出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/06/28 16:13:02」(JST)
ピレスロイド (pyrethroid) とは、除虫菊 (Chrysanthemum cinerariaefolium Bocquilon) に含まれる有効成分の総称で、今日では各種誘導体が合成され各国で広く殺虫剤として利用されている。天然に産するピレスロイドは菊酸を共通構造にもっており、ピレトリン I (Pyrethrin I) とピレトリン II (Pyrethrin II) を主成分とする6種の化合物の混合物である。また、微量成分のピレスロイドとしてシネリン I、シネリン II あるいはジャスモリン I、ジャスモリン II も含まれ、いずれもピレトリンと同様な作用を持つことが知られている。
ピレトリンの誘導体は合成ピレスロイドと呼ばれ、アレスリンなどが知られている。ピレスロイド類は昆虫類・両生類・爬虫類の神経細胞上の受容体に作用し、Na+チャネルを持続的に開くことにより脱分極を生じさせる神経毒である。哺乳類・鳥類の受容体に対する作用は弱いので、比較的安全性の高い殺虫剤である。開発初期の合成ピレスロイドには菊酸構造が存在したが、現在の合成ピレスロイドには共通化学構造はもはや存在しない。
天然ピレスロイドは、酸性分の菊酸とアルコール成分のピレスロロンとの酸エステルである。
菊酸(きくさん、chrysanthem(um)ic acid)はシクロプロパンカルボン酸の一種でテルペノイドである。1891年、シュラクデンホーフェン (Schlagdenhauffen) とレーブ (Reeb) が除虫菊を水蒸気蒸留することにより単離した。菊カルボン酸 (chrysanthemum-monocarboxylic acid) とも呼ばれる。
化学式 C10H16O2 で、分子量は168.23。IUPAC名は (1R,3R)-2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)シクロプロパンカルボン酸、CAS登録番号は4638-92-0。融点17–21℃の不安定な黄色の油様物質で殺虫作用を持つが、光、空気酸化により分解し失活する。不揮発性で、水などの極性溶媒には溶けにくい。
(Pyrethrolone) はピレトリンの菊酸エステルのアルコール成分 (1S)-2-メチル-4-オキソ-3-(2Z)-2,4-ペンタジエニル-2-シクロペンテン-1-オールにつけられた慣用名である。
1910年、スイスのチューリッヒ工科大学のH.Staudinger博士が除虫菊の有効成分を発見し、その化学構造式を発表した。同氏はこれをピレトリンと命名し、それの虫の体内での作用や、温血動物には無害であることなどを発表した[1]。その粉末が農薬として利用され、その後除虫菊は米国あるいは日本へと普及していった。
日本では明治時代に除虫菊が導入され、1890年(明治23年)に大日本除虫菊(金鳥)創業者の上山英一郎が、江戸時代以来の「蚊遣り火」に除虫菊を応用した蚊取線香を発明し、それが普及することでピレスロイドが殺虫剤として広く利用されるようになった。戦後、工業化が進むにつれ、住友化学が除虫菊に含まれるピレスロイドを工業的に合成する技術を確立した[2]。 1950年代までは米国でDDTが利用されていたが、するとピレスロイドはより一般的な殺虫剤として流通した。 今日では除虫菊そのものが利用されることは殆どなくなり、蚊取り線香であっても合成されたピレトリンやアレトリン等の合成ピレスロイドを原料にして製造されている。
疫学的にはマラリアや黄熱病などを媒介する蚊などを防除する目的で、除虫菊が古くから利用されてきた。第二次世界大戦以降はDDTなど有機塩素系農薬が汎用された時代もあったが、有機塩素系農薬の残留性・体内蓄積性が問題となりDDTが1973年からアメリカ合衆国環境保護庁(EPA)によって製造禁止になると[3]再び合成ピレスロイドも、蚊・ダニなど媒介動物の駆除に利用されるようになり一般化していった。日本では蚊取り線香などが利用されるが、中央アフリカなどでは合成ピレスロイドを吸着させた蚊帳も利用されている。しかしピレスロイド耐性の蚊が1996年に発見され、蚊・ダニなどに対する耐性発現が問題になっている。
天然ピレスロイドのピレトリンは光、酸素、アルカリに不安定で、環境中に揮発した後は速やかに分解・失活する短時間作用型の防虫剤である。この性質は農薬としては欠点となり、あるいは除虫菊を原料とするのでは大量生産は困難であることから、20世紀前半から合成ピレスロイドが研究され、実用化されるようになった。合成ピレスロイドの実用化により、農薬・家庭内殺虫剤としてピレスロイド系薬剤が広く利用されるようになり、エアロゾル剤(殺虫スプレー)、燻蒸剤、揮発製剤(防虫シート)、乳剤(防疫用・園芸用)など多様な利用形態が開発されている。
ピレスロイドは哺乳類・鳥類に対する毒性は比較的低く、昆虫・両生類・爬虫類などには強力に作用するため、人畜防虫剤として有用である[4]。害虫駆除のためのピレスロイドの利点として、速効性、忌避効果(嫌がってピレスロイド濃度の高い部分に近づかない)、フラッシングアウト(隠れている虫を追い出して殺す効果)、安全性(人間など、恒温動物に対して有害性が低い)が指摘されている[5]。
ピレトリンは (Pyrethrin) 1919年(大正8年)と1923年(大正12年)に山本の構造決定の報告があるが、1924年にスイスのヘルマン・シュタウディンガーとレオポルト・ルジチカによって殺虫活性物質の主成分の構造が決定され、彼らによりピレトリンと命名された。ピレトリンは混合物で、ピレトリン I とピレトリン II が含まれ、いずれも殺虫作用を持つ。昆虫の神経受容体に強力に作用するが、哺乳類の受容体に対する作用は比較的弱く、昆虫への作用量ではまったく作用を表さない為、除虫菊としての使用を含め人畜防虫剤として古くから利用されてきた。光や空気酸化により速やかに失活するので、作用時間が短い特徴がある。
皮膚に直接塗布してアレルギーを誘発する例がある。大量のピレトリンにさらされると、紅斑、皮膚炎、丘疹、掻痒などの皮膚症状、気管支喘息、傾眠、血管運動神経性鼻炎、アナフィラキシー様反応、口唇のしびれ感、吐き気、下痢、耳鳴り、頭痛、情動不安、協調運動障害、間代性痙攣、知覚麻痺、衰弱など神経症状が現れることがある。重篤な場合は中枢性の呼吸停止により死に至る場合がある。
1945年(昭和20年)に除虫菊から再発見されたピレスロイド。ピレトリンと同様な作用を持つ。皮膚に直接塗布してアレルギーを誘発する例がある。大量のシネリンにさらされると、紅斑、皮膚炎、丘疹、掻痒などの皮膚症状、喘息、傾眠、血管運動神経性鼻炎、アナフィラキシー様反応、口唇のしびれ感、吐き気、下痢、耳鳴り、頭痛、情動不安、協調運動障害、間代性痙攣、知覚麻痺、衰弱など神経症状が現れることがある。重篤な場合は中枢性の呼吸停止により死に至る場合がある。
(Jasmoline) ジャスモリンのアルコール成分は、ジャスミンの香り成分ジャスモンの4位にヒドロキシ基が付いたアルコールである。他のピレスロイドと同様に殺虫作用を持つ。
アレスリン(Allethrin)はピレトリンの構造を元に初めて合成化学的に創造された殺虫剤で、構造が異なるアレスリン I、アレスリン II が知られている。なお、いずれも立体不明の混合物として合成および命名されているので、アレスリンと呼んだ場合は8種の異性体混合物を指す。
D-テトラメトリン
レスメトリン
フラメトリン
ペルメトリン
シフェノトリン
ブラトリン
エトフェンプロックス
シフルトリン
(毒)テフルトリン
(劇)ビフェントリン
シラフルオフェン
全文を閲覧するには購読必要です。 To read the full text you will need to subscribe.
リンク元 | 「pyrethrin」「ピレスロイド」「ピレスリン」 |
関連記事 | 「リン」「トリ」 |
近位尿細管 | 70% |
遠位尿細管 | 20% |
.