この項目では、物理学上の半減期について説明しています。薬学上の半減期については「半減期 (薬学)」をご覧ください。
放射性元素が減少していく様子のシミュレーション結果。上の数値は半減期の何倍の時間が経過したかを示す。左図では最初に1ブロックあたり4個、右図では1ブロックあたり400個の原子が含まれる
半減期 (はんげんき、half-life )とは、ある放射性同位体が、放射性崩壊によってその内の半分が別の核種に変化するまでにかかる時間を言う[注釈 1] 。
概要
放射能を持つ元素(放射性同位体[注釈 2] )の原子核はいずれ放射性崩壊をして他の元素に変化していくが、その崩壊は一定時間の間に一定の確率で起こる。はじめの原子数が N 個であるとき、その半分 N /2 個が放射性崩壊するまでの時間をその放射性同位体の半減期 (half-life) と呼ぶ。または、ある放射性同位体の放射能 (activity) を A [Bq] とするとき、それが時間経過によって半分 A /2 [Bq] になるまでの時間を言う(同値性については後述)[注釈 3] 。
半減期は放射性同位体(核種)の安定度を示す値でもあり、半減期が長ければ安定であり、逆に半減期が短ければ短いほど不安定な核種ということになる[注釈 4] 。
放射性同位体の放射性崩壊は自然に発生するもので、放射性同位体ごとに定まる確率(崩壊定数)のみによって左右されるものである[注釈 5] 。すなわち、崩壊までの期間はその物質の置かれている古典物理学的・化学的環境(熱・電磁場・化学反応など)には一切依存しない[注釈 6] 。もともと原子力は放射性物質の半減期を短くすれば、放射性物質の崩壊エネルギーをより短期間に取り出せるだろうということで半減期を短くする研究が行われたが古典物理学的な手法によるものはことごとく失敗した[注釈 7] 。
人工的に原子核の崩壊を起こすには加速器などを用いなくてはならない[4] 。また、人工的に原子核の崩壊を起こして、半減期よりも早く放射性核子を減らす手法としては核変換技術と呼ばれる技術が研究されている。
「 加速器 」および「 核変換 」も参照
なお、一つの放射性核種を対象として、その放射性核種がいつ崩壊するかを決定論的に予想することも出来ない[注釈 8] 。
半減期の利用
詳細は「 放射性炭素年代測定 」を参照
半減期 (half-life) の計算法
ある特定の放射性同位体の個数、放射能の時間変化は以下のように計算される。統計学的には、核崩壊する確率は指数分布を用いて表すことができる。ただし、以下は一次反応のみであり、娘核種も放射能を持ち時間変化により親・娘量核種の総放射能を求めるといった場合を考慮していない。その場合は連立微分方程式を立てて解かねばならない。なお、これらの半減期の長さによって任意の時間が経過したときの放射能の強さは放射平衡によって論じられる。
放射性同位体の原子数の時間的変化
放射性同位体の時間経過にともなう原子数の変化は微分方程式として記述することができる。放射性同位体の種類によって固有の崩壊定数を持つが、いま原子数の時間的変化をもとめたい放射性同位体の崩壊定数を λ とする。なお、t =0 のときのその放射性同位体の原子数を N 0 とする。
時刻 t における原子数を N (t ) は微分方程式
d
N
d
t
=
−
λ
N
(
t
)
{\displaystyle {\frac {\mathrm {d} N}{\mathrm {d} t}}=-\lambda N(t)}
に従う。この解は初期条件 N (0) = N 0 から、
N
(
t
)
=
N
0
e
−
λ
t
{\displaystyle N(t)=N_{0}e^{-\lambda t}}
となる。これが、崩壊定数 λ をもつ放射性同位体の時間経過にともなう原子数の変化を表す式である。
半減期 (half-life)
はじめに1ベクレルあった放射性物質がどれだけの速さで減衰するのか表したグラフ。放射能(単位はベクレルなど)も指数関数的に減衰する。崩壊定数は半減期に反比例するため、崩壊定数が大きい(=半減期が短い)ほど早く減衰していることがわかるだろう。グラフで上の線ほど崩壊定数が小さいため減衰していないが一番下では凄まじい速さで減衰しているのがわかる。ここでy軸が放射能(単位:ベクレル)、x軸は時間の単位を秒ととった場合半減期は有効数字3桁で上から17.3秒、3.47秒、0.693秒、0.139秒、0.0277秒である。
崩壊定数 λ から半減期を求める計算式を導出する。
いま、崩壊定数 λ を持つ放射性同位体の半減期を t 1/2 とする。t =0 のときその放射性同位体は前節同様 N (0) = N 0 個あるとし、半減期 t 1/2 の定義から、
N
(
t
1
/
2
)
=
N
0
/
2
{\displaystyle N(t_{1/2})=N_{0}/2}
が成り立つ。
N
(
t
1
/
2
)
=
N
0
exp
(
−
λ
t
1
/
2
)
{\displaystyle N(t_{1/2})=N_{0}\exp(-\lambda t_{1/2})}
から、
t
1
/
2
=
ln
(
2
)
/
λ
≈
0.693
/
λ
{\displaystyle t_{1/2}=\ln(2)/\lambda \approx 0.693/\lambda }
である[注釈 9] 。
放射崩壊において半減期と崩壊定数は核種に固有な値をとるので、半減期または崩壊定数の測定・推定値から核種を推定できる。また、物質の流出入が閉じた系(化石、火成岩など)では放射能の減衰度合いと半減期から逆算して年代測定に用いられる。
放射能 (activity)
ある放射性同位体が単位時間あたりに崩壊する個数 [個/秒]をその放射性同位体の放射能 (activity) と呼ぶ。放射能の単位はベクレル(記号:Bq)である。放射能を A (t ) は以下のように定義される。
A
(
t
)
=
|
d
N
d
t
|
{\displaystyle A(t)=\left|{\frac {dN}{dt}}\right|}
前節のように原子数の時間変化の式を考慮すれば、
A
(
t
)
=
λ
N
(
t
)
=
λ
N
(
0
)
e
−
λ
t
{\displaystyle A(t)=\lambda N(t)=\lambda N(0)\mathrm {e} ^{-\lambda t}}
と表すこともできる。式からわかるように、放射能は放射性同位体の原子数に比例する。このことから、半減期を放射能が半減するまでにかかる時間と定義しても同値であることがわかる。
崩壊定数が不明な放射性同位体が存在すれば、単純に放射能(ベクレル数)の減衰を測定し、その結果から半分になる時間を計算すれば半減期(さらには崩壊定数)を求めることができる。なお、半減期を基に 1/2 だけではなく 1/4、1/8 になる時間も算出できる[注釈 10] 。
生物学的半減期と実効半減期
元素にもよるが、放射性物質を体内に取り込んだ場合、時間が経つにつれ放射性物質は代謝によって体外に排出されてゆく。そこで、体内にある放射性物質の量が代謝により半分にまで減少するときの時間を生物学的半減期 (biological half-life) と言う。
生物学的半減期は物理学的半減期とはメカニズムとして全く別のものであるため、代謝によって放射性同位体が排出されるとともに放射性同位体の放射性崩壊を起こすによっても体内の放射性物質の量は減少してゆく。この生物学的代謝と放射性崩壊による減少を合算して、実際に体内の放射性物質の量が半分になるまでの時間を実効半減期 (effective half-life) と呼ぶ。実効半減期 T e は、その逆数が生物学的半減期 T b の逆数と物理的半減期 T p の逆数との和となることから求める[5] 。
つまり、実効半減期 T e 、物理学的半減期 T p 及び生物学的半減期 T b は、
1
T
e
=
1
T
p
+
1
T
b
{\displaystyle {\frac {1}{T_{\mathrm {e} }}}={\frac {1}{T_{\mathrm {p} }}}+{\frac {1}{T_{\mathrm {b} }}}}
を満たす[注釈 11] 。
体内濃度の時間変化の数理
崩壊定数 λ の放射性物質が、単位時間あたりにQ ずつ増える系を考えれば、微分方程式
d
N
(
t
)
d
t
=
Q
−
λ
N
(
t
)
{\displaystyle {\frac {dN(t)}{dt}}=Q-\lambda {N(t)}}
で与えられる[6] 。
この解は、
N
(
t
)
=
Q
λ
(
1
−
e
−
λ
t
)
{\displaystyle N(t)={\frac {Q}{\lambda }}(1-e^{-\lambda {t}})}
である[注釈 12] 。
この式は単位時間あたりにQ ベクレル摂取し(単位時間あたりの一定量増加)、壊変による減衰を無視し、生物学的半減期による減衰(崩壊定数は生物学的半減期のものを用いる)を考えれば一定量の放射性物質を毎日摂取し続けた場合の体内濃度が計算できることは明らかであろう[注釈 13] 。
崩壊系列 (decay series) と放射平衡 (radioactive equilibrium)
ウラン235とその娘核種であるアクチニウム崩壊系列の図。ここで安定同位体である鉛207になるまでさまざまな核種を経由して崩壊していく
放射性崩壊において、崩壊する元の核種を親核種 (parent nuclide) と呼び、崩壊によって生成された核種を娘核種 (daughter nuclide) と呼ぶ。核種が放射線を出さない安定した核種であるとは限らない。ウラニウム、プルトニウム、トリウムなどの核種は、崩壊しても安定同位体とはならず、崩壊系列を成す。
逐次崩壊の数理
過渡平衡 (上)と
永続平衡 (下)
1.過渡平衡の親核種 2.過渡平衡の娘核種 3.永続平衡の親核種 4.永続平衡の娘核種
娘核種も放射能を持つとき、放射性物質の放射能の減衰は単純な時間的な指数関数的減少とは異なり、親核種と娘核種に関する連立微分方程式を立てなくてはならない。一般に、娘核種の半減期が親核種の半減期よりも長い場合、時間とともに親核種が崩壊してゆくため、娘核種のみが残ることになる。また逆に、娘核種の半減期が親核種よりも短い場合、放射性平衡 (radioactive equilibrium) と呼ばれる平衡状態が成立する[7] 。放射性平衡が成り立つときは単純な結果を得ることができる。
たとえば放射性物質Aが崩壊してB、Bも放射性物質であり、これが崩壊してCになりこれは安定核であったとすれば、それらの任意の時刻t における量は連立微分方程式
d
N
A
d
t
=
−
λ
A
N
A
d
N
B
d
t
=
λ
A
N
A
−
λ
B
N
B
d
N
C
d
t
=
λ
B
N
B
−
λ
C
N
C
{\displaystyle {\begin{aligned}{\frac {dN_{\mathrm {A} }}{dt}}&=-\lambda _{\mathrm {A} }N_{\mathrm {A} }\\{\frac {dN_{\mathrm {B} }}{dt}}&=\lambda _{\mathrm {A} }N_{\mathrm {A} }-\lambda _{\mathrm {B} }N_{\mathrm {B} }\\{\frac {dN_{\mathrm {C} }}{dt}}&=\lambda _{\mathrm {B} }N_{\mathrm {B} }-\lambda _{\mathrm {C} }N_{\mathrm {C} }\end{aligned}}}
によって表される[8] 。これを逐次崩壊という[9] 。容易に拡張されるように、プルトニウムなどの3つ以上の崩壊系列をなす核種ではn 番目の放射能の量は
d
N
n
d
t
=
λ
n
−
1
N
n
−
1
−
λ
n
N
n
{\displaystyle {\frac {dN_{n}}{dt}}=\lambda _{n-1}{N_{n-1}}-\lambda _{n}{N_{n}}}
で与えられることが推測できるが、ここではおもに三段階の崩壊の場合についてのみ述べる。ここでAのみがあった状態で初期条件 t = 0 を与えれば明らかに、Aの量がそのまま初期値であり、2番目以降はゼロであることは明らかである。Aの初期値をN0 とおけばそれぞれの任意の時刻の放射能は
N
A
(
t
)
=
N
0
e
−
λ
A
t
N
B
(
t
)
=
N
0
λ
A
e
−
λ
A
t
−
e
−
λ
B
t
λ
B
−
λ
A
N
C
(
t
)
=
N
0
λ
A
λ
B
(
e
−
λ
A
t
(
λ
B
−
λ
A
)
(
λ
C
−
λ
A
)
−
e
−
λ
B
t
(
λ
B
−
λ
A
)
(
λ
C
−
λ
B
)
+
e
−
λ
C
t
(
λ
A
−
λ
C
)
(
λ
B
−
λ
C
)
)
{\displaystyle {\begin{aligned}N_{\mathrm {A} }(t)&=N_{0}e^{-\lambda _{\mathrm {A} }t}\\N_{\mathrm {B} }(t)&=N_{0}\lambda _{\mathrm {A} }{\frac {e^{-\lambda _{\mathrm {A} }t}-e^{-\lambda _{\mathrm {B} }t}}{\lambda _{\mathrm {B} }-\lambda _{\mathrm {A} }}}\\N_{\mathrm {C} }(t)&=N_{0}\lambda _{\mathrm {A} }\lambda _{\mathrm {B} }\left({\frac {e^{-\lambda _{\mathrm {A} }t}}{(\lambda _{\mathrm {B} }-\lambda _{\mathrm {A} })(\lambda _{\mathrm {C} }-\lambda _{\mathrm {A} })}}-{\frac {e^{-\lambda _{\mathrm {B} }t}}{(\lambda _{\mathrm {B} }-\lambda _{\mathrm {A} })(\lambda _{\mathrm {C} }-\lambda _{\mathrm {B} })}}+{\frac {e^{-\lambda _{\mathrm {C} }t}}{(\lambda _{\mathrm {A} }-\lambda _{\mathrm {C} })(\lambda _{\mathrm {B} }-\lambda _{\mathrm {C} })}}\right)\end{aligned}}}
で与えられる。ここで、Aは単調減少であり、B、C等は最初は増加するものの平衡に達すると減少へと転ずる。AよりBの崩壊定数が大きい(λ A < λ B )とき、十分大きな時間 t が経過すれば
exp
(
−
λ
A
t
)
≫
exp
(
−
λ
B
t
)
{\displaystyle \exp({-\lambda _{\mathrm {A} }t})\gg \exp({-\lambda _{\mathrm {B} }t})}
すなわちBのほうが早く減少するため、
N
B
/
N
A
≪
1
{\displaystyle N_{\mathrm {B} }/N_{\mathrm {A} }\ll 1}
として
N
B
≈
N
0
λ
A
λ
B
−
λ
A
e
−
λ
A
t
{\displaystyle N_{\mathrm {B} }\approx {\frac {N_{0}\lambda _{\mathrm {A} }}{\lambda _{\mathrm {B} }-\lambda _{\mathrm {A} }}}e^{-\lambda _{\mathrm {A} }t}}
のように近似できるわけであるが、これこそが過度平衡である。さらに、Aの半減期が圧倒的に長く、λA ≪ λB といった状態では適当な時間が経過するならば
λ
A
N
A
=
λ
B
N
B
=
λ
C
N
C
=
⋯
{\displaystyle \lambda _{\mathrm {A} }N_{\mathrm {A} }=\lambda _{\mathrm {B} }N_{\mathrm {B} }=\lambda _{\mathrm {C} }N_{\mathrm {C} }=\dotsb }
と崩壊率が等しくなる。存在比は上記式より
N
A
:
N
B
:
N
C
:
⋯
=
1
/
λ
A
:
1
/
λ
B
:
1
/
λ
C
:
⋯
=
T
A
:
T
B
:
T
C
:
⋯
{\displaystyle N_{\mathrm {A} }:N_{\mathrm {B} }:N_{\mathrm {C} }:\dotsb =1/\lambda _{\mathrm {A} }:1/\lambda _{\mathrm {B} }:1/\lambda _{\mathrm {C} }:\dotsb =T_{\mathrm {A} }:T_{\mathrm {B} }:T_{\mathrm {C} }:\dotsb }
がただちに得られる。これを永年平衡[10] または永続平衡という。
崩壊が分岐する場合について
ある放射性物質が一定の確率で、n 個の別の核種(より正確には別の崩壊モードで崩壊することである)にそれぞれ崩壊する場合、全崩壊定数 λ (分岐を問わずに崩壊する確率)はi 番目に崩壊する崩壊定数を λi とすれば、
λ
=
∑
i
=
1
n
λ
i
=
λ
1
+
λ
2
+
⋯
+
λ
n
{\displaystyle \lambda =\sum _{i=1}^{n}\lambda _{i}=\lambda _{1}+\lambda _{2}+\dotsb +\lambda _{n}}
という関係が成り立つ[11] 。崩壊定数は半減期の逆数であるため
ln
(
2
)
T
1
/
2
=
λ
{\displaystyle {\frac {\ln(2)}{T_{1/2}}}=\lambda }
という関係が成立する。つまり、同じ核種が異なる半減期 ti や崩壊モードで複数の娘核種・状態に壊変する現象では上記式に代入することによって
1
T
=
ln
(
2
)
∑
i
=
1
n
1
t
i
=
ln
(
2
)
(
1
t
1
+
1
t
2
+
⋯
+
1
t
n
)
{\displaystyle {\frac {1}{T}}=\ln(2)\sum _{i=1}^{n}{\frac {1}{t_{i}}}=\ln(2)\left({\frac {1}{t_{1}}}+{\frac {1}{t_{2}}}+\dotsb +{\frac {1}{t_{n}}}\right)}
のような関係が得られる。ここで1/Tは全半減期である。これが崩壊定数の総和と同値であることは明らかであろう。また平均寿命については崩壊定数と逆数であるため、(どのような崩壊かを問わずに)崩壊する場合の平均寿命についてはその各々の平均寿命の逆数の総和が、前者について成立するということである。つまり
1
τ
=
∑
i
=
1
n
1
τ
i
=
1
τ
1
+
1
τ
2
+
⋯
+
1
τ
n
{\displaystyle {\frac {1}{\tau }}=\sum _{i=1}^{n}{\frac {1}{\tau _{i}}}={\frac {1}{\tau _{1}}}+{\frac {1}{\tau _{2}}}+\dotsb +{\frac {1}{\tau _{n}}}}
であり、
∑
i
=
1
n
1
τ
i
=
∑
i
=
1
n
λ
i
{\displaystyle \sum _{i=1}^{n}{\frac {1}{\tau _{i}}}=\sum _{i=1}^{n}\lambda _{i}}
という関係が成立するという意味である。
これを仮に全崩壊定数と名付け、ここで全崩壊定数を λ とおいたとき、各々の事象 λ 1 、λ 2 、... に崩壊する確率はそれぞれ λ 1 /λ 、λ 2 /λ 、... によって与えられ、これを分岐比と呼ぶ[12] 。
いろいろな物質の半減期の一覧
ここでは主要な放射性同位体の物理的半減期、生物学的半減期の一覧などを載せておく。各数値の出典は[1]に従ったが、半減期の有効数字は簡単のため1 - 2ケタとした。また、崩壊定数の時間の単位はすべて半減期に準ずる。崩壊定数は物理的半減期のものである。また体内から9割排出される期間とは、生物学的半減期から計算し、初期値から一切放射性物質を摂取せず、かつ壊変により減少することを無視したものである。詳細は参考文献や外部リンクにあるデータベースなども参照のこと。
核種名
核種名 (元素記号)
物理的半減期
崩壊定数
物理的に 10分の1に なる期間
生物学的半減期
体内から9割が 排出される期間 (崩壊は考慮しない)
有効半減期
トリチウム
3 H, T
12.3年
0.056
41年
12日
40日
12日
塩素38
38 Cl
37分
0.01873
2時間3.6分
N/A
N/A
N/A
コバルト58
58 Co
70.86日
0.00978
235.26日
N/A
N/A
N/A
コバルト60
60 Co
5.275年
0.1314
17.51年
10日
33.2日
9.9日
ヒ素74
74 As
17.77日
0.039
59日
N/A
N/A
N/A
ストロンチウム90
90 Sr
29年
0.0239
96年
49年
163年
18年
イットリウム91
91 Y
58.5日
0.0118
194.22日
N/A
N/A
N/A
モリブデン99
99 Mo
66時間
0.0105
219.12時間
N/A
N/A
N/A
テクネチウム99m
99m Tc
6時間
0.1155
19.92時間
N/A
N/A
N/A
テルル132
132 Te
77時間
0.009
255.64時間
N/A
N/A
N/A
ヨウ素131
131 I
8日
0.0866
26.5日
138日
458日
7.6日
ヨウ素132
132 I
2時間17分
0.005
7時間38.16分
N/A
N/A
N/A
ヨウ素133
133 I
20.8時間
0.0333
69.056時間
N/A
N/A
N/A
ヨウ素134
134 I
53分
0.013075
2時間2.84分
N/A
N/A
N/A
セシウム134
134 Cs
2年
0.346
6.63年
70日
232日
64日
セシウム136
136 Cs
13日
0.0533
43.16日
N/A
N/A
N/A
セシウム137
137 Cs
30年
0.0231
100年
70日
232日
70日
セリウム144
144 Ce
285日
0.00243
946.2日
N/A
N/A
N/A
バリウム140
140 Ba
12.75日
0.0543
42.33日
65日
215.8日
11日
ランタン140
140 La
40.3時間
0.0172
133.8時間
N/A
N/A
N/A
ラドン222
222 Rn
92時間
0.00753
305.44時間
N/A
N/A
N/A
ラジウム226
226 Ra
1600年
0.000433
5312年
44年
146.08年
43年
ウラン235
235 U
7億年
0.00000000099
23億年
15日
50日
15日
ウラン238
238 U
45億年
0.000000000154
150億年
15日
50日
15日
プルトニウム238
238 Pu
87.8年
0.00789
291.5年
N/A
N/A
N/A
プルトニウム239
239 Pu
24000年
0.0000289
80000年
200年
663年
198年
プルトニウム240
240 Pu
6561年
0.000105
21783年
N/A
N/A
N/A
プルトニウム241
241 Pu
14.3年
0.0485
47.5年
N/A
N/A
N/A
参考:完全な二足歩行が可能な原人が誕生したのは約200万年前
地球が誕生したのは約46億年前
脚注
注釈
^ 素粒子物理学においては、半減期ではなく平均寿命を用いることが一般的である。平均寿命は自然対数の底の逆数、すなわち約0.368...にまで減少する時間のことであり、半減期の
1
l
n
(
2
)
≃
1.443
{\displaystyle {\frac {1}{ln(2)}}\simeq 1.443}
倍に相当する。
^ 原子番号が同じで質量数の異なる元素を同位体(isotope、アイソトープ)という。さらに、放射線を放出して原子核が放射性崩壊する性質(放射能)をもつ同位元素は放射性同位体(radioisotope、ラジオアイソトープ)と呼ばれる。
^ 崩壊する量は放射性物質の量に比例する。例えば10万ベクレルの放射性物質があった場合には、半減期が経過すれば5万ベクレル減少するが、100ベクレルの放射性物質であれば、半減期が経過しても50ベクレルしか減らない。
半減期が経過するごとに、初期量の1/2,1/4,1/8・・・と指数関数的に放射性物質が減少していく。ただし、半減期は統計的な量であり、個々の原子の崩壊を予測することはできない。原子数がゼロに近づけば、大数の法則が成立せず確率ゆらぎも大きくなるため半減期による計算の精度も落ちる(上の図のシミュレーションも参考)。ただ、実用上放射性物質がほとんどなくなるまでの時間は、検出下限値に減少する時間として、計算が可能である。
^ 中性子、中間子などの素粒子も、放射性核種と同じように一定の半減期でより安定な素粒子に変わっていく。
^ 放射性崩壊は指数過程によって記述されるため無記憶過程であり、崩壊していく速度は物質の出入りがゼロであれば一定である。
^ これは理論的には、原子核の結合エネルギーが数千万eVと原子の結合エネルギーに比して極めて大きいため、原子核外部の物理現象では内部変化が起こらないためである[1] 。
^ 例えばラザフォードはラジウムに対して、
2500度、1000気圧の環境に置く
絶対零度近くの極低温、超高温の環境に置く
2000気圧に達する圧力をかける
8万3000ガウスの磁場をかける
地球引力の1000倍の遠心力をかける
などの古典物理学的実験を行ったが、ラジウムの半減期は一切変化しなかった[2] 。ただし、これは崩壊の速度を変化させることが原理的に絶対不可能という意味ではない。これらの作用が原子核の放射性崩壊に影響を及ぼしていないという結論が重要である[3] 。
^ この一つ一つの崩壊する時間間隔の確率は指数分布に従い、単位時間あたりの崩壊はポアソン分布になる。これはガイガーカウンターなどを用いて放射線を計測すると、単位時間あたり計測値がポアソン分布になり、放射線を計測すると音が鳴る機種であれば、その音の間隔が指数分布となる所以である。また指数分布の無記憶性により、ガイガーカウンターである期間放射線を計測しなくても、それから時間tが経過するまでに計数する期待値は変わらない。このように確率現象である放射性物質の崩壊であっても、十分大きな量の放射性同位体や素粒子などが崩壊する際に、いわゆる大数の法則として定式化されたものが半減期である。
^ 半減期 t1/2 は t1/2 = loge (2)/λ で計算することができるが、同様に n 分の 1 になる期間 t1/n は
t1/n = loge (n)/λ
で計算することができる。放射能の数値の桁が一桁小さくなる期間を算出するにあたって
t1/10 = loge (10)/λ
は重要である。例えばプルトニウム239の場合24000×3.3≒80000と約8万年でようやく一桁減少するということである。二桁減少するまでの期間は8万年の二倍の16万年、三桁であれば24万年と暗算で何桁減るのに何年かかるということが簡単に求めることができる。
なお、t1/10 半減期から算出できる。半減期 t1/2 は loge (2) であることから loge (10) = a×loge (2) となる係数 a は
a = loge (10)/loge (2) ≒ 2.3/0.693 ≒ 3.3
と半減期を約3.3倍すれば10分の1になる時間 t1/10 の近似値が得られることがわかる。
^
半減期と残留放射能計算早見表
半減期 t1/2 をもつ放射性同位体は半減期が経過するごとにその放射能は半分となる。例えば、半減期の3倍の時間が経過すれば放射能は 23 分の1(8分の1)となる。
次の表は半減期の1 - 5倍(整数値)が経過した時点での残留放射能を求めるための簡易表である。
例えば初期値が1万ベクレル (10,000[Bq]) で、半減期の5倍経過したときの放射能は
3.125/100 × 10000 = 312.5
と計算できる。すなわち、5×t1/2 [s] だけ経過すれば 10,000[Bq] は 312.5[Bq] まで減少することがわかる。
経過した時間(半減期の倍数)
残っている割合
百分率での表示
0
1/1
100%
1
1/2
50%
2
1/4
25%
3
1/8
12.5%
4
1/16
6.25%
5
1/32
3.125%
...
...
...
n
2-n
100/(2n )%
^ ここで生物学的半減期が物理的半減期に比べて十分長い場合(ヨウ素131の場合物理的半減期8日に対して生物学的半減期が138日であるため、このケースになる)、体内で壊変によって壊れるほうが多いのでほとんど排出されずに体内で崩壊し、被曝の影響が大きくなる。一方で、逆に生物学的半減期に対して物理的半減期が長い場合(これは生物学的半減期が70日程度のセシウムのケースである)、体内で壊変するよりも体外に排出される割合のほうが多くなる。あくまでこれは1度限り摂取した場合であって、継続的に摂取した場合は、1日あたりの摂取量が同じであるとすれば摂取量と排出量が平衡に達する程度までは濃縮する危険性がある。
この度合いは生物学的半減期が長いほど影響が大きい。このことから生物学的半減期が長い核種は短い核種よりも1日あたりの排出量が少ないため、ほとんど体外に排出されずに体内にたまっていき、したがって前者とくらべ多く濃縮されるため、なるべく摂取を避ける事が望ましい。また排出を促す薬には、生物学的半減期を短くする効果があると解釈できる。
^ (導出)
両辺に eλt を掛ければ
e
λ
t
d
N
(
t
)
d
t
+
λ
N
(
t
)
e
λ
t
=
Q
e
λ
t
{\displaystyle e^{\lambda {t}}{\frac {dN(t)}{dt}}+\lambda {N(t)e^{\lambda {t}}}=Qe^{\lambda {t}}}
であるが、合成微分律により
d
d
t
(
N
(
t
)
e
λ
t
)
=
Q
e
λ
t
{\displaystyle {\frac {d}{dt}}(N(t)e^{\lambda {t}})=Qe^{\lambda {t}}}
となる。これを積分すれば
N
(
t
)
e
λ
t
=
Q
λ
e
λ
t
+
C
{\displaystyle N(t)e^{\lambda {t}}={\frac {Q}{\lambda }}e^{\lambda {t}}+C}
となる。N について解いて
N
(
t
)
=
Q
λ
e
(
λ
t
−
λ
t
)
+
C
e
−
λ
t
=
Q
λ
+
C
e
−
λ
t
{\displaystyle N(t)={\frac {Q}{\lambda }}e^{(\lambda {t}-\lambda {t})}+Ce^{-\lambda {t}}={\frac {Q}{\lambda }}+Ce^{-\lambda {t}}}
ここで初期条件 t = 0 を考えれば、明らかに N = 0 であるから、初期値問題について解けば積分定数 C は
N
(
0
)
=
0
=
Q
λ
+
C
e
−
λ
×
0
{\displaystyle N(0)=0={\frac {Q}{\lambda }}+Ce^{-\lambda \times {0}}}
∴
C
=
−
Q
λ
{\displaystyle \therefore {C=-{\frac {Q}{\lambda }}}}
と定まる。つまり
N
(
t
)
=
Q
λ
(
1
−
e
−
λ
t
)
{\displaystyle N(t)={\frac {Q}{\lambda }}(1-e^{-\lambda {t}})}
である。
^
具体例
例えばセシウムの生物学的半減期を70日とすれば崩壊定数を日の単位で求めれば
λ
=
ln
(
2
)
70
≈
0.01
{\displaystyle \lambda ={\frac {\ln(2)}{70}}\approx {0.01}}
であり、1日あたり100ベクレル摂取したとすれば
100
0.01
(
1
−
e
−
0.01
t
)
≈
10000
(
1
−
e
−
0.01
t
)
{\displaystyle {\frac {100}{0.01}}(1-e^{-0.01{t}})\approx 10000(1-e^{-0.01{t}})}
でt日目の体内濃度が得られる。ここで 0 < λ < 1 であるから、
lim
t
→
∞
Q
λ
(
1
−
e
−
λ
t
)
=
Q
λ
{\displaystyle \lim _{t\rightarrow {\infty }}{\frac {Q}{\lambda }}(1-e^{-\lambda {t}})={\frac {Q}{\lambda }}}
である。これは体内濃度に上限がある事を示しており、セシウムの場合で計算すれば
Q
0.01
=
100
Q
{\displaystyle {\frac {Q}{0.01}}=100Q}
であり、1日あたり摂取量 Q の100倍に濃縮する。例えば100ベクレル摂取し続ければ10000ベクレル、500ベクレルで50000ベクレル体内に濃縮するわけである。
出典
^ ランダウ、アヒエゼール、リフシッツ(共著)『物理学ー力学から物性論までー』小野周・豊田博慈(訳)、岩波書店、1969年、108頁。ISBN 4-00-005911-4。
^ K・ホフマン『オットー・ハーン―科学者の義務と責任とは―』山崎正勝・小長谷大介・栗原岳史(訳)、シュプリンガー・ジャパン、2006年、32-33頁。 ISBN 4-431-71217-8。
^ E.シュポルスキー『原子物理学III』玉木英彦他(訳)、東京図書株式会社〈物理学選書〉、180,181頁。 ISBN 978-4-489-01103-0。
^ 熊谷 寛夫 (1959), 加速器,融合反応 , http://ci.nii.ac.jp/naid/110002070470
^ 福田覚 『放射線技師のための物理学三訂版』 東洋書店、1991年、170頁。ISBN 4-88595-309-X
^ 永江知文・永宮正治 『原子核物理学』 裳華房、2000年、43から44頁の例題4.1を参考。ISBN 4-7853-2094-X。
^ 草間(1995)
^ 真田順平 『原子核・放射線の基礎』 共立出版〈共立全書163〉、1966年、29 - 30頁。ISBN 4-320-00163-X
^ Graham Woam著、堤正義訳 『ケンブリッジ物理公式ハンドブック』、共立出版、2007年、101頁。ISBN 978-4-320-03452-5
^ 真田順平 『原子核・放射線の基礎』 共立出版〈共立全書163〉、1966年、30頁。ISBN 4-320-00163-X
^ 岩波理化学辞典第五版、1998年、ISBN 4-00-080090-6、項目「崩壊定数」より。
^ 物理学事典 . 講談社. (2009). p. 86. ISBN 978-4-06-257642-0
参考文献
長倉三郎ほか編集『理化学辞典』岩波書店、1998年2月。 ISBN 4-00-080090-6。
日本アイソトープ協会『アイソトープ手帳』丸善、2011年。 ISBN 978-4-890-73211-1。
真貝寿明『徹底攻略常微分方程式』共立出版、2010年、46頁。 ISBN 978-4-320-01934-8。
草間 朋子、甲斐 倫明、伴 信彦『放射線健康科学』杏林書院、1995年。
関連項目
ウィキデータには半減期のプロパティであるP2114 があります。(使用状況)
放射能
半減期順の放射性同位体の一覧
ベクレル
比放射能
平均寿命#素粒子・放射性同位体の平均寿命
崩壊定数
放射年代測定
放射平衡
崩壊系列
指数関数的減衰
指数関数
対数関数
倍加時間
外部リンク
The Lund/LBNL Nuclear Data Search(英語) 半減期などの放射性物質の詳細なデータが調べられるサイト。
Wolfram|Alpha - 核種名を英語(または元素記号)で入力すると半減期など簡単な性質を出力してくれる。
放射線(物理学と健康) 単位 測定 放射線の種類 物質との相互作用 放射線と健康
基本概念 放射線の利用
放射線源
放射線療法
レントゲン(X線撮影)
ポジトロン断層法 (PET)
コンピュータ断層撮影(CTスキャン)
後方散乱X線検査装置
食品照射
原子力電池
法律・資格
放射線管理区域
放射線管理手帳
放射線業務従事者
診療放射線技師
放射線取扱主任者
技術士原子力・放射線部門
原子炉主任技術者
核燃料取扱主任者
エックス線作業主任者
ガンマ線透過写真撮影作業主任者
日本の原子力関連法規
放射線と健康影響 放射能被害 関連人物 関連団体 関連用語、その他
放射線量
放射能
放射性物質
放射性降下物
放射線医学