出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/07/17 21:31:45」(JST)
酸化チタン(IV) | |
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IUPAC名
titanium(IV) oxide |
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別称
二酸化チタン
チタニア |
|
識別情報 | |
CAS登録番号 | 13463-67-7 |
KEGG | C13409 |
RTECS番号 | XR2775000 |
特性 | |
化学式 | TiO2 |
モル質量 | 79.87 g/mol |
外観 | 白色固体 |
密度 | 構造により異なる |
融点 |
1870 °C |
沸点 |
2972 °C |
熱化学 | |
標準生成熱 ΔfH |
-944.7 kJ mol-1(rutile)[1] |
標準モルエントロピー S |
50.33 J mol-1K-1(rutile) |
標準定圧モル比熱, Cp |
55.02 J mol-1K-1(rutile) |
危険性 | |
引火点 | 不燃性 |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
酸化チタン(IV)(さんかチタン よん、英: titanium(IV) oxide)は組成式 TiO2、式量79.9の無機化合物。チタンの酸化物で、二酸化チタン(英: titanium dioxide)や、単に酸化チタン(英: titanium oxide)、およびチタニア(英: titania)とも呼ばれる。
天然には金紅石(正方晶系)、鋭錐石(正方晶系)、板チタン石(斜方晶系)の主成分として産出する無色の固体で光電効果を持つ金属酸化物。屈折率はダイヤモンドよりも高い。
結晶構造にはアナターゼ型(正方晶)、ルチル型(正方晶、図参照)、ブルッカイト型(斜方晶)がある。アナターゼ型の酸化チタン(IV)を900 °C以上に加熱すると、ルチル型に転移する。また、ブルッカイトを650 °C以上に加熱すると、やはりルチル型に転移する。ルチル型は最安定構造であるため、一度ルチルに転移すると低温に戻してもルチル型を維持する。
酸化チタン(IV)は、フッ化水素酸、熱濃硫酸および溶融アルカリ塩に溶解するが、それ以外の酸、アルカリ、水および有機溶剤には溶解しない。
アナターゼ型のバンドギャップは3.2 eVであり、387 nm(紫外線)より短波長の光を吸収すると価電子帯の電子が伝導帯に励起され、自由電子と正孔を生成する。通常、自由電子と正孔は直ちに再結合し、熱に変わる。しかし、この正孔の酸化力は非常に強いため、これら自由電子と正孔が例えば水と反応すると活性酸素種が生成される。
活性酸素種の生成は二酸化チタンへの超音波照射によっても引き起こすことができる。2008年に、二酸化チタン存在下での超音波照射の酸化力(ヒドロキシルラジカルの生成力)を、サリチル酸の酸化によるサリチル酸誘導体2,3-ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)および2,5-ジヒドロキシ安息香酸 (2,5-DHBA)の生成によって評価した研究が行われた。その結果、酸化チタンと酸化アルミニウムの存在は超音波照射でのDHBA生成を促進させ、また、酸化チタンのヒドロキシルラジカルの生成力が酸化アルミニウムより優位に大きいことが明らかとなった[2]。
600 °C以上では水素ガスにより部分的に還元され、青色のチタン(III)の混ざった酸化物を生成する。ただし酸素に触れると速やかに酸化チタン(IV)に戻る。従って、酸化チタン(IV)に担持した貴金属触媒を高温で水素還元すると、SMSI (Strong Metal Support Interaction) を発生しやすい。900℃以上の水素中で還元した場合は、濃青色の不定比組成の酸化チタンTiOx(x=1.85~1.94)を生成する[3]。常温常圧で酸素に触れても安定である。この組成では斜方晶系の結晶構造をもち、熱電変換能を示す[4][5] 。
白色の塗料、絵具、釉薬、化合繊用途などの顔料として使われる。塗料の顔料には触媒としての活性の低く熱安定性等に優れるルチル型が用いられ、チタン白、チタニウムホワイト(英: titanium white)と呼ばれる。絵具として他の色と混ぜて使った場合、日光に長期間さらされると光触媒の作用によって脱色したり、絵具が割れてしまったりする場合がある[6][7][8][9]。また、人体への影響が小さいと考えられているため、食品や医薬品、化粧品の着色料(食品添加物)として利用されている。
アナターゼ型とルチル型が用いられるが、アナターゼ型の方がバンドギャップが大きく一般的に光触媒としての活性が高い。
387 nmより短波長の光を受けると、水などに反応したときに種々の活性酸素種を生成する性質がある。活性酸素種は一般に非常に強い酸化力をもち、化学薬品や細菌などに対して分解作用を示す。
高分子電解質のポリアクリル酸(PAA)で化学修飾すると酸化チタンナノ粒子を中性pHで溶液中(例えば、浄水施設の浄水槽)に懸濁させることができる[10]。また、酸化チタンと異なり、PAAは酵素や抗体といったタンパク質と容易に結合させることができ、この結合を介して、酸化チタンの有害物質分解にタンパク質の機能を連携させることができる。このため、汚染水の処理をはじめ、医療や公衆衛生でのこの技術の利用が期待されている。
病院などで、壁や床が酸化チタンでコーティングされている。このコーティングにブラックライト(紫外線ランプ)を照らすだけで殺菌処理することができる[11]。
17β-エストラジオール(E2)は河川や浄水処理水中での汚染が問題視されている環境ホルモンの一つであるが[注釈 1]、酸化チタンはE2を分解することができる。ポリアクリル酸(PAA)で修飾して中性pHで溶液中に懸濁するようにした酸化チタンも分解活性を持ち、E2で汚染された水に懸濁することでE2を分解除去することができる。
2007年に、抗E2抗体を、PAAのカルボン酸とこの抗体のアミノ基の間の共有結合を介して、PAAで修飾した酸化チタン(PAA-TiO2)ナノ粒子上に固定する技術が開発された[10]。抗E2抗体固定化酸化チタン(英: anti-E2-antibody-immobilized TiO2: E2Ab-PAA-TiO2)ナノ粒子は、100nm未満の粒径で、中性pHで溶液中に懸濁することができる。このナノ粒子上の抗E2抗体は環境中からE2を認識して結合し、酸化チタンに引き寄せるため、E2Ab-PAA-TiO2ナノ粒子のE2分解効率はただのPAA-TiO2ナノ粒子よりも高い。
PAA修飾酸化チタン(英: PAA-modified TiO2:PAA-TiO2)ナノ粒子にがん細胞特異的な抗体を固定してがん細胞に集積するようにし、そこに外部からエネルギーを与えることで局所的に活性酸素種を生じさせ、がん細胞のみを死滅させる研究がおこなわれている。がん細胞を特異的に認識する抗EGFR抗体(la)を修飾したPAA-TiO2(PAA-TiO2/la)をがん細胞(Hela細胞)に添加し、わずか1J/cm2のUV照射を行うとHela細胞が特異的に死滅することが確認されている[12]。PAA-TiO2/laが最もラジカルを多量に生じさせるUV照射量は3J/cm2である[11]。
酸化チタンの活性化に超音波を使用する方法も研究されている。肝細胞を認識するB型肝炎ウイルス由来のpre-S1/ S2タンパク質をアミノカップリング法で表面に固定した酸化チタンナノ粒子は肝細胞に特異的に取り込まれる。この性質を利用し、TiO2/ pre-S1/S2タンパク質(肝細胞を認識するタンパク質のモデル)をHepG2がん細胞(ヒト肝癌由来細胞株)に取り込ませ、超音波を照射するとHepG2がん細胞を特異的に損傷させることができることが2010年に報告された[13]。0.4 W/cm2の超音波照射強度で顕著な細胞損傷が観察された。この方法は二酸化チタン/超音波照射法 (英: ultrasound irradiation(US/TiO2) method)と名付けられており、従来の光線力学的治療(PDT)[注釈 2]を用いた手法に代わるがん治療法(超音波力学的治療、英: sonodynamic therapy)として期待されている。
2012年に報告された更なる研究で、HepG2がん細胞へのTiO2/pre-S1/S2タンパク質の取り込みには6時間かかり、取り込んだ細胞に1 MHzの超音波を照射(0.1 W/cm2、30秒)すると細胞損傷および死滅が起こることが実証された[14]。すなわち、アポトーシスがUS/TiO2法処理の6時間後に観察され、生存能力のある細胞濃度は96時間でコントロールの46%にまで低下した。また、HepG2細胞を移植したマウスの腫瘍にTiO2/pre-S1/S2(0.1 mg)を直接注入し、1 MHzの超音波照射を1.0 W/cm2で60秒間施す実験も行われた。超音波照射も酸化チタンの注入もされていないコントロール群のマウスと超音波照射だけ施されたマウスでは腫瘍体積の増加が多く見られたが、US/TiO2法を試みたマウスでは体積の増加が抑えられており、腫瘍の増殖に対する阻害効果が観察された[14]。
光を照射すると導電化する性質を利用し、オフセット印刷の感光体として用いられている。感光波長が紫外域のため、明室処理が可能である。酸化亜鉛を利用した従来のものよりも耐久性が高く、解像度も高い。
固体触媒の担体として用いられる場合がある。
400 nmよりも短波長の光を強く吸収する一方で、可視光吸収は無いため日焼け止め(サンスクリーン剤)にも使われる[15]。
色素増感太陽電池の開発において、増感色素を担持させて可視光線~赤外線を取り込む電極材料として注目されている。
工業的生産では原料にルチル鉱石またはイルメナイト鉱石(FeTiO3)が用いられている。主な製造法には塩素法英: chlorine method(気相法英: gas phase method)と硫酸法英: sulfuric acid method(液相法英: liquid‐phase method)の二種類があり、欧米では塩素法、日本では硫酸法が主流である。
塩素法は原料(ルチル鉱石)をコークス・塩素と反応させ、一度ガス状の四塩化チタンにする。ガス状の四塩化チタンを冷却して液状にした後、高温で酸素と反応させ、塩素ガスを分離することによって酸化チタンを得る。
硫酸法は原料(イルメナイト鉱石)を濃硫酸に溶解させ、不純物である鉄分を硫酸鉄(FeSO4)として分離し、一度オキシ硫酸チタン(TiOSO4)にする。これを加水分解するとオキシ水酸化チタン(TiO(OH)2)となり沈殿する。この沈殿物を洗浄・乾燥し、焼成することによって酸化チタンを得る[16]。
日本では石原産業、堺化学工業、テイカ、チタン工業、富士チタン工業などが製造している。
アナターゼ型酸化チタンの2007年の日本国内生産量は39,071トンである。ルチル型酸化チタンの2007年の日本国内生産量は206,905トンである[17]。
世界保健機関は「発がん性の可能性がある」と指摘している。特に粉塵に関しては、疎水性の微粒子が肺に与える影響が懸念されている。IARC は、発がん性に関してグループ3(ヒトに対する発癌性が分類できない)に分類していたが、2006年にグループ2B(人に対して発がん性がある可能性があるもの)に変更している[18]。妊娠中のマウスに皮下注射された酸化チタン(IV)ナノ粒子が、胎児の未発達な血液脳関門や精巣関門を通過して脳や精巣に到達し、機能低下を引き起こしたという報告もある[19]。
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リンク元 | 「酸化チタン」「鋭錐石」「titanium dioxide」 |
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