑義照会「患者(生存者)の病理診断に関し、標本の病理学的所見を客観的に記述すること(たとえば異型細胞が多い、好中球浸潤が多い等)は医行為ではないが、それに基づき病理学的診断(がんである等)を行うことは、結果として人体に危害を及ぼすおそれのある行為であり医行為であると考えるがどうか。」について、「貴見の通りである」(厚生省健康政策局医事課長)との回答がある(医事第90号平成元年12月28日)。
病理診断においても医療事故(accident,予期しない結果)が発生しうる[4]そのうちの一部は病理診断過誤(malpractice)が原因となっている。切り出しが不充分であった、病理標本取り違えや他からの混入に気がつかなかった、異常を見落とした、病変を誤って解釈したなどが過誤に分類されている。病変の解釈は診断経験や知識によって左右される一種の見立てであるが、臨床情報の多寡・正確さ、診断者の多忙や疲れ・集中力不足などによっても影響を受けることがある。
病理診断が医行為であること、病理診断の医療機能への寄与、がん治療の均てん化などを背景にして、2008年4月1日の医療法改正で病理診断科が標榜診療科となった。同時に診療報酬点数表で第3部検査にあった病理学的検査が第13部に移り名称も病理診断に変更された。病理診断科には病理診断を専門とする医師が勤務しており、病理診断、術中迅速診断や剖検診断等を担当している。病理診断が医療機能評価において重要視されていることもあり、病理診断科を標榜する医療機関が増えてきている。
2008年4月からは医療費の領収証に病理診断の欄が新設された。従来は病理診断の報酬は病理学的検査として第3部検査の欄に合算されていたが、第13部病理診断として分離独立したのでそれに合わせて病理診断の欄が新設された。この欄の数値は、標本作製料、診断料、判断料等、さらには月内の回数などの複雑な要素で計算されたものである。病理診断の欄には生検や細胞診の報酬も入る。
保険医療機関間連携による病理診断とは病理医不在の保険医療機関(医療機関A)で作製された病理標本(スライドガラス)を病理医のいる保険医療機関(医療機関B)に送付して病理専門医等が病理診断を行い、病理診断報告書を医療機関Aに返すことである[2]。連携病理診断ともいう。平成22年診療報酬改訂では、保険医療機関間連携による病理診断料について診療報酬評価の道が開いた。
連携病理診断は、従来から行われてきた遠隔術中迅速病理診断(テレパソロジー)の方法論を拡張して開発されたため、平成22年時点では医療施設Aは特定機能病院、臨床研修指定病院、へき地医療拠点病院、へき地中核病院、へき地医療支援病院、へき地医療支援病院に限定されている[3]。期待されていた病理診断科診療所を医療機関Bとした連携病理診断については評価対象外であった。連携病理診断は拡大しておらず病理診断体制の強化には至っていない。
病理専門医を認定している日本病理学会からは「国民のためのよりよい病理診断に向けた行動指針2013」[4]が発表された(2013年3月)。この中で、平成26年度診療報酬改定において、病理医不足の現状を踏まえ、目指すべき診療報酬体系の整備として「保険医療機関間の連携による病理診断(連携病理診断)の見直し」を求めている。
今後、病理標本を送付する医療機関Aの要件や病理診断を行う側の医療機関Bの要件を見直し、当初期待された連携病理診断を実現可能なものにする必要がある。ホスピタルフィーである検体検査とドクターズフィーである病理診断の異同を明確にする必要もある。現状では医療機関Aは病理学的検査として登録衛生検査所外注したり教室プローべとして医学部病理講座に委託されているので、病理学会、医政局(とくに指導課)、保険局、地域厚生局、文部省等間での調整が大きな課題となる。
厚労省の目論見である「すべての病理診断を医療機関で行う」ためには医療機関に評価されている病理判断料をどうするのか、病理標本作製は病理診断に入るのか病理学的検査なのかなどについて厚労省の采配に期待が寄せられている。また医療法や健康保険法とも整合性の取れる医療機関Bの要件を開発できるのか等の課題もある。
臨床医が病変部についての臨床診断を下すとき病理診断が根拠となることが多い。腫瘍の良性悪性の鑑別診断やがん治療には病理診断が欠かせない。病理学の修練を積み、病理専門医の認定を受けた病理専門医が病理診断を行うことがほとんどである。現行法制では医師であれば誰が診断しても良く、外科医・婦人科医・皮膚科医などが病理診断に従事している例も散見されていたが、病理診断科の標榜診療科入りや医療施設機能評価制度の浸透に伴い、現在では病理専門医による病理診断がほとんどとなっている。
「病理専門医」も参照
病理診断は患者さんから採取された細胞、組織、臓器を病理医等が観察して行う医行為である。血液や尿などの一般検体とは異なり病理検体は病変部そのものを含むことが普通である。日常の病理診断において信頼性(reliability)を高めるためにさまざまな方法が開発され、実施されている。検体検査としての精度管理、診断を行う病理医の技能向上、さらには医療施設部門としての病理診断科の機能向上などが病理診断信頼性向上の方法となっている[6]。
病理診断は臨床検査のひとつである。病理検体の提出・受領、病理標本作製、報告サイクルなどの工程について精度管理がなされる。精度管理はTQM(total quality management)やTQC(total quality control)とも呼ばれ工業生産品としての管理手法が病理診断、特に標本作製部分に応用されている。たとえばISO15189は臨床検査室の品質や能力を規定し評価するものである[7]。
病変部について病理診断が正確である(見立てが正しい,accurate)ことが患者にとってもっとも重要である。病理診断は専門性の高い医行為であるため、通常は病理専門医や細胞診専門医が行う。血液を分析し特定の成分を測定する検体検査とは異なり、病理診断はある程度は主観的にならざるを得ない。同一検体または同一病変について再現性(reproducibility)がなければ、その病理診断が正確であるとは言いにくい。
電子顕微鏡を用いたり、最近は免疫組織染色や遺伝子解析を組み合わせた特殊病理診断も実施されており、診断精度向上とともに、病理診断はより効果のある治療法選択などに直接的に関わる機会が増えている。
病変によっては複数病理医が協議して診断(consensus diagnosis)したり、当該病変についての研究者に照会する(expert diagnosis, 外部コンサルティングともいう)ことが行われる。担当する病理医にとって病理診断が難解な症例[8]である。診断を担当する病理医にとって初めて見る病変、非常に珍しい症例、顕微鏡像が定型的ではない場合などである。
病理診断は患者にとっては確定診断であり、最終診断である。病変部検査のうえ採取又は切除した臨床医と病理医が充分な連携をとり、病理診断について両者のコンセンサスが取れていることが不可欠である。多くの施設では臨床医と病理医、ときに関連医療従事者も参加してカンファランス(臨床病理検討会、手術症例検討会)が行われている。
「臨床病理検討会」も参照
病理医も地方と都市の分布差が著しいが、病理医不在地域や病理医不在施設について提携した病理診断科や契約病理医が遠隔地から術中迅速病理診断(遠隔病理診断)を実施することも行われている。一種の地域医療連携である。なおテレパソロジー機器を用いて、病理医が自宅みなし診療所や病理診断科診療所から病理診断を行うことなども研究されているが、テレパソロジーのみでの対応では不十分とされる。
病理診断におけるファースト・オピニオンは病理診断を行った病理医に病理診断について患者さんが説明を受けることを指している。また病理診断科が他施設からのセカンドオピニオンの求めに対応する場合があり、患者さんが持参してきた病理標本を病理医が観察し専門家としての意見等を述べる。病理医が患者さんに直接面談することはほとんど無かったが、病理診断科が標榜診療科(2008年4月から)になり患者が病理医と面談できるようになったこと自体が病理診断の信頼性を高めるように働いている。
病理組織診断では、症例の解析や調査研究が進むにつれ、診断基準が見直されることがある。生検法などでは組織診断分類方法が刷新されていく。
たとえば胃癌取扱い規約では、第14版(2010年3月発行)になり胃生検組織診断分類(Group分類)が大幅に変更された。Group分類の数値は第13版ではアラビヤ数字であったが、第14版ではローマ数字になった。
数字の意味について、たとえば、次のように変更がなされている。変更がなかったのはGroupⅤ「癌」とGroup5「癌」である。
胃生検材料について作製された病理標本を病理医が診断するとき、たとえば、第13版でGroupⅢやⅣとしていた病変部病理組織像は、第14版ではGroup2に分類されることがある。したがってGroup分類の数字だけでは意味が異なることがあるので、臨床医や説明を受ける患者は分類基準を知ったうえで理解する必要がある。なおご自身の病理診断についてはそれぞれの医療機関にご相談ください。
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