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爆傷(ばくしょう、blast injury)とは、爆発物や偶発的な爆発事故によって受ける外傷の総称である。
特徴
爆発は気圧、熱、破片など様々な要素で人体に損傷を及ぼすため、それぞれの損傷について知っていなければ治療できない。爆発のエネルギーが人体を損傷する形態は以下の4つに分類される[1]。
一次的爆傷
急激な気圧の変化による損傷。爆発による爆風の強さは爆心からの距離の2乗に反比例するため、爆発物の極めて近くにいた人にしか生じない[2]が、閉鎖空間における爆発はその限りでない[3]。
これは、入射波と反射波が合わさる融合波面では圧力が2倍近くにまで高まるためであり、密室では複数の融合波面が形成され圧力が3倍以上にまで高まることもあるためである。
一次的爆傷を受けた人間は、外傷性鼓膜穿孔を起こしていることが特徴である。このような被災者は緊張性気胸や血気胸を起こす恐れが高く、後に肺挫傷、急性呼吸窮迫症候群、肺水腫[4]、空気塞栓などの疾患も起こし易い。他に結腸などの空気を含む臓器、或いは眼底出血によって視力を失っている場合や重傷の場合には眼球が破裂することがある。
爆発事案の際にはいち早く爆心地を同定し、そこからの個々の被災者の距離を確かめ、さらに鼓膜損傷の有無を見ることで、肺損傷や空気塞栓の危険を見極めなければならない。
入射爆風の過圧が低い場合でも目と耳が真っ先に損傷を受けるため、致命的な臓器損傷が無くても被災者が視力と聴覚を同時に失っている場合があり、軽症の被災者がパニックに陥るなどして処置が困難になることがある。
二次的爆傷
爆風によって飛散した破片による損傷。爆風による外傷と破片による外傷は症状も処置も異なるため、一次と二次として区別する。
二次的爆傷は事故の際にも起きるが、戦時やテロ行為の際には殺傷能力を増すため爆発物に金属片が混ぜられており、二次的爆傷を蒙る被災者は多い。多発性の穿通創となり、単なる銃創よりはるかに重症である[5][6]。一次的爆傷と同様、爆心に近いほど重い損傷を負い易いことから、そうした被災者は上記の肺障害も起こし易いといえる[2]。
基本的に殺傷半径は爆風よりも破片のほうが広範囲に及び直接の死亡原因となるのは二次的爆傷であることが多い。
むしろ、手榴弾や迫撃砲などは二次的爆傷による殺傷を目的として設計されており、軍用兵器では破片の威力に重点が置かれている。
三次的爆傷
体全体が爆風で壁に叩き付けられたり、建造物の倒壊などによる損傷。前者では体表に創傷が無いにもかかわらず大量の内出血を来たしたり、後者ではクラッシュ症候群になることによって致命的となる。
四次的爆傷
一次~三次以外の原因による外傷。爆風の熱による熱傷や、発生した化学物質による化学的損傷。
特に爆薬が爆発すると遊離炭素と一酸化炭素が大量に発生するため、一次的爆傷による肺疾患と合併症を起こすことが多い。
治療
爆発の規模、殺傷を目的とした爆発物か否か[7]、建造物の倒壊を伴っているか否か、閉鎖空間か否か、個々の被災者の爆心地からの距離といった情報は、適切なトリアージに当たって必要な情報ではある[8]が、初療の段階でこれらの情報がえられることはまずないといっていい。そのような不明確な状況下でまず必要なのはJATECに基づいたABCの評価と、FAST(胸腹部超音波エコー)による2次的トリアージである。
爆発事案は重傷度の高い患者が特に多く発生することから、トリアージは難しいものとなる[9]。一つの指針として、「血圧低下に頭部穿通外傷か三肢以上の損傷のいずれかを伴う[10]」場合、あるいは「熱傷、四肢轢断、開放骨折を伴っている[11]」場合は黒タグ(死亡)扱いとする、と言う考え方も提示されている。
また、戦時或いはテロ行為による爆発の際には、放射性物質(汚い爆弾)や化学兵器が混入されていることがあり、治療の前に除染が必要となる。このことから、近年ではマルチハザードとしての観点からCBRNE災害と総称されることが多い。一次的爆傷による肺障害は気管挿管と人工呼吸器管理が必要となるが、適切に治療すれば救命率は高い[12]。
参考文献
総説
- CDC Mass Casualties | Explosions and Blast Injuries: A Primer for Clinicians - アメリカ疾病予防管理センター
- DePalma RG, Burris DG, Champion HR, Hodgson MJ. "Blast injuries." NEJM. 2005 Mar 31;352(13):1335-42. Review. No abstract available. PMID 15800229
- Singer P, Cohen JD, Stein M. "Conventional terrorism and critical care." Crit Care Med. 2005 Jan;33(1 Suppl):S61-5. Review. PMID 15640681
- Haywood I, Skinner D. "ABC of major trauma. Blast and gunshot injuries." BMJ 1990 Nov 3;301(6759):1040-2. Review. No abstract available. PMID 2249057
出典
- ^ Zuckerman S. "Experimental study of blast injuries to the lungs." Lancet. 1940;ii: 219-24.
- ^ a b Gruss E. "A correction for primary blast injury criteria." J Trauma. 2006 Jun;60(6):1284-9. PMID 16766972
- ^ Chaloner E. "Blast injury in enclosed spaces." BMJ 2005 Jul 16;331(7509):119-20. Epub 2005 Jul 11. No abstract available. PMID 16009670
- ^ http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMicm1203842
- ^ Sheffy N, Mintz Y, Rivkind AI, Shapira SC. "Terror-related injuries: a comparison of gunshot wounds versus secondary-fragments-induced injuries from explosives." J Am Coll Surg. 2006 Sep;203(3):297-303. Epub 2006 Jun 19. PMID 16931301
- ^ Peleg K, Aharonson-Daniel L, Stein M, Michaelson M, Kluger Y, Simon D, Noji EK; Israeli Trauma Group (ITG). "Gunshot and explosion injuries: characteristics, outcomes, and implications for care of terror-related injuries in Israel." Ann Surg. 2004 Mar;239(3):311-8. PMID 15075646
- ^ Kluger Y, Peleg K, Daniel-Aharonson L, Mayo A; Israeli Trauma Group. "The special injury pattern in terrorist bombings." J Am Coll Surg. 2004 Dec;199(6):875-9. PMID 15555970
- ^ Arnold JL, Halpern P, Tsai MC, Smithline H. "Mass casualty terrorist bombings: a comparison of outcomes by bombing type." Ann Emerg Med. 2004 Feb;43(2):263-73. PMID 14747818
- ^ Almogy G, Belzberg H, Mintz Y, Pikarsky AK, Zamir G, Rivkind AI. "Suicide bombing attacks: update and modifications to the protocol." Ann Surg. 2004 Mar;239(3):295-303. PMID 15075644
- ^ Nelson TJ, Wall DB, Stedje-Larsen ET, Clark RT, Chambers LW, Bohman HR. "Predictors of mortality in close proximity blast injuries during Operation Iraqi Freedom." J Am Coll Surg. 2006 Mar;202(3):418-22. Epub 2006 Jan 20. PMID 16500245
- ^ Almogy G, Luria T, Richter E, Pizov R, Bdolah-Abram T, Mintz Y, Zamir G, Rivkind AI. "Can external signs of trauma guide management?: Lessons learned from suicide bombing attacks in Israel." Arch Surg. 2005 Apr;140(4):390-3. PMID 15837890
- ^ Avidan V, Hersch M, Armon Y, Spira R, Aharoni D, Reissman P, Schecter WP. "Blast lung injury: clinical manifestations, treatment, and outcome." Am J Surg. 2005 Dec;190(6):927-31. PMID 16307948
関連項目
- 爆発
- 爆弾
- テロリズム
- 災害医療
- 対爆スーツ
- 外傷性脳損傷
- 頭部外傷
- 海軍生体解剖事件 - 研究のため爆風にさらす人体実験が行われた。
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- 1. 成人の外傷患者の入院管理の概要overview of inpatient management of the adult trauma patient [show details]
…high-speed motor vehicle collisions, falls, assault, penetrating injury, and blast injury (often combined blunt and penetrating trauma) . Pulmonary contusion is often not initially suspected because the …
- 2. 耳圧外傷ear barotrauma [show details]
…slows any compensation to changes in gas partial pressures and makes it more susceptible to injury . Blast injuries have become a more prevalent cause of barotrauma with the increased incidence of war and …
- 3. 成人患者における外傷性胃腸障害traumatic gastrointestinal injury in the adult patient [show details]
…shotgun wounds are more likely to result in multiple injuries to the hollow viscera compared with stab wounds because of their high energy. A blast injury can also result surrounding the tract of a projectile …
- 4. 成人患者の重度下肢外傷severe lower extremity injury in the adult patient [show details]
… vehicle collisions to blast and fragmentation injuries. The nature and severity of lower extremity injuries differs between the military and civilian settings. Military extremity injuries are primarily due …
- 5. 鈍的外傷による心損傷cardiac injury from blunt trauma [show details]
… abrupt pressure fluctuations in the chest and abdomen, shearing from rapid deceleration, and blast injury . In addition, fragments from rib fractures can directly traumatize the heart. The right heart …
Japanese Journal
- 爆傷診療 (特集 症例から考える重症外傷診療 : あなたならどうする!?) -- (わが国の外傷診療の弱点を考える)
- 永田 高志,下 真也,永田 宗一郎
- 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 44(10), 1311-1317, 2020-09
- NAID 40022370297
- 広島における放射線被ばくの研究と医療 : 第1回原子爆弾後障害研究会への文脈 (第60回原子爆弾後障害研究会特集号)
Related Links
- 特徴 [編集] 爆発は気圧、熱、破片など様々な要素で人体に損傷を及ぼすため、それぞれの損傷について知っていなければ治療できない。爆発のエネルギーが人体を損傷する形態は以下の4つに分類される [1]。 一次的爆傷 [編集]
- 爆傷には物理的外傷と心的外傷の両方が含まれる。物理的外傷には,骨折,呼吸障害,軟部組織および内臓の損傷,ショックを伴う内部および外部の失血,熱傷,感覚障害(特に聴覚および視覚)などがある。爆傷の5つ機序が記載され ...
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★リンクテーブル★
[★]
- 45歳の男性。爆発事故現場で受傷したため搬入された。
- 現病歴:爆発によって崩落した建物の下敷きになり、 4時間後に救出された。
- 現 症:意識は清明。体温37.6℃。脈拍108/分、整。血圧98/62mmHg。呼吸数24/分。 SpO2 100%(4L/分酸素投与下)。両下肢と殿部とを中心に広範囲に点状出血を認める。右下肢に運動麻痺と知覚障害とを認める。救急室の看護師から、尿が赤いとの報告を受けた。
- 引き続き行われた検査の結果を示す。
- 血液所見:赤血球402万、 Hb12.0g/dL、 Ht35%、白血球18,000、血小板18万。血液生化学所見:総蛋白5.6g/dL、アルブミン3.0g/dL、尿素窒素12mg/dL、クレアチニン1.0mg/dL、 AST335IU/L、 ALT102IU/L、 LD 1,099IU/L(基準176-353)、 CK36,000IU/L(基準30-140)、 Na130mEq/L、 K 7.5 mEq/L、 Cl94mEq/L、Ca7.2mg/dL。動脈血ガス分析(自発呼吸、 4L/分酸素投与下) : pH7.30、 PaCO2 25Torr、 PaO2 120Torr、 HCO3- 12mEq/L。
[正答]
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[★]
- 英
- wound
- 関
- 創傷、傷つける