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博士(はくし、はかせ)は、学位の最高位(博士の学位参照)。英語からドクターとも言う。
博士の取得方法としては、博士課程に在籍して学位審査に合格、修了した者に授与される課程博士と、在学しないまま学位審査に合格した者に授与される論文博士がある。また、学位ではないが、名誉称号としての名誉博士なども存在する。外交儀礼上、各国政府要人等が博士号取得者である場合、官名の後に博士閣下と敬称する事例が見受けられる。ドクター取得者は、欧米向けにはPh.D.(ピーエイチディー)と呼称されることも多い。
分類 | 大区分 | 小区分 | 授与される標準的な課程 |
---|---|---|---|
学位 | 博士 | 規定なし | 大学院の博士課程 (前期2年の博士課程を除く) |
修士 | 規定なし | 大学院の修士課程 (前期2年の博士課程を含む) |
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専門職学位 | 法務博士(専門職)[1] | 法科大学院 | |
教職修士(専門職)[1] | 教職大学院 | ||
修士(専門職)[1] | 専門職大学院 (法科・教職大学院を除く) |
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学士 | 規定なし | 大学 | |
短期大学士 | 規定なし | 短期大学 |
分類 | 大区分 | 小区分 | 授与される標準的な課程 |
---|---|---|---|
称号 | 準学士 | 規定なし | 高等専門学校 |
高度専門士 | 規定なし | 特定の専修学校の専門課程 (主に4年制以上) |
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専門士 | 規定なし | 特定の専修学校の専門課程 (主に2~3年制) |
博士 (Doctor) の学位は、国によって多少の差異はあるものの基本的に最上位の学位として位置づけられている。通常は、大学など高等教育機関や学位授与機関における修士及びそれと同等の学力があると認められた者が、大学院の博士課程あるいは博士後期課程を修了することで取得できる(課程博士もしくはコースドクターと称する)。また、論文審査により高度な研究能力があると認定された者にも授与されることがある(論文博士と称する)。どちらの場合にも、独自性のある研究論文や著書を提出し、博士論文審査に合格することが要件となっている。
英語、ドイツ語などでは、博士への敬称はPh.D.もしくはDr.(ドクター)となる(フランス語では点をつけずDrとすることが多い)。 医師も博士と同じくDr.(ドクター)と称されるが、このばあいのドクターは学位ではなく、職種としての医師に対する形容となる。医師も博士号を取得するためには、独自性のある研究論文や著書を提出し、博士論文審査に合格することが要件となる。学術研究の場では博士号保持者に対してのみDr.ないしPh.Dの敬称を用いるのが通常であり、医師や研究者であっても博士号を持たない者に対してはミスター、ミスあるいはミセスの敬称を用いる。[要出典]
現在では医師免許を持つ人物をM.D.、歯科医師免許ではD.D.S.(D.M.D)、獣医師免許ではD.V.M.と記し、大学院課程にて医学博士号、歯学博士号、獣医学博士号(臨床博士号を含め)を取得した人物には、Ph.D.を併記する(例、M.D., Ph.D. といったように間にカンマを打つのが慣例である)。日本では過去においては医学博士号の所持者が「学位」の意味も含め、肩書きにM.D.(歯学博士号の場合はD.M.D.,D.D.S.)とのみ記していた時期もある。
これら学位とは別に現在の日本では博士学位の有無に拘らず、医師免許、歯科医師免許、獣医師免許を持つ者をドクターと呼称するのが通例である。これに対し、職種として医師ではないが医学博士号を有する者(たとえば医学博士号を持っている看護職)も存在し、彼らもドクターではある。医療現場では医師免許所持者にのみ「ドクター」の呼称を用い混乱を避けている。 これら肩書に統一性がみられないのは、戦前の教育制度上は帝国大学卒業生のみに「医学士」が与えられ事実上医学博士が帝国大学出身者に独占されており、また看護職が博士号を取得するなど考えられなかったためである。明治時代の医籍簿には外国の教育機関で医学を習得したものを「ドクター」と分類していた[2]、などの歴史的経緯があり、またドクターの用語が外来語であるためその用法や解釈に統一性がみられないなどの複雑に錯綜する歴史的経緯に起因する事情がある。
1991年7月以前に授与された博士号では「博士」の前に専攻分野の名称を冠していたが(例えば文学博士、医学博士、理学博士)、1991年7月以降に授与された博士号では「博士(文学)、博士(医学)」のように「博士」に続けて括弧内に専攻分野を併記するようになった。また学位の名称の使用に際しては、授与大学名をも併記しなければならない[3]。
古くはその語源からPh.D.は「哲学博士」を意味するものであったが、現在では特にアメリカなどにおいてPh.D.が学術全般を対象とした広い分野の博士に与えられていることから、Ph.D.を単に「博士」とするのが通常である。
博士課程 | 博士の学位の授与を受けるために在学する大学院の課程のこと。 |
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博士論文 | 「博士の学位」の授与審査を受けたときに提出した学位論文のこと。 |
博士号 | 「博士の学位」のこと。 |
最近[いつ?]は各国で、高等教育への関心が高まりつつある。そのため、社会人大学院や夜間大学院、通信制大学院といった形態で、働きながら研究して博士の学位を取得する人が増えている。またそうした社会経験の豊富な人口が大学の教員になることで、学問と社会の接点を拡大しているという面もある。
理系の博士は、企業からも一定の研究能力を持つ者として認知されることが多く、一部の産業では何人の博士を雇用しているかが信用の指標とされる場合がある。実際、日立グループと日立造船グループの関係者(在籍者とOB)の間では、博士号取得者の親睦組織「返仁会(へんじんかい)」が存在している。しかし、基礎研究を重視しがちな大学・研究機関においては、コミュニケーションスキルや従順さを重視する企業の求める人材との溝が指摘されることがあり、職域・活動に応じた知識や技能の向上は他の社会人と同様に重要である。[独自研究?]
国際的な知識社会化、生涯教育の拡大、高度専門職の増加などが進行する中、社会において博士号取得者をいかに活かすことができるかが、多くの国々で問われている。しかしながら日本では、博士号取得者の新規雇用に積極的な企業や大学はそれほど多くはないのが実状である。企業の立場では、人事体系に技術専門職種及び一部の経営幹部を除き博士号取得者を処遇する体制が整っていないこと、大学側では博士号取得者は研究者(学者)であり外部への就職は自力で行うものという思考があるためといえる。
なお、博士号取得者は国会議員政策担当秘書の資格を無試験で取得できる他、労働基準法第14条にて高度な専門知識を有する者としても位置付けられている。
また、欧米などでは称号として氏名に博士を付けて呼ぶ(英語圏の場合、博士号所持者はMr.○○ではなくDr.○○と呼ばれる)ことが通例である。かつての日本においては氏名の後に博士を付ける慣習があったが、現代の日本ではそうした慣例は一般的ではない。ただし、ノーベル賞の受賞者等に対して博士の敬称を付けて報道される例が現代においてもみられることがある。
博士号の学位制度は、国によって異なる。
アメリカでは、学術による(専門博士でない)博士は、伝統的にDoctor of Philosophyの学位を授与される。このPhilosophyは一学問分野としての哲学ではなく、広く学術一般を意味し、Ph.D.と略される。また、大学によっては、Doctor of ScienceをPh.D.の替わりに選択することができたり、Doctor of Philosophyとは名称の異なる学位を授与することもある。
一般的に、Ph.D.の学位には専攻分野が添えられ、学位保持者の研究分野を明確にすることが多い。例えば、政治学の研究において授与された博士号であれば、Doctor of Philosophy in Political Scienceとなり得るし、環境科学の博士号であれば、Doctor of Philosophy in Environmental Scienceとされるであろう。
また、Ph.D.の学位ではなく、専攻ごとに細分された学位を授与する場合もある。例えば、工学における博士号で、Doctor of Engineeringという学位が授与されることもある。ここで、工学は、元来Liberal Artsに含まれておらず、基礎的な研究を重視する学術を追求する分野として考えられていない場合があることに注意しておきたい。さらに、Ph.D.の代わりに、Doctor of Scienceという学位を理科系の専攻に用いる大学もある。
このように、学術系の博士号の名称は、本邦に比べ複雑であり、学位の正式名称は大学によって異なり、一概に学位の名称を特定することはできないし、日本の博士号と一対一で比較することはできない。
また、純粋な基礎研究以外に、研究結果を実際に応用することを強調したプログラムでは、Ph.D.の学位を授与することは少なく、下記のような学位を授与することが多い。
これらの学位においても、名称の違いは大きい。
また、一部の学位は、専門資格の取得の条件になっているが、日本のケースと異なることがある。例えば、PsyDは、アメリカでは5年間のフルタイム就学が必須であるが、日本では似たような学位や終了証が博士号に満たない能力で取得できる。例えば、臨床心理士は、修士号取得者が取得できるが、アメリカを含めた欧米では、これらの高度専門職従事者は往々に博士号が必須であり、心理学も例外ではない。一部の州では、博士号保持者以外が心理学者、または臨床心理士と自称することは違法ととらえられる可能性がある。
イギリスの博士号は、PhD又はDPhilと略記される(DPhilはオックスフォード大学とサセックス大学)。名誉博士号については、Doctor of Engineering等のようにofを用いて表記される。標準的な修学期間は多くの場合、修士号取得後3年間である。
少なくとも、以下の学位が存在する。
フランスの博士号(仏: doctorat)は、国家による学位である(教育機関による学位ではない)。それを保証する国家免状 (diplôme national) は、大学、その他の認められた高等教育機関によって国家の名のもと発行される。博士号の取得に関する詳細は法令により定められている。取得のための修学期間は、標準で修士(仏: master)取得後3年間である。その間に得られた研究成果をまとめた博士論文(仏: thèse de doctorat)を提出し、審査に合格することにより取得できる。
博士論文の審査は、報告者(仏: rapporteur)による論文の審査と、その後の審査会(仏: soutenance)からなる。報告者は、2名以上の博士論文指導資格(仏: habilitation à diriger des recherches)を持つ学外の当該専門領域の研究者であることが義務付けられている。そして、この報告者がそれぞれ別々に報告書を書き審査会に進めるかどうか決定する。1名でも反対があれば、審査会は開けない。また、審査会は、原則的に一般公開であり、3名から8名の審査員(仏: jury)もまた半数以上が学外の研究者でなければならない。この審査会を取り仕切るのは、プレジダンと呼ばれる博士論文指導資格を持つ大学教授もしくはそれに相当する研究者である。審査過程において、博士論文の指導教官は一人の審査員でしかなく、博士号授与の決定権は小さい。また、学外の研究者を多く取り入れることにより博士号の質を保つとともに、研究成果をその分野の著名な研究者に周知できる工夫がなされている。
ここで述べた博士号は学術的な研究に対するものだが、医学、歯学、薬学、獣医学における専門職の技能習得に対して授与される医師国家免状 (diplôme d'État de docteur) にも「博士 (docteur) 」の語が用いられる。
法令に基づく学位 |
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博士の学位 修士の学位 |
専門職学位と修了区分 |
1.専門職大学院の課程 (一般の専門職大学院) |
法令に基づく称号 |
準学士 |
告示に基づく称号 |
高度専門士の称号 専門士の称号 |
現在授与されない学位等 |
大博士の学位 得業士の称号 |
関連法令・告示 |
学校教育法 学位規則 |
表・話・編・歴
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日本においては、1887年(明治20年)5月21日、学位令(明治20年勅令第13号)が公布せられ、同令第1条により、博士と大博士の二等の学位が定められ、第2条により法学博士、医学博士、工学博士、文学博士、理学博士の五種が定められた。さらに、第3条により、博士学位は大学院の定規試験を通過した者に、帝国大学評議会の許しを得て、授与された。また、この頃は、課程の試験もしくは論文の提出以外の他に、推薦による博士学位の授与が存在していた。推薦を行う権限を有していたのは、文部大臣、帝国大学総長、そして、博士授与者からなる博士会であった。
1898年(明治31年)の学位令改正により、学位は博士の一種となり(結局、「大博士」は授与された者がいないまま廃止となった)、学位授与の資格は、帝国大学大学院にはいり試験を経た者または論文を提出して帝国大学分科大学教授会がこれと同等以上の学力ありと認めた者、もしくは、博士会が学位を授くべき学力ありと認めた者に、文部大臣が授けることとされた。また、薬学博士、農学博士、林学博士、獣医学博士の4種類の学位が追加された。
1914年、勅令第200号として改正学位令が公布され、学位授与の規定がより具体的に規定されるとともに、第10条により、学位の栄誉を汚辱した者にはこれを剥奪する、懲罰規定が盛り込まれるなどより詳細な規定が整備された。戦前においては原則として博士号授与機関は原則として帝国大学に限られ、その希少性から「末は博士か大臣か」と詠われほど市井において高く評価され、学位の保持者に対しては敬意が表されていた。
1920年の学位令改正では経済学博士、経営学博士、商学博士、政治学博士、神学博士の5種類の学位が追加された。また、この改正により、博士の学位の授与権者が文部大臣から大学へと移譲された。
今日の学位制度における博士の学位は1947年の学校教育法の制定により整備されたものである。1953年、学位規則が制定され、新たな学位として修士の学位が加わり、学位は博士と修士の二等となった。1991年改正学校教育法により、学位は博士、修士に加え学士の三等とされ、それまで専攻分野を冠した学位名称だったものを、すべて博士、修士、学士に統一し、その代わりとして、博士(医学)というように学位の後に専攻名を括弧付きで併記することとされた。同年には、今日の独立行政法人大学評価・学位授与機構の前身となる学位授与機構が発足し、省庁大学校で大学院博士課程の修了に相当する教育課程をへた者に対する博士の学位は、当該大学校及び学位授与機構の審査を経た者に授与されることとなった。2000年、学位授与機構は、大学評価・学位授与機構に改組され、それまでの学位事業は同機構に承継された。更に2005年改正学校教育法により、上記三等の学位に加え短期大学士を加えた四等となり、これによって今日の学位制度が整えられた。この1991年の学位制度の改革の結果、博士については従来と比較して粗製濫造化が進んだとの批判も聞かれる。
現在、博士の学位については学校教育法第104条において、大学が大学院の課程を修了した者に博士の学位を授与することとされ、第104条第2項に前項の規定により博士の学位を授与された者と同等以上の学力があると認める者に対し、博士の学位を授与することができるとされている。学位規則第4条では、大学院博士課程を修了した者に博士の学位を授与することが規定されており、同条の第2項では大学院の行う博士論文の審査に合格し、かつ、大学院の博士課程を修了した者と同等以上の学力を有することを確認された者に対し博士の学位の授与を行うことができると規定されている。同規則第4条1項に基づく博士の学位を課程博士、第2項に基づく博士を論文博士と呼び分けることもある。
また、学校教育法第104条第4項および学位規則第6条の2においては、独立行政法人大学評価・学位授与機構が、学校以外の教育施設で大学院博士課程に相当する教育を修了し、独立行政法人大学評価・学位授与機構が行う審査に合格した者に、博士の学位を授与することとされている。
先述の博士と位置付けの異なるものに、法務博士(専門職)がある。法曹養成制度の改革により、2003年以降、専門職大学院の一種である法科大学院において、法務博士(専門職)の学位が新設された。司法試験の受験資格をこの学位取得者に限ることで、司法修習を大幅に簡素化したものである。従って、法学博士とは名称が似ているが異なるものである。
諸外国においてもこれら専門職博士は研究業績に対する博士号とは区別された専門職学位として区別されている。
なお、日本では、博士論文は国立国会図書館への寄贈が求められ(納本の対象ではなく義務ではない)、取得後一定期間内に公刊することが義務づけられている。国立国会図書館と国立情報学研究所が作成している「博士論文書誌データベース」で国内の大学で授与されている博士論文の検索ができる。
1887年(明治20年)制定の学位令により、博士の種類は次の5種類とされた。
1898年(明治31年)12月9日の学位令改正により、4種類が追加され、合計9種類とされた。
1920年(大正9年)の学位令改正により、5種類が追加され、合計14種類とされた。また、この年より授与権者が文部大臣から大学へと移った。
1956年(昭和31年)に学位規則の制定により3種類の博士が追加され、合計17種類の博士が定められた。その後、1969年(昭和44年)に保健学博士、1975年(昭和50年)に学術博士が新設された。1991年(平成3年)6月の学位規則改正までの間に列挙されていた博士の種類は以下の19種類である。
1991年以降は、括弧つきで専門分野を博士の名称の後ろに付記する表記になり、博士(医学)のように示されるようになった。専攻分野の名称は大学により定められるとされているため、現在では様々な名称が用いられている。1991年以前からある学位の表記が変更されたもの(医学博士→博士(医学)、文学博士→博士(文学)、工学博士→博士(工学)など)以外にも、以下のように、様々な専攻分野の博士学位が授与されている。学位規則により、学位を表記する際には専攻分野と授与機関名を付記しなければならない(例:『博士(工学)(東京大学)』、『京都大学博士(文学)』、『博士(法学)名古屋大学』)
日本において博士の学位を授与するのは、大学もしくは独立行政法人大学評価・学位授与機構である。学校教育法第104条は、大学院の課程を修了した者に博士の学位を授与することとされ、第104条第2項に前項の規定により博士の学位を授与された者と同等以上の学力があると認める者に対し、博士の学位を授与することができるとされている。
学校教育法第104条第1項に基づいて、課程修了によって取得する博士号を課程博士、他方、同第2項に基づいて課程への在籍とは関係なく論文提出のみによって取得する博士号を論文博士と呼び分けることがある。大学が博士号を授与した場合、授与大学ごとに通し番号が付けられて文部科学省に報告されるが、課程博士には甲1234XX号のように「甲」が、論文博士には乙1234XX号のように「乙」が付けられる。ただし、一部の大学においては学位記上ではこれらの区別がなされず、両者の通し番号が記載されていることもある。
なお、中央教育審議会は2005年6月13日の総会で大学院改革に関する中間報告「新時代の大学院教育 - 国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて - 」の中で、「論文博士」について、「諸外国の制度と比べ日本独特の論文博士は、将来的には廃止する方向で検討すべきではないかという意見も出されている」と述べる一方、反対意見も紹介した上で、「論文博士については、学位に関する国際的な考え方や課程制大学院制度の趣旨などを念頭にその在り方を検討していくことが適当である」としている(資料第1章第2節3 課程制大学院の制度的定着の促進を参照)。
また、大学によっては、所定の期間在学し所定の単位を取得して退学した後であっても、一定期間のうちに論文を提出することにより課程博士を与える制度を設けていることもある。これと同様にして、論文博士として学位の取得を申請する場合であっても、博士課程の在籍経験がある者に対しては、学力の確認(試験)の扱いを一部免除するなど便宜を図っている大学もある。
しかし、退学後の課程博士の授与について中央教育審議会は、「一部の大学においては、博士課程退学後、一定期間以内に博士の学位を取得した者について、実質的には博士課程における研究成果として評価すべき部分が少なくないとして『課程博士』として取り扱っている例も見受けられる。このような取扱いについては、各大学の判断により、何らかの形で博士課程への在籍関係を保ったまま論文指導を継続して受けられるよう工夫するなど、当該学生に対する研究指導体制を明らかにして、標準修業年限と比べて著しく長期にならない合理的な期間内に学位を授与するよう、円滑な学位授与に努めることが必要である」とし、退学した後であっても、学生が再度復学などのかたちをとって課程に在籍し修了したうえで学位が授与されることを原則とするような措置を各大学に求めている(資料)。
博士の学位は、明治・大正期において「末は博士か大臣(大将)か」と言われた程、信頼の高い称号であった。現在でも博士の学位は、日本の学術研究の指導的立場に立つ人材の育成、国際機関などに人材供給をしていく上で大きな意義を持つ。
かつての日本では理系の研究領域において博士号の授与例が多い一方、文系においては授与例が少ない傾向にあった。
博士課程の在学期間中に学位を取得した場合は「修了」として認定されるが、従来は、就職などのために学位を取得する前に中途退学もしくは在籍可能年数に達して退学するケースも多くみられた。所定の在学期間(3年間)以上在学し、修了に必要な単位を全て取得してはいるものの、学位論文だけが完成しないまま就職することも多く、こうした場合「満期退学」又は「単位取得退学」と称する場合がある。京都大学の一部の研究科では、この状態を「研究指導認定退学」と称している[4]。文部科学省中央教育審議会の報告書では「課程の修了に必要な単位は取得したが、標準修業年限内に博士論文を提出せずに退学したことを、いわゆる『満期退学』又は『単位取得後退学』などと呼称し、制度的な裏づけがあるかのような評価をしている例があるが、これは、課程制大学院制度の本来の趣旨にかんがみると適切ではない」とし、これらの名称の使用に対しては否定的な見解を示している[1]。
在学年数を越えて大学院に留まる場合は研究生として在籍するケースもある。また、2005年の文部科学省中央教育審議会において文部科学大臣への答申の中で博士課程に社会人コースを設置し、社会経験にて実績のある人物の場合は1年間の在籍期間中に学位取得を志すことができるようにすべきだとされた。つまり、大学院の博士課程に社会人コースが設置された場合、1年間の修学期間で博士号を取得することが可能となる。
近年では、博士号は研究者の最終目標ではなく始発点との考えが広まりつつあり、とくに2001年の学位規則改正後は、博士課程が拡充されるとともに、課程の修了によって学位を授与するという教育機関としての本来の原則にしたがって、在学中に論文の執筆と申請および合否判定を行う方向に大学院指導も変化してきている。また在学中の博士号の取得が困難であると日本の大学生や外国人留学生が日本の大学院を敬遠し海外の大学院での学位取得を目指して流出することもあるため、文部科学省も各大学に対し、本来の制度の趣旨にのっとって課程在学中に博士号を取得できるようにする教育体制を整えるようにとの指導をおこなっている。
その結果として、従来は必ずしも明らかでなかった博士号の取得に要請される研究業績の客観的条件の基準を各大学で設けたり、語学試験や事前審査などを通じた博士候補の認定など、学位授与にかかる一連の過程が明文化され、在籍する学生にとっても計画的な研究や目標の設定が可能となった。学位授与の客観的条件については各分野により違いがあるが、たとえば、博士論文提出までに学会での発表を行い、査読付き投稿論文を執筆するといった業績を博士課程在籍中に挙げることが、博士論文を提出し審査を受ける要件となっている場合が多い。
他方、このような政策は博士号の取得者を増加させ、従来は碩学泰斗の証とみなされることの多かった博士の価値の低下[5]を招き、博士号を有しながらも定職に就けないオーバードクター問題を発生させている。また、博士号を有しながらも定職につけないのは、需要と供給、そして現在の日本の大学をとりまく現状とのミスマッチから起こっているのも大きい。このような状況の下、文部科学省は2009年6月5日、第2期の中期目標素案作りが進む各国立大学に、大学院博士課程の定員削減を要請した[6]。
博士学位の問題に偽造学位の問題がある。主に海外にて、学位を審査・授与するに足らないディプロマミル・ディグリーミルという機関が大学を称して、形式的な審査と料金を支払うことで、正式な博士の学位であるかのように学位を授与する(学位記を交付する)組織が存在する。アメリカでは、ディプロマミルを用いた経歴詐称が深刻であり、日本においても2004 - 2006年度で全国4大学に4人、「ニセ学位」によって採用・昇進した教員がいたことを2007年末に文部科学省が発表した[7]。このような問題を回避するためにも、学位の名称の使用に際しては授与機関名を併記しなければならないことが学位規則によって定められている(例:博士 (医学) (東京大学))。しかし実際には、取得大学名の併記が省略される例が多発している。
文部科学省は『「真正な学位と紛らわしい呼称等についての大学における状況に係る実態調査」の結果について』を公表し、この中で「近年、正規の大学等として認められていないにも関わらず、学位授与を標榜し、真正な学位と紛らわしい呼称を供与する者の存在についての指摘が我が国においてもなされるようになっています。このような呼称を取得した者が、その呼称を有していることを以って我が国の大学において採用されること及び昇進すること、あるいはその呼称の所持が大学における広報媒体において表示されること等があれば、学習者の誤認や我が国の高等教育に対する信頼低下等につながりかねません」と指摘している。この調査結果を踏まえて、良識のある大学の中には、教員がプロフィールを示す際に博士と明記しながらも取得機関名を記していない場合には取得機関名を記さない事による偽造疑惑の懸念を持たれること、また大学自体の信用失墜を防ぐため学位の取得機関の明示を図るように指導しているところが多い。
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