出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/07/10 14:26:59」(JST)
失速(しっそく)あるいはストール(Stall)とは、翼の場合、上面に引き寄せられて沿って流れていた気流が、迎角を大きくしていったときに離れてしまい、揚力が急減したりする現象、あるいはそうなった後の状態である。前者の場合、「失速する」、後者の場合、「失速状態」等ともいう。 減速を伴う事もあるが、それ自体を意味するのではない。
そこから、「景気の失速」など、昇り調子から凋落に変わるという意味の言葉としても使われている。
翼は、上面の気流が、迎角が小さい範囲では、コアンダ効果によって引き寄せられて沿って流れ、圧力が下がり揚力に寄与するが、迎角を大きくしていくと、境界層剥離と呼ばれる現象によって気流が翼の上面に沿って流れなくなる。 それを失速といい、そのときの迎角を失速迎角という[1]。
その結果、一般的な航空機の翼の場合、迎角を大きくしていくと、揚力係数と抗力係数は迎角に比例的に徐々に増加していくが、揚力係数は失速迎角付近でピークになり減少に変わるのに対し、抗力係数は急増するので、揚抗比は急減する。
失速直後は揚力係数は大きいものの、抗力の増加により減速すれば揚力は減り、また気流が乱れるために航空機の場合は姿勢の安定を保つ事も困難な、墜落に繋がりかねない危険な現象である。
一方で、急減速して字義通りに速度を失うためには、抗力が大きくする手段として、失速状態に入る事は有効な手法である。そのため、鳥の中には失速の範囲の迎角も利用するものもある。航空機においてはスポイラー、エアブレーキなどによって意図的に失速状態を利用する事があるが、迎角を大きくする事で失速状態に入る事はほとんど無く、様々な防止策、回復策を講じている。例外として曲芸飛行においては、意図的に失速仰角をとる事がある。
航空機の回復操作は基本的に、エンジン出力を上げてスピードアップし、機首を下げて主翼の迎角を小さくする。 失速は翼の全面積で同時に起こり始めるわけではない。失速すると機首が下がるような設計の方が安全である。 航空機は離着陸時、大きな迎角をとるために失速が発生しやすい上、高度も低い為に対処が間に合わず墜落に至る可能性も高い。
帆船の帆はいささか条件が異なる。航空機にとっては抗力は推進力を阻害する働きをするが、帆船で風下方向に進行する場合は逆に抗力を推進力として利用する。そのため失速状態にある事は、抗力を増大させるという意味で、好ましい条件である。重量のある船体は下部にあるため、気流の乱れによる安定性低下も問題にならない(ただし風が非常に強力であれば、転覆の危険も生じるが)。ただし風上方向に帆走する場合においては、航空機と同じく抗力は推進力の阻害要因であり、揚力を利用して帆走するので、失速しない状態が好ましい。縦帆のような揚抗比の大きな帆は風上方向への帆走能力に優れるが、風上方向へ直進する場合は帆が失速状態に陥り(というより風に逆らうので抗力が大きく)効率が良いとはいえない。そのため効率よく風上方向に進行するには、間切り走りといって、左右ジグザグ方向への帆走が用いられる。
一般的な凧も帆船と同様に抗力を利用するため、失速状態にある。ただし1960年代の米国ではロガロ翼を採用し、揚力を利用する凧が開発され、70年代にはゲイラカイトの商品名で日本でも発売された。従来の凧が大きく仰角を持つのに対し、ロガロ翼を持った凧は仰角が小さく、失速状態に陥らないので、効率がよく、凧揚げがやりやすい事で知られる。
パラシュートや有人宇宙船の大気圏突入時姿勢も、いわば失速状態にあるが、これを失速と表現する事はまずない。
翼の失速特性やレイノルズ数にもよるが、概ね次のような過程を経る。
失速特性は、
によって大きく左右される。
一般に失速しやすい翼型の場合、一旦失速すると迎角が大きく減少するまで回復しないため、機首を大きく下に向け、高度を失うことになる。この回復能力は上記の要因により大きく異なり、一般的に翼厚の小さな翼ほど、また矩形翼よりもテーパー翼の方が回復しづらい。
ディープストールは飛行機のデザイン[3]、また特殊な操縦によって生じる特に危険な失速のことである。飛行機のデザインでいえば、特に垂直尾翼(垂直安定板)の先端付近に水平尾翼がある「T字翼機」に生じやすい。このデザインでは、失速により生じた主翼の乱流交流が水平安定板を覆い、昇降舵を不能にしてしまう。結果、通常は飛行機が失速すると機首下げモーメント(機首を下げる働き)がおこり飛行機は自動的に増速、失速状態から回復するのに対し、この場合は機首上げモーメント(機首を上げる働き)が発生し、機首を下げることにより失速を回復することが出来ない極めて危険な失速状態になる。
これに似た現象がほとんどの飛行機で起こることがすでに知られていたが、ディープストールとして知られたのは、1963年10月22日にBAC 1-11 G-ASHGのプロトタイプが失速により墜落し、犠牲者が出たときからである[4]。この事故を機に、その後多くの飛行機に改良が施され、パイロットに失速の危険をいち早く、かつ明確に知らせるためにスティックシェイカーも取り付けられるようになった。現在、航空会社が使用するすべての飛行機にこのスティックシェイカーが採用されている。にもかかわらず、その後もディープストールが原因とされる事故が続いており、1966年6月3日にはホーカー・シドレー トライデント(G-ARPY)[5]の墜落事故が起こった。この機は1972年6月18日にも同じ原因の事故を起している。1980年4月3日にはビジネスジェットのカナディア チャレンジャープロトタイプが試験飛行でディープストールに突入し、このときは脱出に失敗したテストパイロットの一人が犠牲になっている[6]。1993年7月26日にはカナディア CRJ-100がディープストールを起こしている[7]。
旋回失速(せんかいしっそく、英: rotating stall)とは、ターボ機械を低流量域で運転したときに、翼に生じる失速領域が動翼よりも遅い速度で翼から翼へ回転方向に伝播する不安定現象である[8][9]。
低 流量域で運転すると、羽根の迎え角が小さくなって、失速領域が一部の翼に発生する。すると、その流路への流れが閉塞され(せき止められ)るため、動翼回転 方向に前翼への迎角は減少し、後翼(負圧面側に隣接した羽根)への迎角は増大する。その結果、後翼に失速が発生すると、これまで失速していた翼への迎角は 減り失速から回復する。このため、失速領域は一つの翼に留まることができず、旋回失速を引き起こす。
旋回失速が生じると激しい圧力脈動が引き起こされ、長時間続くと翼に繰り返し荷重が作用し疲労破壊を招くので注意を要する。
羽根付きディフューザを持つ遠心式機械では案内羽根に、軸流式機械では羽根車の方に旋回失速が引き起こされることが多い。
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