出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/06/23 10:31:22」(JST)
小胞体ストレス(しょうほうたいストレス, Endoplasmic reticulum (ER) stress)とは、正常な高次構造に折り畳まれなかったタンパク質(変性タンパク質; unfolded protein)が小胞体に蓄積し、それにより細胞への悪影響(ストレス)が生じることである。小胞体ストレスは細胞の正常な生理機能を妨げるため、細胞にはその障害を回避し、恒常性を維持する仕組みが備わっている。この小胞体ストレスに対する細胞の反応を小胞体ストレス応答 (unfolded protein response: UPR) といい、その情報は小胞体ストレスシグナルによって伝達される。変性タンパク質が過剰に蓄積し、小胞体ストレスの強さが細胞の回避機能を越えると、細胞死(アポトーシス)が誘導され、神経変性疾患などさまざまな疾患の原因となると考えられている。
小胞体ストレスの原因となる変性タンパク質は、遺伝子変異、ウイルス感染、炎症、有害化学物質などにより生じる。変性タンパク質は小胞体ストレスセンサー(IRE1alpha, ATF6, Perk が知られる)によって感知され、小胞体ストレス応答を誘導する。小胞体ストレス応答は、翻訳量を低下させることで小胞体におけるタンパク質の折りたたみを軽減したり、分子シャペロンの量を増やすことで折りたたみ機能を向上させたり、変性タンパク質の除去効率をあげることで小胞体ストレスを取り除くよう働く。小胞体ストレスがこのような細胞の修復機能を越えてしまった場合、アポトーシス誘導因子が活性化され、細胞はアポトーシスを実行する。
小胞体ストレスによる細胞死が組織の恒常性を乱すほど起こった場合、さまざまな疾患の原因となる。たとえば、膵臓ランゲルハンス島のベータ細胞が細胞死により多数失われてしまった場合、糖尿病を発症する。ニューロンで生じた場合、神経変性疾患や双極性障害などが引き起こされる可能性がある。
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