重症筋無力症
- first aid step1 2006 p.189,201,294,414
概念
- 神経筋接合部の興奮伝達ブロックにより、筋の脱力・易疲労性が生じる疾患で、自己免疫疾患とされている。
- 胸腺疾患(胸腺腫など)の合併が多く、胸腺摘出が根治療になりうる。またステロイド、免疫抑制薬、血漿交感が治療のオプションとなる。
病因
- 神経筋接合部のシナプス後膜に対する標的(アセチルコリン受容体など)に対する自己抗体が、アセチルコリンの結合を阻害したりアセチルコリン受容体の数を減少させ、あるいは補体系を介した細胞膜破壊を引き起こす自己免疫疾患。
- 筋収縮は末梢神経終末からアセチルコリンが分泌され、それがシナプス後筋線維膜に存在するアセチルコリン受容体タンパクと結合して終板電位を起こし、これが閾値に達すると筋活動電位が発生する。シナプス後膜レベルでの伝導障害が本疾患の本態
疫学
- MGの有病率:1-7/10,000。女性20-30歳代最大に多い。男性50-60歳代に多い。男女比:3:2。(HIM.2672-)
- 発症率:日本では4-6人/10万人。女性の 20-40歳代で多く、男性では 50歳代以上に多い。
病型分類
- Ossermanの病型分類
- A:小児型:新生児型、若年型
- B:成人型
- I型:眼筋型
- IIA型:全身型(軽症)
- IIB型:全身型(中等症)
- III型:急性劇症型
- IV型:晩期重症型
病態
- 筋脱力、易疲労性と症状の変動(夕方、反復動作で悪化。朝、休息後、睡眠後に軽快)
症状
- 筋脱力
-
- 眼 :眼瞼下垂、複視 外眼筋に神経筋接合部が多いため、眼症状は出現しやすい
- 舌 :舌筋の萎縮
- 表情筋:筋無力症性顔貌
- 喉頭 :言語障害
- 咽頭 :嚥下障害
- 横隔膜:呼吸困難
- 肋間筋:呼吸困難
- 四肢 :歩行障害(近位筋優位・上肢優位の筋脱力)
- 易疲労性
- 筋萎縮:まれ。舌に縦走する三本の陥没を見る場合がある。
HIM.2672-
- 主要な症状は筋脱力と疲労性。筋肉の反復使用で悪化。急速や睡眠で改善。MGの経過は様々(個人差が大きいってことか)。発病から2,3年は緩解したり発症したりする。まれに完全に緩解する。全身疾患や未治療の感染症があると筋脱力が悪化したりmyasthenic crisisを起こしたりする。。
- 筋脱力の分布は特徴的。頭部特に眼瞼や外眼筋にみられる。複視や眼瞼下垂が普通の最初の訴えである。
- 表情筋の筋脱力で笑おうとしたときに"snarling"を生じる。咬筋の筋脱力は咀嚼を長い間したときに認められる。
- Speech may have a nasal timbre caused by weakness of the palate or a dysarthric "mushy" quality due to tongue weakness.
- Difficulty in swallowing may occur as a result of weakness of the palate, tongue, or pharynx, giving rise to nasal regurgitation or aspiration of liquids or food
- Bulbar weaknessはMuSK antibody?positive MGのときにとくに著明となる。
- 85%までの患者で筋脱力が全身性となる。3年以上、筋脱力が外眼筋に限局している場合、筋脱力が全身性になることはない。→ ocular MG
- MGの筋脱力は近位部であり、非対称性である。深部腱反射は保たれる。筋脱力が呼吸筋におよび呼吸補助が必要になったら、その患者はin crisisと呼ばれる。
重症筋無力症と関連する疾患。(HIM.2672-)
- MG患者の~75%が胸腺の異常を有している。
- 40歳以上の患者で胸腺が肥大していたら胸腺腫が疑わしい。
- 患者の3-8%が甲状腺機能亢進症を有しており、重症筋無力症の症状を悪化させる。
- 甲状腺機能検査はMGを疑う患者すべてに行うべき。
- どんな慢性感染症でもMGを悪化させる。
- 呼吸機能検査はやる価値がある。MGでは頻繁にそして重度の呼吸機能低下をきたす。
- 胸腺の疾患:胸腺腫、胸腺過形成
- 他の自己免疫疾患:橋本病、グレーブス病、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、自己免疫性の皮膚疾患、他の家族性の自己免疫疾患
- 重症筋無力症を悪化させる疾患:甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、潜在性の感染症、治療中の他の疾患
- 治療に干渉する疾患:結核、糖尿病、消化性潰瘍、消化管出血、腎疾患、高血圧、ぜんそく、骨粗鬆症、肥満
合併症
- 70-80%の患者で胸腺異常(過形成または胸腺腫)を認める。
診察
- 眼瞼下垂:開閉眼の繰り返しで誘発、また上方視の持続で誘発することができる。
- 反復動作で上肢・近位筋優位の易疲労感・脱力を誘発することが可能であり、急速により改善することをみる。
診断
鑑別診断
| (CASES) | ||
| 上位and/or下位 運動ニューロン |
motor neurone disease 運動ニューロン疾患 |
線維束性攣縮。進行例では筋力低下 |
| 筋 | muscular dystrophy 筋ジストロフィー |
ある種の筋肉が選択的に筋力低下する。家族歴がある。 |
| 筋 | dystrophia myotonica 筋強直性ジストロフィー |
咬筋、側頭筋、胸鎖乳突筋の筋萎縮、四肢遠位端の筋萎縮。顔貌が特徴的(前頭部脱毛、無表情、窪んだ頬)。家族歴ある。筋電図が診断に有用(急降下爆撃音)。 |
| 筋 | polymyositis 多発筋炎 |
普通は皮疹と関節痛が出現。CKが上昇。筋生検が診断に有用 |
| 筋 | myopathy ミオパチー |
甲状腺中毒性ミオパチー、甲状腺機能低下症によるミオパチー、クッシング症候群によるミオパチー、アルコール性のミオパチー |
| 神経筋接合部 | non-metastatic associations of malignancy (paraneoplastic syndrome(傍腫瘍性症候群 = 腫瘍随伴症候群)のこと) |
胸腺腫の症例の10%に重症筋無力症がみられる。ランバート・イートン筋無力症症候群は小細胞癌と関連がある。 |
| (HIM.2674) | ||
| 神経筋接合部 | congenital myasthenia syndrome 先天性筋無力症症候群 |
|
| 神経筋接合部 | drug-induced myasthenia 薬剤性筋無力症 |
重症筋無力症の誘発:ex. ペニシラミン(強皮症や関節リウマチの治療薬。筋力低下は軽度で拭くよう中断で改善) |
| 重症筋無力症の悪化:ex. アミドグリコシド系抗菌薬、プロカインアミド | ||
| 神経筋接合部 | Lambert-Eaton myasthenic syndrome ランバート・イートン筋無力症症候群 |
全身の筋肉が冒されるが、特に下肢の近位筋が冒される。MGと同じように~70%の患者で脳神経所見(眼瞼下垂、複視など)が認められる。MGと違うのは(1)反射が消失・減弱すること、(2)自律神経系の変化(口渇、勃起不全)を生じる、(3)神経刺激検査で漸増(waxing)が見られることである。病因は神経筋接合部のP/Q type calcium channelsに対する抗体の出現であり、85%の患者で見いだされる。治療はMGのように血漿交換や免疫抑制薬が使われる。3,4-DAPやpyridostigmineは症状に対する治療のために用いる。前者は運動神経の終末部でカルシウムチャネルをブロックし活動電位を延長させる。後者はアセチルコリンエステラーゼを阻害してシナプスにおける神経伝達物質の濃度を上げる。 |
| 精神疾患 | neurasthenia 神経衰弱症 |
歴史的な用語。器質的な障害を伴わない筋無力症のような脱力を伴う症候群。患者は筋脱力や疲労を訴えてやってくる。筋肉の検査では器質的変化は認めないが"jerky release"あるいは"give-away weakness"が認められる。患者の主訴は反復動作による筋力低下よりむしろ疲労や感情鈍麻である。 |
| 内分泌疾患 | hyperthyroidism 甲状腺機能亢進症 |
MGが疑われる患者にはthyroid function testをルーチンにやる。甲状腺機能異常は筋無力症の筋力低下を大きくすることがある。 |
| 神経筋接合部 | botulism ボツリヌス症 |
ボツリヌス毒素はシナプス前膜からの神経伝達物質の開口分泌を妨げる。症状はbulbar weakness (複視、構音障害、嚥下困難)。感覚障害はない。深部腱反射は初期には保たれている。進行すれば反射は見られなくなる。筋脱力は全身性。呼吸困難に陥ることがある。精神状態は正常。自律神経症状(麻痺性イレウス、便秘、urinary retention、瞳孔の散大、瞳孔の反応性低下、口渇)。確定診断は血清中の毒素の検出だけど、見つかることはまれ。神経伝導検査(nerve conduction studies):compound muscle action potentials (CMAPs)の低下。高頻度の刺激で振幅が増加。治療:intubation for airway protection、呼吸補助、aggressive inpatient supportive care(e.g., nutrition, DVT prophylaxis)。馬の抗毒素を検査結果が帰ってくる前に投与する(?)。 |
| 上位運動ニューロン | intracranial mass lesions 頭蓋内占拠病変 |
複視はintracranial mass lesionが外眼筋の神経を圧迫することにより生じる。 |
| 筋 | progressive external ophthalmoplegia 進行性外眼筋麻痺 |
外眼筋の筋脱力を伴う。四肢の近位筋の筋力低下やそのほかの全身症状を伴うことがある。ミトコンドリアの異常を有する。 |
検査
- 筋肉の破壊を示唆する所見はない:CK, AST, LDH, CRP
- 1. テンシロンテスト(抗コリンエステラーゼ薬):エドロホニウムの静注(2mg->3mg->5mg)で症状が1分以内に改善し数分間持続する。
- 2. 誘発筋電図検査:漸減現象(wanning) → 末梢運動神経の反復電気刺激により活動電位(M波)が減衰する(2-3Hzの低頻度反復刺激)。
- 3. 血清抗アセチルコリン受容体抗体(抗AChR抗体):陽性 → 85%の例で陽性。陰性でも否定はできない。病勢の判断に使用できる
- 4. 筋特異的受容体型チロシンキナーゼ抗体(抗MuSK抗体):陽性 → 抗AChR抗体陰性でも、その約70%が本抗体陽性となる。
- 5. 胸部X線CT:胸腺腫や肺癌(小細胞癌)のスクリーニング
HIM.2672-
- 画像検査:胸部のCT, MRI → 胸腺腫のスクリーニング
- 血清学的検査:全身性エリテマトーデスのスクリーニング検査、抗核抗体、リウマトイド因子、抗甲状腺抗体
- 甲状腺機能検査
- PPD skin test:結核の検査
- 胸部X線検査:結核の検査
- 空腹時血糖検査:耐糖能異常(糖質コルチコイドの副作用)
- 肺機能検査:重症筋無力症の病態把握
- 骨密度検査(老人):糖質コルチコイドの副作用
治療
- IMD.1075
- 薬物療法
- 抗アセチルコリンエステラーゼ薬
- 糖質コルチコイド ← (CASES p.36によると第一選択らしいが)
- 適応:症状が強く全身性で、血清抗AChR抗体高値、かつ胸腺腫
- プレドニゾロン30-60mg/日まで漸増
- プレドニゾロン1mg/kg/日で2-3か月維持した後に、再発を防ぐため漸減する。
- 2-3年で少量の維持量で寛解状態を維持できる。
- 5年以上経過したところで終了できる場合がある。
- ステロイドパルス療法
- 適応:重症難治例
- 免疫抑制薬
- 適応:難治例、副作用によりステロイドが使用できない・効果が不十分な例。
- 処方例:プログラフ 1mg 3C 夕食後
- 手術療法
- 胸腺摘除
- 適応:良い適応は診断後5年以内かつ胸腺腫が無い場合(CASES.36)。
- 適応は手術に耐えることができれば、年齢は問わないが、高齢者の場合は慎重に検討が必要な場合がある。
- 術前にステロイド治療を開始する場合がある。
- 適応:難治例、クリーゼ時
- 放射線療法
- 適応:悪性胸腺腫か胸腺異所迷入例であって胸腺摘除後
HIM.2672-
- 薬物療法:コリンエステラーゼ、グルココルチコイド、免疫抑制薬、免疫グロブリン製剤
- 手術療法:胸腺摘出術
- その他の治療:血漿交換
禁忌
- 医療禁忌マニュアル
- ベンゾジアゼピン系薬などの筋弛緩作用を有する薬物の投与により呼吸不全の危険がある ex. ミダゾラム
- アミドグリコシド系抗菌薬は神経接合部作用があり、重症化の恐れ
- インターフェロンα:クリーゼを起こしたという報告があり、一旦起こると薬物を中止しても進行し重症化しうる。
予後
- ほとんどの患者が適切な処置によりfull productive livesに復帰できる。(HIM.2672-)
国試
参考
- 1. [charged] Treatment of myasthenia gravis - uptodate [1]
クリーゼ(急性増悪)
- コリン作動性クリーゼや筋無力性クリーゼがある。
- 治療のオプションは呼吸管理、血漿交換療法