出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2012/08/26 13:22:40」(JST)
ポジトロン断層法(ポジトロンだんそうほう、positron emission tomography;PET)とは陽電子検出を利用したコンピューター断層撮影技術である。CTやMRIが主に組織の形態を観察するための検査法であるのに対し、PETはSPECTなど他の核医学検査と同様に、生体の機能を観察することに特化した検査法である。主に中枢神経系の代謝レベルを観察するのに用いられてきたが、近年、腫瘍組織における糖代謝レベルの上昇を検出することにより癌の診断に利用されるようになった。患者への被曝量はCTに比べて少ないが、医療スタッフの被曝量に注意が必要である。ただし、下述するようにPET/CT装置を用いた検査の場合の被曝量はCTに比べても大きくなる場合がある。
CTとPETを比較すると、CTでは外部からX線を照射して全体像を観察しているのに対して、PETなどの核医学検査では生体内部の放射性トレーサーを観察しているという違いがある。ここで、CT像は解剖学的な情報にすぐれているので形態画像と呼ばれ、PET像は生理学的な情報に勝れているので機能画像 (functional image) と呼ばれる。なお、両者の利点を総合的に利用するために、PETとCTを一体化した装置PET/CTも開発されており、診断には両画像をソフト的に重ね合わせた融合画像が主流となりつつある。
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陽電子反β崩壊する核種で標識された化合物を放射性トレーサーとして用いる。そのような核種の半減期は一般に短い(15O:2分、13N:10分、11C:20分、18F:110分など)。そのため、投与直前にサイクロトロン等を用いて製造される。一般的に放射性同位元素を作成するには原子炉等で中性子を照射するが、陽電子放出核種は原子核内の陽子数が過多であることによりβ+壊変するため、サイクロトロンで陽子や重陽子を照射して作成する。放射性トレーサは、病院内に設置したサイクロトロンで作成するか、一部、比較的長半減期のものにおいては放射性医薬品会社から供給を受けることも可能である。
人体に投与されたトレーサー中の陽電子放出核種は、体内で崩壊して凡そ96.7~99.9%の確率で1個の陽電子を放出する。放出された陽電子は近傍の原子の(生体の70%は水で構成されているので、おそらくは水分子の)電子と対消滅し、電子の静止質量に等しいエネルギー(511keV)の光子(ガンマ線)が2個放出される(消滅放射線)。この時、おのおのの光子は元の電子と陽電子の運動量を保存する為に、正反対の運動量をもつ。すなわち、反対方向へ対で放出される。
PET装置は、人体の周囲を取り巻くように配列された多数のガンマ線検出器と、2個の光子の信号を組み合わせる同時計数回路からなる。検出器のうちいずれか2つが同時にガンマ線を検出したとき、その2つの検出器を結ぶ直線上のどこかで対消滅が起きたと考えられる。そこで、この情報を集めてCTと同様のコンピューター画像処理を施すことにより、トレーサーの分布を示す三次元画像を作成する。SPECTとは異なり、放射線の入射方向を限定する鉛コリメータを用いなくても、同時計数により原理的に飛来方向が判明するため、検出器の前に遮蔽体を置く必要がない。したがって、一般的にPETはSPECTよりも感度が高く定量性にも勝れている。ただし、長半減期のトレーサが少ないなどの問題があり、PETの潜在能力を十分に引き出すためには、更なるトレーサーの開発が必要不可欠である。
脳内での神経活動が高まるとその部位で代謝量や血液流量が増大するので、捉えたい指標に合わせて上に述べたトレーサーを選ぶことで、間接的に脳内で活動が活発になっている部位を特定することができる。
他にもアルツハイマー病の診断に有効である。
FDG-PETについて(日本医事新報 2005;No.4234(H17/6/18):97)
PETとCTを一体化したPET/CT装置を用いた検査の場合、1回の検査における放射線被曝は23–26 mSvになる(体重70キロの人体の場合)。[1] これに対し、放射線診療における代表的なX線検査での被曝量は、胸部 0.04mSv、腹部1.2mSv、上部消化管 8.7mSv、胸部CT 7.8mSv、腹部CT 7.6mSvである。[2][3]また、日本では人体は自然界から年間1.4 mSv前後の被曝を受けているとされている(1988年推定)。[4]
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