出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2018/04/01 01:50:20」(JST)
時間生物学(じかんせいぶつがく、英:chronobiology)とは、生物に内在する生物時計(体内時計)を研究する学問分野である。 太陽や月が作り出す一日、一年、潮汐などに適応する サーカリズム(circa-rhythm)を主な研究対象にする。睡眠周期や、発生において数十分~数時間のリズムを刻む分節時計などの、ウルトラディアンリズム(ultradian rhythm)も時間生物学に含まれる。
心拍や神経パルスような生命活動にも周期性が認められ、また寿命も生物の持つ時計の一つであるが、これらは時間生物学ではほとんど扱われない。
概日リズムの歴史を参照。
生物の持つリズム(周期)を短い物から挙げる。
数十分から数時間の周期性を持つ生物の行動・生理現象である。睡眠周期や分節時計が知られている。
睡眠周期(すいみんしゅうき)とは人間の睡眠において観察されるレム睡眠・ノンレム睡眠の繰り返し周期をさす。約90分とされるが、個人差があり、同一人物でも日によって差がある。
分節時計(ぶんせつとけい)とは脊椎動物の発生において背骨など前後軸に沿った体節構造を作り出す際に見られる周期的な遺伝子発現を指す。周期長は種によって異なる。ゼブラフィッシュでは約30分、ニワトリでは約90分、マウス(ハツカネズミ)では約2時間、ヒトでは約8時間と報告されている。マウスでは遺伝子操作により分節時計遺伝子Hes7をなくしたり[1] 、安定性を変化させて周期の長さを変えると正常な体節形成が出来なくなる事が示されている [2]。
細胞分裂やNotchによるシグナル伝達を伴うなどサーカリズムとは大きく異なるが、負の転写因子 Hes7による転写フィードバックループという共通性もある。
概潮汐リズム(がいちょうせきりずむ)とは、海の約12.4時間の干満周期に同調するために生物が持つリズムである。海生生物、特に潮間帯、浅い海の生物には潮汐による海面の変化は大きな環境変化であり、約半日毎の干潮・満潮、に合わせた行動が多く知られている。
マングローブに住む昆虫(マングローブスズ, Apteronemobius asahinai)は、恒常条件でも12.4時間の概潮汐リズムを維持できることが報告されている[3] 。
なお、約一ヶ月毎の大潮・小潮の周期は月の朔望(新月・満月、29.5日)に依存するのでcircasyzygic rhythmと呼ばれ、概月リズムに近い。
概日リズムは約24時間周期で変動する生理現象であり、時間生物学研究の中心的な課題である。
恒常暗、恒常明など恒常条件で維持される活動・生理的リズムを「概日リズム」とよび、自然状態や24時間周期の明暗リズム環境下でのリズムは「日周リズム(diurnal rhythm)」と呼ばれるが、しばしば混同される。
詳しくは概日リズムの項を参照。
概月リズム(がいげつりずむ)は約一ヶ月周期で変動する生理現象である。現在のカレンダー(グレゴリオ暦)の「一ヶ月」は生物学的な意味は薄い。生物学的には月の朔望(新月・満月、29.5日)に依存するcircasyzygic rhythmが概月リズムに近いものである。
多くの海洋生物は大潮に合わせて産卵することが知られている。サンゴの一斉産卵では時計遺伝子であるクリプトクロムによる満月の認識が引き金になることが示されている[4]。
人間の月経周期が平均28日であることを概月リズムの例とする場合があるが、「満月の日に排卵する」ような周期とは異なり、月の朔望に支配された現象ではない。また、ほ乳類の種類によって生理周期は大きく異なり、マウスでは4日、犬猫は年1から2回の発情期にしか排卵が起こらないので「人間」に特有の概月リズムである。
概年リズム(がいねんりずむ)は約一年のリズムであり、光周性、季節性リズムに近い概念である。動物の冬眠や繁殖、植物の花芽形成や休眠などが知られている。
自発的な「概」(サーカ)リズムを示すためには恒常条件での観察が必要だが、必ずしも恒常条件でない場合でも概年リズムと呼ぶ場合も多い。特に、日長など光環境への活動応答は光周性と呼ばれる。
シマリスでは恒常条件でも約一年の冬眠が観察されることから、単なる季節変化への同調ではなく自立的な「概年性」を持つことが知られている[5]。
人間では、冬季うつ病(季節性情動障害、季節性気分障害)のように病気に季節性があることや、食欲の秋に体重が増加するなどの季節性リズムが知られている。
光周性・季節性リズムは、概日リズムと密接に関係していることが示されている。単純には、概日リズムから期待される明暗サイクルと実際の日の出・日の入りを比較することで季節を感知すると考えられてきたが、概日リズムを制御する時計遺伝子が季節性リズムにも働くことが示されつつある[6]。
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