出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2012/04/27 15:21:33」(JST)
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この項目では、プログラムの欠陥について記述しています。虫については「虫」を、その他の用法については「バグ (曖昧さ回避)」をご覧ください。 |
バグ (bug) とは英語で虫(成虫)の意であり、転じてコンピュータプログラムの製造(コーディング)上の誤りや欠陥を表す。
ソフトウェア・ハードウェア開発における契約文書など、法的な文書ではバグのことを「瑕疵」と記述する。原因や責任の所在などが不明なものを特定性の低い表現の「不具合」と呼ぶことがある。また、セキュリティ上に関わるバグや欠陥は「セキュリティホール」などと呼ばれることもある。
なお、発生したバグを探して取り除く作業はデバッグと呼ばれる。
目次
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プログラミング上の主なバグには、論理的なバグと誤記によるバグがある。
論理的なバグは、プログラムの設計過程において発生する。無限ループや計算間違いなどを引き起こし、時にはコンピュータを暴走させたり、逆に停止させたりすることもある。
誤記によるバグは、プログラムの製造過程において発生する。存在しないプログラムの参照、意図した範囲を超えた計算結果、数値計算の誤りなどを引き起こす。論理的なバグと同様に、コンピュータを暴走させたり停止させたりすることもある。
他に、OS や開発環境などの問題(それそのものがバグである場合がある)によりバグが発生することがある。2000年問題のように、ソフトウェアが本来予測された耐用年数を超えて運用された結果、仕様がバグになってしまったものも環境依存のバグといえるだろう。
安易な修正(バグフィクス)は避けられる傾向にある。修正内容にバグを含んでいる場合や、関連するプログラムがバグの存在によって正常に動作していた可能性があるためである。「正常に動作しているものは触らない」、「寝ているバグは起こさない」と言われる。
バグという言葉の語源は文字通り英語の bug(虫)であるが、この言葉はコンピュータの登場以前から、機械の原因不明な不具合をあらわす符牒として技術者の間で使われていた。たとえば1878年にエジソンが同僚に宛てた手紙のなかで、彼は機械の不具合のことを「バグ」と呼んでいる[1]。また、第二次世界大戦中には、レーダーの故障をバグと呼んでいたという記録が残っている。現在の米口語では、"bug" はコンピュータのバグや虫の意味のほかにも、動詞として「人を悩ませる、いらいらさせる」という意味でよく使われる。
コンピュータのソフトウェアに間違いが入るという概念自体は古く、その起源はチャールズ・バベッジによる解析機関にまでさかのぼる。解析機関のプログラミングを担当したエイダ・ラブレスはすでに1842年に残したメモの中で、計算手順を示したカードの入れ間違いにより誤った計算結果が得られる危険性を示唆していた。一方で、コンピュータの部品として真空管と継電器が主に使われていた時代には、虫が原因でコンピュータがうまく動かなくなることがしばしばあった。真空管が発する光と熱に誘われて内部に入り込んだ小さな虫が、継電器に挟まれて焼死し、その炭化した死骸が原因で、電流の異常な伝導が発生し、装置の誤動作を招いたといわれる。
こうした最初の虫を発見した人として、よく誤って挙げられるのが、グレース・ホッパーによる、Mark II および Mark III の中に入っている虫を発見したという逸話[2]だが、実際にはこれは誤りである。Mark II の中で虫を発見したのはホッパーではなく別の技術者であった。彼女はすでに技術者仲間で使われていた「バグ」という用語を知っており、コンピュータの中に本当に虫が見つかったという事実を面白がって「本物の『バグ』が発見された」と報告したのが真相のようである[3]。彼女はリレーの間にはさまっていた虫(蛾)を取り除き、それを作業日誌にテープで貼りつけて「駆除した」 (de-bug) と書きつけた。こうして「デバッグ」という言葉が生まれた。この日誌は米海軍歴史博物館に保管されている。
一方、虫が直接「バグ」という語に繋がったのではなく、真空管の虫取り作業を指していた「デバッグ」がコンピュータの不具合を直す作業全般に広がって使われるようになり、コードの不具合を取る作業をデバッグと呼ぶようになったのが先であり、そこから「バグ」という語が再派生したとする説もある[要出典]。すなわち、 バグ(真空管の虫) → デバッグ(虫取り) → デバッグ(不具合の修正) → バグ(コードの不備) の順である。
他にも、シェイクスピアの『ヘンリー四世』で忌まわしきものという意味で使われていた「バグ」という単語に由来するという説もある。プログラム上の欠陥を虫に見立てて呼ぶようになったという説もあるが、これは誤りとされている。
正体はプログラムの欠陥であるため、「虫」としての外観は持たないが、もし「虫」として姿を現すとすれば、テントウムシのような甲虫ではないかと考えられており (bug より) 、甲虫のイメージで表される。例として、デバッグのアイコンやボタンにこのような虫があしらわれることがある。
ただし、上述にもあるようにグレース・ホッパーのバグは蛾であり、外観形状は甲虫とは全く異なる。また英語の bug はカメムシ、アブラムシといった吸汁管を備えたカメムシ目昆虫を指す場合にもっぱら使用される。
プログラマーの格言には、「バグは出ない事しか分からない」というのがある。ソフトウェアにバグが絶対に存在しないことを立証する方法はないので、ある程度の複雑さを持つプログラムでは、発見したバグを解消し続けることでバグの数を 0 に向かって漸近する以上の事はできない。
実際に、近年のOS など膨大なプログラミングを必要とするものには、「バグのないソフトウェアは無い」と言われている。もしバグを完全除去したものを作成しようとした場合、膨大な時間とコストがかかり、製品の開発から出荷まで膨大な時間を要してしまう。このため、多くのメーカーではある程度のバグが残っていたりその可能性があってもその範囲で正常に動作する時点で出荷したりしている。例えば銀行のオンラインシステム(勘定系システム)などは社会基盤を支える重要度の高いシステムであるが、年に数度ダウンする程度が目安となる。それ以上の品質を確保するよりも、問題が顕在化した時点で対処した方が費用対効果の点で有益であると判断されるからである。
出荷後は、想定外の操作を行った際にバグが発見されることが多い。メーカーのプログラマやテスト担当者は専門家としての知識・経験があるため、逆に想定外の操作により発生するバグの発見はしばしば困難である。このようなバグは専門知識の無い一般利用者が使用することで発見されることも少なくない。
近年では、バグが残っていることを前提にした上で、最新の機能や修正した機能を搭載したソフトウェアをアルファ版やベータ版として一般利用者に試用してもらい、報告されたバグを正式版までに修正するという手法もよくとられる。また、ゲーム製品などでは、素人の一般人に試用してもらいバグを発見する専門の仕事もある。
コンシューマ向けアプリケーションソフトの場合、一般的にはバージョン管理システムと呼ばれる数値で行うことが多い。バージョンの数値が大きいほど、バグの修正や機能の追加が行われていることを表す。コンシューマ向けOSなどの場合、メーカーではこれらを定期的に修正した修正プログラムを提供している。既知の問題の修正箇所を、個別に修正の実施と未実施を調べる。近年ではバグ管理システムなどに移行している。
マイクロソフト では毎月第二火曜日(日本ではその翌日で、単なる第二水曜日ではないことに注意)に自社製品のバグの対策プログラムを発表するようになった。以前は修正プログラムが完成した都度に発表していたが、ユーザが頻繁に修正プログラムの発表を調べなくてはならず、修正が行われずに放置されてしまう場合が逆に増えてしまっていた反省によるものである。ただし、既に実害が発生している場合などは即時の発表が行われている。他社も Microsoft に倣って第二火曜日近辺に発表することが多くなった。
近年、ソフトウェアの開発においてはバグの修正が重要な作業と考えられている。バグを漏らさず修正し、再発を防ぐには、バグの発見日時や発見者、再現方法、修正担当者、修正履歴、修正方法、重要度、テスト状況などの多くの情報を残し管理する必要がある。開発によっては数千という数のバグが発生し、また多数のテスト担当者や修正担当者が関わっていることを考慮すると、従来のファイルレベルの管理では追いつかなくなっている。このような背景から、バグを管理するソフトウェアであるバグ管理システムが生まれた。バグトラッキングシステム (Bug Tracking System, BTS)とも呼ぶ。
バグ管理システムは、ウェブサーバ上で動作し、ウェブブラウザ経由でアクセスできるようになっている。また電子メールとも連動し、修正時にテスト担当者やバグ報告者にメールが送信されるものもある。
主なバグ管理システムには Bugzilla や影舞などがある。また、最近ではウェブサーバを必要としない P2P アーキテクチャによるバグ管理システムのPapilioといったものも登場した。
バグ管理システムは、バージョン管理システムと同様、ソフトウェアを開発する上での必須アイテムになりつつある。
ソフトウェアでバグを出さない最も良い方法は、そもそもバグが起こりにくい開発を心がけることだといえる。バグが起こりにくい環境では、その分工数に余裕が持てる上、ソフトウェア自体の性能も良好になりやすいという、正の相関性が見られる。正しい環境の追求は非常に重要な問題なのである。
どのような方法論をとれば開発過程にひずみを産まないか、安全なプログラムを書くにはどのような言語を用いるべきか、適切な人員配置とコミュニケーションはどのように行われるべきか、等々、そのような知見を扱う分野はソフトウェア工学と呼ばれる。
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コンピュータゲームにおいてもバグは生じうる。進行やセーブデータ保全に影響するようなものの場合はゲーム雑誌などで告知されたり、影響力が大きい人気ゲームの場合は新聞でも取り上げられたり重大なバグだとメーカーが判断した場合は対策がなされる。本体にインストールするパソコンソフトならば公式ウェブサイト上で修正パッチを配布する事でも対応できるが、メディアから直接起動するのが原則であるパッケージ販売の家庭用ゲームソフトのバグはアップデートが困難あるいは不可能であるため、無償で修正版との交換が行われることもある。しかし、発売後に発覚したバグは再出荷の際にも放置されるゲームもあり、ユーザ同士の情報交換が対策となりうる。
また、ユーザがバグを裏技や小技として利用することがある。中には『スペースインベーダー』の「名古屋撃ち」等のように、元々はバグにより発生した作成者の意図しない現象であったものが、後に正式な仕様の裏技として認知されるケースもある。
さらに、画面表示が異常になった状態を俗に「バグった」と呼ぶことがあるが、本来はバグ(もしくは他の要因)の結果、表示が異常になったものである。ほかにも、意図的に動作不良を起こさせた状態をバグと呼んだり、異常な形で現れた要素を「バグキャラ」「バグアイテム」等ということもある。本来、これらをバグと表現するのは適切ではなく、英語ではこのような現象を指す場合は bug ではなく glitch を用いる。
非電子系ゲームをコンピューター上で再現する類のゲームの場合、実際のゲームと異なる動きをする場合にバグと呼ばれることがある。多くの場合そういったものはメーカーは「バグ」という表現を避け、「異なる仕様がある」という説明にとどめる傾向にある。
バグによって引き起こされた裏技(バグ技)についてはバグ技も参照。
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