出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/08/19 13:15:00」(JST)
分数(ぶんすう、fraction)とは 2つの数の比を用いた数の表現方法のひとつである。
しばしば有理数の意味で分数という言葉を用いる。本項も一部を除きその意味であるとして読んで差し支えない。
分数は中央の括線(かっせん、vinculum)と呼ばれる棒線を隔てて、上に分子(ぶんし、numerator)、下に分母(ぶんぼ、denominator)を配置することにより記述される。たとえば、
などと書けば、この場合の分子は n, 分母は d であり、「d 分(ぶん)の n」などと読まれる。
のように分子・分母がさらに分数を含むような分数を繁分数(はんぶんすう、compound fraction)という。
のように分母が数と分数の和でありさらにその分母が数と分数であるといった形のものを連分数 (continued fraction) という。
… の部分は有限個でとまる場合もあるし、無限に分数が繰り返されるものもある。
最も基本的な分数の概念は、自然数あるいは整数から構成されるものである。正の整数 m に対し 1⁄m のように分子が 1 である分数を単位分数(たんいぶんすう、unit fraction)という。これは 1 を m 等分した数量を表す。
正の整数 m, n に対し分数 n⁄m には n ÷ m という意味、単位分数 1⁄m の n 倍という意味、 n : m という比の値という意味などがある。これらは同じ値を示すが、歴史的には地域によって分数の捉え方が異なる。古代エジプトでは単位分数は基本的な量と考えられ、さまざまな分数を異なる単位分数の和として表した。その計算の一部はリンド数学パピルスなどに残されている。
分数は 1 より小さい値として扱われてきたため、分子が分母より小さい分数を真分数(しんぶんすう、proper fraction)という。
整数と分数の和
の + を省略して
と書いた分数を帯分数(たいぶんすう、mixed number)という。この表示により 1 以上の数も整数部分と真分数の組み合わせで表せるようになる。真分数と違い、分子の数が分母の数以上である分数を仮分数(かぶんすう、improper fraction)という。
帯分数は大きさを把握するのには便利であるが、少し計算に手間がかかる。仮分数は分子をいくらでも大きくしてよいので帯分数と違って整数部分と分数の区別を無くす事ができ、計算もしやすくなるが、数の大きさを把握しにくくなる。
この等式では左辺の帯分数 6 4⁄13 によれば 6 より少し大きいくらいの数と分かるが、右辺の仮分数 82⁄13 ではそれが分かりにくい。
分数は比や割合といった概念に対応しており、0 でない定数 a を分母・分子にかけたり割ったりしてもその表す数は変わらない。
m と n が整数で公約数 d を持つとき、適当な整数 a, b によって
の形に書かれ
となる。このように分母と分子を公約数で割る操作を分数の簡約(かんやく、reduction, cancellation)あるいは簡単に約分(やくぶん)と呼ぶ。 m と n が互いに素であるとき n⁄m は既約分数(きやくぶんすう、irreducible fraction)であるという。既約分数の時は、分母と分子の最大公約数が 1 であるため約分によって簡単な形に変形することはできない。既約分数ではなく、まだ約分して変形していけるとき、その分数は可約(かやく、reducible)であるという。
これらの分数は同じ数を表しているが、右辺の 5⁄7 は 5 と 7 が互いに素なので既約分数であり、それ以外の 260⁄364 などの分数は可約である。
分母や分子が整数の時に限らず多項式やその他の数式であっても因数が定義されていて分母と分子に共通な因数がある時、約分という操作が行われる。
は分数式の約分であり、分母と分子をそれぞれ因数分解して共通因数を見つけ、それによって約分をした結果、分母・分子ともに次数の低い簡明な式になっている。この変形は分数式の変形としては正しいが x = 2 という値を代入したときに左辺は 0⁄0 となってしまい数が対応しないため左辺は x = 2 では定義できない。しかし右辺は 1⁄5 で値が定まっているという違いが出ることに注意しなければならない。 x = 2 でのこの式の値を 1⁄5 としてもいいのかどうかは場合によって異なる。
分数は割り算に割り算は分数に置き換えることができる。
等式
において、両辺に a をかけ分母の無い形
にすることを分母を払うという。
分数ではない数は分母が 1 の分数と見なせる。
これにより全ての演算は分数同士の演算と見なすことができる。逆に分母が 1 である分数は分母を省略し分数ではない数として扱える。
分数同士の積は分母と分子それぞれの積になる。
特に分数 b⁄a の逆数は a⁄b であるため、これらの積は 1 になる。
分母が同じ分数の和や差は分子の和や差に置き換えることができる。
分母が異なる分数の和や差は分母と分子を定数倍することによって分母を一致させてから行う。 a と c の公倍数の一つ L を取る。すなわち適当な数 m, n を用いて
と書けるとき
となる。このように分母を合わせる操作を通分(つうぶん)という。
L としては最小公倍数がよく用いられるが、最小公倍数のはっきりしない一般的な式としては L = a × c を用いればよい。
また、帯分数を仮分数に直す時にも同様の計算が使える。
分数での割り算はその法数の逆数による積に変換される。
のとき a + c ≠ 0 であれば
であるから
が成り立つ。これを加比の理(かひのり)という。
この式からさらに 0 でない数 p, q が a × p + c × q ≠ 0 を満たすとき
ならば
となる。
分数は正の整数だけではなく、整数全体や実数、複素数等を用いても定義される。除法としての意味からも分かるように分母が 0 の分数には対応する数が無い。しかし極限を取り扱う場合などに便宜上、分母が 0 の分数を使う事がある。それらの分数は数として計算に使われるわけではなくあくまで説明用に便宜的に表現されただけのものであることが多く、その表現がどういう意味で用いられているのかは前後の文脈から判断する必要がある。
分母、分子ともに整数である分数で表す事ができる数を有理数という。また分子・分母が数式(関数)であるような分数を分数式(分数関数)といい、特に多項式の商として表される分数式を有理式とよぶ。分数式まで視野に入れると、何かに占める割合といった分数の意味は薄れるが、それは商(除法)の概念がそうであるのと同様である。
積演算が非可換であるとき除法が左右で区別されるように分数も割る方向の左右で区別される。
詳細は「分数体」および「環の局所化」を参照
抽象代数学において分数は、環に十分な逆元を追加することで新しい環を作り出す環の局所化 (localization of a ring) あるいは全商環 (total ring of fractions, total quotient ring) などの概念として一般に捉えることができる。分数(の)環あるいは商(の)環 (ring of quotients/fractions) というような言い方もあるが、商環 (quotient/factor ring) という言葉が剰余(類)環 (residue class ring) の別名としてよく用いられており、紛らわしい。
可換環 R の部分集合 S は、R の単位元 1 を含み、S の任意の2元 s, t についてそれらの積 st が再び S の元となる(乗法について閉じている)とき、S は R の積閉集合(multiplicatively closed set, multicative set; 乗法的集合)であるという。可換環 R とその積閉集合 S に対し、R × S における関係 ∼ を
で定めると、これは R × S における同値関係を与える。R × S をこの同値関係で割ったものを S−1R で表し、(r, s) の属する同値類を r/s などで表す。このとき、S−1R には、もとの環 R における演算と両立する和や積といった環としての演算が、すでに上で述べた規則に従って与えられる。
可換環 R に対して、R の零因子でない元の全体は積閉集合である。積閉集合 S をそのようなものとするとき、環 S−1R は R の全商環と呼ばれる。また、積閉集合 S が R の素イデアル I の補集合として与えられているときは、S−1R のかわりにしばしば RI と書いて R の I における局所化とよぶ。は。なお、R が整域ならば、このような同値関係は簡約できて
によって与えられ、これによって得られる全商環は可換体の構造を持つ。これを分数(の)体 (field of fractions) あるいは商体 (quotient field)と呼ぶ。
全商環や商体といった構造はある種の普遍性を与えており、たとえば整域の商体はもとの整域を含む最小の体を与えることなどが確かめられる。
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