- 英
- psychosurgery, psychiatric surgery
- 関
- ロボトミー、前頭葉白質切截術
WordNet
- brain surgery on human patients intended to relieve severe and otherwise intractable mental or behavioral problems
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出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/04/06 02:06:28」(JST)
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精神外科(せいしんげか)は、かつて散発的に流行した、脳に外科的手術を行うことにより精神疾患の治療が行えるとした医療分野。代表的なものにロボトミーがある。後に、脳神経外科学。
目次
- 1 術式
- 2 歴史
- 2.1 ロボトミー
- 2.1.1 ロボトミーという語の意味
- 2.1.2 日本
- 3 その他
- 4 精神外科を取り上げた作品
- 5 脚注
- 6 関連項目
- 7 参考文献
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術式
- モニス術式
- 両側頭部に穴をあけ、ロボトームという長いメスで前頭葉を切る。
- 経眼窩術式
- 眼窩の骨の間から切断すべき脳の部分に到達する。
- 外側からみえる傷跡がないというメリットがある。
- 眼窩脳内側領域切除術
- 広瀬貞雄日本医科大学名誉教授が開発した術式。
生理学的観点から
当時の標準的なロボトミーの術式は、前側頭部の頭蓋骨に小さい孔を開け、ロイコトームと呼ばれたメスを脳に差し込み、円を描くように動かして切開するというものであった。前頭前野と他の部位(辺縁系や前頭前野以外の皮質)との連絡線維を切断していたと考えられる。前頭前野は、意志、学習、言語、類推、計画性、衝動の抑制、社会性などヒトをヒトたらしめている高次機能の主座である。
歴史
ロボトミー
1935年、ジョン・フルトン(John Fulton)とカーライル・ヤコブセン(Carlyle Jacobsen)がチンパンジーにおいて前頭葉切断を行ったところ、性格が穏やかになったと報告したのを受け、同年、ポルトガルの神経科医エガス・モニスがリスボンのサンタマルタ病院で外科医のペドロ・アルメイダ・リマ(Pedro Almeida Lima)と組んで、初めてヒトにおいて前頭葉切裁術(前頭葉を脳のその他の部分から切り離す手術)を行った。その後、1936年9月14日ワシントンDCのジョージ・ワシントン大学でも、ウォルター・フリーマン (Walter Jackson Freeman II) 博士の手によって、米国で初めてのロボトミー手術が激越性うつ病患者(63歳の女性)におこなわれた。当時に於いて治療が不可能と思われた精神的疾病が外科的手術である程度は抑制できるという結果は注目に値するものであって世界各地で追試され、成功例も含まれたものの、特にうつ病の患者の6%は手術から生還することはなかった。また生還したとしても、しばしばてんかん発作、人格変化、無気力、抑制の欠如、衝動性などの重大かつ不可逆的な副作用が起こっていた。
しかし、フリーマンとジェームズ・ワッツ (James W. Watts) により術式が「発展」されたこともあり、難治性の精神疾患患者に対して熱心に施術された。1949年にはモニスにノーベル生理学・医学賞が与えられた。しかし、その後、抗精神病薬の発明と飛躍的な発展がされたことと、ロボトミーの副作用の大きさと相まって規模は縮小し、脳神経学では禁忌とまでにされて追い込まれる事になる。また、モニス自身もロボトミー手術を行った患者に銃撃され重傷を負い、諸々の施術が(当時としては)人体実験に近かった事も含め、槍玉に挙げられ廃れる事になる。
日本精神神経学会が1975年(昭和50年)に、『精神外科』を否定する決議を採択し、ロボトミー手術の廃止を宣言した事から、現在の日本において、精神疾患に対してロボトミー手術を行うことは、精神医学上禁忌されている。しかし、精神障害者患者会の一つ、全国「精神病」者集団の声明(2002年9月1日)では『厚生労働省の「精神科の治療指針」(昭和42年改定)はロボトミーなど精神外科手術を掲げており、この通知はいまだ廃止されていない。』としている[1]。
ロボトミーという語の意味
ロボトミー(lobotomy)は。肺や脳などで臓器を構成する大きな単位である「葉(lobe)」[2]を一塊に切除することを意味する外科分野の術語である。ロベクトミー(lobectomy, 葉切除)と同義である
当項目のロボトミーでは「前頭葉切除」を意味し、「大脳葉にある神経路を1つ以上分断すること」と定義される[3]。肺がんなどのため肺の一部を葉ごと切除(例:肺下葉切除)することもロボトミーの一種であるが、臨床ではロベクトミーの方が用いられる。
人を「ロボット (robot)」 のようにしてしまうからロボトミー、という誤解が日本において一部ある。
日本
日本では1942年(昭和17年)、新潟医科大学(後の新潟大学医学部)の中田瑞穂によって初めて行われ[4]、第二次世界大戦中および戦後しばらく、主に統合失調症患者を対象として各地で施行された。 日本では、1975年(昭和50年)に、「精神外科を否定する決議」が日本精神神経学会で可決され、それ以降は行われていない。日本では、このロボトミー手術を受けた患者が、同意のないまま手術を行なった医師を、復讐と称して殺害した事件がある(ロボトミー殺人事件)。
名古屋大学医学部精神医学教室でのロボトミーを受けた患者の解剖では、前頭葉全体が空洞化されており、スカスカだったという。当時解剖した患者で一番多かったのはアルコール依存症であった。なお、同教室の医師が他の医師と手術の統計をまとめようとしたところ、手術記録がどこにもみあたらなかったという。これは前出のロボトミー否定の学会決議を受け、病院側が隠蔽したものと見られている[5]。
年表[6]
- 1938年(昭和13年)- 新潟大学中田瑞穂、ロボトミー開始。
- 1947年(昭和22年)- 松沢病院、東大でロボトミー開始。
- 1950年(昭和25年) - 臺弘の研究でロボトミー。
- 1957年(昭和32年)- A氏、横手興生病院でロボトミー。
- 1963年(昭和38年)- S氏、チングレクトミー(ロボトミーの一種)を桜ヶ丘保養院(=桜ヶ丘記念病院)で強行され、1979年に「ロボトミー殺人事件」を起こす。
- 1968年(昭和43年)10月30日 - M氏、香流病院(=守山十全病院)でロベクトミー。
- 1971年(昭和46年)3月 - 東京大学精神科医師連合(精医連)実行委員長・東京大学講師(当時)の石川清が、台弘(うてな ひろし)東京大学教授(当時)が行った20年前のロボトミー手術関連実験(『台実験』)を告発[7]。
- 1973年(昭和48年)5月 - 日本精神神経学会が『台実験』を「医学実験として到底容認しえないものである」と決議する[7]。
- 1973年(昭和48年)9月 - 国際脳外科学会闘争(精神外科問題提議)。
- 1973年(昭和48年)12月 - M氏、ロベクトミー裁判開始(守山十全病院)。M支援会、ロベクトミー糾弾。
- 1974年(昭和49年)7月 - A支会(準)結成(横手興生病院ロボトミー糾弾)。
- 1975年(昭和50年)5月13日 - 日本精神神経学会が精神外科を否定する決議を可決(賛成473票、反対0票、保留39票)。
- 1978年(昭和53年)9月29日 - 北全病院ロボトミー判決(院長と執刀医に賠償金の支払いが命じられた)。
- 1979年(昭和54年)9月30日 - ロボトミー糾弾全国共闘会議(ロ全共)結成。
その他
- 難治性てんかんなど他の神経疾患に対しては両側帯状回切除術が行われることもある。
精神外科を取り上げた作品
- 手塚治虫の漫画『ブラック・ジャック』では精神外科の描写がある第58話「快楽の座」が単行本未収録となっている。他にも未収録の作品はあるが、文庫版や他の書籍での収録や改作などが行われていないのはこの作品のみである。漫画雑誌『少年チャンピオン』に掲載後、表現などの問題で抗議が来たためと考えられるが、この話において手塚は精神外科に対し否定的な描写をしている。また、単に言葉が使われているだけ、しかも誤用されているもの(これは「快楽の座」も同様)として、第41話「植物人間」がある。これは単行本(旧版少年チャンピオン第4巻)に収録されていたが、後に、「からだが石に…」に差し替えられた。
- 医学博士で作家の渡辺淳一による『脳は語らず』は、1970年代に日本の大学で行われ、後で週刊誌などに取り上げられて「事件」に発展したロボトミー手術をドキュメンタリータッチで描いた小説である。
脚注
- ^ 『精神保健従事者団体懇談会特別フォーラムに参加された皆様へ』[1]全国「精神病」者集団 2010年1月22日閲覧
- ^ 葉とは、大脳では前頭葉や側頭葉、頭頂葉などから構成され、肺では上葉、下葉などから構成される。
- ^ ステッドマン医学大辞典改訂第5版(メディカルレビュー)
- ^ 『東大病院精神科の30年』 28頁によると、「1938年(昭和13年)新潟大学ロボトミー開始(中田瑞穂)」とある。
- ^ 精神科がおかしい―「医者」も「患者」も大混乱ありのまま!〈宝島社〉2001年
- ^ 『東大病院精神科の30年』 28-43頁
- ^ a b 『封印作品の謎』安藤健二 太田出版 ISBN 978-4872338874
関連項目
- 精神科医
- ロボトミー殺人事件
- ローズマリー・ケネディ
- ヨーゼフ・ハシッド
- 精神障害者
- 臺弘(台弘)
- 生命倫理学
- BMI(BCI)
- 疑似科学
- カッコーの巣の上で
- ハンニバル
- シャッター アイランド
- エンジェル ウォーズ
- テネシー・ウィリアムズ
参考文献
- 富田三樹生 『東大病院精神科の30年…宇都宮病院事件・精神衛生法改正・処遇困難者専門病棟問題』 青弓社(原著2000年1月)。ISBN 9784787231680。
UpToDate Contents
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Japanese Journal
- 19世紀末の〈精神外科〉--ゾラ、シャルコー、暗示
- 林田 愛
- 慶応義塾大学日吉紀要 フランス語フランス文学 (53), 1-26, 2011
- 序論1. ゾラ『豊饒』と医学的ユートピア1.1. 悪の源としての卵巣1.2. 卵巣摘出術の結末2. ヒステリー治療と卵巣摘出術2.1. 卵巣摘出術をめぐる外科先進国の医師たち2.2. 「外科的笑劇」 : 催眠と暗示結論
- NAID 40019023618
- 脳科学は「非侵襲的」たりうるか?--精神外科と脳画像研究の遠くて近い関係 (特集=ニューロエシックス--脳改造の新時代)
- 治療技術が捨てられるとき : ロボトミーの盛衰をめぐって(<特集>生命・死・医療)
- 大宮司 信
- 宗教研究 80(2), 339-354, 2006-09-30
- 本論文では、精神医学の領域でかつてもちいられ、今はまったく捨てられたロボトミーという治療技術の盛衰を通して、医療技術の忌避の要因について考えた。第一にあげられる点は、心や精神という人間それ自体と同義に考えられる対象に対する医療の適用への嫌悪感・拒否感である。第二は治療手法の非可逆性である。ロボトミーが捨てられた最大の原因は、取り返しのつかない後遺症をもたらした点である。第三は、医療技術の開発は目的 …
- NAID 110004798329
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