出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/07/02 10:44:01」(JST)
ブラウン管(ブラウンかん)は、ドイツのカール・フェルディナント・ブラウンが発明した図像を表示する陰極線管を指す、日本語における通称である。
ブラウンによる発明は陰極線管自体の発明でもあり、陰極線管を総称してブラウン管と言うこともあり、逆に受像管をCRT(Cathode Ray Tube)と言ったりする。しかし、たとえばマジックアイも陰極線管の一種であるが、基本的にブラウン管の一種には含めない。
ブラウンによるオシロスコープをはじめとして、ビデオモニター、テレビ受像器、コンピューターなどのディスプレイなど、多く用いられてきた。
また、テレビの代名詞のように扱われることもあり、たとえばテレビの番組などを指して「ブラウン管の向こうに~」といったような使われ方をすることもある。YouTubeの"Tube"もこの真空管に由来する。「ブラウン管のスター」という言葉は映画スターを指す「銀幕のスター」と対置されよう。
ブラウンが発明したのは、冷陰極管で、クルックス管に、陰極線によって光る蛍光面を付けたものであった。今日[いつ?]一般的なブラウン管では、電子銃を利用している。
ブラウン管式のテレビでは、スイッチを入れたらすぐ表示できるようにするため、および加熱と冷却、通電と放電の繰返しによって寿命が短くなることを防ぐため、いくらかの回路を通電しっぱなしにするため待機電力を消費した。真空管時代にはこのことをうたった「ポンパ」という商品名もある。
スイッチを入れた時に聞こえる「ブーン」という音は残留磁場を消磁する音である。動作中には非常に高い周波数の「キーン」という音が、特に高域の聴覚が敏感な子供には聞こえるが、これは水平走査の音である。
ブラウン管内で、陰極線の電子は電子銃により発射、集束され、電界または磁界により偏向されて蛍光物質を塗布した蛍光面を走査する。電子が蛍光物質に衝突すると光が放出される。オシロスコープではもっぱら電界で(静電的に)、モニターディスプレイではもっぱら磁界で偏向している。ブラウン管において、磁界で偏向するための電磁石のことをヨーク(yoke、ヨークコイル)と言う。
陽極に高電圧を印加することにより、陰極から放出された電子はさらに加速される。カラーブラウン管のアノード電圧は普通20,000から26,000V (20から26kV)であり、白黒ブラウン管ではこれよりも低い。電子ビームを輝度変調するためにコントロールグリッドを備えるため、簡単なブラウン管は真空管の分類としては三極管に分類される。さらに多くの電極を持つ複雑な管もある。
ブラウン管で用いられるガラス管はその形状から、ファンネル(漏斗)と呼ばれる。
ビデオモニターやディスプレイでは管面全体を走査線(ラスタ)とよぶ固定パターンでスキャンしつつ、映像信号の輝度成分に従って電子ビームの強さを変調する。このように、画面上の任意の点の明るさを制御することにより画像を作り上げている。この方式をラスタスキャンと呼ぶ。
初期のレーダー表示装置では、パラボラアンテナの向きと同期して放射線状に電子線を走査し表示を行う。この方式をラジアルスキャンと呼ぶ。
オシロスコープでは、電子ビームの強さは一定の設定値に保ち(=輝度一定)、ビームを任意に動かして描画する。通常、水平偏向は一定時間毎ないし何らかのトリガで一定速度で走査し、垂直偏向は入力信号の電圧に対応するように走査する。
オシロスコープ用のブラウン管はテレビのものより細長く、電界により偏向させる。これは、電界偏向(静電偏向)のほうが磁界偏向よりも高い周波数で走査を行えるためである。電界偏向では磁界偏向に比べてビームを偏向するにあたっての印加電圧が低くできる反面、ブラウン管を大きくした場合など広い範囲の偏向を行うには不向きという側面もある。また、静電偏向型は大型化、薄型化した場合、高電圧化させる必要がある事も不利な理由である。但し、電源電圧の変動に関しては磁界偏向よりも耐性がある。
レーザー光線を用いて大気中の微粒子をスクリーンとし、文字や図形を表示する手法があるが、それと同様、電子ビームの方向を自由に制御し、文字、図形を直接一筆書きのように表示する表示方法を、ベクタースキャンと呼ぶ。
カラーブラウン管では、各々光の三原色の赤(R)・緑(G)・青(B)に発光する3色の異なる蛍光物質を使い、方形や円状(シャドーマスク管)または直線状(アパーチャーグリル管やスロットマスク管)に密集して配置する。電子銃がRGB各色に対応して3本あり、各電子銃は対応するRGB各1色のドット(蛍光体)にのみ電子線を発するようにする。これらから逸れた電子線は発光面直前にあるシャドーマスクまたはスロットマスク、アパーチャーグリルによって他のドットに誤って入らないように吸収ないし遮蔽される。
シャドーマスクは、円形、三角形ないし六角形状に穴が開いているが、アパーチャーグリルは垂直方向に細いスリット状(スリットマスク)になっている。スリットマスク同士が動いてしまわないように、水平方向に支えの線(ダンパーワイヤー)が入っている。アパーチャーグリルのブラウン管の画像をよく見ると、その線が観察できる(15インチトリニトロン管の例では画面の上半分と下半分の中間に1本、また17インチ以上のモニターでは、上下三分の一周辺に2本のダンパーワイヤーが見られ、「故障ではないか」と問い合わせがよくあるという[要出典]。アパーチャーグリルを使うブラウン管の代表的なものとしては、ソニーのトリニトロン管や三菱電機のダイヤモンドトロン管がある。なお、シャドーマスクは電子ビームが通過する穴を小さく、密集させる程に同一面積で電子ビームが遮られるマスク面が広くなりがちで、画面が暗くなる(技術的限界)ことから高解像度とし難いため、一般のテレビ受像用はともかくハイビジョンやパソコン用ディスプレイでは、アパーチャーグリルを採用した物が広く使われた。
アパーチャーグリルは縦方向に区切ったマスクを吊す構造であり振動や加熱による変形によって色のにじみに弱い。これらを改善するためスロットマスク方式ではマスク開口を横方向にも区切っている。しかし、この区切りにより輝度が低下する点がある。スロットマスクを採用した物はNECのクロマクリア管がある。
電子ビーム形状はそれぞれの方式に対応した形状となり、結果として表示面に映るドット形状もこの形となる。すなわち、シャドーマスクは円形や三角形、六角形となる。アパーチャーグリルはスリットマスクが縦長であり縦方向のドット間には仕切がないため、縦方向のみ自然なつながりとなる。スロットマスクは縦長の長方形となる。
外回りはガラス製なので、蛍光体で発生した光はモニタ外から見えるが、特にカラーブラウン管において、高エネルギー電子線の衝突により発生する危険なX線を遮る必要がある。このため、ブラウン管用のガラスは鉛ガラスが用いられる。これ以外にも、遮蔽板やアノード電圧が上がり過ぎないような保護回路があるので、最近[いつ?]のブラウン管からのX線放射は安全基準値を十分下回る。
ブラウン管は三極管の特性をもつため、ビーム電流と発光強度の間の非直線性・グラフに描いた際の軌跡から「ガンマカーブ」とも呼ばれる顕著なガンマ特性をもつ。初期のテレビ受像機では、画面のガンマ特性は表示コントラストを抑えるように働くため好都合だった。今日[いつ?]でもあらゆるデジタルビデオシステムにおいて、固有のガンマ特性が存在する。しかしデスクトップ・パブリッシングなどガンマ直線性が要求される分野では、ガンマ補正技術が用いられる。
ブラウン管に磁石を近接させると、管を構成する金属部品や蒸着膜が帯磁して内部の電子ビームに歪みが起こり、正しく動作しなくなる場合がある。特に、鉄製のアパーチャーグリルやシャドウマスクを採用している物でも、これらマスクが磁化すると色ズレを起こしやすい。色ズレの影響が目立ちやすいコンピュータ用ディスプレイでは、消磁機能を内蔵しているものが多いほか、内蔵していない場合でもテレビなどの消磁に用いる専用の消磁器もあり、高速で磁場を反転させながら、徐々に磁場を弱くすることにより、帯磁を消失させる。
消磁器は作動させたら、画面上で円を描くようにしながら次第に遠ざける事で磁気の影響を気に成らない程度に軽減させられる。熟練を要し、失敗のリスクを伴う方法だが、永久磁石でも上手に一定速度で画面上を動かしながら遠ざけることで、消磁することも原理的には可能である。
基本的にブラウン管使用機器のそばにスピーカーやモーターといった磁気を発する物を設置するのは避けるべきである。ただしこれらの影響を与えないように防磁機能を持たせているものは、影響が無視できるほどに小さくなっている。
社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の発表(外部リンクの節参照)によると、日本における一般PC向けのCRT需要は、2005年度でほぼ消滅。印刷物に対して忠実な色再現性が求められるDTP分野以外は、完全に液晶ディスプレイ(LCD)に置き換わった。世界でも縮小傾向にある。
シャドーマスク方式の画面拡大図
アパーチャーグリル方式の画面拡大図
シャドーマスク方式によるマウスポインタの拡大図
アパーチャーグリル方式による英字「e」の拡大図
電子銃
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