出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/04/22 08:52:58」(JST)
本項では 1. について記載する。
尾とは、動物一般において、体の後端付近が細長くなっているものを指す。基本的には脊椎動物のものをこう呼び、それ以外の動物ではそれに似て見えるものを類推的にこう呼ぶ、といったところである。
脊椎動物のうち、四肢動物においては後肢の付け根に肛門が開き、いわゆる内臓はそれより前に収まる。従ってそれより後方は脊椎骨とそれを取り巻く筋肉からなり、それ以前の部分より遙かに単純である。形態的にもそれ以前の部分より細くなって区別できることが多いため、これを区別したものが尾部である。哺乳類と鳥類では仙骨及び尾骨及び周囲の筋肉と皮膚、場合により毛、羽毛または鱗に覆われている。尾は移動(魚類など)、バランス(ネコなど)、把握(サルなど)、社会的シグナル(イヌなど)に使われる。(ヒトやカエルなど)いくつかの動物は尾を完全に失っている。同種の他個体へ信号を送る際に尾は特に便利で、鹿は音に警戒すると他へそれを伝えるために尾を立てる。
この区分を魚類に当てはめると、魚類の肛門は尻びれの前にあるため、それより後ろの部分が尾部である。これは体全体に比べてかなり大きな部分を占め、一般の魚類でも体長の半分近く、ウナギなどでは7割ほどにもなる。しかし魚類ではこの部分は前の部分に比べてぐっと幅が狭くはなっておらず、連続した形を取るため、一般的にはこれを尾とは思われていない。世間一般では尾ひれをさして魚の尾と言うこともよくある。
それ以外の動物では、明確な尾がある例は多くない。節足動物の鋏角類では全身が頭胸部と腹部に分かれるが、腹部が幅広い前半と急に狭くなった後半に分かれていることがよくあり、その場合に後半部が尾部である。また、昆虫類では腹部末端に突起物が出る例があり、それは産卵管や尾肢に由来するものなどであるが、これが往々にして尾と呼ばれる。
この尾の有無は、動物界における旧口動物と新口動物の二大グループを区分する特徴である。旧口動物は身体の後端に肛門が存在するが、新口動物の大半は肛門より後ろに身体の一部が突出する。これが脊椎動物における尾である[1]。新口動物のうち最初期に分化したウニなどは尾を持たないが、ナメクジウオなど頭索動物では背側の体節として脊索が形成され、その延長線上に遊泳器官として尾が発達している[2]。脊椎動物では、魚類にとっての尾は多量の筋肉を支持する部分であり、抵抗の多い水中における推進力の獲得に大きく役立った。
しかし、陸上生活を行う四肢動物ではこのことはあまり意味がない。運動は四肢の働きに大きく依存するようになったことから、前後肢の間は、そこに主要な内臓を囲い、肋骨、骨盤などの発達によってひとかたまりのしっかりした構造を発達させる。これは運動の重心ともなる。それより前の部分は口・感覚器・脳の集まった頭部を支え、それと胴部をつなぐ首として生命の維持に重要な部分となる。
それに対して、胴部より後ろの脊椎を抱える尾部は少なくとも生命に関わるような重要性を失った。むしろ長く重い尾は全身の運動性に対する負担となる。一部の動物では尾の退化が見られる(カエル・カメ・ヒトなど)。鳥類においては尾そのものはその進化のごく初期にごく短く退化し、そこに生える羽毛を尾の代わりに発達させた。また、ドーベルマンなどの犬種では幼い頃に尾を切り落としてしまうが、これもそのような尾の意味合いを示している。さらに、動物本体が自ら切り離す、いわゆる自切もトカゲなどで知られる。なお、昆虫の尾角や尾糸(下記参照)も刺激を受けると切れることがよくある。
従って、尾はそれ以外の役割を担うようになった。例えば全身の運動の補助、意思表示のための仕組み、獲物を捕獲することなどである。
哺乳類は、祖先の初期単弓類の進化の途上において、四肢の配置が身体の側面(側方型)から直下(直立型)へと移行した。運動は四肢を中心に行われるようになり、尾の寄与は少なくなった。それにともない、後半身を支える腰帯とその周囲の筋肉も変化している。中殿筋が発達し、身体の推進と体重の支持を同時に担う様になったかわりに、尾を付着部とし脚を後方へと引く後引筋が縮小している。また同時に尾椎も背面の神経棘及び下面の血管棘(下後方へ伸びるV字の骨)も縮小している。このため外観上は尾と胴体の境界ははっきりしている。ただし、カンガルーやアリクイ、アルマジロなど、明確でないグループも存在する[3]。
四肢の運動に対する尾の重要度は低下したが、様々な役割を演じさせる独特の尾を持つ例も多々ある。運動に寄与する例では、
樹上生活をするものでは、尾はバランスを取ったり、体を支えたりといった役割を担う例が多い。
水中生活に入ったものでは、ひれ状になった例もある。
特に水中へと完全に適応したクジラ類やジュゴン目では腰帯が消失し、遊泳する際の推進力を尾が担う。こうした運動様式は祖先の魚類と同じであるが、魚類が尾を左右に打ち振るのに対し、クジラやジュゴンは哺乳類の地上での走行様式を反映した上下運動となる[5]またこれにともない筋肉に付着部を与える神経棘、血管棘も大きく発達している[6]。
しかしより大型の陸棲動物では尻尾は比較的小さくなっており、実用的な意味が少ない。有蹄類などの尾は大抵体に比べて遙かに小さい。
さらに、感情を表し、個体間の情報伝達のために尻尾が使われる例も多い。
ヒトの胚は全体の1/6ほどの尾をもっていて、胎児へ成長するにつれて体に吸収される。外見上は全く尾がないのだが、骨格としてはそれに当たる部分は存在し、尾骨(尾てい骨)と呼ばれる。
ヒトにおける尾の極端な退化は、直立姿勢を取り、草原で生活することからその利用がなくなったためとする説も存在するが、実際には類人猿はすべて外見上は尾を失っており、樹上性のオランウータンやテナガザルにおいても同様である。
稀に、脊椎なしの血管と筋肉と神経だけの尾を持つ子供が生まれる。これをHUMAN TAILといい、概ねの意味として、腫瘍性病変を除く腰部から肛門縁に見られる突起物と定義されている[7]。
現在では医師がそのような尾を切除することが認められている。ヒトの尾の最長記録は旧フランス領インドシナ在住の12歳の少年の229mm(9インチ)である[8]。
鳥類の尾骨は通常6前後であるが、末端の骨は「尾端骨」と呼ばれ、胎児段階で4 - 7個の椎骨が癒合している[9]。そのため尾に見える部分の大半は羽毛だけであり、通常は尾羽の部分を含めて尾と呼ぶ。
始祖鳥など最初期のグループは、祖先の恐竜の特徴を引き継いでおり長い尾を持つが、現生群などより派生的なグループでは尾は短縮している。その代わりに短い尾には長い羽毛が並び、外見上の尾はそれなりの長さを維持する。飛行の際にはこれを広げ、あるいはその向きや形を変えることで舵などの効果を上げる。またこれにより始祖鳥などでは腰付近にあった重心はより前方へと移動し、揚力を発生される翼付近に存在する。これは、揚力の中心が重心が近い方が飛翔に有利であるためだと推定されている[10]。
また、鳥類の性的二形がある場合、尾羽が特によく発達し、大抵は雄であるが、尾羽が性的なディスプレイに使われる例が多い。極端な例がクジャクである。これは、翼の羽毛は飛行に直結するためにその形に制約が大きいのに対して、尾はそれが少なく、多少長いものでもそれを広げなければ飛行の邪魔にはならないことが考えられる。そのために、特に装飾的な尾羽を持つものは人間が装飾用に利用する例も多く、中にはその捕獲圧のために絶滅した例もある。
トカゲ類の幾つかのグループの尾は、時として逃走のために自ら切断され(自切)、後に再生する。かれらの尾椎の中間には自切面とよばれる弱い面があり、トカゲが危機を感じ、尾の筋肉を収縮させることでこの部分が破断し、尾は切断させる[11]。
地表棲のヤモリなどはラクダの背のコブの様に、尾に脂肪をためているものもあるが、こうした種は自切することで体力が落ち、弱ってしまうことがある[12]。
ワニの尾は力が強く、殴打攻撃の武器として用いられる。
魚類の尾は上記のように肛門の位置以降とすることが出来るが、外見的にはなじみにくいであろう。これは、これの上記のようにこの部分がそれ以前の部分と区切れなく続いていることもあるが、もう一つはなめらかに後部に伸びておらず、後端でほぼ垂直に断たれたあとに尾ひれが続くこともある。
しかしこれは多く目にする硬骨魚類一般に言えることであり、本来の形としてはやはり後方へ長く伸びるものであったと考えられる。たとえば円口類の形はそれで、ほぼまっすぐに伸びた尾の上下にひれが発達している。この形を両尾型といい、他に現在の肺魚類やシーラカンス類もこれに類する形である。軟骨魚類のサメ類でも尾は後方へ長く伸びているが、尾ひれは下側に大きく発達し、尾はそれと対象をなすように上側に曲がる。これは異尾型という。チョウザメ類もこれに近い。それに対して一般の魚類の型を正尾型という。古代魚の一つであるアミアでは見かけ上は正尾型だが骨格は異尾型に近く、このような点からも正尾型は異尾型から導かれたものと考えられる。
節足動物では、鋏角類に真の尾部がある例がある。それ以外にも尾と呼ばれるものはある。
この類では体は頭胸部と腹部からなるが、腹部が幅広い前部と幅の狭い後部に明瞭に分かれる例が多く、この後者は尾部である。例えばカブトガニでは尾部は単節の細長い剣状であり、この類の名である剣尾類はこれに由来する。クモ綱ではごく短い匙状など(ヤイトムシ類など)、細長い鞭状(サソリモドキ)などであるが、サソリでは複数の体節に分かれ、自由に動かすことが出来、先端には毒針を持つ。
なお、化石節足動物には同様の尾部を持つ例が少なくなく、その多くは鋏角類ではないと思われる。
昆虫類では尾と呼ばれる例があるが、尾部ではない。以下のような例がある。
多くの昆虫、特に比較的原始的な類において、腹部末端の肛門節には一対の尾角と一本の尾糸という突起状の構造を持つ。これも尾的な構造ではある。特に、たとえばシミ目やイシノミ目ではその三本全部が、カゲロウ目では三本ないし二本がよく発達しており、時に本体の体長以上に伸びている。
その他に、腹部が細長い場合には尾と呼ばれることもある(トンボなど)が、正しくない。
甲殻類の鰓脚綱と顎脚綱などでは腹部の末端である肛門節に一対の附属肢由来の構造があり、これを枝状肢という。これは枝状であったり糸状であったりと様々だが、これも尾に類するものである。カブトエビではこれは長い鞭状になっている。
軟甲綱では、腹部の末端は尾節と呼ばれ、その前の体節からは一対の尾肢と呼ばれる附属肢的な構造が出る。これらは群によって様々であるがまとまって尾の部分となる。特にそれらが全体に扇のようになったものを尾扇という。いわゆるエビの天ぷらやエビフライで食べ残す「エビの尻尾」はこの部分(とその前の体節)にあたる。
このほか、絶滅群では三葉虫類はその体が前後に三つに区分され、その最後の部分が尾部と呼ばれる。ただしその前の部分から連続した形の体節であり、いわゆる尾の印象は少ない。
彗星のコマ(大気)が伸びて長くなった部分を尾(テール)と呼ぶ。
尾、あるいは尻尾は本体の後ろにくっついていて、それ自身はさほど重要ではない部分の意味に使われる。他方で、尾を掴むのは多くの動物の捕獲法でもある。本体に確実に結びついており、攻撃を避けやすい背後を押さえるので、捕獲への糸口としては有効になる。
マンガ、アニメなどでの尻尾については、サブカルチャーにおける尻尾を参照。
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