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ユビキノン(略号:UQ)とはミトコンドリア内膜や原核生物の細胞膜に存在する電子伝達体の1つであり、電子伝達系において呼吸鎖複合体IとIIIの電子の仲介を果たしている。ベンゾキノン(単にキノンでも良い)の誘導体であり、比較的長いイソプレン側鎖を持つので、その疎水性がゆえに膜中に保持されることとなる。酸化還元電位 (Eo') は+0.10V。ウシ心筋ミトコンドリア電子伝達系の構成成分として1957年に発見された[1]。
広義には電子伝達体としての意味合いを持つが、狭義には酸化型のユビキノンのことをさす。還元型のユビキノンは『ユビキノール』と呼称していることが多い。別名、補酵素Q、コエンザイムQ10(キューテン)、ビタミンQ、CoQ10、ユビデカレノンなど。
ユビキノンの酸化還元に関わるベンゾキノン誘導体部位はパラ型に酸素原子が結合しており、C2にはメチル基、C5,C6にはメトキシ基が結合している。C3にはイソプレン側鎖が結合しており、生体膜中に保持されるべく長い炭素鎖を形成している。構造は以下の図の通りである。
イソプレン側鎖の数(n=)は高等動物では10、下等動物では6~9であり、イソプレン側鎖が長くなればなるほど黄橙色を呈するようになる。なおn=10のユビキノンは『UQ10』と、イソプレン側鎖の数字を筆記する。
ユビキノンは二電子還元を受け(ユビキノールとなる)、一電子還元を受けて中間型(ユビセミキノン)も形成する。中間型はプロトンキノンサイクル機構でその意義があるとされている。ユビキノンの酸化還元様式は以下の図を参照。
酸化型のユビキノンは275nmの波長の電磁波を吸収する。したがって、ユビキノンに電子伝達を行う酵素群の活性測定はこの波長に類する吸収帯を使用する。
ユビキノンはミトコンドリア内膜や原核生物の細胞膜から単離され、膜内の電子伝達に関与することが古くから知られている。特に電子伝達系、呼吸鎖複合体I(NADH脱水素酵素複合体)から呼吸鎖複合体III(シトクロムbc1複合体)への電子伝達に寄与している。
呼吸鎖複合体Iにおける反応
呼吸鎖複合体IIIにおける反応
ユビキノンは蛋白質内部に配位され、タンパク質内部における電子伝達にも機能している。もっとも有名な例としては紅色光合成細菌の光合成反応中心蛋白質における電子移動経路の一端として2つのユビキノンQAとQB間のプロトン移動とカップリングした電子移動反応QA→QBがあげられる。この反応は、植物の酸素発生を行う蛋白質光化学系II (photosystem II あるいはPSII)のプラストキノンQA→QBとの反応と実質的に同じであるため、近年の光化学系IIのX線構造解析結果によりその立体構造が次第に明らかにされつつあることと相まって、植物をはじめとする光合成系の酸素発生機構を解明する上で重要な反応である。
他の興味深い例として、呼吸鎖複合体III内のプロトンキノンサイクル機構(スカラー反応)に関与していることがあげられる。キノンサイクル機構には一電子還元を受けた中間型が重要な役割を果たしており、可動性リスケ鉄硫黄タンパク質と共同的な興味深いシステムが提案されている。
呼吸鎖複合体III(シトクロムbc1複合体)においては、複合体Iや複合体IVとは異なる機構でプロトンが膜外に輸送される。複合体I、IVにおいてはプロトンポンプ機構と言う、輸送を受けるプロトンが膜内から膜外に輸送されるのみである。しかしながら複合体IIIにおいては『プロトンキノンサイクル機構』という独自の輸送機構を用いている。
プロトンキノンサイクル機構とは、膜内部においてプロトンが消費され、その還元力を使用して膜外側でのプロトンの放出が見られる現象である(この反応をスカラー反応と言う)。実際輸送を受けるプロトンは膜内から放出されるわけではなく、見かけ上そのように見えるだけなのでプロトンポンプ機構とはことなる機構であることが理解できる。その素反応の詳細は、以下の反応ステップからなる。
以上が、プロトンキノンサイクル機構の反応であるが、この中でも特に優れた機構なのが可動性リスケ鉄硫黄タンパク質の関与する、電子伝達の方向性を変化させる過程である。それらの過程については構造生物学的研究より、以下のモデルが提唱されている。
以上が、プロトンキノンサイクル機構の主格を担うスイッチング反応である。極めて複雑な反応であるが、収支式が理解への一助となる。
ユビキノンは生物内での合成が可能であり、ビタミンのように経口摂取する必要は無い。そのため、ビタミンQの呼称は最近使用されなくなってきている。ユビキノンのベンゾキノン部位はアミノ酸のチロシンから合成される。またイソプレン側鎖はアセチルCoAからメバロン酸経路、テルペンを経て合成される。
ただ、合成能力は年齢とともに衰えていき、20代がピークといわれている[要出典]。
ユビキノンは日本では1970年代から医療用医薬品として軽度及び中等度のうっ血性心不全症状などに用いられてきた。また、複数の製薬メーカーが、一般用医薬品(OTC医薬品)・医薬部外品として、一般消費者向けの商品を発売している。安全性は比較的高く、米国ではコエンザイムQ10の名称でサプリメントとして広く用いられており、医師の処方箋なしに消費者が直接店頭などで購入できる。
日本でも2001年に医薬品の範囲に関する基準(いわゆる「食薬区分」)が改正され、さらに2004年化粧品基準が改正されて、健康食品や化粧品への利用に道が開かれた。その結果、抗老化作用を訴求したユビキノン(コエンザイムQ10)含有の健康食品や化粧品がブームとなり、原材料の品薄で入手しにくいほどの人気を博していた時期があった。しかしながら、そのような薬効を臨床的に検討したデータはまだ乏しく、詳細な効果についてはまだ詳しくわかっていない。
摂取量については、どの程度までなら摂取しても安全なのか、などといった推奨量や上限量はまだよくわかっておらず、今後の研究が待たれる。また「多量に摂取した場合に軽度の胃腸症状(悪心、下痢、上腹部痛)」[2]があらわれるという報告もある。
ユビキノンから開発された「イデベノンIdebenone(アバン)」は脳循環・代謝改善剤として使用されていたが、日本では1998年に医薬品の承認を取り消されている。
2009年11月に、ユビキノンの抗酸化作用がマウスの老人性難聴の予防に効果があることを、東京大学が実験で明らかにした。それによると、人間にとっては1日20ミリグラムにあたる量のユビキノンを生後4ヶ月から与えられ続けてきたマウスは、人間の50歳に相当する生後15ヶ月の時点で、同じ月齢のマウスが45デシベル以上の音しか聞き取れないのに対し、12デシベルの小さい音を聞き取れるようになった。[1]これは動物実験のレベルであり、実臨床では証明されていない。
2013年7月16日に、小児性線維筋痛症発生の原因がユビキノンの欠乏にあることが、東京工科大学応用生物学部山本順寛教授らと、横浜市立大学医学部小児科との研究チームにより発見されたと報じられた[3]。
薬剤(医薬品)の作用に悪影響を与える相互作用として、ワーファリンの作用を減弱させる可能性がある[4]。
2007年現在コエンザイムQ10の原料製造を行っているのは世界でも日本企業5社(日清ファルマ(日清製粉グループ本社子会社)、カネカ、旭化成ファーマ(旭化成子会社)、三菱ガス化学、協和醗酵工業)のみであり、世界シェア100%を握っている。中でもカネカは最大のシェア(約65%)を持っている。各社とも、発酵法によって製造を行っている。
山本順寛 - 日本コエンザイムQ協会理事長、東京工科大学応用生物学部教授
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