出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/01/06 10:31:55」(JST)
この項目では、錠を閉める道具について説明しています。その他の用法については「鍵 (曖昧さ回避)」をご覧ください。 |
鍵(かぎ)は錠前を操作するための器具である。鍵と錠前は扉や物品などに取り付けて、鍵を開けられる人間以外の使用を制限するための道具。人身や財産の保護、保安などの目的で用いる。典型的な鍵(右図)は、錠前の鍵穴に差し込まれる個々に形状の異なるブレード部分と、鍵穴には入らず手でつまんでブレードを回転させるのに使う頭部から成る。ブレード部は一般に一つまたは少数の特定の錠前にしか合わない。
日常会話では、鍵と錠前をまとめて「かぎ」と呼ぶ場合が多い(例 : 「かぎを掛ける」)が、本ページでは主に鍵について記述する。
鍵は、建物や自動車といった財産について、完全ではないが(ピッキング行為参照)安価なアクセス制御手段を提供する。そのため、鍵は現代の先進地域ではありふれたものであり、世界的にもよく使われている。
錠前は固定を行う機構の側であり、鍵はそれを開閉するための道具である。建築物や自動車の扉に使われているほか、金庫やスーツケース、机、鞄など、日常生活のあらゆる場所に設置されている。自動車のエンジン始動スイッチも、錠前の形をとってる場合がほとんど。錠前によっては合わせ数字などで開閉を行うため、鍵と錠前が一体のようになっている物もあり、これを符号錠という。
現在、よく使われている鍵はシリンダー錠である。携帯電話などで実用化されている生体認証技術も、広義の鍵に当たるといえる。
なお、各種イベントやテレビ番組において主催者から自動車が贈られる場合には象徴的に自動車の鍵を模した大型のパネルが用いられることがある。
「玄関の鍵」あるいは「扉の鍵」は最もよくある鍵である。よく見かけるものは新旧2種類の形状がある。古い形の鍵はレバータンブラー錠用の鍵で、数枚(通常2枚から5枚)の平らなレバー(てこ)を鍵のブレードの形状によって様々な高さまで持ち上げ、内部でそれらが揃うことでボルトを前後に動かせるようになり、錠前が施錠・開錠される。鍵の歯または合い形は先端が尖っておらず、平らである。レバータンブラー錠の鍵は一般にやや大きく、持ち運びが若干不便だが、安全性は高い。
新しい形の鍵は、ピンタンブラー錠またはウェハータンブラー錠の鍵である。開錠のために鍵穴に垂直に差し込む場合、鍵穴の形状と鍵のブレード部分の溝が合わないと差し込めず、錠前に挿入できる鍵の種類が限定される。錠前に鍵を差し込むと、ブレード部の一端の歯(合い形)がシリンダー内のピンやウェハーが上下し、それらの切れ目が内筒と外筒の境界線上に並ぶと内筒を回転させることができ、それによって開錠できる[1]。
ブレードの両端に歯のある鍵は一般的な鍵とよく似ているが、通常の鍵よりもピッキングが困難である。
ブレードに4つの歯の並びがあり、断面が十字形になっている。ピッキングも複製も難しいが、同時に物理的にも強度が高くなっている。
自動車の鍵は、自動車のドアを開けエンジンを点火するのに使われる。最近のものは一般に左右対称形で、中にはブレード部の両端に歯があるのではなく、ブレードの面に溝を彫ってあるものもある。対応する自動車のドアを開けることができ、同時に点火装置を起動でき、トランクなども開けることができる。車種によっては「バレットキー」という追加の鍵も付属する。バレットキーは運転席のドアを開けることとエンジンの点火しかできず、ボーイなどの他人に駐車を任せる際に使う。高性能車のバレットキーには、エンジンの出力を制限する機能のあるものもある[2]。最近ではイモビライザーを採用した自動車も増えている。またエンジンの点火が鍵を回すという機械的機構ではなく、何らかの電子装置によるものもある。
鍵による点火装置のスイッチ(錠前機構)は、ステアリングコラムのロックやシフトノブのロックとも連携していることがほとんどである。
最近ではリモコンでドアを開錠/施錠するキーレスエントリーシステムが大いに普及しており、更には鍵を携帯した状態で自動車に近づいただけで開錠されるハンズフリー方式のもの(スマートエントリーシステム)もある。
一部のハイテクな自動車の鍵は、窃盗防止効果があると宣伝されている。メルセデス・ベンツでは金属片を鍵とすることを止め、符号化された赤外線ビームで車載コンピュータと通信することで鍵の役目を果たすようにした。暗号が一致すれば、自動車を起動できる。ただしそのような鍵は非常に高価で、失くした場合に再発行してもらうには400USドルもかかる。ランドローバーやフォルクスワーゲンではスイッチブレードと呼ばれる鍵を採用しており、キーレスエントリー装置のボタンを押すと鍵のブレード部分が飛び出すようになっている。
トランスポンダーキーは、信号を発する回路を内蔵した自動車用の鍵である。
鍵を点火装置のシリンダーに挿入して回すと、自動車のコンピュータが無線信号をトランスポンダー回路に対して発信する。その回路には電源となる電池がなく、受信した無線信号自体をエネルギー源として動作する。その回路にはマイクロコントローラが組み込まれており、符号化された信号を車載コンピュータに返信する。その回路が応答しない場合や符号が間違っている場合、エンジンは起動しない。トランスポンダーキーの返信する符号はそれぞれ異なるため、このような鍵の複製は難しい。
トランスポンダーキーの頭部にそのような回路が組み込まれていることを所有者が気づいていないこともある。一方、ゼネラルモーターズが1990年代に実用化した VATS (Vehicle Anti-Theft System) は鍵にトランスポンダが組み込まれていると思われていたが、実際には抵抗器が組み込まれているだけで、鍵を挿入するとその抵抗値を測定して正しい値かどうかを確認していただけだった。
マスターキーとは、複数の錠前を開錠できる鍵である。鍵自体の見た目は通常の鍵と変わらない。マスターキーで開錠できる錠前にはそれぞれ対応する鍵が存在するが、それらは別の錠前を開錠できない。マスターキーのある錠前には共通する第2の錠前機構があり、マスターキーはそれを使って開錠する。例えばピンタンブラー錠の場合、それぞれのピンに2つの切れ目があり、そのうち一つを通常の鍵が利用し、もう一つをマスターキーが利用する。より高価な錠前の場合、通常の鍵とマスターキーそれぞれに対応したシリンダーがある。
大きな組織では、さらに複雑な「グランドマスターキー」システムを採用している。いくつかの錠前に対応したマスターキーが複数あり、それら全てに対応したグランドマスターキーが用意されている。
マスターキーシステムを採用している建物などで、一つの錠前にアクセスするだけで、適当なブランクキーでマスターキーを複製する攻撃方法が存在する[3]。
アブロイキーはディスクタンブラー錠の鍵で、そのブレード部は円筒を軸に沿って半分に切った形になっている。ブレード部には切り欠きが様々な角度で入っていて、それによって錠前内部のディスクを所定の角度まで回転させる。
フィンランドでは家の玄関の鍵としてアブロイキーがよく使われているが、フィンランド以外の世界各地でも使われている。ピッキングが非常に難しく、安全と言われている[4][5][6]。
ディンプルキーは、ブレードの平たい面に様々な深さの窪みが刻まれている。通常、対応する錠前には2列のピンがあり、鍵にある2列の窪みとそれらがかみ合うようになっている。一般に裏面にも同じ窪みのパターンが刻まれていて、どちらの面を表として挿入しても機能するようになっている[7][8]。
各メーカーがディンプルキー採用のシリンダーを製造している。複製に専用の機材を要する。当初ピッキングが困難といわれたが、専用の用具や技法の進歩で、現在はピッキング開錠は以前ほど困難ではなくなった。
スケルトンキーは非常に単純なデザインの鍵で、軸は円筒状で、先端に小さく平坦な矩形上の歯(合い形)がついている。また持ち手となる頭部も独特であり、全く飾り気のない平らなものと派手に装飾されたものがある。スケルトンキーはウォード錠の施錠機構を出し抜くよう設計されている。ウォード錠とその鍵はセキュリティ能力が低く、その鍵と同じ寸法かもっと小さいスケルトンキーでも開錠でき、スケルトンキーは多数のウォード錠を開錠できることが多い。スケルトンキーでなくても、ウォード錠の鍵穴にフィットする物体なら開錠できる可能性があった。
ウォード錠は1800年代ごろに最も広く使われていたが、セキュリティ能力が低いため、より複雑な錠前が製造可能になると廃れていった。今では "skeleton key" は本来の鍵の種類を指すのではなく、「合い鍵」の意味で使われることが多い。ウォード錠は今でも古い家や古い家具などに見られる。
チューブラーキー(古いものはバレルキーとも呼ぶ)はチューブラー・ピンタンブラー錠を開錠するための鍵である。中空の円筒形の軸があり、通常の鍵のブレード部分より短く、その直径が大きい。最近のものは、軸の先端から外面に様々な長さの溝が刻まれている。この溝に軸と並行な方向に向いているピンがはまるようになっている。円筒の外面にある突起は鍵がピンに押し出されるのを防ぐ目的があり、円筒の中空部は鍵の回転軸の位置あわせを目的としている。
チューブラーキーは通常の鍵複製用機械では複製できず、専用の機械を必要とするため複製がやや難しい。家庭用警報システム、自動販売機、自転車の錠前などによく見られる。ピンは7本または8本が一般的で、コンピュータでは小型のものを使っている。チューブラーキーはシカゴの Ace lock company が発明した[要出典]。
複製禁止の鍵 (Do Not Duplicate key、DND key) とは、鍵に "do not duplicate" や "duplication prohibited" と刻まれているもので、鍵屋が持ち込まれた鍵の複製をメーカーに無断で行うことを思いとどまらせる効果を期待したものである。さらに重要な点は、これが鍵の所有者(保守者または警備員など)にとって鍵制御システムとして働き、その鍵を自由に複製して配布したり使ったりすべきでないことを示すという意味がある。不正に鍵を複製することを防止することを意図しているが、単に複製禁止であることを書いてあっても複製自体は物理的に可能という問題がある。アメリカでは do not duplicate と刻まれている鍵を無断で複製しても違法ではないが、一部の鍵は特許によって制限されている(後述の「制限付きの鍵」を参照)。Associated Locksmiths of America (ALOA) はDNDキーを「セキュリティとして効果的でない」とし、「安全であるかのような誤った印象を与えるため欺瞞的だ」としている。
制限付きの鍵とは、歯を切る前のブランクキーをそのメーカーが流通を制限しているものをいう。特許で守られていることが多く、メーカー純正以外のブランクキーを使って鍵を複製することを禁じている。多くの場合、鍵を複製するとき鍵屋で身分証の提示を求められる。最近では、磁石を埋め込んだり、特殊な金属を使ったり、ICチップを埋め込むなどして、簡単に複製できないようにしているものが多い。
マグネットキーと対応する錠前は、鍵に磁石を埋め込んでおり、それを施錠・開錠に用いる機構である。
マグネットキーはブレード部に小さな磁石が並んでいて、そのN極とS極の並びによって錠前内部のタンブラーを引き付けたり反発したりすることでシリンダーを回転できるようにする。電気は使っていない。磁石の向きや強さを様々に組み合わせることで数千の組み合わせが可能である[9]。
カードキーは平らな矩形のプラスチックカードで、クレジットカードや運転免許証と同じ大きさであり、物理的またはデジタルの署名が格納されていて、錠前機構がそれを読み取って開錠するようになっている。
カードキーにはいくつかの種類があり、物理的に穴を開けてあるもの、バーコードが印刷されているもの、磁気ストライプカード、ウィーガント・ワイヤを埋め込んだもの、ICカード(集積回路を埋め込んだもの)、RFIDを利用した非接触型のものなどがある。
ホテルで従来の鍵の代替として使っていることが多い[要出典]。
鍵の歴史は古く、世界で最も古い鍵はエジプト錠と呼ばれる木製の鍵で、紀元前2000年ごろには存在していたといわれ[10]、壁画にも描かれている[11]。それ以前は紐を複雑な結び目で結んで鍵の代わりとしていた。
また、中世都市の城門の鍵は都市の象徴であった。その名残で、現在でも姉妹都市の提携をするときには、鍵を交換する。
ルイ16世の趣味は鍵と錠を制作することであった。
アメリカ合衆国では、植民地時代から鍵を権力の象徴とする見方があった。ウィリアム・ペンが1682年にデラウェアを訪れたとき盛大な式典が行われ、そこで彼は防衛の仕事を任されたことを象徴する鍵を与えられた[12]。
金属製の平らな鍵は20世紀初頭から広く使われるようになり、鍵を複製する機械が登場するとそのような鍵は容易に複製できるようになった。
日本で最古の鍵とされるのは、1998年に野々上遺跡(大阪府羽曳野市)から出土した「海老錠」とされ、650年頃のものと推定されている[13]。正倉院にも唐から伝わったと思われる海老錠が収められている。海老錠は古風に「魚鑰」(ぎょやく)ともいうが、もともと錠前は「鎖」「鑰」「鎰」の一字でも表記された。地方を治める国府では、国司の印と正倉の鑰が、令制国統治の証明とされていた。又、「鎖」は「錠前」という字義から、「閉ざす」行為を意味する字にもなっている(例 : 鎖国、封鎖)。
徳川日本(江戸時代の日本)では、庶民にとって鍵はほとんど必要のないものだった。当時の治安は大変よかったうえに、用心する際はほとんど心張り棒で戸締りをしていたからである。鍵をかけるのは当時の金持ちが蔵にかけるぐらいであったが、その鍵は手で簡単に開けられるようなものなど、防犯の意味をあまり成さず、ほとんど飾りだけのようなものが多かった。ただし、城門の閂(かんぬき)には頑丈な錠前が備え付けられていた。なお、蔵などには雨戸などで用いられる落とし錠[14]が用いられることもあった[15]。
武器の需要が減り、仕事が減った刀鍛冶ら武器職人によって、和錠と呼ばれる手の込んだ造りの錠前が作られるようになった。阿波錠(徳島県)、土佐錠(高知県)、因幡錠(鳥取県)、安芸錠(広島県)などが著名とされる[16]。
平らな金属製の鍵を素早く複製する機械はアメリカ合衆国で1917年に発明された(右図)。
鍵の複製は、複製元の鍵と歯を刻んでいないブランクキー(キーブランク)を万力で並ぶように固定し、ガイドに沿わせて元の鍵の歯を動かし、ブランクキー側にそれと同期して切削工具またはグラインダーが当たることで複製するのが一般的である[17]。切削後、新たな鍵のバリ取りをする。バリを残したままでは切削したところの角が鋭すぎて危険であり、錠前機構にも傷がつく恐れがある。他にも様々な鍵複製用の機械があるが、自動化の程度に違いはあるものの基本的な考え方は20世紀初期から変わっていない。
鍵の複製はホームセンターなどでもできるし、専門の錠前店でももちろんできるが、正しいブランクキーが必須である。
複製するのが難しいようにデザインされた鍵もある。また単に Do Not Duplicate と刻まれた鍵もあるが、(アメリカでは)法的にはあまり意味がない。
鍵を複製すると誤差を伴うことがある。多数の鍵を有する組織などでは鍵の形状(切り欠きの深さなど)を記録しておき、そのような数値情報だけから鍵を複製できるようにしておくこともある。
鍵は象徴として様々な紋章に使われており、例えばバチカン市国の国章に使われている。これは、初代教皇ペトロが「天国の鍵」を与えられたという故事に由来する。日本においても、門を閉ざす機能から、鍵には魔除けなどの効果があると考えられ、鍵を意匠化した家紋「鍵紋」が作られ、有名な所では土肥氏が替え紋として使用した[18]。
人々は日常生活に必要な鍵を持ち歩いており、装飾つきのキーホルダーなどでまとめていることが多い。
鍵 (key) は、錠前 (lock) を掛けたり外したりするための道具である。
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