出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/09/23 12:10:34」(JST)
眼内レンズ(がんないレンズ、英: Intraocular lens, IOL)は、白内障手術で水晶体を摘出したときに挿入される人工の水晶体。近視矯正目的の有水晶体で挿入する眼内レンズも存在する。
以前白内障に対する手術は、光軸から混濁した水晶体を取り除くという方法をとっていた。しかしながら水晶体は非調節時において約20D程の屈折力を持っており、手術後、強度の遠視になっていた。そのため明視するためには、いわゆる「牛乳瓶の底のような眼鏡」やコンタクトレンズを使用する必要があった。1949年イギリスのHarold Ridleyが、戦闘機の風防が目に刺さった飛行士に異物反応が起こらないとの観察より眼の中にレンズを入れるというアイディアを思いつき、眼内レンズを開発し、眼内に挿入するようになった。その後様々なレンズが開発されるようになった。
白内障手術の際、水晶体を摘出した場合、無水晶体となり強度の遠視となる。その代わりに挿入される人工の水晶体のことである。一般に単焦点眼内レンズが使用され、術後は単焦点となる。術後は理論上調節力は無くなるが、若干の調節力の残存(偽調節)を認める。しかしその機序は不明である。
眼内レンズの度数を様々に変化させることにより、術後の屈折度数を変化させることが出来る。それにより近視や遠視の矯正をすることも出来、屈折矯正手術の側面を持つ。そのため術前に患者本人のライフスタイルなどを参考に種々の計算式により度数を決定する。
また眼内レンズの単焦点性を補う目的に、#モノビジョン法などの手技や#遠近両用眼内レンズ、#調節性眼内レンズを用いることもある。
また白内障ではなく、近視矯正目的に有水晶体で挿入する眼内レンズも存在する。
白内障患者に対する白内障手術時に使用される。 従来重症糖尿病網膜症、網膜剥離、小児は使用禁忌とされているが、重症糖尿病網膜症、網膜剥離などは、手術手技の向上により、挿入されることが多い。 先天性白内障の乳幼児に対して行われる手術では、将来的に目の成長が期待されるため、挿入しないことが多かったが、最近では挿入される例が増えている。
光学部と光学部を保持する支持部に分けられる。
光学部と支持部が別々の素材で作り接合した(光学部と二つの支持部からなる)3ピーズレンズが主流であった。その後、耐久性を追求した1ピースレンズが開発されたが、より小切開から眼内レンズを挿入するために光学部を折り畳み可能なシリコン素材あるいはアクリル素材に置き換えた3ピースレンズが現れ急速に広まった。現在は、デザインの見直しによりアクリル素材による1ピーズレンズが数種類発表され普及しつつある。
現在日本国内で発売されているほとんどの眼内レンズは球面レンズか非球面眼内レンズである。非球面眼内レンズは眼球の高次収差を軽減するようにデザインされており、薄暮時などでの高い視機能が獲得でき車の運転時に有効であるとされる。
眼内レンズは固定する場所により、前房支持型、後房支持型、虹彩支持型、縫着用の4種類に分けることができる。現在日本国内では後房保持型を術中温存した水晶体嚢に挿入する方法が最もよく行われる。また水晶体嚢が存在しない、水晶体嚢・チン氏帯が脆弱な症例に対して前房保持型、縫着用を使用することがある。しかし前房保持型の挿入症例において虹彩炎・角膜内皮細胞密度が減少し水疱性角膜症に移行する症例が報告されている。
材質は様々あり、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、アクリル樹脂、シリコン樹脂などがある。
現在一般的に使われている眼内レンズは単焦点のものである。
眼内レンズの単焦点性の改善を目的に様々なレンズが開発されている。
二重焦点レンズあるいは多重焦点レンズと呼ばれると呼ばれる遠近両用の眼内レンズ(屈折型多重焦点眼内レンズ、回折型多重焦点眼内レンズ)が日本では実用化されている。
単純な遠近両用ではなくピント調節が可能な眼内レンズも研究開発されているが、その実用性はまだまだ不充分である。
乱視矯正のためのトーリックレンズも国内で実用化されている。
旧来はほとんどが透明な眼内レンズであった。近年、短波長でエネルギー量が多い青色光による青色光網膜傷害 を抑えるために黄色く着色された眼内レンズが普及してきている。着色眼内レンズの使用によりアメリカ合衆国で失明原因の第一位となっている加齢黄斑変性の予防効果が期待されている[1] 。着色レンズでは青色光が吸収されてしまうため薄明視時のコントラストが透明レンズより低下して見にくくなるという発表もある。
眼内レンズの度数決定は眼軸、角膜曲率半径、眼内レンズの固有の定数、患者の生活スタイルによって決められる。術前正視だった人は遠方あわせに、近視だった人は近方あわせにすることが多い。強度の近視の場合には、軽度の近視にあわせることもある。また片眼のみしか手術をしない場合には、不同視を避けるために手術を行わない方の眼の屈折値に合わせる場合が多い。
術後目標屈折値にあう眼内レンズの度数の計算方法は様々あり、SRK、SRK-II、SRK/T、Holladay、Hoffer-Qなどがある。各種検査の誤差、眼内レンズの固定の具合などにより、度数ずれを起こすことがある。また近視矯正手術を行っている眼は上記計算式では、対応しきれず度数ずれすることが知られており、術前の角膜形状解析のデータがあった方がよいとされる。
一般にアクリル素材が選ばれることが多いとされる。 硝子体手術と同時または将来行う可能性がある白内障手術においては、シリコン素材ではなく、アクリル素材の眼内レンズが選択されることが多い。シリコン素材では硝子体手術中にガス注入を行うと曇りを生じさせ手術操作が困難になる可能性があるためである。一方、眼内に埋植したアクリル素材製眼内レンズにおいて、レンズ内部に微小な間隙が多数生じ、それらが輝点として観察される「グリスニング」と呼ばれる現象が多数報告されており、その長期安定性について疑問視する見方がある。眼内レンズは眼内に長期間とどまるものであり、十分な安定性が確保されていなければならないためである。こういったことからどちらの素材にも一長一短があり、選択にあたっては検討を要する。
眼内への挿入方法として、以下のものがある。
眼内レンズ挿入の際の切開幅の減少や、眼内への菌の侵入を防ぐ目的にてより後者を使用することがある。手術の術式・術者の慣れ・患者の状態等により選択される。
一般には眼内レンズは単焦点のものが選択され、術後はめがねやコンタクトレンズなどの矯正器具が必要になる。しかし遠近ともに見えるようにするために、様々な工夫が試みられている。
優位眼を遠方、劣位眼を2Dほど近方にあわせる。これにより遠くと近くをある程度明視することが出来るようになる。
この方法は眼優位性が高く、立体視がある程度ないとうまくいかないとされている。またあまりに高齢な人はうまくいかないと言われている。うまくいかなかった際には近方あわせの方を近視矯正手術により正視あわせ、モノビジョン状態を解消する手段が執られる。
遠近両用の屈折型・回折型の眼内レンズを選択することもある。
若年者で網膜剥離のリスクがある患者には眼底の観察や網膜剥離の手術に不向きであるとされるため、屈折型は選択されないことがある。
レンズの表面が遠見用と近見用に分割することで二重焦点を実現しており、高度に細かい作業をする人や、神経質な人にはあまり向いているとはいえない。
レンズ価格が高価であり、白内障手術の保険点数が低く抑えられ、混合診療の認められていない日本では、現状としては手術費用も含めた自由診療で行うしか使用する方法がない。
ピント調節が可能ではあるが、思ったほど調節しないとの声が多い。
有水晶体眼内レンズ(英: Phakic Intraocular lens)は主に強度の近視矯正を目的に、有水晶体のまま眼内に眼内レンズを挿入する際に使用する眼内レンズである。眼内コンタクトとも呼ばれる
有水晶体にて眼内レンズを挿入することにより、調節力を維持することが出来る。また見え方に不満があったり、種々不都合があった際には、容易に除去することも出来る。 また薄い角膜厚、円錐角膜などでレーシックなどの近視矯正が出来なかった症例にも行うことが出来る。 またレーシック等の手術を組み合わせることにより、従来 矯正ずれを起こしやすかった強度近視などに良好な矯正効果を得れるようになった。 以前のような白内障などの合併症も減っており、欧米や韓国ではレーシックを凌ぐ勢いで使用されている。
虹彩支持型と隅角支持型、後房型(虹彩の後、水晶体の前)の3カ所に分けられる。 安全性の面から現在は後房型の(ICL)が主流となっている。
有水晶体眼内レンズのバージョンが新しいほどレンズ設計は改良され、合併率は低いとされる。
作家の吉行淳之介は、白内障に悩んでいたが、手術で劇的に回復した。この体験を、「人工水晶体」というエッセイに著述している。講談社エッセイ賞受賞。1985年刊、ISBN 406184296X 。
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