炭酸ガスナルコーシス : 約 5,060 件 CO2ナルコーシス : 約 2,700 件 二酸化炭素ナルコーシス : 31 件
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呼吸不全 | |
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分類および外部参照情報 | |
診療科・ 学術分野 | 呼吸器学 |
ICD-10 | J96 |
ICD-9-CM | 518.81 |
DiseasesDB | 6623 |
eMedicine | med/2011 |
MeSH | D012131 |
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呼吸不全(こきゅうふぜん、respiratory failure)とは、「動脈血ガスが異常な値を示し、それがために生体が正常な機能を営みえない状態」と定義され、室内気吸入時の動脈血酸素分圧(PaO2)が60Torr以下となる呼吸器系の機能障害、またはそれに相当する異常状態を指し、これを呼吸不全と診断する(厚生省特定疾患「呼吸不全」調査研究班昭和56年度報告書)。
呼吸器障害が存在し、室内気吸入下の動脈血ガスが測定出来なくとも中心性チアノーゼが認められるときや、動脈血酸素飽和度(SaO2)の値から呼吸不全と診断して差しつかえない。PaO2 60Torrは、ほぼSaO290%に相当する。
呼吸不全はさらに動脈血炭酸ガス分圧(PaCO2)の程度により、下記に分類される。
I型呼吸不全………PaCO2が45Torr以下
II型呼吸不全…… PaCO2が45Torrを超えるもの
なお、準呼吸不全はPaO2が60Torrを超え,70Torr以下をいう。
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ヘモグロビンの酸素乖離曲線の傾きが、PaO2が60Torr の時点から急峻になるためと、多くの教科書に記載されているが間違いである。 乖離曲線の形は一見そのように見える。しかし、乖離曲線が急峻になるPaO2 の値を計算で求めると、その値は30〜40Torrであり、60Torr ではない。
それでは、なぜ60Torrなのであるかを、組織への酸素供給からその理由を示す。組織への入り口がPaO2で出口が静脈血酸素分圧(PvO2)とすると、低酸素血症が引き起こされPaO2が低下し、組織の出口であるPvO2も一緒に低下すると、組織への血流量が同じであればその組織で使われる酸素消費量は低酸素血症のおこる前と同じである。しかし、組織の出口のPvO2が低下するとその周囲の組織は酸素不足に陥る。血管から遠い細胞ほど酸素欠乏に陥る。そのため、生体ではPaO2が低下してもある値まではPvO2は低下しない。その値がPaO2=60Torrである。
この研究はCOPD患者を対象にしたものであるが、肺動脈性肺高血圧症(原発性肺高血圧症)では、PaO2 80TorrからPvO2が低下すると言われている(在宅酸素療法の適用疾患に、「低酸素血症の有無に関係なく肺高血圧症」がある)。
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1)換気血流比不均衡(VA/Q ミスマッチ)
肺胞とそこでガス交換を行う血流を一つのガス交換単位とすると、換気と血流の比率はガス交換にかかわってくる。つまり、換気が多すぎて血流が少ない所では同部のPaO2は肺胞気酸素分圧に近づく。しかし換気は余分になる。これを死腔効果と言う。一方、逆に換気が少なく、血流が多すぎてもPaO2はPvO2に近くなる。これは生理学的シャント効果と言う。VA/Qのバランスがとれた肺胞が多いとPaO2は改善する。健常人では0.8くらいである。通常異なるVA/QによるPaO2とPaCO2との関係はO2-CO2ダイグラムにより示される。すなわち、high VA/Qの肺胞ではPaO2は正常であるが、low VA/Qの肺胞ではPaO2は低下する。PaCO2は肺胞換気の影響を受けるため、high VA/Q では低下する。正常肺では重力による肺循環の影響のため、立位では肺底部ほどVA/Qは低下する。
一方、疾患肺では種々の因子によりVA/Qの不均衡分布が引き起こされる。慢性閉塞性肺疾患患者では肺胞低換気とともにVA/Qの不均衡分布異常が低酸素血症の重要な要因である。CO2は溶解速度が酸素の約25倍であるため、VA/Qが0.8より小さくなってもPaCO2はあまり変化しない。一方0.8より大きくなるとPaCO2は低下する。
2)右→左シャント(解剖学的シャントと生理学的シャント)
解剖学的シャントは肺動静脈瘻、先天性心室中隔欠損症や心房中隔欠損症で静脈血が動脈血に混入することをいう。一方、生理学的シャントはVA/Qが0の肺胞を流れる血流をしめす。シャント率の測定は100%酸素を20分間吸入させた状態でPaO2を測定し、Fickの原理より求められる。
シャント率が高いと、酸素吸入してもPaO2は上昇しない。
3)拡散障害
肺胞気の酸素は肺胞腔から毛細血管内赤血球内ヘモグロビンまでを肺胞上皮細胞、間質、毛細血管内皮細胞、血漿を通過する。この現象を拡散という。この過程の障害は低酸素血症の原因となる。なお、CO2の拡散能力は酸素の約20倍であり、拡散障害は問題とならない。
この拡散の過程は、肺拡散能力として測定される。これには低濃度CO (0.1〜0.3%)を吸入させ、1分間に肺毛細血管を通って拡散するCO量(ml/min)/平均肺胞気CO分圧(Torr) で肺拡散能(DLCO)を求める。
この計算はあくまで肺を単一モデルと仮定しているため、DLCOはVA/Qミスマッチの影響を受ける。
下記の肺胞式から説明される。 つまり PaCO2 = 0.863 x VCO2/VA ------- (1)
ここでVCO2はCO2産生量、VA(VドットA)は肺胞換気量を示す。
PAO2 = 150 - PaCO2/0.8 ------------ (2)
ここで PAO2は肺胞気酸素分圧をしめし、肺胞気CO2分圧はPaCO2に等しい。
つまり、肺胞低換気が存在すると (1)式よりPaCO2は上昇し、その結果(2)式で示されるようにPAO2は低下しPaO2の低下につながる。
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急性の経過でおこった呼吸不全と理解されるが、明確な期間の定義はない。急性呼吸不全は単に時間的経過を意味するだけでなく,その病態は刻々と変化し、迅速な対応が要求される異常状態と理解しなければいけない。
呼吸不全の状態が少なくとも1ヶ月以上持続するものをいう。
1)呼吸筋疲労
呼吸筋疲労は、呼吸筋に対するエネルギー供給と呼吸仕事量のバランスで決まり,(1)呼吸筋に対する血流量の低下(心不全,低酸素血症),(2)低栄養状態,(3)肺気量増加による横隔膜低位のための横隔膜筋換気効率の低下,(4)肺の弾性および粘性抵抗増大による呼吸筋仕事量の増加、などで引き起こされる。
呼吸器疾患に伴う呼吸筋疲労では、頻呼吸となり1回換気量は減少する。また,横隔膜筋疲労により吸気時に腹部が陥凹する奇異呼吸が出現する。進行すると肺胞低換気になり,高炭酸ガス血症を伴う低酸素血症を起こし,CO2ナルコーシスに陥る。COPD患者では吸気筋疲労だけでなく呼気筋疲労も同時に存在するため,呼気筋である腹直筋を硬くふれる。
2)肺循環障害
慢性呼吸不全患者は高率に肺高血圧症を合併する。低酸素血症の程度と相関があり,慢性呼吸不全に陥ったCOPD患者の約90%は平均肺動脈圧が20Torrを超える。肺高血圧症の合併は予後不良因子の1つである。肺高血圧症の原因として疾患自体による肺血管の構築の破壊と低酸素性肺血管収縮の関与が大きい。肺高血圧症が持続すると右心肥大と右心不全を伴う肺性心と呼ばれる状態になる。臨床所見は頻脈,不整脈,頸静脈怒張,肝腫大,腹水を認める。胸部X線写真で肺動脈拡大,特に右肺動脈下行枝径が15mm以上の場合は肺高血圧症の合併を疑う。心電図は、右室肥大を伴ったときはV1の高いR波や右脚ブロックを呈する。肺性p (II,III,aVFの0.25mV以上の先の尖ったp波)を認めることが多いが,COPDの場合は横隔膜低位と滴状心により、右房の回転によるp波の軸偏位のためで,肺高血圧症の診断根拠としては乏しい。
左心機能については,基礎疾患により異なるが,COPD患者の10〜46%に左心不全が合併することが報告されている。
3)中枢神経障害
慢性呼吸不全患者ではうつ状態や不安状態を呈することが多い。しかし,臨床で早急な対応が要求されるのは,慢性呼吸不全患者が感染等を契機に急性増悪した場合に起こる中枢神経障害である。高度の低酸素血症や高炭酸ガス血症の結果引き起こされた意識障害を肺性脳症といい,高炭酸ガス血症による場合はCO2ナルコーシスという。
CO2ナルコーシスは炭酸ガスの脳への直接作用ではなく,脳組織内のpHの低下によるものである。したがって,慢性のII型呼吸不全で腎の代償が十分されpHがほぼ正常に保たれているときはPaCO2が高値でもCO2ナルコーシスは起こらない。
症状は頭痛,振戦,痙攣,嗜眠で低酸素血症に高炭酸ガス血症を伴う場合に多い。頭痛,振戦は早期症状として重要である。
その他,使用薬剤による副作用としての精神・神経異常にも注意する。
4)消化管障害
呼吸不全患者には胃潰瘍の合併が多い。COPD患者の約30%にみられる。低酸素血症による胃酸分泌の亢進,胃粘膜血流の低下,ヒスタミン濃度の上昇などにより胃粘膜障害が起こる。
5)肝機能障害
低酸素血症単独による肝障害はむしろ少なく,肺性心を合併した場合に出現しやすい。
肝臓への酸素供給は肝動脈と低圧系の門脈を介して行われている。右心不全により中心静脈圧が上昇すると門脈を介した肝臓への灌流圧は低下する。そのため肝臓への酸素供給量は低下し,低酸素血症も加わり肝細胞障害が引き起こされる。中心静脈圧上昇により洞様血管(sinusoid)が拡大され,周囲の肝細胞が物理的に圧迫されることも肝障害を増悪させる要因になる。
6)腎障害
腎臓は低酸素に対し比較的抵抗性があるが,呼吸不全の約15%に乏尿,高尿素窒素血症,血清クレアチニンの上昇がみられる。
7)血液異常
高地住民では慢性低酸素血症の結果,代償性の多血症を呈する。しかし,呼吸器疾患に基づく慢性呼吸不全では多血症は少なく,むしろ貧血のほうが多い。
基礎疾患に対する治療を継続するとともに,以下の治療を行う。
1) 酸素療法
酸素療法の目的は、低酸素血症を改善し、組織への酸素供給を改善させるだけでなく、低酸素血症への代償作用として亢進した換気量や心拍数をもとへ戻すことで、その肺と心臓の増加した仕事量を減らす。また、肺循環における低酸素性肺血管攣縮を防止して肺高血圧症を予防する。
(1)酸素吸入を開始するPaO2
PaO2が60Torr以下になったとき,酸素吸入を開始する。しかし,急性の低酸素血症や,低酸素血症に貧血や心疾患を合併している患者に対しては,PaO2が60 Torr以上でも酸素吸入を開始する。
低酸素血症がなくても呼吸困難を訴える患者や、逆に、低酸素血症があっても呼吸困難を自覚しない患者もいる。
呼吸困難を訴えても、動脈血ガス分析あるいはSpO2測定で低酸素血症を確認してから酸素吸入を行う。
呼吸困難≠低酸素血症≠酸素吸入は留意すべき。
※呼吸困難は「4. 呼吸困難」を参照のこと
(2)酸素吸入後のPaO2
目標値は、慢性呼吸不全患者のPaO2は少なくとも60Torr以上を目指す。
PaO2を60Torr以上にしても,酸素化ヘモグロビンの酸素解離曲線から明らかなようにSaO2の上昇はわずかである。言い換えると,動脈血酸素含量の増加はわずかである。
なお、酸素吸入から動脈血採血までの時間は15〜30分は必要で、PaO2だけでなく、PaCO2上昇の有無のチェックが重要。
II型呼吸不全の患者に対して,はじめから高濃度の酸素を吸入させると換気抑制が起こり,PaCO2が上昇,CO2ナルコーシスに陥る危険がある。そのため,はじめは低濃度の酸素から吸入させる。 PaCO2が高くても腎の代償でpHが比較的よく保たれている場合は人工呼吸器などでPaCO2を正常域にもどす必要はない。しかし、急激に起こった高度のII型呼吸不全では人工呼吸器を装着する。なお、最近は非侵襲的人工呼吸(non-invasive positive pressure ventilation;NPPV)が普及しその有効性が報告されている。
(3)高濃度酸素吸入による肺障害(酸素中毒)
動物実験では,100%の酸素に数日間曝露されると致死的肺障害が引き起こされる。人においても,100%酸素24時間吸入は肺コンプライアンスの低下,肺胞気・動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)の開大,肺血管透過性亢進などが出現する。障害の程度には個体差があるが,吸入酸素濃度(吸入気の酸素分圧)と吸入時間に比例して肺障害の程度は増強する。したがって、吸入酸素濃度は可能な限り60%以下(可能なら50%以下)にするよう治療する。
2) 在宅酸素療法
在宅酸素療法は1985年にはじめて保険適用が認められた。その後,適用基準の改訂が行われ,現在に至っている。酸素供給装置は酸素濃縮器と液化酸素が使われている。患者の年齢,体力,日常生活の活動範囲,家庭環境などを考慮して選択する。
3) 呼吸リハビリテーション
呼吸リハビリテーションは体動に伴う呼吸困難を軽減させ,運動耐容能を向上させる。さらに,QOLの向上だけでなく,不安や抑うつ状態など心理社会的症状を改善させることが報告されている。しかし,リハビリテーションを中断するとその効果は元へ戻るため,継続することが大切である。
基本は運動療法で、1日に決められた負荷量以上の運動を週3回以上行う。
4) 栄養管理
慢性呼吸不全患者では低栄養を伴うことが多い。低栄養が予後不良因子の1つであることから,その対策を行う。
5) 感染予防
慢性呼吸不全患者の多くは感染を契機に増悪し,入院加療が必要となる。特に,感染によって悪化した呼吸機能は感染が治癒しても感染前の状態に戻らない。帰宅後の手洗いや,うがいの励行,インフルエンザが流行している時期の外出を控えさせる。インフルエンザワクチン接種は毎年薦める。
肺炎球菌ワクチンも有効で、初回接種から5年以上経過した場合、再接種可能である。
厚生省特定疾患「呼吸不全」調査研究班の共同研究によると、慢性呼吸不全で在宅酸素療法を受けている患者の基礎疾患別の予後は,肺癌患者は当然予後不良である(5年生存率6.6%)。ついで,間質性肺炎(21.2%),慢性肺気腫(41.7%),慢性気管支炎(45.5%),肺結核後遺症(52.4%)の順である。
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呼吸に伴う不快な感覚であり,呼吸器疾患だけでなく,循環器疾患(種々の疾患による心不全),神経筋疾患(筋ジストロフィ,ギラン・バレー症候群),精神神経疾患(神経症,過換気症候群)にもみられ,複数の診療科にまたがる愁訴である.また,その感じ方(訴え方)も,息が吸い足りない,息がつまる,ぜいぜいする感じなど,患者により,あるいは原因疾患により異なる.
いくつかの説があるがいまだ解明されていない.なかでも呼吸中枢から呼吸運動神経への出力情報が同時に上位感覚中枢に投射され,大脳皮質感覚野で呼吸困難を認識するとしたmotor command theory が有力であるが,この機序ですべてを説明することは出来ない.
日本では日常生活動作に伴う息切れの評価法としてFletcher、Hugh-Jones分類が使われていたが,現在は修正MRC(Medical Research Council)分類が一般的である.
Visual analogue scale やBorg scale, あるいは修正Borg scaleは息切れの程度を数値化することができるので,治療前後の呼吸困難の評価に有用である.しかし,負荷量が異なるとそのときの呼吸困難を比較することは困難である.標準化する目的で呼吸困難スコアを歩行距離や酸素消費量で除した値などが使われている.
循環器の分野ではBorg scale (6-20)が、呼吸器の分野では修正Borg scale (0-10)が使われている。
呼吸困難対策:酸素療法,呼吸リハビリテーション,吸入療法,肺容量縮小術(肺気腫に対して)などがある.
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