JAMA. 2012;307(17):1727-1735より「埋め込み心臓デバイスに伴う感染性心内膜炎の臨床的特徴と転帰」という論文を紹介します。
背景です。
心臓デバイス感染について簡単に説明します。
この論文では永久ペースメーカーや埋め込み除細動器を心臓デバイスと総称しています。
心臓デバイスは世界的に埋め込み件数が像がしています。
心臓デバイスへの感染は深刻であり、1992年から2008年までの15年間で2.1倍に増加しており、新興感染症と呼ばれています。
心臓デバイス感染性心内膜炎は心内膜炎を伴わない心臓デバイス感染症よりはるかに死亡率が高いことが明らかになっています。
埋め込み時の皮膚汚染、あるいは時にジェネレーター埋め込み部位からの波及が心臓デバイス感染性心内膜炎の原因となります。
心臓デバイス感染のほとんどが皮下のジェネレーターポーケットに及んでおり、その10-23%が心臓デバイス感染を引き起こします。
心臓デバイス感染性心内膜炎の罹患率は年間に0.06-0.6%で1.14/1000デバイス・年です。
リスク因子はホスト因子として低栄養、悪性腫瘍、糖尿病、皮膚疾患、糖質コルチコイドや抗凝固薬の使用であり、技術因子としてデバイスのタイプ、埋設期間、ジェネレーター交換、あるいはカテーテル関連血行/胸骨感染があります。
この前向き観察研究の目的は医療関連感染症に注目して心臓デバイス感染性心内膜炎の臨床的特徴と転帰について明らかにし、初回入院時の心臓デバイス除去と転帰との関連を評価することです。
症例データは世界26ヶ国から収集された心内膜炎のデータベースを使っており、この中なら心臓デバイス感染性心内膜炎の症例を抽出しました。これらの症例を入院治療から退院、さらに退院後一年までを追跡するという観察方法がとられました。
結果です。
・テーブル1
心内膜炎のデータベースに登録されている確定診断例2760例のうち心臓デバイス感染性心内膜炎と診断されたのは177例あり、これらについて臨床的特徴を記載したものがテーブル1のCDIE totalというカラムです。
平均年齢は71.2歳で、男性が多く、病原体は黄色ブドウ球菌(35%)が最多でした。心臓デバイス感染性心内膜炎に合併する弁膜感染は66例(37.2%)で認められました。
心臓デバイス感染性心内膜炎の入院加療中に死亡した例は21例あり、生存例は151例ありました。入院中の生存群、死亡群のそれぞれについて臨床的特徴を記載したものがそれぞれテーブル1のIn-Hospiral Survival、In-Hospital Deathというカラムです。死亡群の方が医療関連感染症、弁膜感染、糖尿病合併例、黄色ブドウ球菌感染、および三尖弁疣贅が多いことがわかりました。
・テーブル2
心臓デバイス感染性心内膜炎に対して心臓デバイスを抜去した例(144例)としなかった例(34例)を比較したのがテーブル2です。デバイス非抜去群で血培陽性例、心不全例が多いこと以外に臨床的特徴に差はありませんでした。転帰についてですが、院内死亡率に有意差は認められませんでしたが、退院して一年後の死亡率は心臓デバイス抜去群で有意に低くなっています。
・テーブル3
テーブル3は、心臓デバイス感染性心内膜炎が医療関連感染か、あるいは市中感染によるものかにより2群にわけて臨床的特徴と転帰について比較したものです。
Health care-asociated CDIEが医療関連感染について示したカラムで、Community-Acquired CDIEが市中感染について示したカラムです。
臨床的特徴ですが、医療関連感染では病原菌として黄色ブドウ球菌が、さらにMRSAについても有意に市中感染より多いという結果が得られました。
転帰については、医療関連感染の方が院内死亡率と1年後死亡率のいずれでも有意に高いという結果が得られました。
・フィギュア2
フィギュア2は退院してからの生存曲線を示しています。
Aのグラフは心臓デバイスの除去の有無で2群に分け生存曲線を解析したものです。実線がデバイス除去群であり、点線がデバイスを除去しない群を示しています。一年後の生存率は心臓デバイス除去群で有意に高いことは先ほどお話ししました。
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Bのグラフは心臓デバイスの除去の有無と弁膜感染の有無を組み合わせた4群において解析した生存曲線です。実線は心臓デバイス除去かつ弁膜感染がない群、中程度に細かい点線は心臓デバイス除去かつ弁膜感染がある群(上から3番目)、荒い点線は実線は心臓デバイス除去せずかつ弁膜感染がない群(上から2番目)、細かい荒い点線は実線は心臓デバイス除去せずかつ弁膜感染がある群(上から4番目)を示しています。これらから弁膜感染は心臓デバイス除去するか否かに関わらず生存率を低下させることが示されました。
筆者らのコメントについてです。
テーブル2で示された様に、心臓デバイス除去の有無で院内死亡率に差が出なかったのは、デバイスを除去した群としない群での死亡数が少なく、統計的な検出力が不十分であった可能性があるとしています。
この研究の制約は、コホートに偏りがありうること、感染性心内膜炎のみを集めているので心臓デバイス感染性心内膜炎のリスク因子を評価できないこと、デバイスポケット感染例を集めていないためデバイスポケット感染と心内膜炎との関連は評価できないことがあると述べています。
また、心臓デバイスを除去することで生存バイアスや人工弁置換術などの医療的介入による影響をうけるかもしれないとも述べています。
結論ですが、心臓デバイス感染性心内膜炎は医療介入に影響をうけ、弁膜感染を高率に合併して院内死亡率や一年死亡率を上昇させるため、心臓デバイスの埋め込みの増加が今後予想される中で予防や合併症に関してさらなる研究が必要と述べています。
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