出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/09/17 04:22:02」(JST)
乳糖不耐症 | |
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分類及び外部参照情報 | |
ラクトースは通常ラクターゼによって加水分解される
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ICD-10 | E73 |
ICD-9 | 271.3 |
OMIM | 223100 150220 |
DiseasesDB | 7238 |
MedlinePlus | 000276 |
eMedicine | med/3429 ped/1270 |
MeSH | D007787 |
プロジェクト:病気/Portal:医学と医療 | |
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乳糖不耐症(にゅうとうふたいしょう)とは、消化器系統で乳糖(ラクトース)の消化酵素(ラクターゼ)が減少して生じる不耐に関する諸症状のこと。多くの場合、消化不良や下痢などの症状を呈する。
乳糖不耐症は、小腸でのラクターゼの働きに問題があるために起こる。ラクターゼの活性が低いところに乳糖を含んだ牛乳 のような食物 [注釈 1] が来ると、その乳糖をうまく分解できず、分解できなかった乳糖は吸収することができない。結果、腸管の中に乳糖が残ってしまうことで乳糖不耐症の諸症状が発生する。これは健康であっても、哺乳類であれば起こり得る現象である。つまり、乳糖不耐症の根本的な原因は哺乳類の性質だからと言うこともできる。ヒトの場合、歴史的に大量に乳製品を摂取してきた民族を除き、大抵の大人の腸内ではラクターゼの分泌が少ないことが知られている。このラクターゼの分泌が少ない個体に、乳糖の不耐が発生する。ただし、ヒトの乳糖不耐症者の場合、ラクターゼが全く存在しない場合もあれば、存在しても十分量がないだけの場合もあるので、一口に乳糖不耐症と言っても、乳糖の許容量には個体差が見られる。このために、乳糖に対する不耐が起こっていたとしても、乳糖を含む食品の摂取量が十分に少ないために、自覚症状がない者もいる。この乳糖不耐による自覚症状がない者も含めて、ラクターゼの活性の低下が見られる場合は乳糖不耐症としてカウントし、乳糖(主に牛乳の摂取)の有害性を主張する例も見られる。しかし、自覚症状がない場合は、常識的な量を摂取している限り、健康上の問題は生じないとされる。なお、食物アレルギー(牛乳アレルギー)やガラクトース血症は、乳糖不耐症とは全くの別物として明確に区別する必要がある。
乳糖が原因であることが判明していなかったころ、乳糖不耐症は、牛乳不耐症などと呼ばれていた。そして乳糖不耐が原因で発生する諸症状について、古くは食物アレルギーの1つであろうと片付けられ、正確な説明がなされてこなかったという歴史がある [1] 。 しかし、特に第二次世界大戦後に、日本のような、一般に栄養状態の悪かった地域において、栄養状態改善のための施策を行うに当たって、牛乳を飲むと体調を崩してしまうため、牛乳を飲めない者が多数存在することが問題となった。この牛乳によって起こる、主に消化器系の諸症状の原因が、牛乳に含まれる乳糖を消化できないことが原因であることが明確になったのは、 1958年に発表された、「P.Durand: Lattosurla, idiopathica in una paziente cen diarrea cronica ed acidosi. Minerva Pediat., 10:706, 1958」によってだと言われる [2] 。 この研究が発表されて後、一気に乳糖不耐症についての研究が進んだと言われている [1] 。
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乳糖不耐症は、小腸にラクターゼが存在しないか、存在しても十分でないために、乳糖を分解できない、または、十分に分解できないことが原因で起こる。乳糖は二糖類の1種であり、このままでは吸収することができない。ラクターゼによって乳糖がグルコースとガラクトースに加水分解されることで、初めて小腸での吸収が可能になるのである。
さて、乳糖不耐ではしばしば下痢が発生する。これは、乳糖の水への溶解度はそれほど高いわけではないものの [注釈 2] 、それでも水に溶解するので、分解されることなく小腸を通り過ぎた乳糖は、大腸内の浸透圧を上げてしまう。すると腸壁から水分が染み出し、便が軟化して浸透圧性下痢が発生するのである。さらに、腸管内に住む微生物には乳糖を利用することのできる種類もいて、その働きによって、乳酸や二酸化炭素が発生する。これらの酸により便のpHが6を下回ると、大腸を刺激して、その蠕動運動を強めてしまうことも下痢の原因となる。さらにこれは、腹痛や腹鳴などの原因にもなる。また、腸管内で発生した二酸化炭素などは気体となるため、腹部膨満を感じる場合もある。これらの「下痢」の挙動は狭義のオリゴ糖(難消化性)を摂取した時と同一であるが、こちらでは「腸内環境の改善」と表現される事が多い。
既述の通り、小腸にラクターゼが存在しないか、存在しても十分でないことが、乳糖不耐症で起こる諸症状の原因である。この小腸におけるラクターゼの状態は、全くの健康体であったとしても、成長した哺乳類全般に起こることであって異常とは言えない。哺乳類は、授乳期が過ぎると、ほぼ例外なくラクターゼの活性が低下してしまう[3] 。 したがって、授乳期が過ぎた哺乳類が乳糖不耐症であっても、それを病気だとは言えない。これがいわゆる遅発性の乳糖不耐である。
ただし、ヒトの場合、ごくまれにではあるものの、先天的にラクターゼが欠損している個体も確認されており、この場合は出生時から乳糖不耐症となる。これが先天性の乳糖不耐である。これは明らかな異常であり、治療の対象となる。しかし、授乳期が終われば生死に関わる類のものではない(遅発性の乳糖不耐は異常ではない)ので、乳児の期間だけ、チラクターゼなどの乳糖分解酵素製剤を経口で投与するという対症療法を行ったり、母乳ではなく乳糖不耐症の乳児向けの特殊なミルクを与えるといったことをして対処する。
また、以上のような遺伝的な問題とは別に、後天的に乳糖不耐症となるケースもある。その原因としては、
などが挙げられる。そしてこれは後天性の乳糖不耐と呼ばれ、遅発性の乳糖不耐とは区別される。
乳糖不耐症であるかどうかの診断には色々な方法があるが、簡便な方法として、牛乳などを飲んで乳糖不耐症によると思われる諸症状が出る者に、ラクターゼ製剤を服用させるというものがある。もしも、ラクターゼ製剤を服用した結果、無症状となったり、症状が軽減した場合は、恐らく乳糖不耐症に間違いないであろうと診断される [4] 。
乳糖不耐症と同様に、乳糖の摂取も問題となるガラクトース血症というものが存在する。この両者は混同される場合もあるが、発症のメカニズムは全く別物である。乳糖不耐症は上記の通り腸管でのラクトース(乳糖)の分解がうまくいかないことが原因だが、ガラクトース血症は遺伝子の異常のためにガラクトースの代謝に関わる酵素 [注釈 3] がうまく作れないことや、小腸で吸収されたガラクトースが流れる門脈の異常が原因。つまり、乳糖不耐症は乳糖そのものが原因で起こるわけだが、ガラクトース血症は乳糖が分解されて出てくるガラクトースが原因で起こるわけである。したがって、乳糖不耐症だけであれば、ガラクトースを摂取しても何も問題は起こらない。また、ガラクトース血症は血液中にガラクトースが異常高濃度で存在することによって起こる問題、すなわち身体の「内側」で起こっている問題だが、乳糖不耐症は腸管内という身体の「外側」で起こっている問題に過ぎないので、乳糖が腸管から便と共に排出されてしまえば症状は治まるのである。ちなみに、ガラクトース血症は最悪の場合死亡に至るため、乳糖不耐症よりもずっと厳密な管理が必要となることが多い [注釈 4] 。
乳糖不耐症と同様に、乳製品の摂取が問題となるアレルギーも存在する。この両者も混同される場合もあるが、やはりこれらも全くの別物である。乳製品アレルギーは、あくまで免疫系(生物分野)の問題であって、乳製品そのものに生体が過剰反応しているのである。こちらは、最悪の場合アナフィラキシーショックを起こして死亡する場合もある。一方、乳糖不耐症は、物理的問題(腸管内の浸透圧の異常上昇や、発生した気体の振る舞いや、腸管内のpHの変化などの関係)であり、これを受けての身体の反応に過ぎない。乳糖不耐症は、乳糖だけが問題となっているので、軽度の乳糖不耐であれば、生乳では症状が出ても、それを原料としているヨーグルトなどでは症状が出ないこともある。乳酸醗酵の際に10%〜30%程度の乳糖が乳酸菌によって乳酸に変えられてしまうが [5] 、このために、軽度の乳糖不耐症であれば、乳酸醗酵された乳製品の摂取では症状が出ないこともある。しかし、ヨーグルトになる程度の乳酸醗酵で消費される乳糖は、せいぜい約30%止まりであるため [6] 、ヨーグルトでは、どんなに少なくても生乳に含まれている7割程度の乳糖が残存している。したがって、生乳を摂取した時と同じように症状が出る場合もある。なお、生乳中の乳糖を人工的に分解した乳糖分解乳というものも存在し [注釈 5] 、100%乳糖が分解されている製品であれば、これを飲んでも、乳糖不耐症の場合は一切症状が出ない。しかし、乳製品アレルギーの場合は、いずれの場合でも一定量の乳製品を摂取すると症状が出る。
なお、乳糖不耐症も、小児の食物アレルギーも、共に症状が改善することがあることで知られている。しかし、完全な乳糖不耐症者に対しての乳製品摂取の無理強いは禁物である。さらに、食物アレルギーについては医師の指導監督の下で、いつでも救命措置を行える場でないと命の危険があるので、絶対に家庭などで治療しようとしてはならない。
本来は授乳期が過ぎるとラクターゼの活性が低下し、乳糖不耐となるはずの哺乳類に属するのにもかかわらず、ヒトの場合は、成体となっても乳糖不耐とならない個体が多数存在する。この中には乳児の時と比べてラクターゼの活性が低下しているものの、乳糖不耐の症状が出ていないだけの、いわゆる「乳糖不耐症の予備軍的な個体」も含まれているとも言われるが、それにしても乳糖耐性の成体がいるということは、哺乳類としては特異である。
これを説明するに当たって、ヒトは離乳後も牛乳などの乳汁を飲み続けているための適応の結果であるという説と、遺伝子の変異の結果であるという説とが存在する [3] 。 つまり、離乳後にも乳糖を摂取し続ける食習慣のために乳糖耐性を持ち続けているのだという考え方と、長い年月に渡って世代を超えて乳糖を摂取し続ける生活を送ってきたために遺伝子が選択されてきた結果として乳糖耐性を持ち続けているのだという考え方である。
前者の説を支持する事象としては、次のようなものがある。
これらの事象のように、人種・民族によらず、その生活スタイルが変われば、乳糖不耐症が治ったり、逆に乳糖不耐症になってしまったりすることが挙げられる。
後者の説を支持する事象としては、次のようなものがある。
これらのように、人種・民族が乳糖不耐症の発生頻度に関係していることを示すと思われる事象が存在することが挙げられる。
乳糖不耐症への対処としては、さまざまな方法が考えられてきた。その方法としては、次のようなものが存在する。
ただし、先天性の乳糖不耐症、遅発性の乳糖不耐症、後天性の乳糖不耐症、それぞれで適切な対処の方法は異なっている。また、年齢などによっても適切な対処法は異なる。このため、上記の対処法が万人に当てはまるものではないことを付言しておく。それから、上記の対処法の中には、乳糖不耐症と混同されることがある疾病(ガラクトース血症、乳製品アレルギー)には危険な対処法もあり、注意を要する。なお、上記の対処法はヒトだけを対象としたものである。
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