出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/01/24 20:02:15」(JST)
リーク電流(リークでんりゅう、英: leakage current)とは、電子回路上で、絶縁されていて本来流れないはずの場所・経路で漏れ出す電流のことである。
当該電気回路内に限る意図しない電流の漏れ出しがリーク電流であり、当該電気回路外へ漏れ出す漏電とは区別される。集積回路などの微細化された半導体の回路内での漏れ出しを指すことが多い。
半導体では、過去の技術レベルが未成熟な期間には、結晶や絶縁膜の欠陥によって無用な電流が消費されることが発生していて、これらが当時の主要なリーク電流であった。
リーク電流の最も大きな原因は量子力学で言うトンネル効果である。電気伝導体と絶縁体は巨視的サイズでは電流の流れに関して明らかに異なる挙動を示すが、原子の大きさの微視的サイズで見れば、本来電流が流れない絶縁体も量子論的効果によって電気が多少は流れるようになる。これは、電気伝導性物質内の自由電子の存在確率が微小範囲内で広がりを持つため、わずかながら周囲の絶縁体内へも染み出してしまうことで起こる。この存在確率は伝導性物質から離れるにしたがって減少するので、ある程度以上の厚みのある絶縁体ならば量子論的効果によってその外まで電気が流れる現象は起こらないが、原子数個や数十個といったごく薄い絶縁体であれば自由電子の広がりが絶縁を越えて、外部の別の電気伝導性物質まで到達し、絶縁体越しの両者間に電流が流れることがある。この現象が微細な半導体素子内で起こると、電子回路内での無用な電流の漏れとなって現われる。これがリーク電流である。
電子が漏れ出す確率、言い替えればリーク電流の大きさは、伝導体間の距離が減少してゆくにつれて、つまり集積回路の微細化が進み、伝導体と伝導体が近づくに従って指数関数的に増大する[1][出典 1]。また、このような量子論的なリーク電流とは別に、絶縁膜が不良等で極度に薄いために膜の材質そのものが本来持つ抵抗値に従ってリーク電流が生じる場合もある。
超微細化が進み、2005年頃からの数年間で高速演算が求められる用途でのデジタル半導体用のプロセスルールが100nm以下になると、半導体回路で消費される電力の半分以上がリーク電流として消費されるようになっている[2][出典 2]。これは誤作動や消費電力と発熱量の増加、発熱にともなう素子の劣化等を引き起こし、集積回路の微細化・高速化プロセスの進捗を妨害する障害となる。そのため、近年のプロセス技術における半導体の低消費電力技術ではリーク電流対策が最大の焦点となっている。
21世紀現在では半導体素子中のリーク電流は主に3種類に分類できる。
微細化によりゲート絶縁膜が薄くなり過ぎることが原因でシリコン基板側からゲートに向かって電流が流れるようになる。これをゲート・リーク電流 (I gate) と呼ぶ。プロセスルールの微細化によって顕著になり、温度依存性は小さい。ゲート絶縁膜に高誘電率 (High-k) 材料を使うことで、ゲート・リーク電流を抑える工夫が行われている[3]。
デジタル半導体の消費電力を低減しながら論理回路のトランジスタを高速でスイッチングさせるために、しきい値電圧 (Threshold voltage、Vth) を下げてトランジスタのオン電流を増やし高速動作を行う方法がある。回路の微細化と相まってしきい値電圧の低下は高速動作に寄与して来たが、1.5Vから1.0V以下といったかなり低い電圧までしきい値電圧が下がったことで、ソースとドレインの間を流れる不要なサブスレッショルド・リーク電流 (Subthreshold leakage current, I subthreshold、オフステート・リーク電流, I off) が増えてしまうという弊害が起きる。プロセスルールの微細化によって顕著になる。温度変化に対して正の特性を持ち、消費電力の増大によって温度が上昇するとサブスレッショルド・リーク電流も増大する。パワー・ゲーティング技術や複数のしきい値電圧を採用することでサブスレッショルド・リーク電流を抑える工夫が行われている。
接合リーク電流はソースとシリコン基板間やドレインとシリコン基板間で生じるリーク電流であり、半導体中の不純物濃度の不適正や格子欠陥によって生じる。プロセスルールの微細化や温度依存性は小さい。ほとんど管理が可能になっており、それほど大きな問題とはなっていない。
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