出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/03/27 16:01:15」(JST)
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占有権(せんゆうけん)とは、物に対する事実上の支配(占有)そのものを法律要件として生ずる物権である[1]。日本の民法では180条以下に規定がある。
目次
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占有を法律上正当づける権利たる所有権、地上権、質権等の権利を本権というのに対し、占有権は物に対する事実上の支配という状態そのものに法的保護を与える権利である[2][3]。占有権の意義は、近代社会においては自力救済が原則として禁止されるのに対応し、まず事実上の支配状態(占有)に法的保護を与えることで社会秩序を維持するとともに取引の安全を図ること、また、権利の外観を保護することで真の権利者について本権存在の証明の負担から解放する点にある[4][5]。
占有権は一応の事実状態を保護する権利として本権(占有を正当化する権利)とは別の次元において認められる権利であり、他の物権とは異なり占有権には排他性や優先的効力はない[6][7]。ある物が窃取あるいは詐取された場合、窃取・詐取した者は本権がないが占有権を有し、窃取・詐取された者は本権を有するにもかかわらず占有権がない状態に置かれることになる[8][9][10]。
占有権は自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得される(180条)。
日本の占有権概念は沿革的にはローマ法のポセッシオ(Possessio)とゲルマン法のゲヴェーレ(Gewere)の双方に由来している[24][25]。ローマ法上のポセッシオとは物に対する事実上の支配状態そのものを本権から切り離して保護するもので、日本の民法では占有者の占有訴権(197条)、果実取得(189条・190条)、損害賠償責任(191条)、費用償還(196条)の規定がこれに由来するとされる[26][27](ただし、これらの規定はゲルマン法の影響も受けている[28])。これに対してゲルマン法のゲヴェーレとは動産の所持や不動産の用益という本権の表象たる権利の表現形式を保護するもので、日本の民法では権利の推定(188条)と即時取得(192条-194条)がこれに由来するとされる[29][30]。
占有は、占有している人がどのような意思をもって物を所持しているかにより、自主占有と他主占有に大別される。
自主占有と他主占有の区別は、取得時効の要件(162条以下)、無主物先占の要件(239条)、占有者による損害賠償(191条)において区別の実益がある[33][34]。占有者は所有の意思をもって占有しているものとの推定を受ける(186条1項)。
なお、他主占有から自主占有に占有の性質を変更するには、その占有者が自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、または新権原により更に所有の意思をもって占有を始めたものと認められなければならない(185条)。相続が同条にいう新権原として認められるかどうかという点については、客観的にみて相続人が承継時に所有の意思を明らかにもっていたとみられる場合にはこれを肯定するのが現在の通説・判例である(最判昭46・11・30民集25巻8号1437頁)[35]。
なお、代理占有の消滅事由については204条に定められている(#代理占有の消滅を参照)。
取得時効の進行、即時取得、占有訴権など占有権から生ずる諸々の法律効果は本人に生ずる[43][44][45]。占有の善意・悪意の判断は占有代理人を基準とするが、本人が悪意であれば占有代理人が善意であっても保護すべき必要はなく悪意占有となる(通説)[46][47][48]。
占有代理人と占有補助者(占有機関)とは区別される[49]。借家の賃借人など独立した占有者としての地位が認められる者を占有代理人というのに対し、法人の機関や雇主の使用人など独立した占有者としての地位を認められない者を占有補助者(占有機関)といい、後者には占有訴権の原告適格や物権的請求権の被告適格が認められない(債務名義があれば当然に退去させることができることを意味する)[50]。
善意占有と悪意占有の区別は、取得時効の要件(162条以下)、果実の収取・償還(189・190条)、占有者による損害賠償(191条)、即時取得の要件(192条)、占有者による費用の償還請求(196条)において区別の実益があり、取得時効の要件(162条以下)と即時取得の要件(192条)においては過失の有無も問題となる[53][54]。
なお、本権に基づく占有には善意占有と悪意占有の区別はないことに注意を要する。
瑕疵なき占有と瑕疵ある占有の区別は、取得時効の要件(162条以下)、即時取得の要件(192条)、占有の承継(187条2項)において区別の実益がある[58]。
以上のうち善意・平穏・公然については186条1項、継続については同条2項で推定される(継続については前後の両時点において占有をした証明をもって推定される)。
占有権は自己のためにする意思をもって物を所持するという要件を満たせば原始取得でき(180条)、代理人によっても取得できる(181条)。無主物先占や遺失物拾得などがある[62]。
占有の移転を引渡しという。民法第二編第二章には、引渡しの方法として、以下の方法が規定されている。
占有権は相続により包括的に承継される。
占有権が包括的に承継される場合としては、このほか企業の合併などがある。
占有の承継には、占有の承継人が前の占有者の占有を同一性を保ちつつ承継したという面と、占有承継人が新たに占有を取得したという面の二面性がある[63][64]。
このことから占有者の承継人は、自己の占有のみを主張するか、あるいは自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張するかを選択することができる(187条1項)。占有が転々とした場合においては、占有の承継人は直前の占有者に限らず自らが選択する任意の占有者以降の占有を継続的なものとして併合して主張しうるのであり(187条1項の「その選択に従い」の文言、大判昭9・5・28民集13巻857頁)、また、承継人は占有を併合させる主張を改めて自己の占有のみを主張することもできる(大判大6・11・8民録23輯1772頁)[65][66]。ただし、前の占有者の占有を併せて主張する場合には、前の占有者の占有における瑕疵をも承継することになる(187条2項)。
これらは取得時効の要件充足の判断(占有開始時とその時の瑕疵の有無)において重要な意味を持つ(187条参照)。
なお、占有の性質に変更を伴った場合(他主占有から自主占有へ移行している場合など)には占有の併合は認められない(通説・判例)[67]。
本権徴表的効力として分類されることもある[68]。
「即時取得」を参照
占有者に本権取得を認め、また、善意の占有者の保護を図るものである。
「無主物先占」を参照
占有訴権(せんゆうそけん、フランス語:action possessoire )とは、占有権の妨害や侵奪がある場合、占有者が占有権の効力としてこれを排除することを請求しうる権利のことをいう(197条)。占有訴権の位置づけについては、本権に基づく物権的請求権とは性質を異にするものであるとする説もあるが、物権的請求権の一種であるとみる説が多数説とされる[84][85]。内容としては所有権など本権の効力として認められている民法上の「本権の訴え」に対応する。なお、「訴権」という名称は、沿革的な理由によるものであり、その内容は実体法上の請求権である[86]。
自己占有は物権一般の消滅原因のほか203条で定める場合に消滅する。
代理占有の消滅については204条1項に規定がある。
なお、代理占有は代理権の消滅のみによっては消滅しない(204条2項)。
準占有とは、自己のためにする意思をもって財産権の行使をすることをいい、占有権の規定が準用される(205条)。
準占有の要件は次の2つである。
準占有の成立する典型的な権利(財産権)としては、著作権、特許権、商標権、鉱業権、漁業権、電話加入権などがある[89][90]。
準占有の場合には原則として占有権に関するすべての規定が準用される(205条)[99]。ただし、債権取引については他の公示方法が備わっている(特に証券的債権については動産以上に取引の安全が図られている)点などから、即時取得の規定については準占有の規定の準用はないとされる(通説)[100][101][102]。
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