出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/03/19 01:55:20」(JST)
三重水素 | |
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核種の一覧
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概要 | |
名称、記号 | トリチウム、トリトン,3H |
中性子 | 2 |
陽子 | 1 |
核種情報 | |
天然存在比 | 微量 |
半減期 | 12.32 年 |
崩壊生成物 | 3He |
同位体質量 | 3.0160492 u |
スピン角運動量 | 1/2+ |
余剰エネルギー | 14,949.794± 0.001 keV |
結合エネルギー | 8,481.821± 0.004 keV |
崩壊モード
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崩壊エネルギー
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ベータ崩壊 | 0.018590 MeV |
三重水素(さんじゅうすいそ)またはトリチウム(英語: tritium)は水素の同位体の1種。放射能を持つ放射性同位体である[1]。化学的性質は最外殻電子によって決まるため安定元素である水素とほぼ同じである。原子核は陽子1つと中性子2つから構成され、質量数は3で通常の水素や重水素よりも重く、元素記号では 3H と表し、略号として T が使用されることも多い[1]。もともとは 2H と 3H を併せて重水素という名称を当てていた。
環境中のトリチウムは、トリチウム水蒸気 (HTO)、トリチウム水素 (HT) および炭化トリチウム (CH3T) の3つの化学形で、それぞれ水蒸気、水素、炭化水素と混在している。
三重水素は弱いβ線 (18 keV) を放射しながらβ崩壊を起こしヘリウム3 (3He) へと変わる。半減期 は12.32年である[1]。
三重水素から発する低いエネルギーのβ線は、人間の皮膚を貫通しない。また、この低いエネルギーであるがゆえに、三重水素の標識化合物は、液体シンチレーション計測法でないと検知できない。三重水素の原子核がベータ崩壊して、ヘリウムの原子核になるときに 18.6 keV 相当量のエネルギーが発生する。電子は、5.7 keV の平均運動エネルギーを持ち、残りのエネルギーは反電子ニュートリノによって奪われる。
重水素 (D) と三重水素 (T) の核融合(D-T反応)は水素や重水素に比べて反応の温度・圧力条件が低いため、ITERをはじめとする現在研究中の核融合炉は核燃料として三重水素を使用することが検討されている。
化学的性質が水素とほぼ同じため、自然界にあるトリチウムを水素から分離して回収することは非常に困難である。そのためトリチウムは主に原子炉内で生成する減速材から得ている。現在もっとも多くのトリチウムを生成している施設は原子炉の一種であるCANDU炉である。CANDU炉では重水を冷却と減速材に使用する為、重水中の重水素が中性子を吸収することにより生じる。これの回収はCANDU炉使用の上で重大な問題であり、回収されたトリチウムは科学的、あるいはその他の目的に使用されるが、一部は環境中に放出される。実際、カナダのブルース原子力発電所や韓国の月城原子力発電所周辺では環境中トリチウム濃度の増加が観測されている。
宇宙線の中性子または陽子が大気中の窒素または酸素と核反応し、地表面積あたり毎秒0.2個/cm2・sec 程度の割合で三重水素が生成している。宇宙線により年間 (9.6 × 1017 Bq) 生成され、放射性崩壊と天然生成量が平衡にあるとき、その同位対比は地表に存在する水素原子の 10-18 に相当し[1]、これを1TU (Tritium Unit) と定めている。
このように三重水素は天然にもごくわずかに存在するが、実用上のトリチウム源としては原子炉内でリチウム (6Li) に中性子照射して生成したものが利用されている。
重水炉に於いて、重水中の重水素が中性子を吸収することにより生じるほか、ウラン235 (235U) 或いは プルトニウム239 (239Pu) が中性子と反応した時に起こる三体核分裂によって生じる。また、制御棒に使用されるホウ素同位体 10B が、高速中性子を捕獲することでも生じる。
原子炉ごとに異なるとされるが、一年間の運転で加圧水型軽水炉内には約200兆ベクレル (2 × 1014 Bq)、沸騰水型軽水炉では約20兆ベクレル (2 × 1013 Bq) が蓄積する[2]。
一般的には、崩壊によって生じる18 keVのベータ線を計測する手法が執られている。実際の計測方法は、液体シンチレーションカウンターを用いる事が多いが、かつてはガスカウンターが用いられた。一般環境中の濃度は 1 Bq/L から 3 Bq/L 程度と低いため、特別にバックグラウンドノイズを軽減した液体シンチレーションカウンターが必須である[3]。
別な方法としては、崩壊で生じる 3He を質量分析装置で計測する方法もあるが、数ヶ月の期間が必要である[2]。
地上に存在するトリチウムのほとんどは酸化物である三重水素水、トリチウム水 HTO として存在する。天然存在濃度では、一般の水 H2O と性質や反応にほとんど違いがなく、水の理想的なトレーサーとしての利用がある。宇宙線の作用による生成速度を一定とみなせば、放射性壊変による消失速度が一定であるので、地球における天然のトリチウム総量は古今とも一定値となる。
大気循環しているトリチウム水濃度はおおまかに古今東西で動植物も含め一定値と考え、水中濃度の低下量から大気循環からはずれた期間を知る地下水の年代測定が可能である。土木、農業方面での地下水流動の実証的な調査に役立てられている。
トリチウムは酸素と結びついたトリチウム水として水に混在しており、水圏中に気相、液相、固相で蒸気・降水・地下水・河川水・湖沼水・海水・飲料水・生物中に広く拡散分布している。
天然のトリチウムは宇宙線と大気との反応により生成されるが、生成確率が低いためにその量はごくわずかしかない。一方で1950年代の核実験や原子炉及び核燃料再処理により発生したトリチウムが環境中に大量に放出されて存在している(フォールアウトトリチウム)。また原子炉関連施設内では炉の運転・整備、核燃料再処理時に発生して外界に比べると高いレベルのトリチウムが蓄積されて局在し、化学的な性質が水素とほぼ変わらないことを理由に大気圏や海洋へ計画放出されている(施設起源トリチウム)。
1960年代の核兵器(分裂と融合)の大気圏内核実験により環境中の濃度は、それ以前の天然存在量の200倍程度へと急増したが、環境中への放出量の減少により漸減している[3]。海水のトリチウム濃度は、通常は数Bq/Lより少ない。日本国内で測定された最高値は、原発事故を起こした福島第一原発敷地内の専用港にて2013年6月21日に1100 Bq/L検出されるまでは、1991年2月9日に美浜原発の放射能漏れ事故の際に、福井県美浜沖の海水で1991年2月18日に測定された490 Bq/Lであった。また、東海再処理施設の排水の影響により、茨城県東海沖で1990年1月1日に190 Bq/Lのトリチウムが海水から検出されている。日本国内の環境中のトリチウム濃度は、文部科学省の委託で日本分析センターが環境放射線データベース[4]を公開している。また、放射線医学総合研究所の測定データもデータベースで提供されている[5]。世界の環境水中のトリチウム濃度は、国際原子力機関 (IAEA) がGNIPデータベース (Global Network for Isotopes in Precipitation) として公開している。
放射性物質であるため厳重に管理すべきであるが、外国製の夜光時計の塗料に使用されていたトリチウムがトリチウム測定試料を汚染し支障をきたした例も知られている[6][要出典]。
水素との化学的な分離は困難なため、物理的に分離する方法が試みられているが、いまだ実験レベルであり実用化されるには至っていない。このため原子力施設から環境中に放出されたトリチウムは現在の技術では除染できない物質である。
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リンク元 | 「3H」「トリチウム」 |
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