出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/06/12 10:32:47」(JST)
冗長化(じょうちょうか)とは、システムの一部に何らかの障害が発生した場合に備えて、障害発生後でもシステム全体の機能を維持し続けられるように予備装置を平常時からバックアップとして配置し運用しておくこと。冗長化によって得られる安全性は冗長性と呼ばれる。
常に実用稼動が可能な状態を保ち、使用しているシステムに障害が生じたときに瞬時に切り替えることが可能な仕組みを持つ。障害によってシステムが本来の機能を失うと、人命や財産が失われたり、企業活動が大きな打撃を受けるような場合には、冗長性設計が必須となっている。
コンピュータ・システムにおいては、一瞬の停止も許されない、例えば金融機関や交通機関の運行管理などのようなシステムで冗長化を行うことが多く、システム内部に相似形のサブシステムを常に並列して稼動させておき、片側に障害が生じたときでも停滞なくもう片側だけで基本的なサービスが行えるように設計・運用されている。平時には2つや3つのサブシステムで同じ処理を行わせる構成と、2つまたはそれ以上のサブシステムで互いに異なる処理を行う構成があり、前者では明確な故障時の切り換えだけでなく処理結果の比較によって異常検出や多数決が行え、後者では平時にも処理能力の余力が得られる。また、特に重要なシステムでは、災害や広域障害などに備えて複数のシステムを例えば東京と大阪などのように離れた場所に設置するようになっている。
こういった冗長化は、サービスの継続性が高められるという点で有用であるが、多額の費用がかかることから、完全な冗長化が施せるシステムは費用対効果の面で限られる。一般の消費者向けや企業でも通常の事務処理で用いられるパソコンでは、瞬時の停止を避けるほどの冗長化を施すことは稀であり、ほとんど唯一、比較的脆弱とされるハードディスク・ドライブの故障だけは作成・保存されたファイルすべてが失われる危険性があるのでRAIDによって冗長化が行われることがある。
企業や政府が運用しているミッションクリティカルなコンピュータ・システムや、ネットワーク上でのサービスを提供している企業の大規模なサーバーファームやデータセンターでのストレージ・システムでは、本来の情報から特定の演算によって冗長なデータを作成しておき、障害によって本来の情報がわずかに失われても誤り検出訂正を可能にする工夫が行われている。
21世紀現在の一般的なデータ伝送では、伝送路が持つ物理的な制約の上限近くまで使い切るほどの高速大容量の伝送が求められるために、経済性の点でも誤り検出訂正は必須の技術となっている。伝送路自身の冗長性も、トランキングによって確保されたり、ネットワークの断裂に対しても各種のルーティング・プロトコルやQoS技術によって幸甚性が高くなっている。
民間旅客機は、エンジンを複数基を搭載しており、1基のエンジン故障でも他のエンジンだけで安全に着陸するまで飛行継続が可能なように、国際的な取り決めで規定されている。機体構造についても、部分的な損壊によって直ちに機体全体の崩壊とならないように、強度部材は冗長性を備えるように意図的に複数に分かれて配置される設計が採用されている。
方向舵や昇降舵等の操舵翼の操作系についても、油圧系統を分割多重化しており、無線機や航法機器、飛行計器類も現代的な装置類を多重化した上で古いアナログ式の飛行計器も残されている。電力系統や空気圧系統、燃料系統も多重化されている。2人以上乗組む操縦者の健康維持のために機上で同じ食事を食べないという点では、冗長性が考慮されている。
鉄道車両においては、特にブレーキの伝送系統を二重化し、一方の系統が使用不能になっても他方で制御ができるようなシステムが1960年代以降、各鉄道事業者で導入されている。駆動系についても、かつては電車のモーターの制御は、一部の系列[1]を除き一制御装置4 - 8個駆動が主流であったが、VVVFインバータ制御が普及すると、小型の制御器を多数配置して1制御装置あたりモーター1 - 2個駆動とし、1組の駆動系統が故障しても、これをスイッチなどでカット(解放)することで運転継続が可能にするとともに、編成全体に対する故障の影響を最小限に止めるシステムが用いられるようになった。
また、電化された鉄道では変電所を複数持ち、どこかの変電所が故障しても、他の変電所から電力を供給することによって一定レベルの運転を続けることができる。
英国で主にセラフィールド発着便として運転される放射性物質輸送列車において、冗長性確保の目的から重連運転が行われている。重連運転とは複数の機関車を連結して運転することであり、仮に1台の機関車が故障しても、別の機関車で引き続いて運転が可能となることで冗長性が保たれる。
電力系統の機能停止は、電力供給を受けている需要家すべてに大きな被害を与えることになる。特に都市規模の広域停電(大規模停電)では、被害の規模は大きい。欧米域での送電会社や日本での電力会社などでは、送電網や配電網の事故を瞬時/短時間で切り離して、被害拡大を防ぎながら、送電網の事故点の迂回路を設けて被害を局限化するようにしている。このため送電線は同じルートで通常、2系統以上が並行して架設されている。
需要家側も予期しない停電に備えて、電力喪失に脆弱な電子機器には専用の無停電電源装置を備えたり、業務の継続が強く求められる部門では自家発電装置の導入が行われている。病院での電力喪失事故は直接人命に関わるため、例えば日本の病院ではガスタービンやディーゼルエンジン式の発電機や蓄電池が設置されていて、一定時間は確実に電力が確保できるようにされている。
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