出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/03/04 11:27:07」(JST)
堆肥(たいひ)とは、有機物を微生物によって完全に分解した肥料のこと。有機資材(有機肥料)と同義で用いられる場合もあるが、有機資材が易分解性有機が未分解の有機物残渣も含むのに対し、堆肥は易分解性有機物を完全に分解したものを指す。コンポスト (compost) とも呼ばれる。一方、昔ながらの植物系残渣を自然に堆積発酵させたものが堆肥であり、強制的に急速に発酵させたものがコンポストであるとする意見もある[要出典]。本項は堆肥、コンポストを同義として扱う。
また、生ごみ堆肥化容器の生成物である堆肥(コンポスト)が転じて、生ごみ堆肥化容器をコンポストと呼ぶ場合がある。
堆肥が出来る過程は堆肥化を参照
欧米と日本の各国または民間の団体の堆肥(コンポスト)の定義を挙げる。
堆肥を施肥することによって、土壌に様々な効果が現れる。以下にその効果をまとめる。
堆肥化とは堆肥を作ることであり、その定義は「生物系廃棄物をあるコントロールされた条件下で、取り扱い易く、貯蔵性良くそして環境に害を及ぼすことなく安全に土壌還元可能な状態まで微生物分解すること」である (Goluke, 1977) 。あるコントロールされた条件下とは、堆肥化を行う微生物にとって有意な環境を人為的に作ることを意味している。また、有機物分解が不完全な状態では肥料として様々な問題を持つ。これらの問題が起こらなくなるまで人為的に分解を進めることが堆肥化である。
堆肥化微生物の活動を活発にするためには、次の条件を整えることが必要となる。炭素と 窒素のバランス(C/N比)、含水率、pH、温度及び酸素である。上記の条件が最適ではなかった場合、分解速度が落ちたり、製品の品質低下につながり、作物の窒素飢餓を招く。
詳しくは堆肥化のページを参照。
水分 - 水分量は取扱に直結する。含水率60%w.b.以上であると、仮比重が大きく、付着性も大きくなるため、袋詰や輸送が困難になる。逆に、含水率が30%w.b.以下になると粉塵が発生するようになる。また、堆肥化が完全でないものを乾燥させると分解が停止して未熟なコンポストができてしまう。乾燥を行うのは堆肥が完全に出来上がってからが良い。各国の基準値は25-55%w.b.である。
pH - 全国農業協同組合連合会の推奨基準値はpH5.5-8.5。基本的にpH8.5以上になることはほとんどないが、pH5.5以下になることはままある。酸性の堆肥はミネラルの過剰害やリン酸の固定、吸収障害などが起こる。
EC - 堆肥に含まれるイオンの量。堆肥は低い方が良く、全国農業協同組合連合会の推奨基準値はバーク堆肥に対して3.0dS/m以下、家畜糞尿に対して5.0dS/m以下。堆肥中の主なイオンは、カリウム、ナトリウム、塩素、硝酸などである。
C/N比 - 堆肥中の炭素と窒素の割合を示したものであり、値が高いと窒素量が少ない。全国農業協同組合連合会の推奨基準値は10-40である。値が大きすぎると土壌が窒素飢餓を起こす恐れがある。しかし、これは絶対的な指標ではない。なぜなら、C/N比は易分解性有機物と難分解性有機物の炭素と窒素を同時に測定するからだ。例えば、おが粉のC/N比は340-1250と非常に高く、おが粉を副資材として混合した堆肥のC/N比も大きくなる。だが、おが粉は難分解性有機物のため、おが粉に含まれる炭素分を易分解性有機物の炭素と同様に考えることにあまり意味はない。他の指標と総合的に評価することが必要。
アンモニア態窒素と硝酸態窒素割合 - アンモニア態窒素は少ない方が良い。アンモニアは堆肥化の初期に発生し、悪臭や作物生育阻害の原因となる。対して硝酸態窒素割合は、堆肥中の無機量窒素のなかで硝酸態窒素が占める割合を示し、この値は大きい方が良い。硝酸態窒素はアンモニアを硝化して出来る。この反応は主に二次発酵中に起こる。
肥料成分バランス - 全窒素量を1とした時のカリウムの割合、低い方が良い。適正値は5以下。
重金属濃度 - 銅と亜鉛の濃度。これらは、作物にとって必要な微量要素であるが多すぎると作物に害を与える。適正値は銅300ppm以下、亜鉛900ppm以下。
最も堆肥化が行われているものが、家畜ふんの堆肥化である。使用されるふんは主に、牛糞、豚糞、鶏糞である。伝統的な家畜ふんの堆肥化は、家畜ふんとともに稲わらなどの副資材を混合し野積みにする。そして、適宜切り返しなどをしてゆっくりと堆肥化を行う。しかし、近年の大規模農業化に伴う家畜ふん量の増大のため、従来の方法では堆肥化が間に合わなく、また野積みにされた家畜ふんによって地下水が汚染される恐れがある。そこで、自治体などは堆肥化施設を建設し堆肥化を行うようになってきている。
ゴミの減量化などを目的として、企業から排出される生ゴミを堆肥化する施設が建設されている。また、一般家庭でもコンポスターを使用して生ゴミの堆肥化が行われている。一部では、食品に使われる塩分が濃縮され、作物に害を与えるのではないかと心配されているが、完全に堆肥化を行えば問題はないとの報告もある。
さまざまな有機廃棄物ともみがらと混合し製造する堆肥。もみがらの分解度で堆肥としての発酵の進み度合いが判別でき、土壌の柔軟さにも効果があるとされる。技術的な困難さから普及は遅れている。
Humanureは農業用かその他の目的で、堆肥化されて再利用される人間の廃物を指す新語である。この語はジョセフ・ジェンキンズによるこの有機土壌改良剤の利用を説く1999年の本「Humanureハンドブック」によって知られるようになった。
Humanureは廃棄物処理施設で処理される古典的な下水とは異なり、(下水は工業やその他の発生源から出る廃棄物も含んでいる)糞尿、紙、及び追加の炭素を含む物質(おがくずなど)で構成される。
Humanureは人間から出た廃物が適切に堆肥化されている限りは、作物に用いても人体には安全である。これは、廃物が好熱性の分解が、有害な病原体を除去するまで十分に加熱する、及び/または、新しい肥料が加わってから微生物学的活動がほとんどの病原体を殺すのに十分な時間が経過していなければならないことを意味する。作物に用いても安全にする目的で、しばしば植物毒素を取り除くために二段階目の中温過程が必要になることがある。
Humanureは、下肥(作物に散布される未加工の人間の廃物)とは別のものである。
下肥(しもごえ)は、ほとんどの場合、未加工の人間の廃物(人糞及び人尿)を肥料として用いることを指す。
日本では14世紀の二条河原落書に触れられているのが人糞利用の記録としては最古であり、江戸時代の江戸をはじめとする大都市では近郊の農民が町家の糞尿を購入して、回収した糞尿を用いて堆肥を生産しており、結果的には当時の深刻な都市問題であった人間の廃物処理問題を上手く解決してきた。近年このような風習は廃れてきたが、第二次世界大戦後の近郊農家の減少や水洗トイレと化学肥料の普及が減少の一因として挙げられる。
人間の排泄物を安全に堆肥に変えることは可能ではあるが、そのプロセスはやや複雑となる。肥溜めでの貯留により高温発酵させ寄生虫卵や病原菌を死滅させる、使用時に希釈するなどの手法が行われる。多くの地方自治体が自治体の下水処理システムから堆肥を生産しているが、それは花壇のみに用いて、食用作物には使わないよう推奨している。また、過剰な重金属を取り除かないと、作物に吸収されるため危険または不適切であるという批判もある。
インドの古代カースト制度では、不可触民に下肥の取り扱いをさせていた。こうした「人力回収」は現在ではインドのほとんどの州で違法とされているが、多くの地方でいまだにこうした活動が続けられている。
下水残渣の適切な処理と再利用は、重要な研究分野であると同時に、高度に政治的な問題でもある。
厩肥(きゅうひ)とは家畜などの糞尿や敷藁を原料とした肥料の意味である。
中世の日本では、武士が軍事用に飼育していた馬から排泄される馬糞を、自己や支配下の領民の田畑への肥料として用いていた。
近年の「有機栽培ブーム」に伴い、堆肥の利用が増えているが、堆肥は製法によりその成分が大きく違ってくるので、取り扱いには十分な注意が必要である。
堆肥の製造とは、有機物分解のための適切な生態系を創造するということでもある。堆肥化を効率的に行うためには、分解生物群の活動に適切な環境を維持しなければならない。堆肥の原料は、直接的に有機物を分解する微生物に加え、その分解者を捕食する生物にも住処も提供している。また、彼らの排出物も、分解というプロセスの一部である。
分解を行う生物のうち、もっとも直接的に働くのはバクテリア等の微生物である。その中でも、菌類、糸状菌、原生生物、放線菌(分解される有機物中にしばしば白い繊維状に見えるバクテリア)等が重要である。また、ミミズ、アリ、カタツムリ、ナメクジ、ヤスデ、ワラジムシ、トビムシなども、有機物の消費、分解に寄与する。ムカデや他の捕食者はこれらの分解生物を餌とする。
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