出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/11/02 17:11:15」(JST)
この項目では、自動車競技について説明しています。その他の用法については「ラリー (曖昧さ回避)」をご覧ください。 |
ラリー (英: Rally) とは、指定されたコースを一定の条件のもとで長時間走る、自動車競技の一種[1]。運転手(ドライバー)と案内人(ナビゲーターもしくはコ・ドライバー)の2名1組が競技車両(ラリーカー)に同乗し、公道上を1台ずつ走行して、区間タイムの速さや運転の正確性を競う。
ラリーを直訳すると「再び集まる」という意味であり、各地を出発してから一箇所に集うのがイベントの原型である[2]。その起源は、中世の騎士が各地から戦争を始める城へ集結した行動とされる[3]。平時においても訓練を兼ね、馬に騎乗して領主の元へ誰が一番早く到着できるか競い合う競技があり、その言葉が20世紀の自動車競技に継承された[4]。
19世紀末に始まった自動車競技は都市間の公道を走行していたが、安全面などの理由から閉鎖周回路(サーキット)で行なうレースと、公道で行なうラリーに分化していった。自動車競技としてのラリーは、1911年に始まったラリー・モンテカルロが起源とされる[2]。当時は参加者がヨーロッパの各都市を出発し、指定地点を通過しながら、険しい峰々を越えて地中海岸のリゾート地モナコへ集合するというイベントだった[注釈 1]。ラリー界ではラリー・モンテカルロと1932年創設のRACラリー(現ウェールズ・ラリーGB)、1953年創設のサファリラリーのことを「三大ラリー」と呼ぶ[5]。かつては長距離・長時間走行の耐久性を競う傾向が強かったが、現代ではコースや日程をコンパクトにまとめ、短距離のタイムアタックを繰り返すスプリント形式が主流となっている。
ラリーの最高峰は1973年に創設された世界ラリー選手権 (World Rally Championship, WRC) 。その下にヨーロッパラリー選手権 (ERC) やアフリカラリー選手権 (ARC) 、中東ラリー選手権 (MERC)、アジアパシフィックラリー選手権 (APRC) という4つの地域選手権 (Regional Rally Championship) があり、さらに全日本ラリー選手権 (JRC) やラリー・アメリカ (RANC) などの国内選手権 (National Rally Championship) と、国内の地方選手権という形でピラミッドが構成されている。
ラリーでの好成績には市販車の販売促進効果があるため、上位シリーズや伝統イベントでは自動車メーカーが一流プロ選手と契約し、ワークス・チームを編成して参戦する。
ラリーは順位決定の主要素によって競技方法が異なり、簡単に言うと、走行の正確さを重視するラリーと、速さを重視するラリーに分けられる。日本自動車連盟 (JAF) の国内ラリー競技開催規定では前者をアベレージラリー(第1種・第2種)、後者をスペシャルステージラリーと定義している[6]。
指定区間を指示された平均速度で走行し(リライアビリティラン)、その所要時間の正確さを競う。日本国内の初級ラリーを中心に存在し、「タイムラリー」とも呼ばれる。
競技者はラリー当日に配布されるロードブックに記された道のりを、指示された平均速度で走行する。コマ図にない交差点や分岐路は直進(道なり走行)が原則。途中に指示速度変更地点(パスコントロールポイント、PC)が設けられる場合もある。実際は道路状況によって走行ペースが変動するので、ナビゲーターが常に指示速度と自車の平均速度のずれを計算し、ドライバーにペースアップ/ペースダウンを指示する。
ルートの途中には何箇所か通過確認地点(チェックポイント、CP)があり、それぞれ所要時間(=走行距離÷指示速度)が設定されている。競技車両はここで一時停車し、自車の通過時刻が記されたチェックカードを受け取る。チェックポイントは路面に白線などで表示されるが、その場所はロードブックには記されていない(ブラインドチェック)[注釈 2]。
ルートを完走した時点でチェックカードを集計し、CPごとに早遅誤差(ファイナルタイム)に対して減点を受ける。減点はイベントによって「1秒あたり1点」か「1分あたり1点」という換算方式がある。その他に、給油や修理を行なうサービス地点(レストコントロールポイント、RC)で制限時間をオーバーした場合なども減点対象となる。これらの減点の総計が最も少ない者が勝者となる。走行状態の正確な把握、チェックポイント出現場所の予想など、経験やナビゲーターの実力が大きく成績に関わることが多い。
ロードブックに記載されている走行距離はオフィシャルの計測車両が事前走行した際のデータによるものだが、競技車両との間にはトリップメーター誤差が発生する。これはタイヤの減り具合や空気圧、トリップメーターの製造時誤差などに起因し、そのまま競技を行うと、それぞれ車に計測距離の違いが生じる。これを修正するため、スタート地点からある程度の距離にオド・メーター・コントロール・ポイント (OMCP) と呼ばれる地点が設けられる。ナビゲーターがこの地点でオフィシャル車両の計測した距離と競技者車両の誤差を校正し、OMCP後の区間の計測距離を補正する。
ロードブック上のOMCP地点には、オフィシャルが計測したスタートからの距離が記載されている。この記載されている距離が、例えば10.0kmであるのに対して、自車がスタートからこの地点まで来た時のトリップメーターの数字が11.0kmであった場合、修正係数は11.0/10.0即ち1.1となり、自車は指示速度に1.1を乗した速度で走る必要が生じる。
この修正係数及び指示速度の算出には、古くは筆算、計算尺、歯車式計算機などが用いられた。 クルタ計算機はラリー競技者に愛用された歯車式計算機のひとつである。しかし、交通戦争などの社会事情からラリーへの風当たりが強くなると、ラリーは指示速度が頻繁に変更される計算ラリーと呼ばれる形態に姿を変えて行き、簡単な算出方法が必要とされるようになった。
この需要に答えたのが、「円盤」と呼ばれるラリー専用の計算尺であった。これは、互いの角度を固定できる2本の針をもった円盤式計算尺で、まず一方の針をロードブック上のOMCPの距離(先の例の場合10.0)の目盛りに合わせ、もう一方の針を自車がこのOMCPまでに走った時点でのトリップメーターの距離(先の例の場合 11.0)の目盛りに合わせて、2本の針の角度を固定する。その後、最初の針を指示速度の目盛りに合わせると、もう一方の針が指す目盛りの速度が、自車が走行すべき速度になるというものであった。
しかし1980年代にトリップメーターと計算機が内蔵された専用のラリーコンピューター(通称ラリコン)が出現し、これらの算出用具を一掃した。ラリコンは助手席のダッシュボードに搭載され、現在時刻やスタート時刻、指示速度を入力すると自動的にファイナルタイムが表示される。OMCPでオフィシャル数値を入力すると以後トリップメーターが自動的に補正される。
リライアビリティランを主体とするが、コースの一部にスペシャルステージ (SS) やハイ・アベレージ区間 (高速走行区間) を含むことで、走りの正確さ+速さを競う。中上級以上に存在し、「スポーツラリー」とも呼ばれる[7]。
SSに指示速度は無く、目標タイムは0秒。したがって、この区間を通過するのに要した時間が減点される。例えば、SS走行タイムが3分12秒の場合、1秒1点換算では192点(60×3+12)の減点となる。ハイ・アベレージ区間(ハイアベ区間)はSSのような占有状態ではないが、制限速度内で競技者が達成困難な速度をあえて指示する。競技者が減点を最小限に留めようとハイペース走行をすることで、事実上のタイムトライアル区間となる。
最高峰の世界ラリー選手権 (WRC) を始めとして、海外のラリーはSSにおけるタイムトライアルを主体とし、合計タイムによって純粋な速さを競う。「スプリントラリー」とも呼ばれる。
通過確認地点はチェックポイントではなくタイムコントロール (TC)と呼ばれ、サービス地点の出入り口や、各SSスタート地点の手前に設けらる。シークレット方式のアベレージラリーと異なり、走行ルートやTCの位置は事前に公開されており、SSを制限速度内で予習走行(レッキ)することも認められている。
競技者はSSスタート前に次のTCまでの目標到着時間(ターゲットタイム)を知らされ、オフィシャルのカウントダウンでタイムトライアルを開始。レッキ時に作成したペースノートを頼りにSSを全力走行する。フィニッシュ地点を全開で駆け抜けた後停車し、TCカードにタイムを記入される(区間タイムはスタート/フィニッシュ地点の光電管で計測される)。その後、ロードブックに従い移動区間(ロードセクションまたはリエゾン)を走行して次のTCに到着し、またSSタイムトライアルを行うという流れを繰り返す。全ルート終了後に、SS走行タイムの積算が少ない順に順位が決定する。
ロードセクションは次のTCに余裕を持って到着できるよう時間設定されており、TCの手前でチェックイン時刻を待つことができる[注釈 3]。ただし、SSでのタイムロスやロードセクションの交通渋滞などによってTCへの到着が遅れると、1分あたり10秒のペナルティを受ける(早着は1分あたり1分のペナルティ[注釈 4])。日本国内の競技では一般道の制限速度や通行量を考慮して、SSが極端に遅くてもロードセクションを急がないで済むようなルールが採用されている[8]。
競技性は薄く、初心者でも参加して楽しめるラリー。
「ラリー」という名が付つが、上述の競技とはルールやイベント方式が異なる自動車競技もある。
ラリーレイド(クロスカントリーラリー)は、大平原・砂漠・岩場などの道なき荒野を走破する耐久競技。スプリントラリーと同様にSSとリエゾンで構成されるが、競技日程・総走行距離ともに長い。ミスコースや事故・故障などに遭遇する確率が高く、サバイバル的要素が強い。
車両は悪路走破性能をもつクロスカントリービークルやバギーカーがメイン。その他にもカミオン(トラック)やオートバイ(オフローダーやATV)といった様々な乗り物が一緒に出場するのが特徴である[10]。
日本国内ではダカール・ラリー(旧称パリ-ダカール・ラリー)で三菱・パジェロや日野・レンジャーが活躍し、テレビでもダイジェスト放送されたことから、一般的にこの競技が「ラリー」のイメージに捉えられる傾向がある。
ラリークロス(英語版)は、短い周回路(サーキット)において、ラリーカーがレース形式で順位を争う競技。1ヒートあたり4 - 10台の車両が出走し、予選ヒートや敗者復活戦を勝ちあがった者で決勝ヒートを行なう。グラベルとターマックがミックスされたコースで、600馬力のマシンがぶつかり合う豪快なスタイルが特徴。
欧米では伝統のある競技であり、アメリカではX Gamesの1種目としてグローバル・ラリークロス選手権(英語版)が人気を博している。また、ヨーロッパ選手権がFIA世界選手権に昇格し、2014年より世界ラリークロス選手権がスタートする[11]。
レース専用に設計・製造されるレーシングカーとは異なり、ラリーカーは自動車メーカーが生産する市販車をベースにして、認められる範囲内で競技用の改造を行なう。メーカーが国際自動車連盟 (FIA) や日本自動車連盟 (JAF) のようなモータースポーツ統括団体に対して申請を行い、公認(ホモロゲーション)を受けたモデルがベース車両となる。公道を走行するので、競技中もナンバープレートをつけて走行する。
ラリーカーは「グループ」とその中の「クラス」によって分類されており、例えばグループR5といえば「グループRのクラス5」に属する車両である。それぞれ年間生産台数、エンジン形式(過給/非過給など)、排気量、駆動方式(4WD/2WD)といった細かな条件が指定されている。グループによって改造許容範囲は異なるが、ノーマルに近い状態に留めて性能とコストを抑えようとすると、結果的に高性能スポーツモデルを生産するメーカーが有利になりやすい。車種やエントリー台数を増やすために、改造範囲を広げた派生種(キットカー)の開発を認めるカテゴリもあり、WRC最高峰のWRカーもこれに該当する。
ベースカーからの仕様変更点として、乗員の安全を守るロールケージ、4点式シートベルト、車載消火器などは装備が義務付けられる。ボディの外観はベースカーから大きく変更できないが、ボディ底面を守るアンダーガード、マッドフラップ、リアウィング、夜間走行用のライトポッドなどは公認された部品を装着できる。内装は軽量化のため後部座席や遮音材、エアコンなどを取り外して簡略化している。ラリーではサイドターンを駆使するため市販車、特にATしか設定がないことも多くなった日本車では少なくなったハンドブレーキバーが現在でも活躍している。
エンジンの改造は厳しく制限され、ターボチャージャーにはリストリクターを装着して吸気量を制限している。
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