出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/12/13 08:17:30」(JST)
この項目では、生物に関する株について説明しています。その他の用法については「株式」、「株券」、「ストレイン (音楽)」をご覧ください。 |
生物の分野で株(かぶ)と言えば、二通りある。一つは、植物において、束になった姿のことを指す。もう一つは、微生物やそれに類する培養によって維持されるものの、同一系統のものを表す言葉である。
植物の場合の株 (stock) というのは、普通は草本において、根元で枝分かれした茎が多数束になっているようなものを指す。あるいはその状態を本株立または株立または株立ちと呼ぶ。本株立は一本の幹を切って吹かした株となり、通常の株立または株立ちは何本かの苗木を寄せて仕立てたものを呼ぶ。
例えばチューリップのような植物は一本の花茎とそれを取り巻く葉が出るだけである。しかし、ススキの場合は、茎の根元から側面に根を出して立ち上がり、その根元からは根が出る。それを繰り返す結果、多数の茎が根元で集まった状態になる。このように多数の茎が一つの根元によった状態を株と言う。茎の根元から側面に新芽を出すのは、草本ではごく普通に見られるものであるから、このような姿になる植物は多い。
茎の側面から出る枝が長く地を這ってから根を下ろし、そこから芽を出す場合もある。このような這う茎を匍匐茎(あるいは匍匐枝)という。根元からすぐに芽を出さず、匍匐茎のみを出すものでは、単独の茎があちこちにバラバラと並ぶ姿になるので、株立ちにはならない。根元からも芽を出して株立ちになりながらも、匍匐茎を出すものもある。
植物では個体の定義が難しいが、根を持った茎を一つの個体と見ることもできる。その場合、側面から出た新しい茎は新しい個体であるので、これは無性生殖のひとつ、栄養生殖の一つの型と見ることができる。事実、多くの栽培植物ではこのようにして生じた新しい茎を切り取って植え替えることで繁殖が行われる。この方法を株分けと言う。理屈の上では茎一本毎に分けることもできるが、たいていは弱くなるので、ある程度の固まりに分ける。
実際、ある程度株が大きくならないと花が咲かないなど、株全体をもって一個体として機能していると考えた方がよい面もある。シュンラン属のものなどは、葉の着いていない肥大した茎だけが何年分も残っているが、これは栄養分を貯蔵する役割を担っていたり、根は生きていたりするので、ちゃんと役に立っている。
日本語としての株には、このほかに樹木を切った後の根元の意味があるが、現在では普通は切り株と呼ぶ。屋久杉の切り株にウィルソン株というのもある
微生物など、維持のために培養が行われる生物などにおいても株(strain)という言葉が使われる。培養株という語もよく聞く。分離したもの、との意味で分離株(isolate)という語もある。
例えば細菌類や菌類を研究する場合、まず野外から試料を取り、これを適当な方法で培養し、そこから出現するさまざまな微生物の中から目指すものを取り出す。つまり純粋培養を行うわけだが、その際、取り出された微生物を、まず適当な培地、たいていは寒天培地の上にくっつける。これを植え付けると表現することも多い。そしてその微生物がそこでよく育つと、やがてシャーレの中一杯になって、栄養も使い尽くして死んでしまう。それでは困るので、そうなる前に、コロニーの一部を切り取って新しい培地に置いてやる(継代培養、植え継ぐと表現することも多い)。これを繰り返すことで、その微生物を手元に置き続けられる。
したがって、その場合の研究対象の微生物は単独の個体を区別することはできず、このように植え継ぎによって維持する系統をその対象とせざるを得ない。そのような系統のことを株と呼ぶ。恐らく植え込み、大きく育つと切り離しては植え継ぐ、という操作からの連想であろう。英語ではstrainで、これには植物の株の意味はなく、家系を意味する言葉である。なお、野外サンプルから微生物を捕りだして培養する場合、まず分離(isolation)という操作が必須である。したがってこれによって得られた株のことをisolateという場合もある。
当初は培養した微生物の系統を意味する語であったが、培養という手法がさまざまな方面に適用されるにつれ、この言葉も範囲を広げた。細胞培養においては、不死化によって半永久的な継代培養が可能になった培養細胞を、株(細胞株あるいは株化細胞、cell line)と呼ぶ。さらには、高等植物の生長点培養によって繁殖させたものをも株と呼ぶ例がある。云わば逆輸入である。
同一の株は細胞分裂の繰り返しによって継承されるものであるから、基本的には同一細胞からのクローンであり、遺伝的には同質の集団であると考えられる。細胞学などの分野においてはそのような点で共通の素材があった方が統一した研究ができるから、実験材料として多数の培養株がそれぞれに固有の名をつけて扱われている。その他、一般には野外から分離したものを野性株、特に変異を表したものを変異株、あるいは栄養要求株などと言ったふうに用いる。
ただし、培養中に新たな変異を生じる場合もある。そこから新しい発見がある場合もあるが、一般にはせっかく確立した株であるから、変異を起こさない方が望ましい。そのため、現在では低温などの細胞が活動していない状態での保存が行われている。また、さまざまな微生物や培養細胞などの株を収集保存し、研究や教育、産業上の理由などで必要とする者に配布する機関もある。これらの機関は、植物の系統を種子の形で保存するシードバンクなどとともに、ジーンバンクあるいはセルバンク(遺伝子や細胞の銀行)と呼ばれることがある。
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