出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2019/05/07 04:57:12」(JST)
インフラストラクチャー(英語: infrastructure)とは「下支えするもの」「下部構造」を指す観念的な用語であり、以下の意味がある。
日本ではしばしばインフラ (infra) と略称されるが、インフラストラクチャー (infrastructure) が「下の (infra) 構造 (structure)」を指す通り、本来インフラ (infra) は「下」「未満」を意味する接頭辞で、「下にある」「低い」を意味するラテン語 inferus に由来し、スーパー (super) の対義語である。
日本語では社会基盤、基盤施設、経済基盤という訳語も存在する。中国語の場合は「基础设施(基礎設施)」という訳語が当てられ、朝鮮語の場合は「기반 시설(基盤施設)」と呼ばれることもある。
また、日本語では「下部構造」はドイツ語の「Basis」に由来する別義で用いられるため、インフラストラクチャーの意味で「下部構造」を用いることは少ない[1][2]。
国民福祉の向上と国民経済の発展に必要な公共施設を指す。
公共の福祉のための施設であり、民間事業として成立しにくいため、中央政府や公共機関が確保建設、管理を行う経済成長のための基盤。現在、一部の社会資本は、財政構造改革推進等により民活型社会資本整備としてPFI手法が導入されている。
国民福祉の向上と国民経済の発展に必要な公共施設とは、学校、病院、道路、港湾、工業用地、公営住宅、橋梁、鉄道路線、バス路線、上水道、下水道、電気、ガス、電話などを指し、社会的経済基盤と社会的生産基盤とを形成するものの総称である。建造物からパイプ類、場合によっては電気機器(サーバ等のハードウェア)レベルが該当する。
通常は道路、河川、橋梁、鉄道からガス、電話など社会生活基盤と社会経済産業基盤とを形成するものの総称としてこの語が使用されるが、学校や病院などの公益施設も含まれ、都市計画では道路、河川、鉄道、公園、水道、ごみ処理施設、し尿処理施設等を社会基盤施設としている。主には公共事業で整備され、社会資本として経済、生活環境の基間設備を指す。また、情報化社会の情報網整備や新規分野の法律整備などの意味でも使用される。
バラク・オバマ米国大統領は、ビジネスを魅力的にするために(物流の基盤である)鉄道や高速道路の改修が必要だとし、第2期オバマ政権では道路や橋その他のインフラストラクチャーへの政府支出を増やす計画である[3]。
一般にインフラに該当する財は、市場による供給が著しく不足する可能性がある。そのため、インフラ整備には中央政府や地方自治体が参加し、公共事業として行われるものが多い。インフラは市場によって供給されにくいが、一度公共事業として整備された後は社会資本として経済の供給力に多大な好影響を及ぼす。例えば、都市間高速道路を整備することで、交通コストが低下し、工場立地が容易になり、商圏が拡大することで、域内の経済活動は活性化する。また、灌漑施設を作ることで、農地の生産性は飛躍的に高まる。これらの活性化の結果、当初の建設・整備に要するコストが回収され、公共投資として正当化される。一般に回収は活性化による税収によって行われるが、有料道路など利用者負担で直接回収する場合もある。
堤防やダム建設などは災害対策の側面も持ち合わせている。
2015年の時点で国際通貨基金はここ30年でインフラストラクチャーへの財政支出が低下してきていることを指摘し、世界経済を上向かせるために財政支出拡大が必要と述べた。道路や線路、デジタルインフラストラクチャー、電力網などを整備することで企業が生産性を向上させやすくなる[4]。
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インフラは、物財であるため整備後に維持コストがかかる。経済成長が著しい場合は、インフラ整備がその後の経済成長によって正当化されるが、経済成長停滞や人口増加停滞が発生すると、インフラ予算の割合に占める維持コストが増大し、新設が困難になる。また、維持コストが予算を上回ると、いくつかのインフラに対しては維持放棄をする結果になる。
「維持」は国家財政にとって重たい固定支出になるため、インフラの放漫整備は財政危機を招きやすい。また、インフラ整備に関連した産業が確立されるため、予算削減が困難な場合が多い。20世紀後半には、インフラ整備の合理的性格が地域環境と利益相反するケース(例えば、都市間を最短距離で結ぶ道路や鉄道は通過点の住民には何らの利益ももたらさない)が多発したため、整備をめぐる住民の利害の対立が先鋭化し、整備への否定的な世論が高まった。
インフラを司る業界などが政治と癒着する傾向が強く、汚職官僚は官製談合と呼ばれる不透明さを構築したり、腐敗した政治家による利益誘導が横行してきたため、国民の間でガバナンスに対する不信感を呼んだという背景がある。これは中華人民共和国によって世界で推し進められている史上最大規模[5][6]のインフラ投資プロジェクトである一帯一路で国際問題にもなっている。
日本のインフラは高度成長期に建設されたものが多く、2020年代以降大量更新時代を迎えると言われているが、公共投資が削減されてきているため、更新がままならなくなっている。このため、老朽化による事故が起こっている。[7]
人類が集住を始めた歴史とインフラの歴史は軌を同じくするが、いくつか特徴的な歴史が残っている。メソポタミアでは最古の図書館・ダム・トンネルといったインフラが生まれ、特に「世界初の帝国」と言われるアッシリアの時代が顕著であり、王の道の先駆けとなる公道の建設も行っていた。
インフラ整備で最も有名な国としてローマが挙げられる。古代ローマは、道路・上下水道(ローマ水道)・娯楽施設の整備などで現代に多く通じるものがある。また、その建築技術の水準の高さは、近代に至るまでの歴史上のピークであったと言える(ローマ建築)。特に道路網は、ローマ軍による規格的整備により、広大なローマの版図を維持するために多大な役割を果たした(ローマ街道)。しかし、帝国末期にはそうした大規模インフラの維持コストが嵩み、財政危機と軍事力衰退による帝国滅亡の引き金の一つとなったとされる。
ローマの建築には、石材ではなくコンクリートの高度な技術が存在していたことが特筆される。
19世紀半ばに実用化された鉄道は、短い間に世界中に整備されることになった。
その革命的な「スピード」の改善は、芽生えつつあった国民国家制度を側面から支えた。
また、わずかな距離でも寸断されることが致命的な鉄道の性格は、沿線の軍事的警備を必要としたため、帝国主義の世界分割を加速させることになった。
1930年代の世界恐慌に際して、フランクリン・ルーズベルト大統領は、大規模なインフラ整備によって失業者救済を図った。この後、世界中でインフラが需要面の経済政策として重要になり、経済成長を支えたと言われる。こうした、経済政策はケインズの経済理論をもとに実行されたが、彼の政府による公共投資がアメリカ経済を世界恐慌後の不況から脱出させたわけではなく、その後の第二次世界大戦での戦時好景気がアメリカ経済復活の鍵となったという説を唱える学者もいる。
アメリカは発電所・ラジオ・高速道路(公園道路)・電話・インターネットといったインフラを生み出してきた。
1920年代-1930年代に造られたアメリカの近代的インフラは、50年余り経過すると寿命を一斉に寿命を迎え始め、1980年代には道路や橋梁の劣化が深刻化して社会問題になった。当時のレーガン政権は、地方に対して連邦政府の関与を減らす「小さな政府」を目指す政策を採っていたが、インフラの老朽化対策については、陸上交通支援法を制定したほかガソリン税を値上げして財源を確保するなど積極的に関与する方針を打ち出した。こうした施策が功を奏して1990年代以降は、インフラの老朽化による社会損失は徐々に低下していった[8]。
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