出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2012/12/23 13:11:12」(JST)
細胞骨格(さいぼうこっかく、英語: cytoskeleton, CSK)は、細胞質内に存在し、細胞の形態を維持し、また細胞内外の運動に必要な物理的力を発生させる細胞内の繊維状構造。細胞内での各種膜系の変形・移動と細胞小器官の配置、また、細胞分裂、筋収縮、繊毛運動などの際に起こる細胞自身の変形を行う重要な細胞小器官。
細胞骨格はすべての細胞に存在する。かつては真核生物に特有の構造だと考えられていたが、最近の研究により原核生物の細胞骨格の存在が確かめられた。
細胞骨格という概念と用語(フランス語で cytosquelette)は、1931年、フランスの発生生物学者 Paul Wintrebert によって導入された[1]。
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真核生物の細胞には、電子顕微鏡で観察することができる、主に3種類の細胞骨格がある。マイクロフィラメント、中間径フィラメント、微小管である。細胞骨格は細胞に構造と形態を与える。また、細胞質基質中の高分子に排除体積効果を与えることで、分子クラウディング効果のレベルを増加させる[2]。
詳細は「マイクロフィラメント」を参照
「アクチン」も参照
マイクロフィラメントの直径は5~9nm。2つのアクチン鎖が縒り合わさって構成されている。マイクロフィラメントのほとんどは細胞膜の直下に集中しており、張力に抵抗する、細胞の形を保つ、細胞質突起を形成する(仮足や微絨毛など。ただしこれらの機構はそれぞれ異なる)、細胞間や細胞-基質間の接合に関わる、などの役割を果たしている。後者の機能に関しては、マイクロフィラメントはシグナル伝達に必須である。これらは細胞質分裂にも重要(特に分裂溝生成時に)な役割を果たし、またミオシンと協同して骨格筋を作る。アクチン/ミオシン共同体は、ほとんどの細胞で細胞質流動を作り出す。
詳細は「中間径フィラメント」を参照
中間フィラメントあるいは10 nmフィラメントとも呼ばれる。
これらのフィラメントは直径8~12nm、アクチンフィラメントよりも丈夫な、細胞質中の複数種の構成要素である。アクチンフィラメントと同様に、張力に抵抗することによって細胞の形態を保つ働きがある(微小管はこれと対照的に、圧力に抵抗する。マイクロフィラメントと中間径フィラメントは鉄筋に当たり、微小管は鉄骨に当たると考えるとよい)。中間径フィラメントは、細胞内部の3次元構造を構成し、オルガネラを固定し、核ラミナやサルコメアの要素となる。また細胞間や細胞-基質間接合にも関わる。
中間径フィラメントには、以下のようなものがある。
詳細は「微小管」を参照
微小管は、中空な管状で、直径は約25nm(内径は約15nm)、ほとんどの場合の共通構造としては、αおよびβチューブリンが互い違いに結合したプロトフィラメント13本からできている。これはグアノシン三リン酸の重合によって非常に動的なふるまいをする。中心体によって統合される。
3つ組み9本(星形)のセットで中心小体を形成し、2つ組み9本と中央の2本の微小管(車輪型)のセットで繊毛や鞭毛を形成する。後者の形態はよく「9+2」と言われる。ここではそれぞれの2つ組みは、ダイニンタンパク質によって連結される。鞭毛と繊毛は細胞の構造体であり、微小管から構成されるので、これらは細胞骨格の一部だと考えることもできる。
これは以下の現象に重要な働きをなしている:
細胞骨格の種類 | 直径 (nm) [3] | 構造 | サブユニットの例[3] |
---|---|---|---|
マイクロフィラメント | 5-9 | 二重らせん | アクチン |
中間径フィラメント群 | 8-12 | two parallel helices/dimers, forming tetramers |
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微小管 | 25 | 微小管プロトフィラメント, in turn consisting of tubulin subunits | α、βチューブリン |
1970年代、Keith Porter は 、細胞の高圧電子顕微鏡画像を基に、真核生物の4つめの細胞骨格の要素 microtrabeculae を提唱した[4]。画像には、短い繊維状で、不明なタンパク質からなり、他の細胞質構造と結びついている構造が映し出されていた。Porter はこの微小柱状の構造を、微小管、中間径フィラメント、アクチンフィラメントのどれとも異なる新種の繊維網状構造と提唱した。しかしながら、細胞骨格についてすべてがわかっているわけではないが、 microtrabeculae は現在一般的には、細胞固定処理の影響で作られた構造にすぎないと考えられている[5]。
詳細は「原核生物の細胞骨格」を参照
細胞骨格は以前は真核生物細胞のみにある構造だと考えられていた。しかし近年、細胞骨格の主要なタンパク質と相同なものが原核生物中にも発見された[6]。進化的な関係が遠いので、タンパク質のアミノ酸配列のみの比較だけでは明白ではないのだが、タンパク質の立体構造の類似性と、細胞の形態と極性を維持するという機能の類似が、真核生物と原核生物の細胞骨格が真に相同であるという強い証拠を与えている[7]。しかし、細菌の細胞骨格については、まだいくつかの明らかにすべき点が残っている[8]。
FtsZは最初に同定された原核生物の細胞骨格タンパク質である。チューブリンに似て、FtsZはグアノシン3リン酸の存在下で繊維構造を作る。細胞分裂中にFtsZは最初に分裂位置に来るタンパク質であり、新たな細胞壁を構成するための他のタンパク質を補充するのに必須である。クレンアーキアを除くすべての原核生物、ミトコンドリアや葉緑体の分裂にも使用される。
真正細菌のMreBは、細胞の形を保つ働きをする。球状以外の全ての細菌は、アクチンに似たタンパク質に翻訳される遺伝子を持つ。これらのタンパク質は細胞膜の直下でらせん状の構造をとり、細胞壁の生合成をなすタンパク質を導く役目を持つ。
いくつかのプラスミドからエンコードされる分裂系は、アクチン類似のタンパク質ParMを含んでいる。ParMの繊維は動的不安定性を示す。そしてプラスミドのDNAを、分裂後の娘細胞へ分ける。その機構は真核生物の体細胞分裂で働く微小管と相似である。
この他、磁性細菌が持つMamKなどが知られる。
バクテリアの Caulobacter crescentus は、第3のタンパク質クレセンチン(crescentin)を含んでいる。これは真核生物の中間径フィラメントと関係している。クレセンチンは。らせん状や、ビブリオ様の、細菌の形態を保つ役割もしている。しかしその機序は現在明らかにはされていない[9]。
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