出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/03/27 11:44:22」(JST)
複眼(ふくがん)と単眼(たんがん)は節足動物などの生物が持つ眼構造。斧足類などでも同様の構造が見られる。
それぞれにレンズを持つ個眼が蜂の巣のように集合した器官。単一の個眼では図形を識別することはできないが、複眼を構成することで、図形認識能力を備える。ミツバチに図形学習能力が備わっていることは、動物行動学者のカール・フォン・フリッシュの実験によって明らかになった。さらに、J.H.Van Haterenらは、ミツバチに同じ図形であっても線分の傾きを見分ける能力が備わっていること、ヒトと同じカニッツァの三角形と呼ばれる錯視を示すことを明らかにした[1]。
集合する個眼の数は昆虫、なかでも飛翔するものが多いようで、イエバエ2000個、ホタルのオス2500個、トンボ2万個前後となっている。個眼は六角形や五角形、円形をしており、隙間なく並ぶ。個眼の大きさは複眼上に占めるその個眼の場所によって異なる。
個眼は、複眼表面部分に透明なキチンの角膜または角膜小体があり、その奥にこの角膜を分泌する角膜生成層とガラス体の細胞、ガラス体または円錐晶体、それに8個ほどの視細胞または感光層がある。視細胞の内側の端は神経繊維となり、それが集合して視神経になって脳の視葉という部分に達する。
おおざっぱに言えば複眼を構成する個眼は、望遠鏡のような構造である。筒の先端にレンズがあり、反対側から覗くわけである。ただし、視覚細胞は筒の中に入っている。このようなものが大量に並んで、全体として複眼を構成している。
複眼は、カメラ眼と並んで、動物の目としては高度に発達したものである。カメラ眼がレンズや像を結ぶために複雑な構造を発達させているのに対して、複眼でどれくらい細かい像が見られるかについてはよくわかっていない。
カメラ眼にはない複眼の利点としては視界が広いことが挙げられる。カメラ眼はそれが向いた方向を中心とした円形の範囲を見るだけであるのに対して、よく発達した複眼はそれ自体が球面の一部を成し、その向き合う方向を頭や眼を動かさずに見ることができる。カニのように体から眼が上に伸び出していれば、ほぼ全方向を視野に納めている可能性がある。さらに少しの動きでも複数の個眼でとらえるため大きな動きのように見え、狩りで動く獲物を発見したり、天敵が襲ってきていることを察知したりするのに役立つ。
複眼の歴史は古く、古生代カンブリア紀に出現した三葉虫がすでに立派な複眼を持っていた。現生の動物では甲殻類、昆虫にこれを持つものが多い。複眼のみ持つ昆虫もいる。鋏角類ではカブトガニが複眼を持つが、それ以外のものは持たない。
個眼に似た構造を持つレンズ眼。節足動物の場合、背単眼(または一次単眼)と側単眼に区別される。甲殻類に見られるノープリウス眼も単眼である。
昆虫類に属す生物のうち、コウチュウ目、カメムシ目以外の成体の多くは複眼の他に三個の背単眼を持つ。また、ハネカクシの一部の種はコウチュウ目であるが二個の単眼を持つ。
背単眼は、頭部に正三角形を作るように三個ある。主な構造は個眼と同じだが、背単眼につながる視神経は脳の単眼葉という部分に達する。
コウチュウ目の生物の中には頭部に黒い粒が見受けられることもあり、これは単眼の名残である考えられている。
昆虫類の成体では単眼は光感知のみに使われるためピント調節機能が備わっていない代わりに、複眼よりも視覚情報が瞬時に脳にまで伝達するという特徴がある。昼行性の種では特に発達しており、トンボやハエなどの高い飛行能力は単眼と複眼の性質を上手く利用して体の向きを調整することによって実現されている。
また、単純に光を感じる器官としても重要であり、セミなどでは鳴く時間帯を光によって知覚するための鼓舞器官として使われている。ミツバチのダンスで知られるミツバチの太陽の位置認識は単眼が太陽光の偏光を感じ取ることによって生じているとされる。
側単眼は、昆虫類の幼虫の頭部側面に見られる。色も識別でき、物の形態もわずかに感じ取ることができるといわれる。複眼が形成されるまでは、この器官が幼虫の視覚を全て担う。
節足動物は基本的に複眼か単眼のどちらか一方を持つが、一部の昆虫のように両方持つものもいる。
複眼の一つ一つの目は個眼と呼ばれ、単眼とは同義でないことに注意されたし。
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