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化学(かがく、英語:chemistry、羅語:chemia ケーミア)とは、
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日本語では同音異義の「科学」(英: science)との混同を避けるため、化学を湯桶読みして「ばけがく」と呼ぶこともある[5]。
化学は、自然科学の一部門であり、さまざまな物質の構造・性質および物質相互の反応を研究する部門である[4]。(少し異なった角度からの表現を紹介すると)、化学とは、物質についての学問(物質の学問)であり、(自然科学は自然に階層構造を見出すが)化学はそうした 自然の階層 の中で言えば、原子や分子という階層を受け持っている [6][7]、と筑波大学の齋藤一弥は説明した。 日本の諸大学の化学科のHPなどでの解説も紹介すると、例えば富山大学のHPでは、化学とは、物質の性質を原子や分子のレベルで解明し、化学反応を用いて新しい物質(系)を作り出すことを設計、追求する学問分野である[8]、といった内容で説明されている。
筑波大の斎藤によると、化学という学問を定義づけする事は難しく、それを無理に規定する意義もあまりない。化学は理学に含まれ、数学・物理学あるいは生物学などの、自然科学の中で基礎科学または純粋科学に当る他の理学と化学の相違点は、化学は有限な元素が組み合わさった無限の物質が持つ多様性を取扱い、さらに化学そのものが新たに物質を創造する役割を担うことである[6]、と筑波大の斎藤は説明した。 化学という学問領域が取り扱う物質は、特に化学物質が中心となる[2]。化学物質は原子・分子・イオンなどが複雑に絡み合いながら作られるため膨大な種類にわたり、その全てを含む壮大な物質世界・生命世界が対象となる[9]。それゆえ化学は、基盤科学と定義づけられる。物質を分子やその集合体の大きさ単位で扱う化学は基礎的であるがゆえに、関連する学問は、理学や工学から医学・薬学、農業・環境分野など多岐にわたる上、特に近年にバイオテクノロジーやエレクトロニクス、新素材や高機能材料など現代科学の最先端技術に新物質や設計・製造の新手段を発明する上で欠かせないものとなっている[9]。
原則的に近年の化学では、全ての物質が原子からできているとの仮説[10](あるいはフレームワーク)を採用し、物質の性質は原子自体の状態や、原子同士の結びつきかた(化学結合)で決定されると考える[注 1]。したがって、繰り返しになるが、基本的に現代の化学は、原子・分子レベルでの物質の構造や性質を解明して、また新しい物質や反応を構築して[9]、「物質とはなにか」に関する知見を積み上げる学問である[6]。
化学は典型的な蓄積型の学問である。取り扱う物質の種類は増える一方で、1980年代には600万種を越え、しかも年平均1000種が追加されていた[11]。これらは基本的に減ることは無いため、それに関する情報は増加の一途を辿る。数世紀前の実験で得られた基礎的なデータですら(間違いでない限り)重要性を失わない。同様に古典的な方法論も最新の量子論的手法と同じくらい高い価値を持つ。[9]
しかしながら、学問としての化学の成立は遅い。数学、物理学、天文学などが2000年前の古代ギリシアで構築され始めたのに対し、科学の一分野として扱うことができる近代的化学のほうは、18世紀末にフランスのアントワーヌ・ラヴォアジエ(1743年 - 1794年)の質量保存の法則[12]やジョン・ドルトン(1766年 - 1844年)の原子説[10][2- 1]が正しい方向付けをした事に始まってから、未だ200年程度しか経過していない[12]。 (#歴史、化学の歴史も参照)
その短い歴史の中で、化学は大きな末広がりの構造を持つに至った。化学の基礎的な部分はほとんど固められ、根底から転換がなされる余地はほとんど無い。ところが、物質に対する理解が進み、応用が広がる中で化学が担う役割はほとんど全ての生産・製造に深く関わるようになった[9]。さらに、弱い相互作用を重視した新しい物質像の構築や、自然との調和を実現するための環境化学など、近年になって化学はさらに広がりを見せつつある[13]。
化学では、物質の基本単位を原子として、その原子が持つさまざまな性質を抽象的概念である「元素」[15]として把握する。原子論が確立した現代では、その特徴を理論的に掴む上で、原子核(陽子・中性子)および電子までの原子の構造から原子番号、質量数、電気素量、イオン、同位体などを決定し取扱い、各元素が持つ性質を理解する。[16]
原子が持つ周期的性質(周期律)は初期の化学が発見した一大成果である[17]。この物理的性質の近似を生む要因である電子配置から、各元素のイオン化エネルギー、電気陰性度、酸化数、原子半径やイオン半径などの特徴が理論づけられる[18]。この周期律を簡略な表にまとめた周期表は化学のバイブルとまで呼ばれる[17]。
元素の性質を記述することは、化学の中でも量子力学と統計力学が取り扱う。周期律は、量子力学の成立をもって初めてその本質が明瞭になった[6]。原子内の電子配置はボーアの原子模型では限界がある[19]ので、波動力学のパウリの排他原理や波動関数[20]、そして電子のエネルギー準位で説明される[18]。統計力学は、物質の状態(三態)や性質などを巨視的に理解する上で必須の方法論を提供し、実験の結果をもたらす上で大きな役割を持つ[6]。
物質は原子から構成されるが、その原子が結びついて分子をつくる。この結び付きを化学結合と呼び、これを理解することで化学は発展してきた[21]。
19世紀以前、原子間の結びつきは化学反応を説明するために考えられた。基礎的な概念に当たる化学親和力や、続く電気化学的二元論や原子価説が提唱されたが、それでも一部の結合しない原子の組み合わせを説明できなかった[22]。20世紀に入りドイツのヴァルター・コッセル(en)がイオン結合を理論化し、それでも解釈不能な水素分子など無極性分子の説明にアメリカのギルバート・ルイスとアーヴィング・ラングミュアがそれぞれ独立に共有結合の概念を提案した[23]。量子力学は分子構造論も深化させ、二原子分子の安定を説明した交換相互作用、分子軌道や原子軌道を明らかにした波動関数[24]、金属結合の実際を自由電子モデルから進めたバンド理論[25]などをもたらした。
分子は、その物質が持つ特性を維持したまま分割できる最小の単位と言える[26]。静電気力で結合するイオン結合には方向性が無いが、共有結合は異方性がある。簡単な共有結合分子は原子価殻電子対反発則で説明され、これに電子軌道の考え方を加えれば、分子やイオンの構造についての理論的根拠になる[27]。
その一方で、同じ種類と数の元素が組み合わさった分子でも、その構造で物性に差があることが判明している。不斉炭素原子と共有結合する4つの原子団が結合する位置の違いから生じる光学異性体や立体異性体や、また炭素などの二重結合部分が回転しないために生じる幾何異性体などは、同一の構造式でありながら異なる性質を持つ分子となる。ベンゼン環に結合する置換基の位置(オルトなど)による位置異性体も一例に当たる[28]。エタン類など回転が可能な分子においても、立体障害などによる特性の差異は生じる[28]。さらに近年では知恵の輪のようなカテナンやサッカーボールもどきのフラーレンなど、風変わりな構造を持つ分子も発見されている[29]。
原子や分子がある程度の量あつまると、特徴的な性質をもった集団を形成する。これを相といい、大きく分けて固体、液体、気体(物質の三態)などがある[30]。閉鎖系において物質がこれらの相を取るには温度と圧力が影響し、相律という法則に則った状態を取る。これは物質ごとに相図というグラフで示される[30]。
気体は反応に乏しく、体積や圧力など物理的性質や変化などを中心に扱う。しかしそれらのマクロ的なふるまいは、気体では分子が単独で存在する、というミクロな分子の構造や性質に由来する[31]。なお、気体が電離した状態であるプラズマについても、プラズマ化学という分野で取り扱う[32]。
液体は分子間力の点から気体と固体の中間にある。加熱や冷却によって気化・蒸発や凝固など相の変換を起こす。これは化学における重要な物質生成手段である蒸留にかかわる[33]。また、2つ以上の成分でできた液体、溶液に関して化学では、溶媒と溶質による分散系の性質、浸透圧や粘性また表面張力・界面張力なども扱う[34]。
固体は基本的に原子が規則的に配列する結晶質と、規則性に乏しく固体と液体の中間とも言えるアモルファス(非晶質)に分けられる[35]。結晶質は複数の結晶構造いずれかを取り、その性質を特徴づける[36]。また、粒子の種類や力から分類される結晶には、金属結晶・イオン結晶・分子結晶・共有結晶などがある[37]。結晶構造を持ちながら液相的性質を持つ物質は液晶と呼ばれ、一部にベンゼン環のような平面の構造を持つ共通点がある[37]。
複数の物質に混合・必要があれば加熱・冷却などの操作を加えると、異なる化合物ができる。これを化学反応と呼ぶ。化学反応は物質を構成する原子間の化学結合の変化によって起きる。化学反応の前後では全体の質量は変わらない。これを質量保存の法則(あるいは物質不変の法則)という。化学反応は、自然界において基本的には、ある種の自由エネルギーを最小化するほうへ向かって、エネルギーが低い位置へ向かう発熱反応と、より乱雑になろうとするエントロピーの増大という相反する反応を起こしながら、平衡に達する。化学では、これら反応の法則性や利用法の解明が課題となる[38]。
水溶液の性質を知る手段として体系づけが始まった酸と塩基(塩が加水分解したもの)の関係は、化学では重要な項目となる[39]。主に水に溶ける物質の性質分類が行われ、水溶液以外の状態も考慮して[39]、
と定義される。この2つは重要な化合物の組である。互いに相反し中和反応を起こさせながら化学平衡し、水素イオン指数など溶液の性質を決める。
燃焼や金属製錬および腐食などの本質は酸化と還元で説明される。酸と塩基が反応の窓口となる電子対が原子と一体になっているのに対し、酸化と還元は電子が単独で動き反応を起こす[40]。そのため、酸化還元は電圧と密接に関係し、電流を生じさせる機構の基本的な原理に当たる[40]。還元の代表的な用途は卑金属の精製であり、酸化は生化学において重要なクエン酸回路に見られる。
化学合成は、単純な物質から化学反応を用いて複雑な、または特定の機能を持つ物質を生成することを指す。分子量の小さな物質をつなぎ合わせて高分子を作る化学合成の代表例には重合反応がある。これは化学工業の主要なプロセスである。機能を持たせる化学合成の例は医薬品製造やナノテクノロジーなどである。このような製造に関わる化学合成では、適切な製品を効率良く作り出すことが求められ、化学の分野としては触媒や不斉合成など[38]が研究される。
化学には、研究手法や対象とする物質の違いによって多くの分野が存在する[2]。しかし、各分野間には関連領域が存在するため明確に区別することは難しい。以下に例として代表的なものを挙げる。
上にあげた化学の各分野を、取り扱う対象で分類する。本項は、特に脚注がある部分を除き、筑波大学数理物質科学研究科教授・齋藤一弥の分類を出典とする[6]。
原子核を中心に、原子核反応やそれによって合成される新元素およびその性質を取り扱う分野が核化学や放射化学であり、特に後者では放射能の測定において分析化学的な方法も利用される。
単体の分子を取り扱う分野では、量子力学や計算科学の理論および測定を用いる量子化学、光を調査の手段に用いる物理化学の領域に含まれる分子分光学があり、無機・有機の両方を含み化合物を扱う合成化学もこの範疇に入る部分が多い。
化学反応を研究する分野には、反応機構を取り扱う化学反応論、反応速度をコントロールする手法を研究することを目的とした触媒化学などがある。合成化学では、反応機構を研究したり、新しい化学反応を創造する分野はここに含まれる。化学熱力学も反応における平衡や熱を扱う。
分子の集まりを扱う分野は、その全体構造や分子の運動について研究する構造化学や、目に見える物質としての分子集合体について分子の持つ性質から物性を説明する分野である物性化学などがある。高分子化学は特に分子量の大きな分子の集まりに見られる特殊な性質を研究の対象とする。同じ高分子に相当するが特殊なものと言える生物・生命を化学的に扱う分野が生化学、生物化学である。
物質の表面に着目し、その構造や現象などを研究する分野には表面化学や界面化学がある。これらは、固体の触媒を使用する際の触媒化学とも関連する。コロイドが持つ特徴的な性質を理解する分野はコロイド化学と呼ばれる。
環境をマクロな視点で把握し、それが地球規模の大きな化学システムとして研究する分野が環境化学である。そして、自然現象や人間活動がこのシステムにどのような影響を与えるか、人工の物質が環境に拡散しどのような事態が起こるかなどを取り扱う[62]。
炎は有機物の酸化反応によって放出される熱エネルギーの現れであるので、化学の歴史は人類が火を扱いはじめたときから始まっているとも考えられる[63]。金や銀以外の金属は、自然界において酸化物ないしは硫化物として産出されるので、古代人は還元反応を知らないまま青銅器・鉄器などの金属精錬をしていた[63]。
化学は古代エジプトに起源があると言われる。エジプト語で黒を意味する「chémi」がヨーロッパに伝わった化学を表す用語となり、化学は「黒の技術」とも呼ばれた[2]。古代ギリシアにおける学問の発展は、タレスの元素論に始まりアリストテレスらにより大成された[63]。
これらの系統とは別に、中国、アラビア、ペルシャ等でも独自に化学技術が勃興した[2]。このうち、アラビアの科学分野では錬金術へと発展し、中世ヨーロッパにおいて天文学、数学、医学と同様にラテン語に翻訳された[64]。金を他の物質から作ろうとする錬金術が盛んになり、様々なものを混ぜたり加熱したりすることが試みられた。結局、錬金術は不可能な前提の上で行われた徒労[12]に終わったが、その副生物として各種薬品が生み出された。これらが化学のいしずえとされる[2][65]。ただし、錬金術は秘密主義や拝金主義、そして定量的な技術を持たなかった点から、逆に化学発展の阻害になったという主張もある[66]。
17世紀以降、化学は近代的な方法論に則った発展を始め[2]、18世紀末頃から実験を通じて化学反応を定量的アプローチで解釈するようになり[2]、19世紀に入ると原子・分子の組み換えが化学反応の本質であることが理解されるようになった[2]。しかし、化学反応の中心原理が何であるかは、物理学が原子の成立ちを解明するまで待つ必要があった。すなわち19世紀後半に展開した原子核と電子に関する物理学がもたらしたアーネスト・ラザフォードの原子核モデルが[39]、化学反応が原子と電子の相互作用に基づくことを解明した。
また20世紀に入ると、化学結合の性質が量子力学で支配される電子の挙動(分子軌道やエネルギー準位)に起因することが理解され[39]、これが今日の化学の中心原理となる理論体系が構築された[2]。とはいうものの、今日において物理学の根本が量子論・相対論の時代であってもニュートン力学の価値がいささかも失われていないように、近代に確立した化学当量、オクテット則や酸化数あるいは有機電子論などの古典化学理論は、今日的な意味を失うものではない。
他また、有機化学と高分子化学も20世紀に発展を遂げ、一方では生物学との境界において多大な進歩をもたらし[2]、生物学を全く新しいものとした。もう一方ではそれまで存在しなかった様々な物質が合成され、工業社会の大きな発展の元になり、同時に公害問題などにも深く関わるようになった[11]。
幕末から明治初期にかけての日本では、化学は舎密(セイミ)と呼ばれた。舎密は化学を意味するラテン語系オランダ語 Chemie (この単語自体の意味は「科学」)の音訳である[67]。
日本で初めての近代化学を紹介する書となったのは、江戸時代の宇田川榕菴の『舎密開宗』(せいみかいそう)である。原著はイギリスの化学者ウィリアム・ヘンリーが1801年に出版した An Epitome of Chemistry である。宇田川榕菴はこれらの出版に際し、日本語のまだ存在しなかった学術用語に新しい造語を作って翻訳した。酸素、水素、窒素、炭素といった元素名や酸化、還元、溶解、分析といった化学用語は、宇田川榕菴によって考案された造語である。
「化学」という単語は川本幸民が著書『化学新書』で初めて用い、後に明治政府が正式に採用した。これは、他の学問用語と同様に日本から中国などへ伝わった[68][注 2]。
世界のほとんどの国では、化学の専門教育は大学を中心とした機関が担っている。その中でも理学部系の化学科や専攻は基礎的な領域を、工学部系では応用的な部分を扱うことが多い。薬学部や工学部の材料工学科などは専門性が高くなる[6]。
研究者を横断的に繋げる学会も組織され、日本では日本化学会が全体を網羅する。研究分野ごとには化学工学会や高分子学会などの化学系学会があり、大学や企業の研究者らが加わっている[6]。アメリカ合衆国の化学会Chemical Abstracts Service (CAS) は、多様な化学物質のデータベース整備を1907年から行っており、近年ではインターネット上でアクセス可能な「Chemical Abstracts」を公開している[6]。
国際的な学会連合は国際純正・応用化学連合 (International Union of Pure and Applied Chemistry、IUPAC) が組織され、単位や記号の世界統一に関する勧告や取り決めなどを行ったり、他の科学組織との協議を行う母体となっている[6]。
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