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概日リズム(がいじつリズム、英語: Circadian rhythmサーカディアン・リズム)とは、約24時間11分周期で変動する生理現象で、動物、植物、菌類、藻類などほとんどの生物に存在している。英名である「circadian rhythm」は、ラテン語の「約、おおむね」を意味する「circa」と、「日」を意味する「dies」から名付けられた。つまり「おおむね1日」の意味である。
日、週、季節、年などの単位で経時的に変化する生物のリズムを研究する学問を時間生物学という。
厳密な意味では、概日リズムは内在的に形成されるものであるが、光や温度、食事など外界からの刺激によって修正される。
内在的な概日リズムは、1729年にフランスの科学者ジャン゠ジャック・ドルトゥス・ドゥ・メラン(Jean-Jacques d'Ortous de Mairan)によって初めて科学論文として報告された。彼は植物(オジギソウ)の葉が、外界からの刺激がない状態でも約24時間周期のパターンで動き続けることに気づいた(就眠運動)(ハワード・ヒューズ医療研究所「仮想博物館」を参照)。
概日リズムは、次の3つの基準で定義してよいであろう。
概日リズムは進化上最も古い細胞に起源を持ち、昼間の有害な紫外線下でのDNA複製を回避するために獲得した機能であると考えられている。結果として複製は夜間に行われることとなった。現存するアカパンカビ (Neurospora) は、このような時計制御された複製機構を保持している。
現在知られている中で最も単純な概日リズムを持っている生物は、真正細菌のシアノバクテリア (cyanobacteria) である。最近の研究では、シアノバクテリア (Synechococcus elongatus) の概日リズムは、核となるたった3つのタンパク質を試験管の中に入れるだけで再構築できることが実証された。この時計はATPを補給すれば、22時間のリズムを何日間も持続することができる。以前の学説では概日リズムはDNAの転写翻訳フィードバックループ機構に基づいているとされていたが、この真正細菌の研究によって必ずしもそうではないことが示された。しかし、この説は真核生物においては、まだその通りであると考えられている。真正細菌と真核生物の概日リズムは同様の基本構造(入力–中心の振動体–出力)を持っているが、これらを構成するタンパク質に相同性は全くない。このことは、おそらくそれぞれが独立した起源を持っていることを示している。
概日リズムは人を含む動物において、睡眠や摂食のパターンを決定する点において重要である。脳波、ホルモン分泌、細胞の再生、その他の多くの生命活動には明確な概日リズムが存在している。1970年にArthur T. Winfree(米国)がショウジョウバエで「シンギュラリティ現象」(強い光で概日リズムが一時的に狂う現象)を確認して以降、多種の生物で概日リズムの狂いが観察されている。 身近な現象に当てはめると、夜更かしによる不眠や航空機による移動により生じる時差ぼけの緩和に「強い光が有効」であることは広く知られているが、この発生メカニズムを細胞レベルの実証実験で証明した。[1]
概日リズムは明暗サイクルに関係している。動物は完全な暗闇の中で長期間飼育されると、自由継続リズム (free‐running rhythm) に従って行動する。このような状態にある動物の睡眠サイクルは日々、前進あるいは後退する(内在的な周期が24時間より短い場合は前進、長い場合は後退する)。毎日リズムをリセットする環境からの刺激をZeitgebers[2]という。興味深いことに完全に盲目の地下に住む動物(例えばblind mole rat Spalax sp.)も外界の刺激なしに内在的な時計を維持することができる。
外界からの刺激を絶たれた環境下で生活している人は、しっかりとした睡眠・覚醒リズムを示すが、この睡眠・覚醒リズムは体温や血中メラトニン量のリズムとずれた状態になることがある。このような体内リズムの乱れは規則正しい明暗サイクルを与えることで解消される。この研究は、宇宙船の中の環境設計に影響を与えた。宇宙船の中に明暗サイクルを模擬した環境を作ることで宇宙飛行士の健康を維持するのである。
哺乳類における時計中枢は視床下部の視交叉上核 (suprachiasmatic nucleus; SCN) に存在する。視交叉上核を破壊された動物では、規則正しい睡眠・覚醒リズムが完全になくなってしまう。視交叉上核は光の情報を目から受け取る。目の網膜において光を感受できる細胞は、古くから知られている視細胞の桿体細胞、錐体細胞のみではなく、網膜神経節細胞 (retinal ganglion cell) の一部にも存在する。これらの細胞はメラノプシン (melanopsin) と呼ばれる感光色素を含んでおり、網膜視床下部路を通って視交叉上核に達する。視交叉上核の細胞は、体内から取り出され外界からの刺激がない状態で培養されても、独自のリズムを何年間も刻み続けることができる。
視交叉上核は日長の情報を網膜から受け取り、他の情報と統合し、松果体 (pineal gland) へ送信していると考えられている。松果体ではこの情報に応答してホルモンであるメラトニン (melatonin) を分泌する。メラトニン分泌は夜間に高く昼間に低い。
近年、体のいくつかの細胞が時計中枢である視交叉上核の支配下にないことを示す証拠が現れてきた。 例えば、肝臓の細胞は光より摂食に応答するようである。また、食餌性の概日リズムの形成には視床下部の背内側核が関与しているといわれている。
1997年の時計遺伝子が発見された。全身の細胞はそれぞれ、時計遺伝子の転写翻訳フィードバックグループで形成される「細胞時計」による独自の生体リズムを持っている。[3]これらの同調・微調整に視交叉上核が関わっている。
細胞時計を司る遺伝子には、陽性制御のClock, Bmal1などが、陰性制御のPer遺伝子群、Cry遺伝子群などがある。
リズムの乱れは通常、短期的に良くない影響をおよぼす。多くの旅行者は時差ボケとして知られる状態を経験したことがあるだろう。主な時差ボケの症状として、疲労、失見当識、不眠などがあげられる。いくつかの疾患、例えば双極性障害 (bipolar disorder) や概日リズム睡眠障害などは概日リズム機能の低下と結びつけて考えられている。最近の研究では、双極性障害に見られる概日リズムの乱れは、リチウムの時計遺伝子への効果によって改善されるという報告もされている。
長期的なリズムの乱れは、体の健康を深刻に悪化させる。特に心血管病を発生・悪化させる。 体内時計を考慮して投薬を行うことで、薬の効力を増し、副作用や毒性を減らすことができる可能性が指摘されている。例えば、アンジオテンシン変換酵素阻害薬 (angiotensin converting enzyme inhibitors; ACEi) の時間治療は夜間の血圧を降下させ、左心室の組織再構築(リモデリング)(left ventricular (reverse) remodeling)に良い影響を与える。
概日リズムにより、上記のように内分泌・代謝系および自律神経系も影響を受ける。
視交叉上核以外の脳の部位の概日リズムと時計遺伝子は、コカインなどの薬物の作用に影響する可能性もある。時計遺伝子を操作することでコカインの作用が変化するといわれる。
光が生体時計を調節する能力は位相反応曲線に依存する。 睡眠・覚醒リズムの位相によって、光は生体時計を前進させたり後退させたりする。[1] 必要な光の強さは種によって異なり、例えば、夜行性のげっ歯類の時計は昼行性のヒトより、弱い光で調節される。
光の強さに加え光の波長(色)も、時計を調節する能力を決める重要な因子である。光受容蛋白質であるメラノプシンは青色光(420–440nm)で最も効率よく励起される。
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