出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/04/06 23:37:30」(JST)
変形菌 | ||||||||||||
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クモノスホコリ
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分類 | ||||||||||||
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和名 | ||||||||||||
変形菌 | ||||||||||||
英名 | ||||||||||||
slime mould | ||||||||||||
下位分類 | ||||||||||||
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変形菌(へんけいきん)とは、変形体と呼ばれる栄養体が移動しつつ微生物などを摂食する“動物的”性質を持ちながら、小型の子実体を形成し、胞子により繁殖するといった植物的(あるいは菌類的)性質を併せ持つ生物である。
変形菌は変形して移動する変形体と、まったく動かないキノコの様な子実体という、はっきり異なった姿をもつ。栄養体として機能するのは変形体であるが、分類学的な研究は子実体を中心に行われる。
子実体は特殊な例を除けば、多数の胞子を含む袋状の構造である。いわゆるキノコのように大きいものはほとんどなく、高さ数cmがやっとで、大部分は数mmの高さである。多くのものが柄を持ち、その先端に胞子嚢をつける。嚢内には多数の胞子と細い紐が網目状に繋がったものが含まれており、これを細毛体(Capillicium)という。外皮が破れると細毛体が膨らみ、胞子はその間から次第に風に飛ばされて飛散する。柄の続きが嚢内に太い軸として存在する場合もあり、これを柱軸という。
変形体はアメーバ運動する裸の原形質の塊で、小さいものはアメーバ類と大差ないが、大きくなるにつれて細かい枝分かれを持った多核体となる。その内部では非常に速い原形質流動が見られ、しかも往復運動するなど、興味深い特徴も見られる。詳細は変形体の項を参照されたい。
粘菌(ねんきん)といわれることもある。分類群の名としては変形菌が使われるが、粘菌もいまだに良く使われ、細胞性粘菌や原生粘菌という語もある。よく混同される細胞性粘菌と区別するために真性(真正)粘菌とも呼ばれる。
子実体から放出された胞子は、朽ち木などの好適な場所で発芽し、鞭毛を持つ単相(n)のアメーバ状細胞が放出される。この細胞はバクテリアを捕食して2分裂により増殖する一方配偶子としても機能し、異なる性の細胞と出会うと接合して複相(2n)のアメーバとなる。この複相のアメーバは周囲の微生物を捕食して細胞分裂を伴わない核分裂と細胞の成長を繰り返し、無数の核を持つ多核体の、大型のアメーバ状生物に成長する。これを変形体と呼ぶ。
変形体は摂食により成長するが、核が分裂しても変形体そのものは分裂せず、次第に多数の核を含む大きな一つの細胞質のかたまりとなる。変形体は細い管が網目状につながって広がった構造をとり、管の内部では激しい原形質流動が往復運動を行う。
変形体は朽ち木や土壌中などに潜り込んでいることが多いが、適当な時期になると表面に出てきて、数mm程度の部分に分かれ、それぞれが小さなキノコのような子実体となる。従って、多くの種では、子実体は接近して多数が並んだ状態で見つかる。子実体の形成に際して変形体の核は減数分裂を起こし、この核を中心に原形質が分割されて単相の胞子を生じる。
その生活の特異なこと、また日常で接する機会が少ないことから、とても珍しい生物と思われがちだが、実際にはごくありふれたもので、人家の庭先に出現することもまれではない。イギリスにおける研究では森林や畑の土壌に生息する原生動物中、細胞数で多い場合には2割、少ない場合でも1%前後を変形菌が占めていたとされる。
変形体は薄く広がって、大きくても10cm程度のものが多いが、中には1mを超えるものが見つかることがあり、そうした大型の変形体が芝生などに出現して大騒ぎになることもある。多くの場合、変形体は普段は地中に潜っているので、ある朝突然妙なかたまりが出現、という格好になる。
変形体の活動には湿り気が必要なので、多くが見られるのはやはり森林内である。朽ち木をほぐすと変形体が見つかることがある。子実体は朽ち木や枯れ葉の表面を探すと見つかる。小さいながらも、なかなか美しいものもあり、愛好者も存在する。日本では1977年に国立科学博物館の萩原博光らによって日本変形菌研究会が組織され、プロの研究者とアマチュア愛好者、研究家との交流や自然史データの発表の場として機能している。また、水中生活をするものもあるらしく、水生生物を飼育している水槽の水際から子実体が見いだされているとの報告もある。ただし、この分野の研究は未だ発展段階にある。
自然界においては、変形菌は微生物の捕食者である。変形菌を食う生物もいくらか知られてはいるが、今後の研究に待つところが多い。ムラサキホコリ属Stemonitis等の大型の子実体にはヒメキノコムシ科やデオキノコムシ科等の甲虫が集まって胞子を摂食し、特にヒメキノコムシ科はこの科に属するほとんど全ての種が変形菌の胞子食者として知られている。また、オサムシ科に近縁なセスジムシ科の昆虫が、成虫も幼虫も朽木の樹皮下で変形菌の変形体を捕食することに特殊化した分類群であることが報告されている。そのほか、何を摂食しているのか謎が多いベニボタル科の幼虫が変形体に口をつけている場面がしばしば観察されており、変形体食者である可能性が示唆されている。しかし、変形体食者については子実体における胞子食者以上に研究が遅れており、その実態はよくわかっていない。変形菌は変形体の段階では同定が困難であることも問題を難しくしている。
ふつうはほとんど人へ影響を持たないが、下記のようないくつかの接点がある。
変形菌は微生物の捕食者であるため、直接には動物や植物の病原体となる事はない。しかし、堆肥をすき込んだ畑からはそうした環境を好む変形菌がよく発生し、作物の幼い苗に這い上がって窒息死させたり、イチゴやメロンの果実を汚損することもある。また芝生に好んで発生するハイイロフクロホコリPhysarum cinereum (Batsch) Perus.も芝生の美観を害して管理者に嫌われる。
本質的には微生物であるきのこを摂食する変形菌も知られており、ブドウフウセンホコリ(旧称キノコナカセホコリ)(Badhamia utricularis (Bull.) Berk.は栽培されたナメコの子実体を食害して栽培農家に被害を与える。
近年日本においてクワガタムシの飼育愛好家が増え、粉砕したシイタケ廃ほだ木(朽ち木マット)をプラスチック飼育容器に満たす飼育スタイルが普及した。この飼育容器において長期間高湿度に保たれた朽ち木マットから突然変形菌の変形体が出現し、さらに子実体を形成して飼育者を驚かす事が増えた。この場合、ススホコリ属Fuligoの黄色い変形体かムラサキホコリ属Stemonitisの白色半透明の変形体が出現している事が多い。
変形菌は基本的には食用にはならないが、メキシコではフライの衣として使用されていたとの記録がある。
また、中国では土中からまれに肉塊のようなものが発見されることがあり太歳と呼ばれ、始皇帝の時代より「肉霊芝」の名で記録にあるが、これは変形菌の変形体ではないかと考えられている。1992年に中国陝西省で地下から25.5kgもある巨大な肉の塊のようなものが発見された際には、試食してみた人の「生ではバラのような香りがし、焼けば肉のような歯ざわり」という発言が記録されている。太歳は最近でも発見された例があり日本でも報道され、現在は回収、研究中となっている。
変形体は、裸の細胞質のかたまりであるため、細胞や原形質流動の研究の材料として使われる。その中でも、北米でよく採集されるPhysarum polycephalum Schw.(モジホコリ)は乾燥したオートミール粒を与えるだけで容易に培養できるために早くから培養法が確立されており、モデル生物として利用されている。
ただし、胞子と柄細胞の分化がみられる細胞性粘菌の方が、組織分化などの分野の研究材料としてよく使われた時期がある。そのため、両者は混乱して扱われることがあるので注意が必要である。ある面では細胞性粘菌の方が資料が多く、粘菌の解説と称して、細胞性粘菌の解説を記したものもしばしばみられる。
粘菌に光を当てると特定の形になる事が分かっており、トランジスターの代わりに粘菌を用いる、粘菌コンピュータに利用する研究が行われている。
かつて南方熊楠が深く興味を抱いて研究したことで有名である。その研究成果は論文の形では発表されなかったものが多いが、かなり先見的な見解が書き残されているほか、南方が和歌山県で採集した標本に基づいてグリエルマ・リスターによって新属新種として記載されたミナカタホコリMinakatella longifila G. Listerは南方に献名されている。また、この種は生きた樹木の樹皮に生息する種としても、興味深いものである。
昭和天皇も一時関心を持って研究を手掛けた。昭和天皇の那須御用邸付近を中心とする採集標本からも数多くの新種が記載されており、服部広太郎の「那須産変形菌類図説」に結実している。
これを動物と見るか植物(菌類)と見るかについて、多くの議論があり、古くは動菌(どうきん)、菌虫(きんちゅう Mycetozoa)などの用語が使われたこともある。後者は原生動物と見なしての名であり、動物図鑑にこの名で取り上げられた例もある。しかし一般的には菌類と見なされ、菌類学者が扱い、菌類学の本に記述された。しかし菌類との類縁を完全に信用されたことはなく、それらの教科書でも「伝統的に菌類学が扱ってきたから」等と言い訳がましく書かれていたものである。いずれにせよ、20世紀初頭には生物が動物と植物に2大別されるとは考えられなくなった。狭義の動物と植物は真核生物の中の限られた系統のみを指すようになり、これらと狭義の菌類を除いた多様な真核生物を原生生物というカテゴリーで捉えるようになった(五界説)。変形菌はもちろんこの原生生物に含まれるか、菌界に含めるかである。
20世紀半ばまでは菌界の中に変形菌門を立て、そこに変形菌の他に細胞性粘菌、原生粘菌、ラビリンチュラなどを含めるのが普通であった。しかしそれ以降真核生物の系統解析が進み、それらの群は変形菌とはそれほど近縁なものとは見なされなくなり、それぞれ独立した群をなすと考えられるようになった。
多様な原生生物相互の系統関係はまだ研究途上である事もあり、変形菌がどういう位置にあるかについては未だに諸説がある。ただ、真核生物の進化のかなり早い時点で分岐した古い群ではあり、動物、植物、菌類のいずれとも縁が遠い。今のところアメーボゾアの一員であると考えられている。この群は多くの普通の姿のアメーバを含む群であり、言ってみれば変形菌は巨大化し、耐久細胞を発達させたアメーバであるということであろう。なお、上記のかつて近縁とされていた群の中では、細胞性粘菌のうちのタマホコリカビ類がここに含まれる。
変形菌は世界で約400種が知られ、一般にはすべてを変形菌門変形菌綱に所属させる。その中に3つの亜綱を認める。
なお、変形菌の和名は、かつてはムラサキホコリカビなど、ホコリカビを最後につけていたが、近年は変形菌は菌類ではないという研究者の主張からカビを落として、ムラサキホコリ、サビホコリなどとしている著作が増えた。
ツノホコリ属(Ceratiomyxa)のみを含む。他の変形菌とは異なり、ゼラチン質で様々な形態(多く樹枝状)の子実体の表面に胞子を外生する。子実体は朽ち木の表面などに生じ、真っ白で樹状に分枝する。胞子は短い柄の上にあって、子実体の表面に一面に生じる(外生胞子)。生活環は完全には解明されていない。
この類は、胞子嚢の中に胞子を作る(内生胞子)のが普通な変形菌類の中では、上記のように外生胞子を作る点で明らかに異質であり、現在はむしろ原生粘菌として分類されている。ほとんどの分類群が微細な子実体しか作らない原生粘菌の中で例外的に巨大な変形体と子実体を形成するグループなのではないかと見られている。ツノホコリは日本でも最も普通に見られる変形菌の一つであるが、乾燥標本で新鮮な子実体の形態を保存することが難しい。
一般的な変形菌である。モジホコリ亜綱とも呼ばれる。子実体形成時に外側から固まる。軸を生じる場合、変形体の原形質はその内部を登ってゆき、軸の上にカップ状に伸長した胞子のうの内部で胞子形成が行われる。変形体はしばしば鮮やかな色彩を持ち、複雑な形態の網目状のネットワークを形成して運動する。
子実体形成時に内側から固まる。軸ができる場合、原形質はその外側を登ってゆき、アイスキャンディー状に、軸の上部の周囲を取り囲むように胞子のうが形成される。変形体は無色半透明で単純な形態をしており、薄い。
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