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ドコサヘキサエン酸 | |
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IUPAC名 | (4Z,7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,16,19-ヘキサエン酸 |
別名 | DHA、セルボン酸 |
分子式 | C22H32O2 |
分子量 | 328.49 |
CAS登録番号 | [6217-54-5] |
形状 | 無色油状 |
融点 | -44 °C |
ドコサヘキサエン酸(ドコサヘキサエンさん、Docosahexaenoic acid、略称 DHA )は、不飽和脂肪酸のひとつ。分子式 C22H32O2、示性式 CH3CH2(CH=CHCH2)6CH2COOH で、6つの二重結合を含む22個の炭素鎖をもつカルボン酸 (22:6) の総称であるが、通常は生体にとって重要な 4, 7, 10, 13, 16, 19 位に全てシス型の二重結合をもつ、ω-3脂肪酸に分類される化合物を指す。
魚油に多く含まれ、日本人は魚類を食べることによって多く摂取していたが近年は減少している。 ヒトでは、体内で合成できないα-リノレン酸から体内でDHAを合成するため、広義では必須脂肪酸となる。健康増進効果があるとされ、EPAと同様にサプリメントや食品添加物として利用されている。
魚やその他の生物に含まれるDHAの多くは、ラビリンチュラ類の1属である Schizochytrium 属などのような海産の微生物によって生産されたものが、食物連鎖の過程で濃縮されたものである。多くの動物は体内でα-リノレン酸を原料としてEPAやDHAを生産することができるが、α-リノレン酸からEPAやDHAに変換される割合は10-15%程度である[1]。
ヒトでは、DHAは食品から摂取される以外に、2つの経路によって代謝生産される[2]。どちらも出発原料はα-リノレン酸であるが、中間生成物が異なる。
ひとつはエイコサペンタエン酸 (20:5, ω-3) を原料とし、エロンガーゼによって2炭素増炭されドコサペンタエン酸 (22:5 ω-3) がつくられた後、Δ4-不飽和化酵素によって水素が引き抜かれて生成する過程である。
もうひとつの経路は、ペルオキシソームあるいはミトコンドリア中で進行すると考えられているもので、エイコサペンタエン酸が2回2炭素増炭されて (24:5 ω-3) となった後、Δ6-不飽和化酵素により不飽和化されて (24:6 ω-3) となり、その後β酸化によって炭素鎖が切断されDHAが生成する。この経路は"Sprecher's shunt" として知られている。
「日本人の食事摂取基準(2010年版)」ではエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸については1日に合計で1g以上の摂取が望ましいとされている[3]。魚油食品、タラ、ニシン、サバ、サケ、イワシ、ナンキョクオキアミは、エイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸のようなω-3脂肪酸に富んでいる。 1日3g以上のDHAの摂取で、凝血能が低下し出血傾向が起きることがある[4]。
魚介類100g中の主な脂肪酸については魚介類の脂肪酸を参照のこと。
細胞膜は流動性を持ち、脂質や膜タンパクは動いている。この流動性は膜の構成物質で決まる。たとえば、リン脂質を構成する脂肪酸の不飽和度(二重結合の数)に影響され、二重結合を持つ炭化水素が多いほど(二重結合があるとその部分で炭化水素が折れ曲がるので)リン脂質の相互作用が低くなり流動性は増すことになる。例えばDHAは不飽和度が極めて高く細胞膜の流動性の保持に寄与している。例えば、赤血球について、動物性脂肪に多い飽和脂肪酸は赤血球膜を硬直化し[5]、逆に魚に多いω-3脂肪酸は赤血球膜を柔軟化する[6]。神経細胞は、軸索や樹状突起などの凹凸の多い入り組んだ構造を有しているため、膜成分が極端に多くなっている[7]。DHAは、神経細胞の細胞膜を柔らかくし、樹状突起を増やしたり、軸索の成長を促して脳・神経系の健全性を保つ[8]。
DHAは精液や脳、網膜のリン脂質に含まれる脂肪酸の主要な成分である。DHAは脳内にもっとも豊富に存在する長鎖不飽和脂肪酸で、EPAは脳内にほとんど存在しない[9]。これは投与されたEPAは脳内に移行したのち,速やかにDPAさらにはDHAに変換されるためであることが指摘されている[10]。他方、ラットの動物実験で脳のリン脂質においてDHAを摂食すると脳リン脂質中のDHAの割合は増加したが、DPA及びEPAは摂食しても脳のリン脂質脂肪酸組成にはほとんど影響を及ぼさなかったことから、DHAは脳関門を通過できるが、EPAを含めた他のω-3脂肪酸は脳関門を通過することができない可能性が示唆されている[11]。また、ヒトのモデル細胞実験で各種脂肪酸によるDHA取り込みに対する阻害効果を検討した結果、リノール酸、アラキドン酸及びエイコサペンタエン酸(EPA)によって阻害され、オレイン酸によって阻害されなかった。従って、DHAは何らかの脂肪酸選択的な輸送機構を介して取り込まれることが示唆されている[12]。
DHAの摂取は血中の中性脂肪(トリグリセライド)量を減少させ、心臓病の危険を低減する。また、DHAが不足すると脳内セロトニンの量が減少し、多動性障害を引き起こすという報告がある[13] 。アルツハイマー型痴呆[14], [15]やうつ病などの疾病に対してもDHAの摂取は有効であるといわれている。[要出典]一方で、DHA投与がアルツハイマー病の症状を改善しなかったとの報告[9]や悪玉コレステロールのLDLを大幅に上昇させることがわかっている。
うつ病が20世紀になって増加しているがω-6脂肪酸を多く含む植物油の摂取が増加したことと軌を一にする。[要出典]
日本の患者数の年度ごとの増加傾向には、高齢化やうつ病についての啓発活動による受診率の増加が原因としてあげられる。[16]
うつ病患者においてはω-6脂肪酸からアラキドン酸を経て生成される炎症性の生理活性物質であるエイコサノイドのレベルが高いということが示されている[17][18]。シーフードをたくさん摂取するところほど母乳内のDHAは高く、産後うつ病の有病率は低かった。母体から胎児への転送により、妊娠・出産期には母親には無視できないω-3脂肪酸の枯渇の危険性が高まり、その結果として産後のうつ病の危険性に関与する可能性がある。健常者と比較してうつ病患者はω-3脂肪酸の蓄積量が有意に低くω-6とω-3の比率は有意に高かったことが指摘されている[1]。
男性より女性のほうが2倍ほどうつ病になりやすいとされている[19]。
女性の発症率の高さについては、妊娠・出産期・閉経期・月経前(PMS、PMDD、セロトニンの減少)の女性ホルモン、セロトニンの激減がマタニティブルーや産後うつに関与している可能性がある。産後うつは乳児の育児時の睡眠不足もある。[20]日本ではうつ病が増加傾向にあるが、女性の高齢化による自然増もある。
ω-3脂肪酸の摂取がうつ病の治療に効果があるか、日本でのエビデンスは希薄である。[21]
項目 | 分量(g) |
---|---|
脂肪 | 10.3 |
飽和脂肪酸 | 2.3 |
16:0(パルミチン酸) | 0.919 |
18:0(ステアリン酸) | 1.273 |
一価不飽和脂肪酸 | 1.89 |
18:1(オレイン酸) | 1.646 |
20:1 | 0.222 |
多価不飽和脂肪酸 | 1.586 |
20:4(未同定) | 0.319 |
22:5 n-3(ドコサペンタエン酸(DPA)) | 0.374 |
22:6 n-3(ドコサヘキサエン酸(DHA)) | 0.851 |
項目 | 分量(g) |
---|---|
脂肪 | 9.21 |
飽和脂肪酸 | 2.079 |
14:0(ミリスチン酸) | 0.04 |
16:0(パルミチン酸) | 1.029 |
18:0(ステアリン酸) | 0.999 |
一価不飽和脂肪酸 | 1.659 |
16:1(パルミトレイン酸) | 0.12 |
18:1(オレイン酸) | 1.069 |
多価不飽和脂肪酸 | 1.429 |
18:2(リノール酸) | 0.09 |
18:3(α-リノレン酸) | 0.12 |
20:4(未同定) | 0.47 |
22:5 n-3(ドコサペンタエン酸(DPA)) | 0.22 |
22:6 n-3(ドコサヘキサエン酸(DHA)) | 0.45 |
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