出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/12/28 19:12:40」(JST)
IUPAC命名法による物質名 | |
---|---|
(RS)-2-(p-isobutylphenyl)propionic acid | |
臨床データ | |
胎児危険度分類 |
|
法的規制 |
|
投与方法 | 経口, 座薬, 外用 (ジェルやクリーム) |
薬物動態的データ | |
生物学的利用能 | 49-73 % |
代謝 | 肝臓 |
半減期 | 1.9-2.2 時間 |
排泄 | 尿 |
識別 | |
ATCコード | M01AE01 |
KEGG | D00126 |
化学的データ | |
化学式 | C13H18O2 |
分子量 | 206.3 g/mol |
イブプロフェン(英: Ibuprofen)は、プロピオン酸系の非ステロイド系消炎鎮痛剤 (NSAID) である。日本ではブルフェン、日本国外ではAct-3, 英: Advil, Brufen, Motrin, Nuprin, もしくは英: Nurofenなどの商標名で、医療用及び店頭用医薬品(OTC 医薬品; 後述を参照のこと)の両分野において広く流通している。関節炎、生理痛および発熱の症状を緩和し、また炎症部位の鎮痛に用いる。イブプロフェンは1960年代に英Boots Groupの研究部門によりプロピオン酸の誘導体として創薬された。
イブプロフェンはまた、WHOのWHO必須医薬品モデル・リストに含まれている医薬品の一つでもある。
イブプロフェンは、関節炎、痛風、腎結石、尿路結石、片頭痛、さらに、小規模から中規模な手術後や、外傷、生理痛、歯痛、腰痛、筋肉痛、神経痛などの鎮痛目的で使用される。
低用量のイブプロフェン(200mgから400mg)は日本を含む世界中ほぼ各国で市販薬として入手可能である(医師から処方される医薬品としては、科研製薬の「ブルフェン」となる(100mg錠と200mg錠が存在)。これに相当する後発医薬品については、後述する#後発医薬品を参照)。イブプロフェンは4 - 8時間効果が持続しこれは用量依存であるが、半減期から推定される持続時間よりは長い。推奨される投与量は体重や適応による。通常、経口投与量は4時間から6時間ごとに200mgから400mg(子供の場合には5 - 10mg/kg)であり、1日最大投与量は800 - 1200mgである。3200mgの最大投与量も時として用いられる(※いずれも外国におけるデータ)。
ヨーロッパとオーストラリアではイブプロフェンリシン(ibuprofen lysine あるいは ibuprofen lysinate とも)と呼ばれるイブプロフェンのリシン塩がイブプロフェンと同じ適応症に許可されている。イブプロフェンリシンはイブプロフェンに比べ即効性があると言われている。
イブプロフェンは全ての非選択性NSAIDの中で最も胃腸障害が少ない。しかし、これは低用量イブプロフェンの場合であり、従って市販薬のイブプロフェン処方では1日最大量が1200mgとなっている。
低用量 (200 - 400mg) の単発投与および1日1200mgまでの投与では副作用の発生率は低い。しかし、1200mgを超える投与量で長期間投与されている患者の中止率は10-15%である。
一般的な副作用は次の通りである:吐き気、消化不良、消化器潰瘍・出血、肝臓酵素増大、下痢、ふらつき、塩および体液停留、高血圧。
まれな副作用は次の通りである:食道潰瘍、心不全、高カリウム血症、腎臓障害、昏迷、気管支痙攣、発疹。
他のNSAID薬剤と同様に、イブプロフェンも光過敏症を引き起こすという報告が存在する (Castell等, 1987)。しかし、イブプロフェンの紫外線吸収は非常に弱く、太陽光領域にすら到達しない。イブプロフェンの構造は単一のベンゼン環を持つだけで、共役系が存在するわけでもないので、非常に弱い発色団である。それ故、イブプロフェンは他の2-アリールプロピオン酸類など比較しても、きわめて弱い光過敏症しか引き起こさない。
しかし、これはイブプロフェンを「主役」と見た際であり、イブプロフェンの代謝過程で生ずる危険性などは考慮していない。
他のNSAIDと同様、長期に渡る投与は心筋梗塞の危険性を増大させる。(Hippisley-Cox & Coupland, 2005)
他の2-アリールプロピオン酸誘導体(ケトプロフェン、フルルビプロフェン、ナプロキセン他)と同様に、イブプロフェンはプロピオン酸部分のα位置に不斉炭素を持つため、それ自体に2つのそれぞれ異なる生物学的効果および代謝を持つイブプロフェンの鏡像体を持ちうる。
むしろ、試験管内および生体内の実験から(S)-(+)体 (dexibuprofen)が有効成分であることがわかった。
一般に、光学活性化合物を薬品として用いる場合、有効な鏡像体のみを投与することで選択性および有効性が高まることを期待するのは道理である(他のNSAIDであるナプロキセンのように)。
しかしながらイブプロフェンの場合、これまでの生体内試験では(R)体を有効な(S)体に変換する異性化酵素の存在が明らかになった。従って、単独の鏡像体で販売するのはコストに対して無意味で、市販されているイブプロフェンには両方の鏡像体の混合物(ラセミ体)が用いられている。
イブプロフェンは以下の手順で合成される。(Boots合成法)
イソブチルベンゼンのフリーデル・クラフツ アセチル化反応から始め、その生成物にクロロ酢酸エチルの元でダルツェン縮合を行い、α,β-エポキシエステルである3-メチル-3-(4-(2-メチルプロピル)フェニル)オキシラン-2-カルボン酸エチルを得る。これに加水分解と脱炭酸を施しアルデヒドを得る。このアルデヒドにヒドロキシルアミンを作用させオキシムとし、更に転換してニトリルを得る。このニトリルを加水分解して(2RS)-2-(4-(2-メチルプロピル)フェニル)プロパン酸、即ちイブプロフェンを得る。[1]
ヒトへの過量服用の事例は限定されている。通常、服用した量と服用してからの経過時間によって症状は変化する。しかし、個人の感受性が重要な役割を占める。ヒトが過量服用した際の反応は、無反応から集中的治療にもかかわらず致命的な結果まで幅がある。主な症状は、イブプロフェンの薬理学的性質の超える症状および腹痛、吐き気、嘔吐、眠気、めまい、眼震を含む症状である。消化器出血も起こりうる。さらに耳鳴り、中枢神経抑制、発作、低血圧、徐脈、頻脈、心房細動などの副作用が起こりうる。代謝性アシドーシス、昏睡、急性腎不全、浮腫を伴う体液およびナトリウム停留、高カリウム血症、無呼吸症(主として低年齢の子供)、呼吸抑制、呼吸停止などのまれな症状がある。数例にチアノーゼが見られた。一般的に、イブプロフェンの過量服用による症状は他のNSAIDの過量服用の症状に近い。
過量服用による症状の度合いと測定した血漿中の濃度については、ある程度の相関性がある。危険な服用量は約100mg/kgから800mg/kgである。後者の服用量については臨床的な経過が致命的である事を意味しない。治療上の1回の投与量は5から10mg/kgである。従って、治療上の指標は10から160である。しかし、患者の年齢、体重、既往症により変化するため正確なLD50を定義するのは不可能である。
治療は対症療法が主となる。初期段階であれば嘔吐させるべきである。また胃洗浄も効果がある。いずれの場合においても、全身への循環が始まる前に薬剤を吸着するために活性炭素が繰り返し用いられるべきである。通常の排尿を維持するための処置が推奨される。イブプロフェンは酸性の性質を持っておりまた尿によって排泄されるから、アルカリ利尿剤は有益である。低血圧、消化器出血、およびアシドーシスへの対症療法も可能である。通常、ICUでの徹底した監視が指示され、また必要である。もし患者が急性中毒期を乗り切れば、通常その後の再発はない。
先発薬である、科研製薬が製造・販売する「ブルフェン」には、後発医薬品がいくつか存在するが、販売元となる各メーカーによる流通状況が芳しくなく、「後発薬はありますが、当店では取り扱っておりません」として、提供できない大手の調剤薬局も多く存在する。
実際に公表されている後発医薬品としては、イブプロフェン100/200mg「TCK」、同錠「タイヨー」などが存在するが、「TCK」を手掛ける辰巳化学などは、実際の卸売を他の販売元に委託するケース[2]が多く、販売元が扱わないことから、調剤薬局レベルまでいきわたらないものも一部で存在するのが現状となっている。
イブプロフェンは1969年にイギリスで処方薬として許可された。それから数年、イブプロフェンの耐容性プロファイルに加えさらなるコミュニティでの経験は(フェーズIV治験とも言われる)、少量包装のイブプロフェンを世界中で市販薬とする再スケジュールをもたらした。さらにこの傾向がイブプロフェンの再スケジュールを促進しているので、アメリカではスーパーや雑貨店での入手が可能になった。事実、アメリカではイブプロフェン(通常200mg量)がアセトアミノフェンやアスピリンと並んで市販薬の鎮痛剤として最も広く使われている。
日本では1985年12月にスイッチOTCとしてエスエス製薬から「イブ(現:イブA錠)」が発売され、後に同社の総合感冒薬「エスタック イブ」シリーズに配合されたり、他の鎮痛成分を併せた「イブクイックA頭痛薬」という商品も市販されていれている。他の大衆薬メーカーからも同様の製品が発売されている。ただし小児用市販薬としては認可されていない。
|
全文を閲覧するには購読必要です。 To read the full text you will need to subscribe.
ブルフェン錠100
[プロスタグランジン合成阻害作用による胃粘膜防御能の低下により、消化性潰瘍を悪化させることがある。]
[副作用として血液障害があらわれることがあるので、血液の異常を更に悪化させるおそれがある。]
[副作用として肝障害があらわれることがあるので、肝障害を更に悪化させるおそれがある。]
[プロスタグランジン合成阻害作用による腎血流量の低下等により、腎障害を更に悪化させるおそれがある。]
[プロスタグランジン合成阻害作用による水・ナトリウム貯留傾向があるため、心機能不全が更に悪化するおそれがある。]
[プロスタグランジン合成阻害作用による水・ナトリウム貯留傾向があるため、血圧を更に上昇させるおそれがある。]
[喘息発作を誘発することがある。]
[「相互作用」の項参照]
[「妊婦、産婦、授乳婦等への投与」の項参照]
関節リウマチ、関節痛及び関節炎、神経痛及び神経炎、背腰痛、頸腕症候群、子宮付属器炎、月経困難症、紅斑(結節性紅斑、多形滲出性紅斑、遠心性環状紅斑)
小児は、5〜7歳 1日量 200〜300mg
8〜10歳 1日量 300〜400mg
11〜15歳 1日量 400〜600mg
を3回に分けて経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。また、空腹時の投与は避けさせることが望ましい。
小児は、5〜7歳 1日量 200〜300mg
8〜10歳 1日量 300〜400mg
11〜15歳 1日量 400〜600mg
を3回に分けて経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。また、空腹時の投与は避けさせることが望ましい。
急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)
なお、年齢、症状により適宜増減する。ただし、原則として1日2回までとし、1日最大600mgを限度とする。また、空腹時の投与は避けさせることが望ましい。
[ミソプロストールは非ステロイド性消炎鎮痛剤により生じた消化性潰瘍を効能・効果としているが、ミソプロストールによる治療に抵抗性を示す消化性潰瘍もあるので、本剤を継続投与する場合には、十分経過を観察し、慎重に投与すること。]
[消化性潰瘍を再発させることがある。]
[血液の異常を悪化又は再発させるおそれがある。]
[血小板機能低下が起こることがあるので、出血傾向を助長するおそれがある。]
[肝障害を悪化又は再発させるおそれがある。]
[腎障害を悪化又は再発あるいは誘発させるおそれがある。]
[心機能異常を悪化させるおそれがある。]
[血圧を上昇させるおそれがある。]
[気管支喘息患者の中にはアスピリン喘息患者も含まれており、それらの患者では喘息発作を誘発することがある。]
[SLE症状(腎障害等)を悪化させるおそれがある。また、無菌性髄膜炎があらわれることがある。]
[無菌性髄膜炎があらわれることがある。]
[他の非ステロイド性消炎鎮痛剤で症状が悪化したとの報告がある。]
[他の非ステロイド性消炎鎮痛剤で症状が悪化したとの報告がある。]
[「重要な基本的注意」「高齢者への投与」の項参照]
[特にSLE又はMCTDの患者に発現しやすい。]
アジュバント関節炎(ラット)の慢性炎症に対しては10〜30mg/kg/日で抑制作用を示し、アスピリンの5〜10倍の効果である。
アセチルコリン誘発ライシング(マウス)に対するID50(経口投与)は1.9mg/kgで、アスピリンの28倍の効果である。
エタノール(95)又はアセトンに溶けやすく、水にほとんど溶けない。
希水酸化ナトリウム試液に溶ける。
リンク元 | 「イブプロフェン」 |
.