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周術期管理(しゅうじゅつきかんり、英: Perioperative Care)または周手術期管理、術前術後管理とは主に外科領域で手術目的で入院した患者におこなう周術期中の処置の流れである。周術期栄養管理という用語があるが、通常「周術期管理」は周術期全身管理を意味するか、両者を合わせた意味をなす。疾患、施設によって様々なものがあるが、ここでは主に一般外科と呼ばれる腹部疾患(全身麻酔)を念頭において記述する。
目次
- 1 術前検査
- 2 手術前の主な指示
- 3 手術前日に行うこと
- 4 緊急手術
- 5 手術日の主な処置
- 5.1 主な指示
- 5.2 抗菌薬の予防的投与
- 5.3 手術中の点滴指示
- 6 手術直後に行うこと
- 7 術後経過の中で行うこと
- 7.1 術後3日まで
- 7.2 術後8日まで
- 7.3 術後9日から
- 8 よくある術後合併症
- 8.1 術後の発熱
- 8.2 術後発熱の診断法
- 8.3 腸手術の合併症
- 9 参考文献
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術前検査
基本的に緊急手術ではない場合、術前診断はほぼついているので手術をするに当たって行う全身状態の把握を中心に述べる。
- リスクファクターのチェック
- 体液のバランス、栄養状態、心機能、肺機能、肝機能、腎機能、内分泌系(主に糖尿病と副腎皮質機能不全)、感染症、などをメインに確認する。
- NYHA分類
- NYHA分類(ニハ分類、またはナイハ分類と発音される)は、ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association: NYHA)が定めた心不全の症状の程度の分類であり、以下のように心不全の重症度を4種類に分類するものであるが、簡便でありよく使用される。
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- NYHA I度 :心疾患があるが症状はなく、通常の日常生活は制限されないもの。
- NYHA II度 :心疾患患者で日常生活が軽度から中等度に制限されるもの。安静時には無症状だが、普通の行動で疲労・動悸・呼吸困難・狭心痛を生じる。
- NYHA III度 :心疾患患者で日常生活が高度に制限されるもの。安静時は無症状だが、平地の歩行や日常生活以下の労作によっても症状が生じる。
- NYHA IV度 :心疾患患者で非常に軽度の活動でも何らかの症状を生ずる。安静時においても心不全・狭心症症状を生ずることもある。
- Hugh-Jones分類
- 呼吸困難の程度を客観的に表現する試みとして最も利用されているものに、ヒュー・ジョーンズ分類(Hugh-Jones分類)がある。心不全からくる呼吸困難に対してはNYHA分類が使われる。
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- I度 :同年代の健常者と同様の生活・仕事ができ、階段も健康者なみにのぼれる
- II度 :歩行は同年代の健康者なみにできるが、階段の上り下りは健康者なみにできない
- III度 :健康者なみに歩けないが、自分のペースで1km(または1マイル)程度の歩行が可能
- IV度 :休みながらでなければ50m以上の歩行が不可能
- V度 :会話や着物の着脱で息がきれ、外出ができない
- Child分類
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A |
B |
C |
血清ビリルビン値(mg/dl) |
<2.0 |
2.0~3.0 |
3.0< |
血清アルブミン値(g/dl) |
3.5< |
3.0~3.5 |
<3.0 |
腹水 |
なし |
治療効果あり |
治療効果なし |
脳症 |
なし |
軽症 |
ときどき昏睡 |
栄養状態 |
優 |
良 |
不良 |
-
- この分類は肝硬変の重症度をはかるものでひとつでも該当すればより重症の項目に制定する。内科の分野ではより定量性をもたせた分類が存在する。
- surgical risk
- good risk:他臓器に合併障害がなく、手術に危険がない。
- fair risk:1つあるいはそれ以上の不利な因子があるが手術には大して危険を伴わない。
- poor risk:術前に十分な準備をしなければ危険を伴うもので、できるだけ手術侵襲を少なくし、麻酔剤も無害なものを選ばなければならない。
- serious risk:重要臓器に重篤な機能不全があり、手術侵襲を加えると生命の危険がある場合。
- physical state(ASA術前状態分類)
- grade1:内臓障害はなく、局所疾病のみ(全身障害なし)
- grade2:中等度の全身障害のあるもの
- grade3:高度の全身障害のあるもの
- grade4:生命を脅かすほどの全身障害があるもの
- grade5:grade1,2であるが緊急手術をうけるもの
- grade6:grade3,4であるが緊急手術をうけるもの
- 全身把握のために行うべき検査
心電図、心エコー、胸部X線、スパイロメーター、動脈血ガス分析、血液生化学検査、血算、凝固系検査、ICG検査、尿検査、クレアチニンクリアランス、PSP排出試験、フィッシュバーグ濃縮試験、耐糖能検査、電解質検査、血液型検査、肝炎ウイルス、HIV、梅毒、便潜血、腫瘍マーカー、炎症反応など
- 治療方針の決定
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- 全身状態の把握ができたら、それらをもとに、手術適応を考え治療方針を決め、患者に説明をする。
- 手術適応
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- 絶対的適応:手術以外の治療では救命または治療の見込みがなく、手術が最もよい治療法であるとき
- 比較的適応:手術によるほうがすぐれた効果が期待できるとき
- 社会的適応
- 手術時期
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- 緊急手術:十分な準備期間がなく手術を行うとき
- 待機手術:予め手術予定日を決めて行うとき
- 手術の種類
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- 救命的手術
- 姑息的手術
- 根治的手術
- 服薬管理
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- 抗血栓薬、MAO阻害薬、経口糖尿病薬、サプリメントは術前に使用を控える。ステロイドはステロイドカバーなどが必要である。
手術前の主な指示
ここに記されることは施設によって相当違いがあります。また扱う疾患の種類、治療法によっても大きく異なります。
- バイタルサインの測定、1日2回。
- 尿量測定。
- 食事は基本的に術前8時間はNPO(絶食)とする。
- 安静度は合併症がない限り歩行可である。
- 常用薬の管理、麻酔や手術に関係しない薬剤は手術当日は中止する。しかしステロイド、甲状腺薬、降圧薬、抗不整脈薬、インスリンは継続するべきである。逆に必ず中止しなければならないのは抗血小板薬、抗凝固薬、血小板凝集作用のあるホルモン剤、三環系うつ薬、四環系うつ薬などである。特にパナルジンなどは2週間の休薬が必要である。
手術前日に行うこと
まず第一に禁煙を行う。これにより無気肺を予防する効果が期待できる。また38度以上の発熱がある場合は感冒でも手術は中止となる。また腹式呼吸ができないと喀痰排出などでも不都合が生じるため呼吸訓練が必要である。
臥位で排尿できればよい。
術後はしばらく入浴できなくなる。また衛生上の観点から入浴や剃毛をする。
大腸内容の停滞は術野を狭くし手術を困難にする。また、開腹手術では麻痺性イレウスになるため、腸内容が多いとガスが産出されやすくなり症状を悪化させるおそれがある。よって下剤投与や浣腸を行う。なお、消化管通過障害がある場合は減圧、胃洗浄を行うこともある。また大腸手術では腸内容による汚染が予測されるため低残渣食、腸管内殺菌薬の内服投与を行う。
高カロリー輸液、糖尿病コントロール、ステロイド投与などがあるばあいは専門医と相談する。
- クラス I:よく見える(軟口蓋、口峡、口蓋垂など)
- クラス II:口蓋垂の先端が隠れる
- クラス III:軟口蓋と口蓋垂の基部しか見えない
- クラス IV:軟口蓋が見えず、硬口蓋しか見えない
緊急手術
緊急手術の場合は、準備が十分でないことが多い。必ず聴取しておかなければならない事項にAMPLEという事項がある。Aはアレルギー、Mは薬剤、Pは既往歴や妊娠、Lは最後の食事、Eは出来事や環境である。
手術日の主な処置
ここに記されることは施設によって相当違いがあります。また扱う疾患の種類、治療法によっても大きく異なります。
主な指示
- バイタルサインの測定、4時間ごと。
- 尿量測定、4時間ごと。
- 絶食
- 安静度、ベッド上安静。
- 心電図、酸素飽和度モニタリング
- ドレーン量測定、色調の把握
抗菌薬の予防的投与
医療において予防目的の治療を行うことは原則として禁止されているが、手術の際は慣習的に予防的な抗菌薬の投与が行われている。基本的には以下のような考え方で行われている。
- 皮膚切開の前に有効血中濃度にあげる。
- 感染の起因菌になりやすい菌に有効な抗菌薬を選択する。
- 原則として3日間、無意味に長期投与はしない。
- 細菌感染がはっきりし、菌が同定されたらその菌に感受性のある抗菌薬に変更する。
予防目的に使用する抗菌薬は、セファメジン(CEZ)、パンスポリン(CTM)、セファメタゾン(CMZ)、セファタックス(CTX)が多い。手術開始30分以内に1回、手術後8~12時間ごとに、3日まで投与する。よく用いられる処方としては基本的にセファメジン2gキットを用いる。但し大腸、虫垂の手術の場合はセフメタゾン1gを生理食塩水100mlに溶解し静注する。セファメジンは第一世代のセフェム系の抗菌薬でありグラム陽性菌に作用する、セファメタゾンは第二世代のセフェム系抗菌薬であり、βラクタマーゼに安定でありグラム陽性菌にはあまり効かないがグラム陰性菌に強い。しかし緑膿菌には無効である。予防的抗菌薬投与は手術をする患者を対象としており基本的に輸血可能な20Gの静脈確保ができているので薬剤投与は静注であることが多い。これらは点滴指示に含まれるのでそちらで具体例は記載する。
手術中の点滴指示
手術当日
- 手術室にて
- セファメジン2gキット×1
- 帰室後
- セファメジン2gキット×1
- 手術が午後の場合
- ソルデム3A 500ml 4時間で
- 帰室後
- ソルデム3A 500ml 4時間
- ソルデム3A 500ml 4時間
- ソルデム3A 500ml 4時間
- 疼痛時、ソセゴン 15mg 生理食塩水 100ml
- 不眠時、アタラックスP 25mg 生理食塩水 100ml
- 嘔気時、プリンペラン 1A 生理食塩水 100ml
- Epi、0.2%アナペイン注 100ml 4ml/hour
- 手術翌日
- セファメジン2gキット×2 朝、夕
- ソルデム3A 500ml 4時間
- ソルデム3A 500ml 4時間
- ソルデム3A 500ml 4時間
- ソルデム3A 500ml 4時間
- 疼痛時、ソセゴン 15mg 生理食塩水 100ml
- 不眠時、アタラックスP 25mg 生理食塩水 100ml
- 嘔気時、プリンペラン 1A 生理食塩水 100ml
- Epi、0.2%アナペイン注 100ml 4ml/hour
この後のやり方は患者がどれくらい食事を取れるようになるのか、痛みや嘔気などによっても異なる。ソセゴン無効時は弱オピオイドであるレペタン 0.2mg 生理食塩水 100mlを投与に切り替える。アタラックスPが無効で不穏が出てくればセレネースなどを用いることがある。
手術直後に行うこと
経験則として手術侵襲をうけた患者は術後6時間ほど経つまでは状態が安定しない。そのため術後6時間はバイタルサインのモニタリングが必要である。また呼吸困難となるため、枕なしで仰臥位のうえ、酸素マスク3l/分で酸素投与する。ネブライザーで喀出補助、痰の吸引をし、感染予防のため抗菌薬投与を行う。創傷の処置を行い。硬膜外麻酔による除痛を行う。
まず、意識状態の確認を行い、バイタルサインで循環動態の確認を行う、呼吸はできているのか調べ、時間尿量が体重1kgあたり1mlくらいあるか調べる。そのほかに血液検査で貧血の有無を確認し、血液ガス分析を行い、胸部・腹部X線写真をとる。これは無気肺のスクリーニングのほかドレーンの位置確認を行うためである。
術後経過の中で行うこと
術後3日まで
経験的に手術侵襲に対する反応は3日までに落ち着く。酸素投与は状態が安定していれば術後1病日までに中止する。尿道カテーテルは術後2病日までに抜去する。同様に硬膜外麻酔のチューブも抜去する。抗菌薬も術後3病日までに中止できるのが望ましい。創傷処置として1日1回はガーゼを交換する。
術後8日まで
このころまでに、抜糸が完了し食事摂取ができるようになるのが望ましい。この時期は機能回復期とも言える。但し、胃切除など行った患者の場合はこの頃からようやく流動食ができるようになる位である。それまではずっと水分のみ摂取である。必ず排ガス、排便といった麻痺性イレウスからの回復の兆候をみる。
術後9日から
無理なく食べられるようになり、退院である。胃切除では15日位で全粥になる。
よくある術後合併症
術後の発熱
術後2~3日はしばしば微熱を認めるが多くは一過性であり持続、再発する発熱の場合は原因の精査が必要となる。
- 無気肺、肺炎
- 術後の発熱の中では最も頻度が高い。無気肺は術後3日以内の早期の持続性の発熱によって疑われる。肺底部に起こりやすく胸部単純X線撮影で診断ができる。体位変換、早期離床、Bi-PAPなどで対応できる。不適切な対応をすると肺炎に進行する。術後肺炎は3~5日に多く抗菌薬の投与が重要である。
- 創感染
- 術後4~5日ではじまる発熱が特徴である。創部痛、創部の発赤、腫脹、波動を認めることがある。開放創とし完全なドレナージをはかることが大切である。CTを行うと腹腔内膿瘍を認める場合がある。
- 静脈カテーテル感染
- 静脈確保後3~5日後に非常に多い。刺入部の発赤、疼痛が特徴的である。CVの場合は留置後7~10日後におおく38~39度前後のスパイク型の発熱が特徴的である。治療はカテーテルの速やかな抜去、カテーテルの先端の培養や血液培養である。血液培養に時間がかかる場合は臨床的に診断がついたとき即座に対応できるように術後の高度の発熱で血液培養することが多い。しかし、術後の高度の発熱で特に敗血症は疑わない。
- 尿路感染
- 膀胱留置カテーテルの留置後5日以降に多い。尿意切迫と血尿、恥骨上部の疼痛が特徴的である。直腸の手術では排尿訓練が必要なので術後1週間程度で抜去することが多いが、通常は術後3日ほどで抜去する。
- 縫合不全
- 術後7~10日頃に現れるスパイク型の発熱であり、腹痛、腹部膨満感を伴うことが多い。多くはドレーンの性状や消化管造影、CTなどで診断は可能であるが致死的になることもある。治療はドレナージ、抗菌薬、再手術である。
- 術後乏尿
- 一日尿量が500ml以下である場合を乏尿という。術後には尿量が0.5~1.0ml/kg/hourで尿比重が1.010以上であれば腎機能は正常であるという。成人では一日1000ml以上の尿量が必要である(高齢者はもっと低い)。膀胱から尿が出にくいだけか、腎不全で尿が出ないのかは調べておくのが重要である。術後3~4日で尿量が増加してこない場合は感染症を疑う。
- 術後イレウス
- 手術によって消化管蠕動は一時的に減弱、消失する。これは生理的イレウスであり48~72時間で回復する。この状態が遷延した場合を術後イレウスという。麻痺性イレウスや癒着性性イレウスが多い。術後28日以内に発症するものを早期イレウスといい、それ以降を晩期イレウスという。早期イレウスは大抵は腸管麻痺の遷延と軽い癒着性イレウスであり、下腹部手術後1~2週目に多い。
- 術後胆嚢炎
- 術後食事開始から1週間以内に発症することが多い。発熱と上腹部痛を認めるが創部痛との鑑別が困難である。
- 術後肝障害
- 下肢血栓性静脈炎
- 腹腔内膿瘍
術後発熱の診断法
- 術後何日目か?
- 発熱は一日で1℃以上の温度差があるspike feverか?
- 発熱の前に体の震えはあったのか?膿瘍や敗血症では体の震えからはじまる。無気肺などではそんなことはない。
- 術前も発熱はあったのか?
- クーリング以外にも2℃発熱で大体500mlの水分を失うので脱水対策も重要である。
腸手術の合併症
大腸癌などで行う腸手術に関して、重要な合併症を纏める。
- 術後出血
- 縫合不全
- 術後狭窄
- 腸管癒着
- 短腸症候群
- 盲管症候群
参考文献
- 外科必修マニュアル 羊土社 ISBN 4897063434
- 術前・術後のケアのポイント 照林社 ISBN 4796510508