出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/09/17 13:21:24」(JST)
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PNF(ピーエヌエフ、Proprioceptive Neuromuscular Facilitation、固有受容性神経筋促通法)は1940年代にアメリカで誕生した主にリハビリテーションなどで用いられる促通手技の一つの方法である。
主な特徴として、対角線的、螺旋系の人間の本来の動作に着目。身体に備わる「反射」を促通手技の結果として反応させて神経、筋機能の向上、各関節の可動域らの回復を図ろうとするものである。反射には伸張反射等が挙げられる。理論構築したハーマン・カバットの弁に因ればPNFは理論というよりもある種の治療哲学に近いという。定義としては、「人は生まれながらにして出来る事に限りがあると共に、潜在能力が存在する。その潜在能力を引き出すための理論、哲学。」だとしている。
PNFの基本哲学は、″すべての人間(障害者を含む)には潜在能力がある″を前提としている。しかるべき要求を作り出して反応を引き出すよう努力すれば、その潜在能力を伸ばすことができる。動作を繰り返し反復すると、学習効果があり、身体活動の技能を熟達させ、協調性を獲得することができる。身体活動を継続的に実施すると、耐久性が向上し、また、動作に変化をつければ回復効果があり、疲労が和らぐ。
治療目的は、最も効率良く神経筋機構の回復を促進させ、可能なかぎり機能的改善を獲得するために患者を援助することである。
1940年代の後半に、医師であるKabat博士がポリオ後遺症患者の筋収縮を高めるための生理学的理論を構築し、KnottとVossの理学療法士と一緒に開発した運動療法PNF (proprioceptive neuromuscular facilitaition;固有受容性神経筋促通法)である。現在では、脊髄性の疾病だけでなく、中枢神経疾患・末梢神経疾患・スポーツ傷害(外傷・障害)なども対象となる (柳澤, 2001)。Kabatが、ポリオ後遺症患者に対するリハビリテーションからチャールズ・シェリントンの研究などを基にした神経生理学的原理を引用、理論化し、弱い遠位筋の反応を機能的に関連のあるより強い近位筋からの発散によって促通する際に、最大抵抗と伸張の効果を確認できるらせん的および対角線的な特徴をもった集団運動パターンの運動の組み合わせを発見した (Voss, 1985; 柳澤, 2001)。
PNFとは、固有受容器を刺激することによって、神経筋機構の反応を促通する方法と定義され、末梢神経疾患のみでなく、中枢神経疾患の治療としても用いられることが大きな特徴である (柳澤, 2001)。固有受容器とは、位置、動き、力の受容器のことで、関節包の受容器、靭帯の受容器のほかに、筋紡錘、腱紡錘、関節上の皮膚の動き受容器をさし、これらの受容器の刺激の方法として、関節の圧縮・牽引、筋の伸張、運動抵抗、PNF運動開始肢位などがあげられる (柳澤, 2001)。なかでも、Kabatは、全運動範囲にわたる最大抵抗を強調し、最大抵抗を使用することで弱化した筋への発散効果を最大にさせると指摘している(Voss, 1985)。
上記で記したこれらの受容器を刺激する方法として、関節の圧縮・牽引、筋の伸張、運動抵抗、PNF運動開始肢位などがあげられる。しかし、実際には、体性感覚に含まれる表在感覚(外受容器:皮膚の感覚器)や特殊感覚である視覚・聴覚なども刺激される。
運動発達の遅れや外傷、神経疾患などの欠陥のある神経筋機構は、筋力の低下・協調不全・筋の短縮・関節可動域の制限などをもたらす。このような異常な運動機能を改善させるために、筋の伸張、運動抵抗、関節の牽引・圧縮などの操作により少しでも正常な反応を獲得させる。これがPNFの治療原理である。
Kabatは当初,反応を促通する要因として、
の5つを明示していたが、最近のPNFでは、EBMに基づき下記のような11の促通要素から構成されている (柳澤, 2001)。
1940年代にアメリカの神経生理学者であった、ハーマン・カバットが理論構築し、1950年代に理学療法士のマーガレット・ノット、ドロシー・ボスらによってその具体的方法および手技が模索・確立された。促通方法(以下ファシリテーションテクニック)は1950年代のアメリカの理学療法士でもあり作業療法士マーガレット・S・ルードの考案した、現在ルード・アプローチと呼ばれるものが1つの方法としてあげられる。それは徒手、打鍵器、ブラシ、氷さらにはゴムバンドや振動、臭いといった様々な道具、要素を利用した促通技術を用いてリハビリなどで成果を挙げている。ノットはルードと親交が深く、ルードの提唱した運動発達の概念をPNFの治療訓練に応用している。 スイスのバート・ラガツはPNFを水中で行い、その技術を水中PNFとして発展させている。
これらのファシリテーションテクニックを習得するのに時間がかかり、また、それを実践できる人材もそこまで豊富に存在しないため日本スポーツPNF協会は1996年2月を持って解散している。
しかし医療分野では、理学療法士らにとってPNFを必修とする例も生まれており、さらには1997年に日本初の国際PNF協会認定コース受講者が中心となり、日本における固有感覚受容性神経筋促通法(PNF)の進歩・発展とPNFの正しい普及を図ることを目的とし活動している。会員数は約300名。
また日本PNF研究会は、1994年5月に日本理学療法士協会の要望で発足した。発足の主旨は、PNFの用語と手技の混乱が日本の理学療法士会やスポーツ界で顕著なので理学療法士の開発した手技であるPNFの手技と理論の正しい普及を図ることであった。 当初、日本理学療法士協会からの支援を得て、対外的な活動として、1996年9月から10月にかけてPNF発祥の地である米国カリフォルニア州ヴァレーホ市にあるカイザー財団リハビリテーションセンター(KFRC)の理学療法士2名を招聘し、PNFセミナーを日本理学療法士協会後援、長崎PNF研究会,東京都理学療法士会,北海道理学療法士会,日本PNF研究会共催で開催した。本会は、2005年5月に日本PNF学会に名称変更し、現在に至っている。会員数は現在約1500名で、毎年学術集会を開催し、学会誌であるPNFリサーチの発刊等の学術活動と講習会等でのPNF技術の伝達に努めている。
人間の本来の動作である、対角線的、ねじれを伴った螺旋系の動作及び反射、柔軟性の向上を引き出せるファシリテーションテクニックを特徴の一つとして持つため、パフォーマンスの向上、傷害の予防、及び回復に効果を示すという観点からスポーツ、例を挙げると野球等のプレーヤー(例:野茂英雄、松井秀喜)も採用していた事がある。
従来のトレーニングとの違いは筋肉のみの出力向上を図るだけではなく、神経そのものを疲労させる事が可能になり、パフォーマンス向上に欠かせないバランス、反射を崩すことなく結果を出す有効な方法として知られている。柔軟性の向上という観点からストレッチへPNFの知見を反映させたPNFストレッチとして運動前後のコンディショニングに採用する例も存在する。
いずれにしてもスポーツパフォーマンスの向上に結果を出すには十分なレジスタンス・トレーニングによる負荷は必要になる。能力を引き出せはするが、それ以上の出力を引き出せるワケではない。ここでいう負荷は身体の動作そのものがその一つとしてカウントされる。
何故、諸々のファシリテーションテクニックによって、筋線維内部に配置されている筋紡錘及び腱紡錘と呼ばれる感覚受容器(筋の張力や長さを計る器官)に訴えかけ神経、筋細胞の興奮(インパルス)などを利用し、運動回路における神経、筋出力等の促通とまた逆の性質を持つ、抑制を図る事が出来る事などが分かっている。
しかし、神経筋回路にフィードバックがなされ、その結果柔軟性の向上や筋力向上が見られるのかは、現段階の生理学的見地では未だに疑問を持てる領域を孕んでいる。つまり現在知られているファシリテーションテクニックの結果として得られる促通は神経生理学的な経験則の蓄積が主な根拠とされている。詳しいメカニズムは不明だが、それでも数々のファシリテーションテクニックによって効果を挙げているのは紛れもない事実である。
一つの神経路を通ってきたインパルスがシナプスを経過し、ニューロンの一部分に興奮、他方に抑制性の効果を与えるニューロン結合の事。主働筋に大脳皮質からの指令で、ひとまずはアルファー運動ニューロンを興奮させ、その信号はガンマ運動ニューロンにも伝達され、活動が発生する。
これをアルファ・ガンマ連関という。主働筋に収縮が働き、筋紡錘や、腱紡錘に興奮が生じると、拮抗筋となる、筋群のアルファ・運動ニューロンは一個の介在ニューロンを介して、抑制が生じる。つまり主働筋群の働きによって拮抗筋の神経、活動が抑制される現象の事である。
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