出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/07/30 14:45:27」(JST)
医薬品設計(いやくひんせっけい、Drug design)とは、生物学的標的に基づいた設計により医薬品を見出す手法である。通常医薬品の標的は、特定の病状もしくは病理学、または細菌性病原体の、感染性や生存に特異的な代謝や情報伝達経路に関与する鍵となる分子である。
疾病の鍵となる分子の機能を停止させて病状の進行を止めようとする場合、薬物は鍵分子の活性部位と結合して機能を阻害するように、かつ目標となる鍵分子と類似した形のその他の重要な体内分子には何ら影響を及ぼさないよう設計されなければならない。そのようなリスクを回避するために配列相同性(英:sequence homology)の解析が良く用いられる。
その他にも、通常の経路を強化するために、病気の場合に影響を受けているであろう特定の分子の働きを促進する方法がある。
生体分子と特異的に相互作用する薬物の構造はコンピュータ技術を用いてモデル化することができる。これらの技術は、活性部位の構造と性質の知見から生体分子にうまく組み合う分子の構築を可能にする。分子は場合により、核となる中心部分から構築されることも、側鎖から作られることもある。ただし、これらのアプローチは時折合成化学上の問題で行き詰ることがある。さらに新しいアプローチとしては、低分子量の分子よりも自然界のタンパク質由来の高分子を目指す方法が示唆されている。また、mRNAを用いた合成法も提案されている。遺伝子抑制も治療法としての応用が期待されている。
これまで行われてきたような、培養細胞や動物に対する化学物質の投与による試行錯誤や、治療に対する外見上の効果を照らし合わせる、といった古典的な創薬の手法とは異なり、合理的設計法は、まず体内もしくは標的器官における特定の化学反応を理解することから始まり、これらの反応の組み合わせを治療目的に合わせて恣意的に作り上げて行く。医薬品開発はその過程の複雑さ故に、未だにセレンディピティや限定合理性といった偶然に頼った発見を示唆する言葉が引き合いに出される。また副作用を持たない新規な医薬品となりえる化合物を、既知未知を含めた膨大な数の化学物質群から見つけ出すことは、相当なチャレンジであると言える。
合理的な医薬品設計の典型的な例としては、X線結晶構造解析やNMRスペクトルから得られた生体分子の三次元情報の利用が挙げられる。この手法は構造を基にした医薬品設計と言われることがある。実際にこの手法を用いて医薬品として承認された最初の明らかな例としては、1995年に認可を受けた炭酸脱水酵素阻害剤ドルゾラミド(Dorzolamide)が知られている[1][2]。
もうひとつの合理的医薬品設計の重要な例としてイマチニブメシル酸塩(Imatinib)が挙げられる。イマチニブは慢性骨髄性白血病(CML)、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)に特徴的なBcr-Ablタンパクを標的としたチロシンキナーゼ阻害剤である。イマチニブがそれまでの化学療法において用いられてきた医薬品と大きく異なる点は、これまでの抗がん剤が単に分裂周期の速い細胞を標的にしていたのに対して、イマチニブはがん細胞とその他の正常細胞を判別することにある。
結合部位における薬物の活性は医薬品設計の一面でしかない。さらに考慮するべき一面は分子の持つ「薬らしさ(英:Druglikeness)」である。これは効果的な吸収を示すために必要な化合物の物理的特性をまとめたものである。薬らしさを示す有名な指標としてはリピンスキーの法則がある。その上、化合物の代謝的安定性、安全性、さらには製造にかかる合成コストなども医薬品設計に求められる事項である。
コンピュータを利用し、薬物または関連した生物学的に活性な分子の発見、増強、または研究をするために計算化学を用いて医薬品設計を行うことがある。この手法には、単純な分子モデル化の他に、分子力学法、分子動力学法、半経験的分子軌道法、非経験的分子軌道法、密度汎関数法などが用いられる。コンピュータの利用は、合成や最適化に経費と時間がかかりがちな医薬の候補の数を減らすことを目的としている。
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