出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/04/08 15:00:51」(JST)
心筋症(しんきんしょう、英: cardiomyopathy)は、心機能障害を伴う心筋疾患。肥大型、拡張型、拘束型、不整脈原性右室心筋症、分類不能型に分類される。心臓移植がこの病気にとって非常に有効であることが多いことから注目を浴びるようになった疾患である。
心筋症は数多くの名前で呼ばれてきたが、最初の解剖症例の報告は1891年のクレールによるものとされる[1]。その後、世界保健機関(WHO)と国際心臓連合(ISFC)の合同委員会は1980年心筋症を「原因不明の心筋疾患」と定義し拡張型(DCM, dilated cardiomyopathy)・肥大型(HCM, hypertrophic cardiomyopathy)・拘束型(RCM, restrictive cardiomyopathy)に分類し、心筋疾患でも原因または全身疾患との関連が明らかなものと厳密に区別した[2]。(なお、この分類でも分類しきれないものあるので分類不能心筋症という項目もある。)しかし、従来不明とされた心筋症の原因や成因を示唆する報告が相次いだため、先の合同委員会は心筋症を「心機能障害を伴う心筋疾患」と広く定義し直し従来の3分類に加え、催不整脈性右室心筋症、特定心筋症の範疇を設けた[3]。
心室とともにしばしば心房の内腔容積増加を伴う心拡大(cardiac enlargement)と収縮機能障害を特徴とする心筋の病気であり、不整脈による突然死と心不全をもたらす。初期には心拡大によってポンプ機能自体は正常範囲に保たれており、βブロッカー、アンギオテンシン変換酵素阻害薬あるいはアンギオテンシンII受容体ブロッカー、利尿薬などの薬の組み合わせにより進行を遅らせることが可能である。しかし、代償が破綻し末期重症心不全になると有効な治療薬はなく心臓移植を必要とする。女性より男性のほうが重篤な傾向がみられる。
日本では、特発性拡張型心筋症(とくはつせいかくちょうがたしんきんしょう、Idiopathic DCM)として特定疾患治療研究事業対象疾患に指定されている。
初期段階では自覚症状があまりなく、易疲労感・倦怠感や動作時に軽い動悸が起こる程度であるため、発見が遅れてしまうケースがある。病状が進行すると浮腫・湿性咳嗽・頸静脈怒張などの身体症状を伴う重篤なうっ血性心不全や治療抵抗性の不整脈を起こす。診断されてからの5年生存率は54%、10年生存率は36%とされていたが、最近では治療の進歩により5年生存率は76%と向上している[4]。しかし突然死もまれではない。激しい運動は心臓に大きな負担を強いることとなり、急な心臓発作を起こす可能性があるため避けるべきとされている。
心電図ではP波の持続時間延長が認められる。
拡張型心筋症は、以前から、ウイルス、アルコール、毒物、免疫傷害など非遺伝的攻撃によってもたらされることが知られていた。原因不明なものは”特発性”拡張型心筋症と呼ばれていたが、サルコメア蛋白質、細胞骨格蛋白質、筋形質膜および核膜蛋白質の遺伝子の突然変異が拡張型心筋症の大きな原因であることが最新の研究で明らかにされている[5]。2013年の時点で、本症症例のおよそ3割が遺伝子突然変異が原因であると推定されている。遺伝子突然変異が拡張型心筋症を引き起こすメカニズムを明らかにするため、サルコメア蛋白質であるミオシン、アクチン、トロポニン、トロポミオシンに関して、組換え変異蛋白質分子や遺伝子改変動物モデルを用いた研究が活発に行われている。ミオシン変異はサルコメアの収縮機構そのものを傷害し(i.e.,アクチン-ミオシン相互作用の低下をもたらす)、アクチン、トロポニン、トロポミオシン変異は心筋収縮のカルシウムによる調節機構を傷害する(i.e.,ミオフィラメントカルシウム感受性の低下をもたらす)ことが明らかにされている[6]。一方、細胞骨格蛋白質と細胞膜貫通蛋白質の突然変異はサルコメアが発生する力の隣接心筋細胞への伝達を傷害し、核膜蛋白質の突然変異は心筋細胞に加わる力による遺伝子発現機構の傷害によって拡張型心筋症をもたらすのでないかと推測されている[7]。遺伝性拡張型心筋症の研究からはっきりした重要なことは、心筋細胞には単にその収縮機能が内因的に低下するだけで心拡大によって代償するメカニズムがはじめからプログラムされているということである。皮肉なことに、その代償メカニズムが働くことによって致死的不整脈による突然死のリスクが高まり、その破綻によって末期心不全がもたらされるものと推測される。現在治療薬として用いられるβブロッカー、アンギオテンシン変換酵素阻害薬やアンギオテンシンII受容体ブロッカーは、短期的には収縮機能を高めるが長期的には有害な”細胞内cAMPとカルシウムの増加を介する”代償反応を抑えることでその破綻を遅らせているように見える。細胞内cAMPとカルシウムの増加によらず収縮機能を改善することができる新規の強心薬であるカシウム感受性増強薬やミオシン活性増強薬などは、このような長期的には有害な代償反応プログラムの発動を抑えてより高い有効性を示すことが期待される[8][9]
詳細は「バチスタ手術」を参照
分類及び外部参照情報 | |
ICD-10 | I42.1-I42.2 |
---|---|
ICD-9 | 425.4 |
OMIM | 192600 |
DiseasesDB | 6373 |
MedlinePlus | 000192 |
eMedicine | med/290 ped/1102 radio/129 |
MeSH | D002312 |
プロジェクト:病気/Portal:医学と医療 | |
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500人に1人が発症するよくある病気であり、若いアスリートなど若者の突然の心停止によくある原因である。男女差は見られない。 心筋細胞の肥大のため心室壁が厚くなるが心室のサイズはしばしば正常である。本症は心筋肥大による左心室の拡張障害が主体である。拡張期が短縮することにより、心室に血液が充分に流れ込まなくなる。その結果、全身に流れる血液量が不足したり、心室→心房への逆流が起こることによりひいては肺水腫に至って呼吸困難を呈したりする。病態が進行するとしばしば拡張型心筋症様になることがあり、拡張相肥大型心筋症と呼ばれる。
心房細動の合併が多い。
大動脈弁付近の壁肥厚による閉塞性肥大型心筋症 (HOCM) と、心尖部の壁肥厚による非閉塞性肥大型心筋症 (HNCM) に分類される。HOCMの基本病態は、心流出路狭窄による心拍出量低下であり、一方、HNCMの基本病態は、心室筋肥大による左室拡張能の低下および不整脈である。欧米では前者が多いが、日本では後者が比較的多い。また、肥大が心尖部に限局したapical HCMと呼ばれる病態も報告されている。初報告は日本でなされており、また日本人に多いとされている。
これらの研究の結果、現在では、心筋の異常な肥大こそがHCMの本質であり、各分類は、その肥大する部位の差によって、左室流出路狭窄が起きるか否かに過ぎないと認識されるようになっている。
閉塞性肥大型心筋症においては、下記のような所見が見られる。
肥大型心筋症の病理組織写真(HE染色)。
肥大型心筋症の割面像。
通常は遺伝性であり、本症症例のおよそ7割が常染色体優性遺伝形式をとる遺伝子変異が原因である。拡張型心筋症と同様にミオシン、アクチン、トロポニン、トロポミオシンをはじめとするサルコメア蛋白質の遺伝子の突然変異が明らかにされている[10]。カルシウムによる収縮制御に関わるトロポニンやトロポミオシン遺伝子の突然変異はミオフィラメントカルシウム感受性を増加させる。これは、これらの遺伝子における拡張型心筋症を引き起こす変異がカルシウム感受性を低下させることと逆であり、ミオフィラメントカルシウム感受性増加による収縮機能の亢進あるいは弛緩機能の低下が肥大型心筋症をもたらしていると考えられる[11][12]。高血圧や加齢によっても時間をかけて発症し、糖尿病や甲状腺疾患などの他の病気も原因となる。
最大の問題である、突然死の予防が最重点となる。
過激な運動を避け、また、心筋の拡張能を改善するためと、心筋の負荷を軽減するために、β遮断薬が使われる。しかし、喘息を合併している場合のようにβ遮断薬が禁忌の症例にはカルシウム拮抗剤などが用いられる。大動脈弁狭窄や僧帽弁逆流が高度な場合には、心室中隔切除術などの外科的手術を行う。場合によっては突然死予防のため植え込み型除細動器が必要になる。
心室の収縮機能は正常だが左心室が硬く、拡張に問題がある。この点では肥大型心筋症と似ているが肥大や拡大等が見られない点で異なる。アクチン、ミオシン、トロポニン遺伝子の突然変異が発症に関与していることがわかっている[13]。
右心室心筋が脱落し、脂肪組織または線維脂肪組織が置換する。
上記4型のいずれにも分類されない。
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右手首 | 左手首 |
右足首 | 左足首 |
V1 | 右第4肋間 | 赤 |
V2 | 左第4肋間 | 黄 |
V3 | V2とV4の中点 | 緑 |
V4 | 左第5肋間かつ鎖骨中線 | 茶 |
V5 | V4と同じ高さで前腋窩線との交点 | 黒 |
V6 | V4と同じ高さで中腋窩線との交点 | 紫 |
先天性心疾患.xls
心室中隔欠損症 | 30.5 |
心房中隔欠損症 | 9.8 |
動脈管開存症 | 9.7 |
肺動脈狭窄症 | 6.9 |
大動脈縮窄症 | 6.8 |
大動脈狭窄症 | 6.1 |
ファロー四徴症 | 5.8 |
完全大血管転位 | 4.2 |
その他 | 20 |
心疾患による症状 | |||
肺血流増加 | 肺血流減少 | 低心拍出 | |
1.新生児期・乳児早期 | 多呼吸,陥没呼吸, 呼吸困難,喘鳴, 多汗, 哺乳障害 | チアノーゼ | 蒼白,末梢冷感, 冷汗,網状チアノーゼ, 体重増加不良, 弱い泣き声 |
2.乳幼児期 | 多呼吸, 易感染性,反復する肺炎 | チアノーゼ, 低酸素発作, 蹲踞 | 体重増加不良, 運動発達遅延, 易疲労性, 顔色不良,やせ |
3.小児期 | 運動能低下, 息切れ | ばち状指 | 運動能低下, 動悸 |
4.思春期以後 合併症による症状 | 胸痛,失神発作,突然死,喀血,不整脈,出血傾向,痛風,けいれん 等 |
疾患 | 先天性心奇形 | その他 |
22q11.2欠失症候群 | ファロー四徴症、総動脈幹症(truncus arteriosus)、心室中隔欠損を伴う肺動脈弁閉鎖症、 大動脈弓離断、右側大動脈弓、右側肺動脈の大動脈起始 |
胸腺低形成、低カルシウム血症、特有の顔貌、口蓋裂 |
ダウン症候群 | (50%の例に合併)。心房中隔欠損症(ASD), 心室中隔欠損症(VSD) | |
先天性風疹症候群 | 心房中隔欠損症、動脈管開存症、末梢肺動脈狭窄 | |
ターナー症候群 | 大動脈縮窄症 | 低身長・翼状頚、外反肘 |
ヌーナン症候群 | 肺動脈弁狭窄、肥大型心筋症 | ターナー症候群に似る |
マルファン症候群 | 僧帽弁逸脱症、大動脈弁閉鎖不全症 | |
糖代謝異常合併妊娠母体からの出生児 | 大血管転位症 | |
ウイリアムズ症候群 | 大動脈弁上狭窄、末梢肺動脈狭窄 | |
無脾症、多脾症 | 単心房、単心室、総肺静脈還流異常 |
大動脈弁狭窄症 | 閉塞性肥大型心筋症 | |
聴診 | 駆出性収縮期雑音 | 駆出性収縮期雑音 |
最強点 | 2RSB | 3LSB-4LSB |
頚部への放散 | + | - |
駆出音 | + | - |
頚動脈圧 | 遅脈 | 二峰性 |
Brockenbrough現象 | - | + |
左室流出路狭窄 | 収縮力 | 前負荷 | 後負荷 | |
増強 | Valsalva手技 | ー | ↓ | ↓ |
立位 | ー | ↓ | ー | |
期外収縮後 | ↑ | ↑ | ー | |
β刺激薬 | ↑ | ↓ | ↓ | |
硝酸薬 | ↑ | ↓ | ↓ | |
PDE5阻害薬 | ー | ↓ | ↓ | |
脱水 | ー | ↓ | ↓ | |
頻脈 | ↑ | ↓ | ー | |
労作後 | ↑ | ↑ | ↓ | |
減弱 | Muller手技 | ー | ↑ | ↑ |
蹲踞 | ー | ↑ | ↑ | |
α刺激薬 | ー | ー | ↑ | |
β遮断薬 | ↓ | ↑ | ー | |
ジソピラミド、シベンゾリン | ↓ | ー | ー | |
全身麻酔 | ↓ | ー | ー | |
ハンドグリップ手技 | ー | ー | ↑ |
収縮性心膜炎 | 拘束型心筋症 | |
contrictive endocarditis | restricted cardiomyopathy | |
心カテーテル検査 | 両親室の拡張末期圧同じ | 左室拡張末期圧 - 右室拡張末期圧 > 5mmHg |
右室拡張末期圧 > 右室収縮末期圧/3 | 右室収縮期圧 > 50mmHg | |
右室経静脈的心内膜心筋生検 | 線維化や浸潤(アミロイド、鉄、転移性腫瘍などの浸潤)がみられる。 | |
CT | 肥厚した心内膜が観察される。石灰化があれば白く見える | |
MRI | 肥厚した心内膜が観察される |
Henry Gray (1825-1861). Anatomy of the Human Body. 1918.
YN | C-132 | C-134 | C-136 |
HIM | 1481 | 1484 | 1485 |
拡張型心筋症 | 肥大型心筋症 | 拘束型心筋症 | |
DCM | HCM | RCM | |
胸部単純X線写真 | 中等度~重度心陰影拡大 | 中等度~重度心陰影拡大 | 軽度心陰影拡大 |
肺静脈拡張 | |||
心電図 | ST領域、T波の異常 | ST領域、T波の異常 | 低電位 |
左室肥大 | 伝導障害 | ||
異常Q波 | |||
心エコー | 左心室拡張・機能不全 | 非対称性中隔肥大 | 左心室壁肥厚 |
収縮期僧帽弁前方運動 | 収縮能:正常~軽度減少 | ||
核医学検査 | 左心室拡張・機能不全 | 収縮能亢進 | 収縮能:正常~軽度減少 |
血液還流異常(201Tl/Tc-MIBI) | |||
心カテーテル検査 | 左心室拡張・機能不全 | 収縮能亢進 | 収縮能:正常~軽度減少 |
左室・(右室)充満圧上昇 | 左室・右室充満圧上昇 | 左室・右室充満圧上昇 | |
心拍出量減少 | 左室流出路狭窄 |
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